代々木公園バスケットボールコートで新たな取組みが始まる…公園バスケの次なる事例作りへ
代々木公園バスケットボールコート(以下代々木)で、「YOYOGI PARKプレイグラウンドプロジェクト」という実証実験が本格的にはじまった。これは、一般社団法人ピックアッププレイグラウンド、一般社団法人渋谷未来デザイン、代々木公園サービスセンターの3団体が連携し、公園におけるスポーツの可能性を様々な手段で、広げていくプロジェクトである。
その団体のひとつ、ピックアッププレイグラウンドの代表理事で、2005年から代々木で続く5on5ストリートボールトーナメント「ALLDAY」のプロデューサーも務める秋葉直之氏は、その背景を次のように語った。
「今まで代々木でイベントやろうと思ったら、ALLDAYしかできなかったと思います。ただ、その開催実績を19年積み上げていく中で、新しいチャレンジをやっていこうという機運が、公園との間で生れてきました。僕らはバスケの団体ですが、渋谷未来デザインという地元の街作りを考える産官学民の団体にも入っていただき、3者で今までやってこれなかった取組みをしていく予定です」
「最新事例」を作り続けた代々木の歴史
ここで、新たな機運が生じた19年分の実績を改めて振り返りたい。そのはじまりは、2005年にナイキジャパンがCSR活動として実施した渋谷区へのコート寄贈にさかのぼる。今でこそスポーツを始めるきっかけは学校教育の場以外にも様々あるが、かつては体育や部活動が主だった。そのため、中学生や高校生は卒業を機にスポーツから離れてしまう場合がほとんどだった。
一方で、誰でも使える公園は“球技禁止”や“スケートボード禁止”の看板が立ち、気軽にスポーツができる場では無かった。そんな環境を変えるため、ふらっと来てスポーツを体験できる環境を提供しようと、コートはいまの場所に作られたのだ。
そしてコートに愛着を持ってもらい、利用者の手によって自治される姿を目指して、ALLDAYが生まれた。以来19年、ボーラーたちが通い続け、集まった者同士でピックアップゲームをやる文化も根付いてきた。一時期、コロナ禍の影響で利用者が増えたため、ゴミの増加や利用ルールの問題が浮き彫りになったものの、それに対処するため2021年から「PICK UP PLAYGROUND」がはじまった。ゴミ拾いとピックアップゲームを掛け合わせたイベントを通じて、公園バスケの理解を深め、文化を保全しようとしたのだ。
さらに、昨年はコートを自主改修する「YOYOGI PARK PLAYGROUND Renovation Project」も実施した。実行委員会を立ち上げ、クラウドファンディングによって支援を募るなど、民間団体が公共施設を改修するという前例の無い手法を導入。末永くコートが利用できるよう、整備した。いずれの取組みにも携わってきた秋葉氏は、2005年からの取組みに一定の手ごたえを感じている。
「ALLDAYのような目指すものがあると、公園やコートにモチベーションが生まれ、コミュニティができて、それがシーンとなり、カルチャーになっていくと考えています。代々木は約20年をかけながらALLDAYを象徴とするアイディアの下、カルチャーができるまでやって来れたと思います」
また、今回の機運醸成の背景には公園のあり方の変化もあるだろう。秋葉氏が「公園が役割を持ち始めている」と感じているように、東京都は2040年に向けた都立公園の整備指針をまとめた『新たな都立公園の整備と管理のあり方について 中間のまとめ(案)』にて、“多様な健康づくりや運動ニーズに応える環境の充実”と題して、スポーツが体験できる環境作りを指針に挙げている。かつて「球技禁止」などと言われていた時代から、その見方が変わってきたと言えるだろう。
他にも、PICK UP PLAYGROUNDの地方開催に向けてエリアオーガーナイザーを募集したところ、昨年と今年でのべ80件の申請があったという。しかも、各オーガーナイザーが公園などの管理者へ開催を相談に行ったところ、断られたケースはこれまで無いそうだ。行政からも問い合わせが数件、届いているという。秋葉氏は代々木で「最新事例を作り続けて、地方のロールモデルになれば良いなと考えています。その事例の枠組みを地方に渡していけば、そのローカルに沿ったコミュニティが生まれて、シーンやカルチャーが育っていくのではないでしょうか」と話している。
実証実験の方向性…「やる」「見る」「育む」
このような流れを受けて動きだす「YOYOGI PARKプレイグラウンドプロジェクト」は、テーマ性を持って進めていくという。開催するイベントなどを①「やる」②「見る」③「育む」の3つにジャンル分けをし、ballaholicやTACHIKARA、AKTRといったピックアッププレイグラウンドの参画企業の協力も仰ぎながら取組んでいく方針を持つ。想定するターゲットもボーラーのみならず、女性や子どもも視野に入れながら、多様な人たちがバスケに触れる機会を、実験的に作っていく。
具体的には1つ目の「やる」で言えば、PICK UP PLAYGROUNDや、今プロジェクトを意識して始められたZOOSによる月1回のガールズバスケのほか、先月22日に開催されたバスケイベント「The king of underdogs(路人王)」もその一つ。昨年Renovation Projectのクラウドファンディングで実施したリターンとしてピックアッププレイグラウンドが主催し、代々木公園サービスセンター、渋谷未来デザインの3者で行われた。
2つ目の「見る」については、ALLDAYに加えて「TOKYO STREETBALL SUMMER LEAGUE」を今月から来月にかけて開催する。過去2年、TOKYO SPORT PLAYGROUND(現在は閉園)で開かれたリーグ戦を代々木へ移し、新たなスタートを切る。ニューヨークのRucker ParkやDyckman Parkで夏にサマーリーグが開催されているように、代々木のSUMMER LEAGUEも定着すればストリートボールを見る文化がより一層、根付きそうだ。コートの立地を考えれば、観光客を呼び込む目玉になるかもしれない。
3つ目の「育む」は、ballaholicが主催するバスケットボールスクール「Asphalt Roots」や、AKTRとパートナーシップを結ぶバスケットボールスクール「KAGO」のサポートを想定し、子ども向けのクリニックを検討中だという。
2005年の寄贈以来、日本のストリートシーンを支え、公園バスケの最新事例であり続けた代々木公園バスケットボールコート。今度はYOYOGI PARKプレイグラウンドプロジェクトで、どんな事例が生まれるのか。秋葉氏は「実証実験を通じて課題も出てくると思いますが、どう対処していくのがいいのか。学びながら、良いものを作っていきたい」と話した。
これまで公園が育んだスポーツと言えば、ランニングが思い浮かぶ。皇居周辺や駒沢公園など各地にランナーが集い、2007年にはじまった東京マラソンを目指して練習に励むランナーも多いと聞く。バスケットボールも、本格化する代々木の取組みが全国へ広がっていけば、その仲間入りを果たす可能性は大きい。代々木を起点に、日本のバスケットボールがより一層、盛り上がる将来が描けそうだ。
- 代々木公園バスケットボールコートで新たな取組みが始まる…公園バスケの次なる事例作りへ
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TEXT by Hiroyuki Ohashi