昨シーズンの雪辱を見事晴らした、琉球ゴールデンキングス
昨シーズンのB.LEAGUE FINALSでの悔しさを胸に刻み全員バスケで雪辱を晴らし、千葉ジェッツの3冠を阻止しB.LEAGUE年間チャンピオンに輝いた琉球ゴールデンキングスの日本生命 B.LEAGUE FINALS 2022-23を様々なバスケットボールメディアに寄稿する吉川 哲彦氏が振り返る。
bjリーグラストシーズンを制したのが2015-16シーズン。あれから7年が経ち、琉球ゴールデンキングスがついにBリーグでも頂点に立った。bjリーグ最多の4度の優勝を誇る強豪にとって、おそらくこの優勝までの7年は長く感じられたことだろう。琉球一筋11シーズン目の岸本隆一の第一声も感慨深げだった。
「やっとここまでたどり着いて、嬉しい気持ちでいっぱいです。今日という日に至るまで、いろんな人が力を尽くして戦ってきて、感謝の気持ちもありますし、自分たちにとって、沖縄にとって意義のある優勝になったと思います」
千葉ジェッツとのファイナルは、ダブルオーバータイムのGAME1を取ったことがまず大きかったのだが、それも琉球のディフェンス戦略があっての結果だった。琉球は今シーズンの対戦の経験を踏まえ、千葉Jの3ポイントを徹底的に警戒。天皇杯決勝では15本、その後のレギュラーシーズンでの2度の対戦ではいずれも13本と、今シーズンの千葉Jの武器である3ポイントを多く被弾していたが、このGAME1の千葉Jの3ポイント成功率は21.6%。レギュラーシーズンで1試合平均11.3本決めてきた千葉Jが、50分間で8本しか決めていない。31得点を挙げた富樫勇樹には12本打たれてしまったが、成功は3本にとどまり、成功率43.8%でリーグ2位にランクインしたクリストファー・スミスに至っては3ポイントを許すどころか、試投もわずか1本しかなかった。この事実は、琉球のディフェンスが効いたという何よりの証だ。
3点リードの残り10.2秒でヴィック・ローに決められた同点3ポイントも、相手のピックに対してディフェンスがスムーズにスイッチし、ボールマンのローについた渡邉飛勇はしっかりとシュートチェックに跳んでいた。結果的にはこれが決まってオーバータイムに突入することになるが、渡邉のコンテストに怯まず打ちきったローが一枚上手だったと言わざるを得ない。
GAME2も千葉Jの3ポイントが32本中9本成功で、成功率が28.1%にとどまったことを考えると、琉球のディフェンスがこの結果を生んだ要因の一つであったことは間違いないだろう。GAME2の試合後の会見で、桶谷大ヘッドコーチはこう語っている。
「千葉さんは3ポイントが入りだすと止まらない。途中、富樫君とスミス選手に連続で決められたところはモーメンタムを持っていかれそうになったんですが、チームとして我慢しながらディフェンスを頑張って、最後はコーがオフェンスで爆発してくれた。それで相手ベンチが混乱してくれたかなと思います」
そんな桶谷HCの言葉にもあるように、GAME2に関してはコー・フリッピンの働きが際立ち、チームを勢いづけた。前日の試合について「昨日約10分の出場で3つターンオーバーしてしまったことを、本当に不甲斐なく思う」と悔しがっていたが、リーグ制覇がかかった試合でキャリアハイに並ぶ21得点。岸本を休ませる時間帯にハンドラーとしてコートに立つと、アグレッシブなアタックで相手のファウルを誘い、10本放ったフリースローは全て成功。「このチームには素晴らしいリバウンダーがいる」と3ポイントも思いきり良く打ち、6本中3本を炸裂させた。8アシストもまたキャリアハイに並ぶ数字であり、司令塔の役割も全う。古巣を相手に圧巻の活躍を見せ、その千葉J時代と合わせて2度目となるリーグ制覇を自らの手で引き寄せた。なお、異なる2チームでB1制覇を達成した選手は今回のフリッピンとジョシュ・ダンカンが初である。
フリッピンがファイナル賞に選ばれると同時に、チャンピオンシップを通じたMVPに選出されたのはアレン・ダーラム。レギュラーシーズンで1試合平均15.6得点、7.7リバウンドと安定した活躍を披露していたダーラムは、CSの6試合に限ると20.0得点、 9.0リバウンドと数字が上昇。ファイナルGAME1ではダンカンとジャック・クーリーがファウルトラブルに陥ったこともあり、38分33秒に出場して26得点14リバウンドを叩き出した。この3つの数字はいずれもチームハイ。ダーラム自身は優勝会見で「このチームには僕の強みを生かしてくれる素晴らしいチームメートがいるので、自分の仕事は楽だった。このチームの一員になれたことがラッキーだった」と謙遜したが、琉球がここまでたどり着いたのも、桶谷HCが「間違いなく史上最強」と評した千葉Jを破ることができたのも、ダーラム抜きには考えられなかった。
そして、琉球のもう一つの大きな勝因を、フリッピンとダーラムの共通点に見出すことができる。それは、ベンチスタートの選手であるという点。この2人に限らず、ファイナルの琉球の強さはベンチスタートの選手の働きに表れた。今回2人以外に名前を挙げなければならないのは、牧隼利と松脇圭志だ。GAME1も体を張ったディフェンスと効果的な得点でチームを支えたが、GAME2の働きはさらに素晴らしく、前日ダブルオーバータイムに30分以上の出場でフル回転した岸本と今村佳太の負担を、牧と松脇が軽減。勝負の第4クォーターも2人がコートに立ち続けた結果、岸本はこの試合で13分0秒しか出場していない。
ベンチスタートの選手による得点は、2試合ともに45点。GAME2終了直後のインタビューで、桶谷HCは「見てくださいよ、今日のセカンドユニット! 最高っすよ!」と声を張った。シーズンを通して積み上げてきたチームの総合力を、この大一番で発揮できるのが琉球の強さ。レギュラーシーズンベスト5に1人も選ばれなかったのは、むしろ琉球のチーム力を証明したと考えるべきだろう。
今回も含む6回のCSに全て出場しているのは千葉Jと川崎ブレイブサンダース、そして琉球だけ。bjリーグ出身のチームの多くがBリーグの壁に苦しむ中、その代表としてついに頂点に立ってみせた。西地区勢としても初制覇となるが、その西地区からは今回4チームがCSに進出。来シーズンはそこに佐賀バルーナーズと長崎ヴェルカが加わり、これまで東地区優位と言われていたB1は西地区がますます見応えのある争いになることも予想される。琉球の優勝は、勢力図の変化の象徴としても長く語られていくことになるだろう。それを確たるものとするためには、bjリーグ時代に成しえなかった連覇が必要。ここからまた、新たな挑戦が始まる。
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TEXT by 吉川 哲彦