日本とゆかりのある3×3モンゴル代表・Anand Ariunboldに迫る
3×3シーンで、男子モンゴル代表はアジアの盟主である。国別ランキングで世界5位につけ、「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」では2度目の優勝を飾った。その立役者となったAnand Ariunbold(アナンダ アリウンボルト)も、その一角を担う期待の星。昨シーズンのクラブ世界No.1を決めるツアー戦でもインパクトを残した。日本とゆかりのある26歳と、アジアNo.1の最前線に迫る。
モンゴルのヒーローは16歳で日本へ
4月2日の「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」決勝――18-18の場面から残り1分42秒で、モンゴルのAnand Ariunbold(♯5)が放った2ポイントシュートは綺麗なアーチを描き、リングに吸い込まれた。しかも、オーストラリアのファウルを誘い、タイムアウトを挟んで迎えたフリースローも冷静に沈めた。21-18で母国を優勝に導くヒーローになったのだ。
昨夏の3×3 Asia Cupでは、ケガのため力を出し切れず、準々決勝で敗れる辛酸も舐めたAnand。それだけに、自身初の優勝と、2017年以来2度目の戴冠に貢献できた喜びを人一倍感じているようにも思えた。ミックスゾーンで「あーーーめっちゃ嬉しいっす!」と、デカイ声も響く。もちろん、通訳無しでだ。
Anandは日本と縁が深い。16歳で初来日し、高校3年間は山形の羽黒高校で過ごした。その後、群馬の上武大学へ進学すると、5人制だけでなく、3×3の機会にも恵まれ、2018年の「第4回3×3日本選手権大会」では準優勝を経験した。特に、ベストバウトだったのが準決勝・RBC東京戦だ。同年のFIBA 3×3 Asia Cupで銅メダルを獲得した落合知也ら3×3男子日本代表を擁する強敵に対して、マーテル テイラーバロン(現MINAKAMI TOWN)、細川一輝(現三遠ネオフェニックス)、五十嵐蒼の4人で挑み、16-15で撃破。身長196cmのAnandも、その原動力になった。
当時、同大学の監督を務めていた佐俣智彦氏は、第3回大会のベスト4を超えるため、Anandを起用していた。「(これまで)交代要員でどうしてもサイズの小さい選手が入っていたんですけど、決勝まで上がれなかった。アナンダは華奢に見えますが、サイズがあって、シュート力があるので入れてみました」と語っていた。加えて、「アナンダはモンゴルのA代表に呼ばれています。まだ選考の段階ですが、若返りを図りたいというモンゴル協会の話もあるので(今後も大学の)リーグ戦がありますが、A代表であればチャンスを与えたい」とも明かしていた。
Anandは、当時からモンゴル期待の星だったのだ。
5人制と3人制のプロと代表選手に成長
Anandは大学2年生まで日本で過ごしたのち、モンゴルへ帰国。現在は母国で5人制と3人制、それぞれのチームと契約するプロバスケットボール選手へ成長した。それも、両方の代表ユニフォームに袖を通すほど、実力をつけ、期待も背負うまでに。彼によると、昨年より同国は2つあったバスケットボール協会がひとつになり、競技環境が整備されたという。5人制と3人制の行き来もしやすくなり、オンコートのレベルも上がったと感じている。
モンゴルは、2017年の3×3 Asia Cup初優勝をきっかけに3人制の人気が高まったと耳にしたが、いまはその頃以上にバスケットボールの人気が高まっているようだ。彼は「モンゴルでは、3×3がやりやすいです。なぜならば、小さい頃から外にバスケットボールコートがあって、みんなで3×3をやっているから。小学校ぐらいからみんなバスケットをやっています。たぶん、モンゴルで今バスケは一番のスポーツですね」と、嬉しそうに街の様子を教えてくれた。
ただ、Anandは競技の違いを超えて、クラブチームと代表チームの双方でプレーしているため、体への負担も感じている。5人制と3人制の両立は並大抵のことではない。「3×3の試合はヨーロッパとか、遠い国でもあります。移動も時差もあって疲れます。休みが欲しいっすね」と、彼から思わず本音もこぼれた。
聞けば、今大会もタフなスケジュールだった。3×3モンゴル代表は彼以外も、同国の5人制チームでプレーするプロ選手たちばかりで、3月から4月は全員がモンゴルリーグのプレーオフを戦っていた。そのため、代表選手たちは一時的に5人制チームから離脱し、3日間だけ3人制の練習を行い、シンガポールへ飛んできた。移動は韓国でのトランジットを挟んで、約10時間。寒暖差は、マイナス1℃から、気温の30℃、湿度90%に跳ね上がった。3月31日に現地入りし、4月1日に大会初戦となる予選プールを2連勝で突破すると、準々決勝から始まる2日の決勝トーナメントも3試合を戦い切った。ちなみに、5人制のプレーオフは、3×3 Asia Cupの期間中、1週間中断されたという。
Anandが明かすモンゴルの競技環境
一方で、Anandは充実した環境で3×3に取り組んでいる。モンゴルでは3×3の選手たちが練習する専用施設を協会が保有しているそうで、コートやショットクロックもFIBAの国際大会と同じものが使用されている。そこへAnandが所属するSansar(サンサール)や、3×3 Asia Cupの大会MVPになったDelgernyam Davaasambuu(デルガーニャム・ダヴァーサンブー ♯13)が所属するUlaanbaatar(ウランバートル)の選手たち、さらにU23カテゴリーの選手も一堂に集まる。「みんなで練習をやって、ゲームもしています。(練習場所も)体育館でするのとは違います。3×3のコートで練習した方が一番いいっすよね」と、Anandは語った。
また、チームを率いるコーチも、一環してTulga Sukhbaatar氏が務めている。「モンゴルのシステムは(フォーメーションが)多くて、僕たちはちゃんとやらないといけない。練習で1、2時間ぐらいずっとやっています」ともAnandは言う。当然、個人能力の高い選手であっても、システムを理解していない選手たちは、代表チームに選ばれないという。
さらに、モンゴルの3×3を支えている人物が、もう一人いる。カナダ人のベテランシューター、Steve Sir(スティーブ・サー)である。かつてEdmonton(エドモントン)というチームで「FIBA 3×3 World Tour Masters」や「FIBA 3×3 Challenger」といったプロサーキットを転戦していたが、昨シーズンより同国に招かれ、選手兼コーチとして携わる。Anandは、その印象を「3x3のお父さんみたい」と表現する。人柄も「めちゃめちゃ良い人」で、選手たちからの信頼も厚いようだ。
そんな父さんからは、セットプレーやスクリーンのかけ方といったスキルや戦術のコーチングだけでなく、試合前後の食事方法やウェイトトレーニングなど、体作りにまでアドバイスが及ぶという。また、Anandは「スティーブ・サーが来て、選手たち一人ひとりに、“あなたはシュート!”とか、“あなたはディフェンスを頑張って!”とか、アドバイスを言ってくれますね」とも語った。個々の特徴を見極め、その良さを引き出す熱心なコーチであることは間違いない。
最新の国別ランキング(4/26時点)で男子モンゴルはアジア最上位となる世界5位。チームランキング(同)でもUlaanbaatarが7位、Sansarも9位とそろってTOP10に名を連ねている。Anandに至っては昨シーズン、プロサーキットで大きなインパクトを残し、ファン投票で選ばれる「Most Spectacular Player」という年間個人タイトルも受賞。名実ともに彼らはいま、アジアの盟主なのだ。
Asia Cupは序章…パリと、その先の日本へ
だから、モンゴルのアジアカップ2度目の制覇は、まさに3x3を積み上げてきた賜物である。“たられば”が入り込む余地がない。同じメンバー、同じ練習環境で、継続して戦い方が磨かれ、その様子を若い世代が身をもって体感する。Anandも3×3のA代表歴こそ今大会で3度目と浅く、5人制の選手でもあるため、3人制にアジャストする難しさも実感しているが、プロサーキットや3×3 U23代表時代から積んできた自信をのぞかせる。「いま俺のチームメイトは、だいたい5、6年ぐらい(3×3を)やっています。それぐらいやっていると、一緒にバスケをやるのがやりやすいですね」と。準備期間の無い中、今大会を迎えたが大きな不安も無いのだ。「代表チームのシステムは変わっていなくて、やることが同じだから、合わせるのも簡単ですよ」と、彼は事もなげに語った。
そして、日々の積み重ねがあるからこそ、あの優勝を決めた3点プレーについて「モンゴルのために決めました。今まで毎日練習して、試合もやって、コーチもスタッフもみんなの力で頑張りました」と言い切れるのだろう。モンゴルで彼らの様子をつぶさに見ているわけではないが、予選プールを終えたあと、Anandから母国の話しを聞いていただけに、その言葉にぐっと来るものがあった。
ただ、3×3 Asai Cup制覇は言わば序章だ。Anandの目標は2つ。ひとつは、4月29日(土)30日(日)に開催される「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener」を皮切りに始まる2023シーズンで結果を残すこと。Sansarとしてクラブ世界No.1を目指し、母国代表として5月の「FIBA 3×3 World Cup」での飛躍と、2024年の「パリオリンピック出場」を一番の夢に描く。
もうひとつは、日本のB.LEAGUEへの挑戦だ。これはもう少し先の目標になるだろうが、アジア特別枠の制度を彼は把握済み。「フィリピン人の選手とかいま多いっすよね。モンゴルはそれに入っていないですけど、たぶん今後入る感じとは聞いています。日本で5on5のプロになりたい」と、胸の内を明かしてくれた。
日本とゆかりのある26歳は、モンゴルの次世代から、アジアの3x3シーンを引っ張る選手となり、いま世界からも注目される存在へ成長を遂げた。そんな、Anand Ariunboldはいよいよ今週末、4年ぶりに来日する。シンガポールで見せた会場のボルテージを上げる強気なプレーで、今度は宇都宮を沸かせて欲しい。
【Instagram】
Anand Ariunbold @anandkaaa(外部リンク)
【LIVE配信】
LIVE| FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023 | Day 1 – Session 1 / 12:00 PM〜(英語/外部リンク)
LIVE| FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023 | Day 1 – Session 2 / 12:00 PM〜(英語/外部リンク)
LIVE| FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023 | Quarter-Finals(英語/外部リンク)
LIVE| FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023 | Finals(英語/外部リンク)
【大会情報】
FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener特設サイト(日本語/外部リンク)
- 日本とゆかりのある3x3モンゴル代表・Anand Ariunboldに迫る
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TEXT by Hiroyuki Ohashi