「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」取材記vol.3……世界を知れば、きっと3×3をもっと楽しめる
4月3日、シンガポールは朝から昼過ぎまで雨が降り続け、湿度はあるものの、気温は25度ぐらい。前日、熱戦が繰り広げられた「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」で感じられた、30度近い気温が噓のような気候だった。
3×3女子日本代表は、大会最終日となった4月2日、決勝トーナメント初戦となるタイ戦に挑み、16-17で敗れた。予選ラウンドではディフェンスで相手の2ポイントシュートを消し、勝機を見出したが、対戦相手のレベルがガツンと上がる準々決勝では、序盤から2ポイントシュートを許し、リードを許す展開だった。終盤、追い上げを図り、残り1分を切って、♯24 近藤京 (アイシン ウィングス)の得点で1点差まで詰め寄ったが、あと一歩及ばず。終盤、スタンドから「タイムアウトを取れ」と思わず声が出ていたが、そうなってしまうのも自然な状況だった。たらればを言えば、もし30秒、落ちつける時間を取れていたら、少なくとも延長戦に持ち込めていたんじゃないかと。
ただ、選手たちに話を聞けば、その終盤、♯1 江村優有 (早稲田大学)は、チームメイトに「タイムアウト取る?」と投げかけていた。今大会の女子代表は4人とも初めての3人制A代表だったが、その中でも江村は、最も試合経験を積んでいた。昨夏の「FIBA 3×3 Nations League 2022 – U21 Asia」を皮切りに、その大陸王者が集結する「FINAL」や「FIBA 3×3 U23 World Cup 2022」、さらには国内では「3×3 Next College Monsters Festival」という大学生のトーナメント戦も2度、出場していた。本人はタイムアウトを「取る?」ではなく「もう取った方が良かった」と悔やんだだけに、この経験がもっと彼女を成長させるはずだ。江村は3試合でチームトップの20得点をマークし、リバウンドも21本を記録していたが、本人は更なるスキルアップに意欲を見せつつ、3×3の理解度やリーダーシップも高めようと成長を誓った。
「コミュニケーションの中でも、特に試合中が一番大事だと思います。すぐに試合へアジャストして、チームをまとめていかないといけないです。今日のゲームは受けて立ったように見えたと思います。試合の最初からしっかりとコミュニケーションをとって、やっていく。あとやっぱり、判断です。5人制みたいに4クォーターあるわけではないので、ゲーム中の修正能力も磨きたい。スキルと判断を磨いて、次も代表に選ばれるように頑張りたいですし、選ばれたら勝っていけるように頑張っていきたいです」
一方で、3×3男子代表は既報の通り、予選ラウンドで敗退。最終日に4人へ取材できる機会を頂いたが、現地で書いておきたい選手が、仲西佑起(NINJA AIRS.EXE)だ。
彼は仕事と3×3を両立する、30歳のリーマンボーラー。昨夏のアジアカップまで代表で活躍した小松昌弘のような境遇だ。たぶん、この原稿が掲載されている4月4日(火)には営業マンとして、パソコンと睨めっこしているはず。先週木曜日からパソコンを開いていないため、「200、300通ぐらい(笑)」のメールを処理して、顧客対応に追われる忙しい時間を送っていそうだ。
ただ、代表デビュー戦となったニュージーランド戦。彼に焦る様子は無かった。国内でプレーしているときと、動きっぷり、表情ともに通常運転だった。本人もあの心境を「そうなんすよ!もっと緊張すると思ったら、全然しなかった」と笑って、明かす。普段は仕事に費やす時間を、今回ばかりはバスケに全部充てられたこともあって「僕の中でちょっといつもと違ったんですけど、逆にそれが良いように作用したと思います」と話した。
また、男子代表がコンセプトとした戦い方が、「いつもやってるバスケとすごいリンクしていて、僕はとてもやりやすかった」とも語った。機動力をいかし、2ポイントシュートを狙いつつ、状況によってドライブや合わせのプレーを繰り出すのがNINJAのスタイル。いつもだったら柏尾耕資や船尾和希からパスを受けたり、さばいたりしているが、今回はその相手が、♯2 改田拓哉 (TSUKUBA ALBORADA)や、♯4 小澤崚 (TSUKUBA ALBORADA・SAITAMA ALPHAS)に代わっただけの感覚だ。彼の代表初選出は傍から見ればサプライズであったが、実際は、今回のコンセプトにあう適任者が彼だったと言っていいだろう。「僕が生きるバスケ」とも、仲西は感じていた。そして、シンガポールの経験は、彼がさらに3x3へ向き合う後押しになった。
「たぶん僕が選考合宿に呼ばれ、最終メンバーに選ばれたことで、3x3をやっている人からしたら、俺も代表になれるチャンスは絶対ある。そう受け止めるようになったと思います。周りからの反響がすごかったですもん。僕自身もやれば、代表に繋がると今回感じたので、もっと3×3をやりたくなりましたね!」
ただ、3x3男女日本代表の奮闘を現地で取材する機会に恵まれたが、男子は最終日に残れず総合12位に沈み、女子もベスト8止まりで総合5位だった状況は、とても複雑だった。もちろん、勝負事はやってみないと分からない。2年連続で表彰式は取れ高なし。見るだけだと思っていた。が、大会の最後の最後で、そんな気持ちも吹っ飛んだ。
男子の決勝でモンゴルが3大会連続優勝中のオーストラリアを21-18で破り、2017年以来、2度目のアジアチャンピオンになる瞬間に立ち合うことができた。しかも前日取材した、同国代表の25歳、Anand Ariunbold(♯5 以下、アナンダ)が18-18から優勝を決める3点プレーをメイク。高校1年生から大学2年生まで日本で過ごし、2018年に上武大学の一員として3x3日本選手権で準優勝するなど、日本と縁の深い男の活躍に胸が熱くなった。
激戦を終えて、ミックスゾーンにやってきたアナンダは、その場面について「モンゴルのために決めました。今まで毎日練習して、試合もやって、コーチもスタッフもみんなの力で頑張りました」と喜びを語った。残り1分41秒で2ポイントシュートを決めて20-18とKOにリーチをかけて迎えたフリースローの場面も「緊張は全然しなかったっすね。絶対に入る。その思いだけでした」と、彼は明かす。
そして、チームとしても気持ちの強さがあったからこそ、彼らは劇的勝利を呼び込んだ。モンゴルは試合中盤に作ったリードを溶かし、残り1分46秒で一時並ばれたが、オーストラリアに対して「フィジカルも強いし、シュートも入るし、身長も僕らと違って高いけど、みんなで同じように(体を張って)戦えました」と、アナンダは胸を張った。
現在、アナンダはモンゴル代表のみならず、SANSAR(サンサール)という3×3のプロチームにも所属しており、2023シーズンもワールドツアーやチャレンジャーといったプロサーキットを転戦予定だ。4月29日、30日に宇都宮で開催される「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener」にも、SANSARとして出場を予定している。彼は、優勝した直後だったが「ここだけで終わらないですね。次は宇都宮の試合もあるし、ワールドカップもある。その次は、パリオリンピックまで目指しますから、毎日頑張っていきます」と、大きな目標へ気持ちを切り替えた。
3×3日本代表の吉報は届けられなかったが、日本と縁のある3×3シーンのライジングスターをこの機会に是非、知って欲しいと思う。世界を知れば、きっと3×3をもっと楽しめるはずだ。
大会最終結果
男子
1位 モンゴル(2017年大会以来2度目の優勝)
2位 オーストラリア
3位 ニュージーランド
女子
1位 オーストラリア(2019年大会以来3度目の優勝)
2位 ニュージーランド
3位 中国
詳細は大会公式サイト(英語/外部リンク)へ
Anand AriunboldのInstagram @anandkaaa(外部リンク)
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TEXT by Hiroyuki Ohashi