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  • 2022.09.16

ツアー30位からの大躍進……3×3日独混合チーム・Düsseldorf ZOOSが優勝決定戦へ

女子3×3世界最高峰のツアー大会「FIBA 3×3 Women’s Series」に参戦したDüsseldorf ZOOS(デュッセルドルフ ズーズ)が、9月17、18日に開催される2022シーズンの優勝決定戦「FINAL」へ出場する。彼女たちは、今シーズンより新設されたクラブチームの参戦枠でレギュラーシーズンを戦い、ツアー30位から7位へ大躍進。上位8強に食い込み、大一番に挑む。桂葵と前田有香に話を聞いた。

クラブチームとして初のFINALへ
 「女性を取り巻くスポーツの環境をリデザイン」していくミッションを掲げたZOOSが早くも、新たな可能性を示している。ドイツの3×3プロクラブ・3x3Düsseldorfとパートナーシップを結び、Düsseldorf ZOOSとして、女子3×3世界最高峰のツアー大会「FIBA 3×3 Women’s Series」に参戦したのが、今年7月のこと。シーズンの途中参戦ながら、日独混成チームとしてチェコ・プラハ大会を皮切りに5大会へ出場し、ツアーランキング7位で上位8強による優勝決定戦「FINAL」への出場権を獲得した。決戦の舞台はルーマニアのコンスタンツァ。9月17日、18日の2DAYSで開催される。

 今ツアー大会は2022シーズンより、フェデレーションチーム(各国連盟が組織したチーム。いわゆるナショナルチーム)だけでなく、コマーシャルチームという枠を設けてクラブチームにも参戦の門戸を解放。手を挙げた3つのクラブのうち一つが、Düsseldorf ZOOSだった。周囲を見れば、フランス、ドイツ、アメリカ、リトアニア、カナダ、スペインといった世界トップ10の強豪国ばかり。そんな熾烈な舞台に、Düsseldorf ZOOSは桂葵(#25)と前田有香(#9)の日本人と、Jennifer Crowder(#7)、Ama Lemonie Owusua Degbeon(#12)、Emma Lina Stach(#14)のドイツ人で挑み、結成約3ヶ月でFINALへ到達した。もちろん、クラブチームとしては史上初めてだ。


初陣で勝利も「3×3の大前提」が作れず
 一方で、FINAL進出の過程は順風満帆ではなかった。戦績こそ初陣のプラハ大会でイタリアを破って初勝利を挙げ、最終順位5位(12チーム中)で滑り出し、続くハンガリー・ブカレスト大会でも7位(同)に食い込んだ。ツアーランキングは初戦の30位から19位へ浮上。幸先の良いスタートに見えたが、チームの受け止めは違った。

 桂曰く「プラハ大会は課題が見えないぐらい勢いで勝ちましたが、ブカレストで課題が出てきました。特に、カナダ戦(●5-21)はチームとして一番悪い試合だった」と明かす。続く、カナダ・ケベック大会では3戦全敗。最下位の8位に沈んだ。

 チームが苦しんだ原因は「コミュニケーション」だったという。格上に勝機を見出すため「ディフェンス」にフォーカスして、ロースコアに持ち込む中で、2ポイントを決めるプランを描いていたが、それが機能せず、立て直そうにも解決できなかった。桂は当時を振り返る。

 「試合中のコミュニケーションが上手くいかなかったり、お互いに信じきれなかったりしました。それはドイツ人と日本人の間だけではなく、ドイツ人の間でもそうでした。3×3の大前提である4人で同じ方向を向いて戦う。この状況を作るのに、苦戦しました」

 さらに、ケベック大会に続く、フランス・オーボンヌ大会での準優勝も、その課題を抱えたままだったという。予選を突破し、決勝トーナメントで今夏の「FIBA 3×3 Asia Cup」王者の中国を破り、準決勝ではカナダに前田の2ポイントで逆転勝ちしたが、満足できる内容ではなかった。チーム戦術がある上で、個々の強みと弱みがぶつかって、かみ合わないプレーが生まれていた。中国戦の映像を見返すと「よくこの試合運びで勝ったね」が、2人の受け止めだった。

 日本人同士でも3×3のチーム作りは簡単ではないが、多国籍となれば、その苦労はなおのこと大きい。桂は「違う国籍の選手とチームを組む難しさをめちゃくちゃ感じました。言語の壁もすごく感じましたね。お互いネイティブではない英語でのやりとりでしたから」と、胸の内を語った。

志の近い選手たちが集まったからこそ
 ただ、そんな中でもDüsseldorf ZOOSの選手たちは、上手く行かない状況に全員が向き合い続けた。言い合いになったり、怒ったりしても「みんな勝ちたいし、3×3に本気でした。本当に生活や人生がかかってます。そっぽを向きたくなる状況でもみんな、プイっとしなかったんですよね」と桂は言う。奇しくも彼女たちは皆、各国代表の代表候補止まりの過去を持ちながらも、3×3で母国を飛び出した共通点があったのだ。
 桂と前田は今年度の「FIBA 3×3 World Cup」やAsia Cupで大会登録メンバー外だったが、3×3の女子選手としてをどうあるべきかを模索して、海外挑戦を決意。Jennifer、Ama、Emmaはドイツ代表の4枠目を争う立場にあるというが、フェデレーションチームで出番を待つよりも、Düsseldorf ZOOSで世界にチャレンジすることを自ら選んだそうだ。志の近い選手たちが集まったことは、チームがまとまる上で拠り所になった。

 その上で、2人は同じ方向を向くために建設的な会話を意識したコミュニケーションや、新たな役割を請け負った。桂はコートで問題が起こっても、状況に応じて対応できる部分、できない部分を切り分けながら、仲間との話し合いを続けた。

 前田はチームの流れが悪くなったブカレスト大会後、コーチの役割を担った。ゲームプランの組み立てはもちろん、チームミーティングに向けてビデオを作り、内容を整理し、話し合う議題の設定も彼女の役目になったと言う。語学に堪能でないため、チーム結成当初は「コミュニケーションを取れなくて上手くいかなかった」そうだが、少しずつ言葉の壁も乗り越えようとした。

 もともと前田は積極的に前へ出て、リーダーシップを取るよりも、チームメイトの意見に耳を傾けて、調和を図ろうとする印象。ただ、海外挑戦によって、言うべき場面ではしっかりと言う意識になった。バスケのみならず、ワンルームで寝食をともにする桂も彼女に対して「変わった」との印象を持つ。前田はコーチの役割をこのように語った。

 「練習やミーティングでは、葵に通訳してもらいながら、私の考えをしっかりと伝えました。チームの戦い方を提案をして、それをドイツ人の選手も聞いてくれて、コートで実行してくれたんです。意見を受け入れてくれたことは、チームが成長する上で大きかったです」

ツアー30位から7位の大躍進
 そして、オーボンヌ大会から1週間後に迎えたカナダ・モントリオールのツアー最終戦で、ベストな戦いを体現できた。コミュニケーションを深めて、ディフェンスとリバウンドを立て直して挑み、予選のスペイン戦こそ破れたが、ラトビアを18-13で破って決勝トーナメントへ。準々決勝ではアメリカを11-8で撃破し、FINAL行きのラスト1枠を争ったハンガリーと、フランスU24の結果を受けて、上位8強入りを決めた。
 ツアー30位から7位への大躍進。前田は「だんだん勝つごとにツアー順位が上がっていく中でファイナル出場、上位8強という目標が明確になってきました。その中でモントリオールは本当に、みんなが絶対にファイナルへ行きたいという気持ちがすごく出た大会になりました」と、語った。

 さらに、チーム立ち上げの発起人である桂は、FINAL進出を決めて、多くの支援を改めてかみしめている。

 「本当にラッキーです。支援してくださる人たちに恵まれました。実績も無く、世界でどれだけ戦えるかも分からない私たちを信じて、応援してくれた人たちがいたからこそ、この機会があります。チームメイトも一緒に戦ってくれる人たちで、本当にいろんなラッキーが重なり、結果が残せて、ツアーファイナルに行ける。本当に私がやってやったぜ!という気持ちが、こんなにも無いのかと思うぐらいありません。色々な人たちの支えで、戦っていると感じています」

集大成の先にあるものへ
 来るツアーファイナルは、ZOOSが集大成を見せる今シーズンの大一番だ。出場選手は桂、前田の2人に、今月10日、11日の「FIBA 3×3 Europe Cup」で初のドイツ代表を務めたDegbeonと、昨年のWomen’s Series Finalをドイツ代表として制したCrowderの4人。立ち向かう相手は強豪国ばかりだが、そんな中で彼女たちがインパクトを与えられるか。クラブチームという彼女たちの立ち位置を考えれば、集大成の先に世界の3×3シーンへ「女子3×3プロクラブ」や「女子3×3プロ選手」の可能性を示すことにつながるはずだ。桂と前田の意気込みを結びに、今週末、コンスタンツァでの活躍を楽しみにしたい。

 「7月の参戦からフェデュレーションチームばかりの中で、私たちだけが唯一のクラブチームとしてファイナルに行きます。ZOOSと言う名前を皆さんに知ってもらったことは大きなプラスです。いま4人それぞれの良いところが試合に出てきていますので、個々の強みを活かして、チーム力で挑みたい。勝ち星を上げたいですね。ツアーファイナルでしっかり戦い、結果を残せるよう頑張ります」(前田有香)

 「私たちはクラブチームの枠なので、言ってしまえば代表に選ばれてないメンバーで組んだようなチームでした。でも、できることを見せていきたいし、世界を驚かせたいんです。ツアーファイナルを決めたことで、結果を出すことが、すごく自分たちの思いを伝えるには大切だと思いました。自分たちがどうして世界で戦い、どんな気持ちでここにいるのか。しっかりとコートで表現できればZOOSらしい試合ができると思います。未来につなげられるよう、頑張ってきます」(桂葵)

●大会日程
予選Pool B
9/17(金)
24:10 vs.ドイツ
26:10 vs.アメリカ

9/18(土)
22:40 vs.スペイン
・4チーム中3チームが決勝トーナメントへ
 Pool 1位は準決勝へ進出
 Pool 2位はPool A 2位と、Pool 3位は同2位との準々決勝へ

決勝トーナメント
9/18(土)
23:55 準々決勝1 Pool B/2位 vs.同A/3位
24:20 準々決勝2 Pool A/2位 vs.同B/3位
24:55 準決勝 Pool A/I vs.順々決勝1 勝者
25:20 準決勝 準々決勝2 勝者 vs.Pool B/I
26:15 決勝

ツアー30位からの大躍進……3x3日独混合チーム・Düsseldorf ZOOSが優勝決定戦へ

TEXT by Hiroyuki Ohashi



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・FIBA 3x3 Women's Series Constanta Final 2022 | Day1

・FIBA 3x3 Women's Series Constanta Final 2022 | Day2

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