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  • 2021.07.23

3×3五輪代表・落合知也のルーツ。UNDERDOGとは?

WORM(ワーム)の愛称を持つ、東京オリンピック3×3男子日本代表の落合知也。学生時代にプロチームからのオファーがありながらも、バスケ熱が冷めて大学卒業後に別の道へ進んだことは、知られた話かもしれない。では、彼が事あるごとにその熱を取り戻すきっかけとして公言するストリートのチームをご存じだろうか。その名はUNDERDOG(アンダードッグ)。改めてその歴史やチームメンタリティの一端をひも解きたい。

黎明期から3×3をけん引するストリートの雄
 UNDERDOGがあるからこそ、今の3×3シーンがあると言っても過言ではないだろう。誕生は2009年。ストリートを主戦場に、国内最大級の5on5トーナメント「ALLDAY」で最多優勝回数(9回)を誇り、過去にはSOMECITYのNo.1チームを決める「SOMECITY THE FINAL」で2度の制覇を成し遂げるなど、数々のタイトルを獲得してきた。
 3×3においては黎明期よりUNDERDOGの選手たちが数々の大会へ出場。その最初は落合知也(3×3現所属TOKYO DIME)と眞庭城聖(3×3現所属UTSUNOMIYA BREX)が3×3デビューを飾った2012年のクラブ世界No.1を決めるツアー大会「FIBA 3×3 World Tour Vladivostok Masters」にさかのぼる。2013年には落合と三井秀機(3×3現所属FUKUOKA YUWA MONSTERS)、末廣潤、谷口達郎が日本で初開催となった「FIBA 3×3 World Tour Tokyo Masters」にTEAM NAGOYAとして参戦し準優勝。場所は奇しくも東京オリンピックの会場となる青海エリアだった。続く2014年には「FIBA 3×3 World Tour Beijing Masters」へTEAM YOKOHAMAとして出場し、国内ではGREEDYDOG.EXEとして3×3.EXE PREMIERの開幕元年に参入。翌2015年には圧倒的な強さでシーズンチャンピオンの座を勝ち取った。
 また3×3日本代表の歴史においても、2014の世界選手権(現W杯)では落合が初めて最終メンバーに選ばれ(当時の所属は大塚商会アルファーズ)、高久順(3×3現所属TOKYO_LEDONIARS)、野元勇志の3人が、日の丸を背負った。2010年からUNDERDOGにジョインし、GREEDYDOG.EXEでオーナーを務めるなどチームを支える高橋渉氏は、黎明期を次のように振り返る。

「(3on3の)SOMECITYで活動していく中で、ある意味で3人制を極めているメンバーがそろっていましたし、LEGEND(※1)の経験者もいました。だから、3人制に対する違和感は元々なく、3×3に入っていきましたね。もちろん、競技性が(3on3に比べて)高く、ボールの違いやルールにアジャストしていく必要はありましたが、世界と戦っていきながら、みんなでレベルアップしていくことができました」

バスケ熱“再燃”三井からはじまる系譜
 ではこのストリートの雄をひも解くべく、その系譜をたどりたい。すべては2009年、三井秀機が立ち上げことにはじまる。三井は福岡県出身で、福岡第一高校から日本体育大学へ進み、卒業後は家業を継ぐためバスケから離れたものの、ストリートとの出会いが彼を再びコートに導いていく。

「僕が家業の関係でどうしても2年間バスケットボールと離れないといけない時期がありました。それでも、WORM(落合の愛称)と同じようにストリートに出会って、それまでの学生キャリアでは感じられなかった新たなバスケの魅力に触れて、またバスケ熱が上がってきたことで、UNDERDOGというチームを作ろうと思いました」

そしてストリートによってバスケ熱が再燃した三井に誘われ、大学卒業後にチームへ入ったのが眞庭城聖だ。彼は日本体育大学で三井の後輩にあたり、学生時代はプロチームからのオファーもあったが、別の道を志して第一線から離れた一人。のちに一学年下の落合をUNDERDOGに誘うわけであるが、眞庭も当初は「全くやる気がなくて」とバスケ熱が冷めきっていた。しかし、このチームが彼を変えていく。

「(大卒後に)一瞬、ちゃらんぽらんしていた時期がありました。(チームに入ったものの)“適当にやっているなら辞めろ”と三井さんやチームの先輩方に怒られたこともありましたね。でも、UNDERDOGでバスケットボールを通して人間性などを教えてくださり、正しい方向に導いてもらいました。UNDERDOGが無かったら、間違いなく今のキャリアはありません」

 さらに現在、チームをけん引するボーラーは福田大佑(3×3現所属TACHIKAWA DICE)である。京都・東山高校の出身で、法政大学を経て、実業団の日本無線で活躍した。落合は大学の後輩であり、福田の弟・侑介を交えて眞庭ともプライベートを含めて4人は付き合いがあった。そんな福田は2014年の春に3×3の大会で久々に落合とマッチアップするが勝てず、その理由を自問しながら、翌年の夏にRed Bullが主催した1on1トーナメント「Red Bull King of the Rock」でその答えを見つけ、UNDERDOG入りを決めるに至った。

「King of the Rockで三井さんがケガをしながらも、外からシュートを狙わず(真っ向勝負で)体をぶつけながら眞庭に何かを教えるようにプレーするシーンを目の当たりにしたんです。落合の試合も含めて、2人とも昔からかっこいいけど、いまひとつな面も知っている中で、その戦いを見て、三井さんたちと一緒にいるから落合も眞庭もバスケ熱を取り戻して、上に上がっていくための努力を惜しまなかった。かっこいい男に変わっていったんだという自分の中で合点がいったんです。それで大会後に三井さんへ一緒にやりたいと伝えに行きました」

“漢”が生まれるチームのメンタリティ
 ストリートに魅了されて生まれたUNDERDOGは、選手たちのバスケ熱を再燃させ、周囲に影響を与えるチームへ成長を遂げてきた。福田は「このチームを通して落合も眞庭も一度落ちたバスケ熱を取り戻しました。本当、みんなを上にグングン上げていく不思議な力を持ったチーム」と表現するが、その起源が何なのかと思えば、三井がチーム結成時に意識したことに由来するのかもしれない。彼はかつてを思い出し、こう明かす。

「僕が意識したことはみんなでバスケットボールだったり、UNDERDOGで過ごす時間をどう楽しませるか。自分がバカなことをやったり、一生懸命バスケットボールをやったりと、スキルや戦術以前に、本当にバスケットボールが楽しいと思える空間を目指しました」

 三井の言う「バスケを楽しいと思える」ことは、ボーラーにとって原点のような感覚だろう。でも三井はこれにこだわった。こだわったからこそ、落合や眞庭のようバスケの楽しさを再び実感した輝きを放つ選手が現れ、それを見た福田のように心を動かされたボーラーが門をたたく。また奇しくもこの流れは、視点を変えるとリーダーが生まれる系譜にも見えてくる。三井はもちろん、落合は3×3日本代表で大黒柱となり、眞庭は昨シーズンまで5季在籍した茨城ロボッツでキャプテンを務めるなどチームをけん引。福田はUNDERDOGの低迷期を経験しながらも今やリーダーとしての風格が漂う。三井が家業のため地元へ戻り、眞庭と落合がプロへ巣立った2014年、2015年ごろから結果が振るわない時期を我慢し、先日7月8日のSOMECITY 2021-2022 TOKYO 1st 第3戦で久々の優勝に、福田は大きく貢献した。高橋氏は受け継がれるチームのメンタリティを次のように表現する。

「コート上で引っ張れるメンバーがUNDERDOGの中で一番重要なポジションです。それはプレー以外の普段の生活や仕事も含めて、一生懸命やっているか。その姿勢がチームのメンタリティであり、プレーにも反映していると思います。もうひと言で表現するなら“漢”ですね。常にUNDERDOGは挑戦者でもあり、本当に負けず嫌いで諦めない奴らがいるので、僕も信じて付き合っています」

「プライベートでも一緒に過ごすことで、チームカラーがだんだんと濃くなっていきます。ただバスケをしてるのではなく、カルチャーやファッションも意識していますね。クリエイターの先輩方がいますので、色々とバスケットボール以外のところも吸収し、コートはそれを発表する場であるとも言えます。例えば“今日も完璧にコーディネートしたぞ”とか“オンコードでもバッシュは完璧だぞ”とか、そういう部分も含めてですね。刺激的な仲間たちと一緒にいるので、そういう意識は他チームにはないカラーだと思います」

UNDERDOGのこれから。そしてWORMへ
このようにUNDERDOGは2009年の誕生以来、11年の歴史を築き、チームメンタリティを育んできた。高橋氏は今後について「いつでもプロが戻って来れるようなチームを続けていきたい」と話すとともに、現在チームで成長著しい大学生ボーラーJUONと出会うきっかけになった子どもたちへのクリニックや、バスケができる環境作りなど「グラスルーツ」や「ストリート」と向き合うアプローチを続けていきたいと言う。
 また福田は「低迷期みたいなものも過ごしたので、三井さんらが抜けた後の苦しい時期を歯を食いしばってやってきた自負がある」としたうえで「今ちょうど少しずつ良い形になりはじめています。良い意味で気を引き締め直し、これからより良い表現の仕方や、普段やっていることがにじみ出るような活動、それができる人間を増やしていきたい。オレも引っ張っていきたいです」と語った。ストリートでは先輩チームであるTEAM-Sの20周年(2017年)を例に挙げて「あのファミリーが続いていくような土台作りをやっていく」と意気込む。
さらに三井も現在、拠点の福岡で兄弟チーム・UNDERDOG FUKUOKAを立ち上げて活動中。間もなく40歳を迎えるが「心のどこかでもう一回、どんなカテゴリーでもいいから(UNDERDOGで過ごしたメンバーと)一緒にコートに立ちたい。それが一つのモチベーションです」と、バスケを楽しむ姿勢を貫くことを誓った。

そして本稿はUNDERDOGの4人からWORMへ向けたエールで締めたい。「ストリートからオリンピックへ」という3×3のタグラインを体現する落合知也を、仲間たちはアツく応援している。

「とにかく怪我をしないで、メダルを見せて欲しい。もうそこしかないですね。それで人生が変わると思います。集中して頑張れ」(高橋渉)

「彼の(オリンピック代表)選出は本当に嬉しかったけど、本人もスタートラインだと言ってましたので、まだまだやってくれるでしょう。期待を込めてこれからも応援します」(三井秀機)

「オリンピック代表メンバーを見ても、彼が初期からやってきた日本のシンボルだと思います。その姿を世界に見せつけて欲しいし、メダル獲得を期待しています」(眞庭城聖)

「強い気持ちを持って表現できる人間だと信じています。彼らしく頑張って欲しいですね。こっちは、彼がいつでもUNDERDOGに帰ってきて楽しめるように、チームを支えていきます」(福田大佑)

※.LEGEND:2005年から2010年まで開催された個人参戦型の3on3プロリーグ。2015年の夏に1度だけ復活した。いまの国内3×3シーンをけん引する選手が数多く参戦した原点たるところ。

3x3五輪代表・落合知也のルーツ。UNDERDOGとは?

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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