コーチ陣が話す3×3日本代表の東京五輪内定選手、そしてファンへ
東京オリンピックに挑む3×3日本代表の内定選手が決まった。3×3にとって東京大会は正式種目として初めて迎えるオリンピック。期待が高まる中、その顔ぶれを見て、安堵した方もいれば、そうでなかった方もいることだろう。ここではメンバー選考を行った代表コーチ陣のコメントを中心に、先日3日の代表会見の模様を振り返る。
競技初の五輪へ内定選手が決定
東京オリンピックに出場する3×3日本代表の内定選手が7月3日、日本バスケットボール協会(JBA)より発表された。男子代表には長年にわたり代表チームをけん引する落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME.EXE)を筆頭に、保岡龍斗(秋田ノーザンハピネッツ/BEEFMAN.EXE)、富永啓生(ネブラスカ大学)、アイラ・ブラウン(大阪エヴェッサ)の4人が選出。女子代表にはオーストリアで開かれた五輪予選『FIBA 3×3 Olympic Qualifying Tournament』(以下OQT)で出場権を獲得したメンバーである馬瓜ステファニー(トヨタ自動車アンテロープス)、山本麻衣(同)、篠崎澪(富士通レッドウェーブ)、西岡里紗(三菱電機コアラーズ)がそろって選ばれた。
ご存知の通り、3×3は2017年に東京大会から正式種目になることが決まった新競技。五輪の代表選考も初の試みだ。選考である以上、明暗は分かれるもの。この顔ぶれを見て、安堵した方もいれば、複雑な思いを抱かざるを得なかった方もいたことだろう。
OQTを突破した4人で臨む女子代表
メンバー発表と同日にはオンライン会見も行われた。代表チームの責任者を務めるディレクターコーチのトーステン・ロイブル氏は、まず女子代表の選考について「比較的、容易にいきました」と切り出し、次のように続けた。
「(女子代表は)OQTに行きまして出場権を勝ち取ったチームで、今度のオリンピックに臨もうと考えました。(OQTでは)2ガードコンセプトで山本選手と篠崎選手を起用し、それが非常に上手くいきました。ビックはステファニー選手と西岡選手でいきましたが、このコンビもなかなか上手くいったと思います」
5月の五輪予選を見た方であれば、この4名の選出は順当な印象を受けたはずだ。ロイブル氏の言う通り、山本(165㎝)と篠崎(167㎝)は上背こそ無いが持ち前の素早いドライブで相手を置き去りにし、ディフェンスでもミスマッチはあったものの、体を寄せて粘り強くプレッシャーをかけ続けた。また馬瓜は大会MVPに選出されるほど攻防両面でチームをけん引し、西岡もリバウンドやスクリーンなど体を張ったプレーでチームに貢献。この4人がさらにチームケミストリーを高めることができれば、目標である“金メダル”獲得は現実味を帯びてくる。
そして会見に臨んだ選手たちは檜舞台に立つことが決まった嬉しさを口にしつつも、気を引き締め、これまで切磋琢磨してきた仲間たちを思って、言葉を紡いだ。篠崎が「一緒に練習をしてきて高めてきた仲間のためにも、しっかりと日本のプレーをコートで表現できるように頑張っていきたい」と言えば、山本も「代表に選ばれたからには今まで一緒に合宿をしてきたメンバーや、3×3を今までずっとやってきた人たちの分までしっかりと戦いたい」とコメント。西岡は「まだオリンピック本番まで時間があるので日々成長しながら今まで以上に強い気持ちで(準備に)取り組んでいきたい」とし、馬瓜も「自分自身が果たさなければいけない責任や、今までやってきたことをしっかりと(本番で)出さないといけない」と、決意を新たにした。
強化合宿が決め手になった男子代表
一方で男子の選考については複雑な感情を抱いた方も少なくなかっただろう。なにせ『FIBA 3×3 World Tour Masters』や、その予選会である『FIBA 3×3 Challenger』といったクラブ世界No.1を決める国際大会を転戦し、日本ランキングTOP5に名を連ねた選手たちからのセレクトは落合ただ一人のみ。最終候補メンバーだった小林大祐(UTSUNOMIYA BREX.EXE)、齊藤洋介(同)、小松昌弘(TOKYO DIME.EXE)の3人は選外となり、2名の予備登録にも含まれなかったからだ。無論、選ばれた4名には表彰台を目指し、最高のパフォーマンスを望んでいることは言うまでもない。2013年から3×3に取り組む経験豊富な大黒柱の落合、2019年から代表入りし勝負強い1対1で成長を遂げる保岡、3×3の競技経験こそ浅いものの5人制で屈指の若手シューター富永や、元5人制代表の帰化選手であるブラウンにはパワフルなリバウンドやアタックが期待される。
会見でロイブル氏は男子の選考について「(コロナ禍で)国際ゲームがまったく無かった中で、選手の評価をどうするか難しかった」と苦慮したことを明かし「(6月の)キャンプ(=3次、4次強化合宿)に13人の選手を呼び、その中で戦うことで良い選手を選べるようにしたい(と考えました)」とコメント。同氏はサイズやフィジカルで上回る強豪国に日本が対抗するため「ペースアップ」をコンセプトに掲げ、切り替えの速い攻防の中で決めきる「シューティングスキル」やオフェンスやディフェンスの「激しさ」を見極めながら、総合的な判断で4名を選ぶに至った。会見では選考メンバーによる実戦経験の乏しさも出席したメディアから質問が及び「大きなハンデになる」と受け止めながらも「いかにコンセプトをチームとして確立していくか。時間を費やしてしっかりとしたチーム作りができている」とも語った。加えて本番前にはセルビア代表と練習試合を計画していることに触れ「そこでもう一度、勝つためには何が必要なのかを探し出し、全員で考えてオリンピックに行くことを考えています」としている(練習試合は7月16日、17日に佐賀で行われた)。
また選手たちも会見では選出の喜び以上に、戦いを見据え、気持ちを新たにした様子だった。3×3代表で最年少となる20歳の富永は「本当に内定選手に選んでくださって光栄に思います」と話し、ブラウンは「選考された選手たちで 最大限の結果を出すために 努力を惜しまない」とコメント。保岡は「どれだけ世界と戦えるかにフォーカスし、オリンピックに向けて準備をしています」と話し、落合は「オリンピックに気を引き締めて向かうだけです」と意気込んだうえで「強化合宿で手応えを感じている部分もある」と、現在地についても触れた。
代表コーチ陣からファンへのメッセージ
3×3のオリンピック初戦は7月24日。女子はROC(ロシア・オリンピック委員会)戦、男子はポーランド戦からメダル獲得へ向けた挑戦がスタートする。表彰台の頂点を狙う女子代表について、OQTに帯同した長谷川誠アソシエイトヘッドコーチは「(OQTで)選手たちは自信をつけています。まだまだ若いチームなので、これから約20日間、金メダルを獲得できるようにしっかりと準備をするだけです。是非注目をして欲しいです」と、ファンへメッセージを寄せた。
また男子代表については開催国枠での出場になることを忘れてはならないところ。この枠が取れた背景には代表メンバーも含め、国内外の様々な大会で3×3をプレーした日本ランキング上位100名によって、開催国枠を得られる国別ランキングを2019年11月にキープしていたからこそ成しえた結果だ(※)。ロイブル氏にこれを踏まえてコメントを求めたところ、次のように支えてくれた選手、ファンへメッセージを送ってくれた。
「私はドイツ人ですので、ドイツと比較をして 3×3の定着度合いを見ると日本は素晴らしく、大きなベースができていたことで日本の男子はオリンピックに出場できます。そういった中でこれまでオリンピックへ準備をしてきた時に(代表候補チームとの)練習ゲームに対戦相手として合宿へ来てくれた選手には(候補選手と)遜色のないプレーをしていただき、チーム強化の助けになりました。そういった選手の皆さんやファンの皆さんが開拓をしていただいた3×3で今度は両方(男女それぞれ)のチームがオリンピックでメダルを取ることによって、恩返しをしたいと考えています。皆さんにお願いです。是非、今後とも日本のオリンピックへのチャレンジを応援していただきたいと思っています。日本として最大限の努力をして最高の結果を皆さんのためにお届けしたいと思っています」
男女ともに選ばれた選手たちには本当にオリンピックでの活躍を期待したい。女子代表には表彰台の頂点へ。男子代表には残された時間で準備を重ね、強豪国に挑む姿を見たいところ。チームとしての経験不足は明らかであるが、彼らが背負うプレッシャーも半端ないことを思えば、その勇姿にエールを送りたい。3×3日本代表の挑戦をまず応援することが我々にできることだから。
※.3×3はポイント制を導入している。選手はFIBA(国際バスケットボール連盟)が定めるルールに沿って出場した大会のレベルや戦績に応じて個人ポイントが付与され、それによってランキングされる。国別ランキングは、その国の上位選手の個人ポイントを合算したもの。男子の開催国枠が決まった2019年11月は「上位100名」が対象となっていた。なお、その後国別ランキングの仕組みが変更され、現在は「上位50名」が国別ランキングの算出対象となっている。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
第32回オリンピック競技大会 (2020/東京) 3人制バスケットボール(3x3)男女日本代表チーム 内定選手発表―リンクは外部ページ(JBA)