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  • 2021.06.30

琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンをThrow back (前編)

Bリーグ2020-21シーズン、4シーズン連続で西地区優勝を果たした琉球ゴールデンキングスは、惜しくも千葉ジェッツに敗れBリーグチャンピオンシップ・セミファイナルで敗退した。そんな琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンを、国内外のバスケットボール事情を熟知するライター鈴木英一が振り返る。

琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンは、チャンピオンシップのセミファイナルで千葉ジェッツに敗れて終了した。新型コロナウィルスの感染拡大によるシーズン中断を受けた19-20シーズンを挟みこれでセミファイナル敗退は3回連続と結果だけを見れば同じだ。しかし、その歩みはこれまでと大きく異なるものだった。

振り返れば過去2回のセミファイナル進出チームは古川孝敏、アイラ・ブラウン、橋本竜馬など日本代表の経験もある実績十分な選手たちを軸としたものだった。しかし、このチームは18-19シーズン、アルバルク東京にセミファイナル第3戦で敗れた後、上記の3人に須田侑太郎と主力が揃って移籍。さらに翌シーズン前半戦に指揮官の佐々宜央が途中退任したことで事実上の解体となった。

このままチームは崩れてもおかしくはない状況となったが、ここで琉球はアシスタントコーチから昇格した新ヘッドコーチの藤田弘輝がチームをすぐにまとめ、ゴール下で圧倒的な強さを見せるジャック・クーリー軸に岸本隆一、並里成と地元出身のガード陣の奮闘によって持ち直す。当時在籍していた寒竹隼人(現・仙台89ERS)が語ったように、沖縄を代表するチームとしての強い責任感が、復調の原動力となった。

「僕たちがキングスにいる意味は、何かが変わったからといってブレてはいけないものです。キングスは沖縄のシンボルでいないといけない。僕たちのプレーでたくさんの人たちに元気、勇気を与えるのが大前提です」。その結果、19-20シーズンも中断時点で西地区首位に立ち、3年連続の地区タイトルを獲得した。


そして迎えた20-21シーズン、藤田ヘッドコーチは続投。ロースターも昨季の中心選手を残しつつオフには日本人スコアラーの今村佳太、自ら点を取るだけでなくチャンスメイクにも優れたオールラウンダーのドウェイン・エバンスを獲得と、戦力の底上げに成功した。

それだけに、開幕からスタートダッシュを期待したいところだったが、エバンス、そして元フランス代表で3ポイントを得意とするビッグマンのキム・ティリと、新たなオフェンスのキーマンとなる外国籍2人が新型コロナウィルスの感染対策による入国制限でチームへの合流が大幅に遅れる誤算に直面する。

彼らの代役として短期契約で獲得したのはゴール下を主戦場とするセンターのジェイソン・ウォッシュバーンでエバンス、ティリとは全くタイプが違う。それだけに、いずれエバンス、ティリが合流した時とは違うバスケットボールで、シーズン序盤戦を戦うための準備をせざるを得ないのは致し方ないにせよ大きな誤算となった。

そういった要素も影響し、開幕節は宇都宮ブレックス相手に2試合ともチーム力の差を見せつけられて連敗スタートを喫してしまう。だが、ここからチームの文化である激しくプレッシャーをかけ続けるディフェンスで連勝街道が始まる。

10月中旬の開幕5試合目から待望のエバンス、ティリが合流するもティリはデビュー直後に故障を負い約2週間の離脱。さらに10月25日の島根戦、続く28日の広島戦はエバンスも故障欠場したことで、外国籍はクーリー1人で帰化枠もいない圧倒的なサイズ不足に陥るが、チーム全員のハードワークによってともに競り勝つ。これで完全に勢いに乗るとエバンス、クーリーが揃って復帰した11月7日、8日にはアウェーで難敵の川崎に2勝を挙げるなど、怒涛の11連勝をマークする。


このようにスタートダッシュに成功したチームだが、中盤戦になると徐々にチームの課題で、キャプテンの田代直希が「効率が悪い」と問題視する1対1に頼る拙攻からの悪い流れが守備にも波及して崩れる傾向がより目立つようになる。相手がクーリーのパワーアタック、エバンスのドライブ対策でゴール下を徹底的に防ぎに来た際、そこでキックアウトして外角シュートを打つまではいいのだが、シュートは水物で当然のように入らない試合もある。

そうなると焦りからかオフェンスが個人技頼みの単発になってミスが増え、そこから相手にイージーシュートを許す。その結果、ディフェンスにも綻びが出る悪循環に陥る。この悪い流れの象徴が12月6日のA東京戦であり、ホームで54-85の大敗を喫してしまう。「どういう状況であれ、ホームの沖縄で30点差で負けるのは許されない」と藤田ヘッドコーチが語ったように、この負けは琉球にとって衝撃的な一敗となった。

ここから大阪、川崎、千葉とリーグ上位との連戦を1勝1敗で乗り越えるなど、徐々にチーム力を高めていった琉球だが、1月13日、天皇杯ベスト8の三河戦で再び脆さが出てしまう。3ポイントシュートが21本中2本成功と完全に沈黙したとはいえ、それならばとディフェンスで耐えることができず。序盤から2桁のリードを許し60-85とホームで再び、しかも天皇杯ファイナルラウンド進出をかけた大一番で痛恨の大敗を喫した。

この大きな危機を救ったのは、田代や岸本と在籍歴が長く、琉球が何をすることで勝利を積み重ねてきたのかを知り尽くす選手たちの存在だった。彼らがチームカルチャーのハードワークを体現し、周囲のけん引することでプレーの強度が高まる。速さと技のエバンス、パワーのクーリーと持ち味の異なる外国籍コンビが攻守の要となるスタイルの成熟度は増すことで、チームは連勝街道を歩んでいく。

3月3日、三河に85-75で勝利して天皇杯のリベンジを果たすなど順当に貯金を増やすと、同地区ライバルの三河、大阪が故障者に苦しめられて失速したこともあり、4月中旬には早くも西地区4連覇を決めた。

早々にチャンピオンシップ・セミファイナルまでのホームコードアドバンテージを獲得したのは素晴らしいが、そこからの調整に苦しむ。致し方ないが対戦相手に新型コロナウィルスの陽性反応者が出てしまったことで、本来なら4月10日に予定していた新本拠地・沖縄アリーナでの初公式戦が2週続けて延期となり4月21日に実施など、何度も試合が流れることでチームのリズムにネガティブな影響が出てしまう。

さらに残り試合、当然だがコンディション調整を第一にプレータイムのシェアを実施。ただ、その結果として、地区優勝決定後の7試合で2勝5敗と黒星先行でレギュラーシーズンを終えるなど、上り調子とは言えない形でチャンピオンシップを迎えた。

富山グラウシーズとのクォーターファイナルは初戦で92-75と快勝するが、2試合目に74-97とやり返される。だが、第3戦ではタフなディフェンスで流れをつかむ自分たちの戦いによって86-77と激闘を制した。このシリーズ、特に目立ったのは「後がない戦いでしたけど、個人として思い切ってプレーしよう。後悔の残るプレーはしたくないと、吹っ切れた部分が良い方向に進んでくれたと思います」と語る今村で勝利した第1戦、第3戦で共に27得点の大暴れ。シーズン当初から期待していた若武者のステップアップと、苦労したが最終的に良い流れで次のラウンドへと駒を進めた。

そして迎えた千葉ジェッツとのセミファイナル、初戦はインサイドのタレント、サイズで上回る相手にゴール下を支配され85-96と完敗。だが、崖っ淵の2試合目は文字通り、全員でリバウンドに飛び込むボールへの執念で相手を上回ると、ここ一番でビックショットを沈めることで84-78と激闘を制し、ファイナル進出へ逆王手をかけた。

大一番の第3戦、前半は互角の展開を演じた琉球だったが、後半に入ると千葉との総合力の差が出てくる。ボールをシェアし、バランスの取れたオフェンスを展開し続ける千葉に対し、琉球は攻撃の起点であるエバンスが第2戦で肩を負傷して本来の鋭いアタックができないこと。そして、プレータイムを千葉に比べてシェアできない影響も出てきたか、連携がなくなり徐々にオフェンスが単発になってしまう。

「みんなの気持ちは前に出ていましたが、負けパターンである1対1に頼ってしまった。自分たちの流れでバスケットボールができなかったことが、点差が広がっていった要因だと思います」。田代がこう振り返ったように、最後に再びチームの課題が露呈してしまったことで大きく崩れた琉球は71-89で敗れ、琉球のシーズンは終わりを告げた。

前回、2018-19シーズンのチャンピオンシップに続き、またしてもあと1勝と迫りながらファイナルに到達できなかった。

(後半へ続く)

※写真提供:B.LEAGUE

琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンをThrow back (前編)

TEXT by 鈴木 栄一

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