川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンをThrow back (前編)
Bリーグ2020-21シーズン、 天皇杯を制し、Bリーグチャンピオンシップも優勝すると想像したブースターも多いのではないか。そんな、川崎ブレイブサンダースがまさかのBリーグチャンピオンシップ・セミファイナルで敗退した。そんな川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンを、国内外のバスケットボール事情を熟知するライター永塚和志が振り返る。
またも、ブレックスアリーナ宇都宮が鬼門となった。
5月22日、Bリーグチャンピオンシップ・セミファイナル。川崎ブレイブサンダースは宇都宮ブレックスに敗れ、2002-21シーズンを終えた。2年前のチャンピオンシップ・クォーターファイナル。川崎は宇都宮の獰猛なディフェンスの前に痛めつけられ、無残に散った。そして今年。今回はBリーグファイナルへの進出権を賭けたセミファイナルだった。
しかし、結果は2連敗での敗退と、痛いほど残酷だった。
第1戦目。相手にオフェンスリバウンドを25本も取られ、セカンドチャンスからの得点を19点も奪われた。川崎の専売特許かと思われてきた“ビッグラインナップ”に対して、宇都宮も同様の布陣で対抗することで川崎のリズムを崩した。
川崎は68-65と黒星を付けられながらも、接戦には持ち込む粘り強さを見せた。翌日から巻き返せるだろうという期待感は十分にあった。
「もう一回、明日、戦えますから」
主将・篠山竜青の表情や声にも、こちらが思っていた以上に精気があった。
「今日もレベルの高い試合だったと思いますし、ブレアリで明日もう一回、楽しめるのはラッキーだと思ってます」
ところが、翌日の2戦目。ブレイブサンダースの面々は2019年と同様、圧倒される形でシーズンを終えた。
96-78。
再び、屠(ほふ)られた。アウェイチームとして熱狂的なファンのいるブレアリで戦う難しさは今に始まった話ではないものの、ブレックスカラーの黄色に染まった会場とファンからエナジーを得たブレックスの前に、予想以上のハイスコアで敗れ去った。
「今日のゲームに関しては、完敗だと思います」
試合後、川崎・佐藤賢次HCはそう話した。メディアへの対応は勝っても負けても、いつも落ち着いている。声を荒らげることなど、1度として見たことがない。叩きのめされる形で容赦なく長いシーズンに幕が降りても、そこは変わらなかった。
「リバウンドだったり、そういう数字に残らないところ。うちもシーズンを通して言い続けてきましたが相手が上だったと。それがそのまま結果につながってしまいました。ただ選手たちはシーズンを通して、今年作ったコンセプトであるハードワークをしてくれました。苦しい時期もありましたが乗り越えて、1つ1つ作って、強いチームになれました。良いシーズンだったと思います」
良いシーズン、だった。
順風と逆風が交互に吹くようなシーズンを経て、最後には優勝を狙える位置にたどり着いたからこその、思いのこもった「良いシーズン」だった。
開幕当初から調子の上下動が多い1年だった。帰化選手のファジーカスと2m超えの外国籍選手2人を同時にコートに立たせる“ビッグラインナップ”は、終盤にはこのチーム最大の武器とはなったものの、シーズンの前半ではサイズのアドバンテージを生む一方でトランジションを重くしてしまうという課題があった。
昨季、ベストファイブ、ベストディフェンダー、そしてベスト6thマンと“三冠”を受賞し、川崎日本人選手のエース格となりつつあった藤井も、シーズン前半はどこか空回りするところがあった。
ジョーダン・ヒース、マティアス・カルファニ、熊谷尚也らの故障で、メンバーがなかなか十全に揃わないことや、週末の2連戦でなかなか連勝ができないという悩みもあった。
シーズン中盤の12月13日から2月3日の間、5勝8敗と優勝を狙うチームとは到底、呼べないような成績を挙げていた。
しかし歯車は、徐々に噛み合っていった。3月3日、ホーム・とどろきアリーナでの宇都宮戦は「戦える」という感触を得た試合のひとつだったかもしれない。
試合には、58-54で敗れている。ただ、前戦で腰部を痛めたエースのニック・ファジーカスが欠場し、試合途中にはカルファニをやはり負傷で欠いた。その状況で、僅差に持ち込めたことでチームは、シーズン佳境の終盤戦へ向けて明るい材料となった。
「ディフェンスの部分では手ごたえをつかめたところがあります。もちろん、ニックがいない分、得点ができないのでディフェンスでやらないとという気持ちが皆にはあったし、J(ジョーダン・ヒース)もマティもすごくディフェンスの良い選手で、ニックがいないからこそ40分間、質の高いディフェンスができると自負していました。58失点というのはプライドを持っても良いと思うし、負けた試合ですが収穫があったと思います」
試合後の会見。54得点はシーズンを通して最小だったが、個に頼らずともチーム全員の力を結集して強豪と張り合えたことへの手応えから、篠山の言葉は力強かった。
そして、全日本選手権。四強に残っていた川崎は、ファイナルラウンド準決勝でシーホース三河を、そして決勝では宇都宮を下して4シーズンぶりに天皇杯を手にした。
このファイナルラウンドでの戦いぶりは、ブレイブサンダースが新たな境地へ入ったことを感じさせるものだった。それまでは、川崎といえばファジーカスであり、辻直人であり、篠山竜青だった。だがこの2試合、彼らが必ずしも爆発して勝利したわけではなかった。
長らくリーグ最高のスコアラーとして知られてきたファジーカスの得点はそれぞれ、13点と11点と低めだったが、代わりに9アシストと6アシストを記録した。彼にマークが集まるところを逆手に取り、他の選手に得点をさせた。それに応えるだけの選手が増えたと言えるし、シーズン終盤に入ってメンバーたちの呼吸がより阿吽のものとなってきた証左でもあった。
そして川崎は、レギュラーシーズンの最後を7連勝とポストシーズンに勢いをつける形で終えた。
連勝のうち6つは、千葉ジェッツふなばし、宇都宮、サンロッカーズ渋谷と東地区の強豪からだった。宇都宮からの勝利はアウェイのブレアリでのものだった。そのブレアリで、川崎はビッグラインナップの威力を惜しみなく見せつけた。
ファジーカスと外国籍の3選手はいずれも長身ながら起用で、外からシュートが打ててパスもうまい。またディフェンスはミスマッチとなり相手選手が多少小さい選手でも守ることができた。
天皇杯も合わせるとこれで今季、川崎は、最終的にB1トップの勝率を収めた宇都宮に4勝1敗となった。2連勝を飾り、佐藤HCも篠山もビッグラインナップを中心に終始、優位に戦えたと振り返った。
そしてレギュラーシーズン最終2連戦の対渋谷。故障で戦列を離れていたカルファニも前戦から復帰していた。年中、負傷者に悩まされてきたチームはしかし、ここにきて12名すべての面子が戻った状態で、プレイオフへ臨むこととなった。
必ずしも意図していたわけではなかったであろうが、川崎はピークをチャンピオンシップにピタリと合わせてきた。
「今の調子を考えれば、ポストシーズン倒すべきチームは僕らだと思うよ」
CS直前、ファジーカスはそう話した。
“Bリーグ元年”だった2016-17シーズンのファイナルで準優勝に進出して以来の、大きなチャンスが到来した。
一方で、東地区での順位は3位に終わった。2位となればクォーターファイナルをホームでプレイすることができ、リーグ勝率トップの宇都宮との対戦をファイナルまで避けられたが、千葉が9連勝でシーズンを終えて2位を死守した。
このため、冒頭にあるように川崎はセミファイナルで宇都宮と当たることとなってしまった。
(後編へ続く)
- 川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンをThrow back (前編)
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TEXT by Kaz Nagatsuka