3×3日本選手権で感じた次世代の胎動
『第6回3×3日本選手権大会』は女子・XD(宮崎県)、男子・BEEFMAN(高知県)の初優勝で幕を閉じた。しかし、大会を振り返れば男子のトーナメントでALBORADA(茨城県)とWILL(東京都)がベスト4に勝ち上がったことは注目すべきトピックスだろう。いずれも20代前半から中盤の若い選手たちが、3×3のトップシーンを築いてきた先輩たちの山を動かそうとした姿は、次世代の胎動を感じさせてくれた。
力を出し切ったALBORADAが準V
4年前の『第3回3×3 U18日本選手権大会』で優勝経験のあるALBORADAが、今年オープンカテゴリーの日本選手権で決勝のコートに立った。当時の優勝を知る小澤崚(#13)、改田拓哉(#30)を軸に、山本陸(#19)と石渡優成(#24)の4人がついに国内主要大会で4強の壁を破り、3×3日本代表候補の保岡龍斗(#7)や元3×3日本代表の野呂竜比人(#1)らを擁するBEEFMAN(高知県)と対戦。改田が「今回は本当に優勝できると思って挑んだ大会だった」と言えば、小澤も「ずっと練習をしてきて、優勝を狙えると思っていました」と自信を持って臨んだが、最後は14-21で頂点に及ばなかった。それでも平均年齢23歳ながらユース年代から積んできた競技経験を武器に、個々が腕を磨き、チームとしてこれまでの敗戦を糧にしながら取り組んできた成果が、ようやく結実した。準優勝とは言え、胸を張っていいだろう。
彼らはこれまでポテンシャルはありながらも接戦を落とし、リードをしながらも崩れた試合が多かった。昨年1月の『JAPAN TOUR EXTREME FINAL 2019』では予選プールのTOKYO DIME戦で改田がフリースローを決め切れずに逆転負けを喫し、昨秋の『3×3 JAPAN TOUR 2020 EXTREME LIMITED FINAL』でもSolviento Kamakuraに1点差で敗れて、決勝進出を逃していたほどだ。
しかし今大会は違った。確かな成長を見せる。初戦のKARATSU LEOBLACKS(佐賀県)戦、準々決勝のHACHINOHE DIME(青森県)戦に危なげなく勝利し、準決勝のWILL戦でも序盤のリードをふいにして終盤に一時18-17と逆転されたが、小澤による2本のフリースローで再逆転。直後に再び追いつかれるも延長戦で山本、改田が1点ずつを刻んでゲームをクロージングした。フリースローの失投や不用意なファウルをせず、冷静な試合運びからは、優勝の可能性すら感じさせた。改田はこの試合について「2020年のJAPAN TOURから僕らの良くない部分を改善することができました。例えば終盤に競ったときのメンタルの保ち方や、ゲームの入り方です。これに対処して大会に挑むことができました」と明かしている。
ただ、それでも届かなかった初優勝――それでも今大会ばかりは持てる力をチームで出しきった思いが強かったようだ。
「最後に負けてしまったことは悔しいです。でもこのメンバーでここまで来ることができて本当に良かったです。(俺たち)よくやったなという気持ちもあります」(改田)
指導者が語る「みんな、成長しましたね」
また、その気持ちは彼らを長年にわたり指導し、ALBORADAの代表としてクラブを率いてきた中祖嘉人氏も同じだった。選手たちの頑張りを次のように称えた。
「本当にみんな、成長しましたね。改田と最初に出会ったのは小学校4年生だったと思います。小澤は小学校1年生で、石渡は小学校6年生でした。(山本)陸は中学校3年生の時にうちに入ってきたんですよね。もう何年も一緒にやってきました。(決勝で敗れましたが)日本で準優勝です。悔しい気持ちはありますけど、選手たちはよくやったと思います」
ALBORADAの4人は5人制の強豪校でバスケをやってきた、いわゆるエリートキャリアを歩んできた者たちではない。それでも中祖氏が立ち上げた茨城県つくば市を拠点に活動するこのクラブチームで心技体を鍛え、チームとして戦ったからこそ、大きな結果を手にすることができた。平均身長178センチというバスケットボールで圧倒的なハンデも背負ったが、2ポイントをメイクし、ドライブを織り交ぜ、スクリーンからのダイブでイージーな1点を取るなど戦術の共通理解と状況判断はベテランチームと遜色ないほどであり、長い間チームを組んだからこそ披露できた産物である。3×3の本質を体現した彼らが結果を残した意義は大きい。ALBORADAのチーム名が意味するところは“夜明け”。これからさらに日が昇り、3×3の舞台で輝くことを期待したい。
初出場で4強入りしたWILL
一方で、ALBORADAと同世代と言えるWILLも爪痕を残した。昨秋、最激戦区の東京都予選でフルメンバーのTOKYO DIMEを破ったことはフロックでなかったと証明するように、エリア予選を突破し、今大会も初戦でORANGE ARROWS.EXE(三重県)、準々決勝では柏尾耕資(#3)を中心に3×3をやりこむNINJA AIRS(滋賀県)を下して、初出場でベスト4へ進出。準決勝では経験豊富なALBORADAに延長戦で敗れたものの、序盤の劣勢をひっくり返して終盤に一時リードを奪う粘りを見せてくれた。
今大会に向けた始動は昨年11月。木村嗣人(#1)をリーダーに、戸井堅士朗(#2)と川島聖那(#4)、伊森響一郎(#3)が約5ヶ月でチームを作り上げた。180cmの木村は元Bリーガーで、3×3.EXE PREMIERやKOREA 3X3 BASKETBALL LEAGUE(韓国の3×3リーグ)でのプレー経験を合わせ持つ。195cmの戸井は今年3月まで関東大学リーグ2部に所属する法政大学バスケットボール部に所属し、今春卒業したばかり。187cmの川島は4月から同大バスケ部の4年生という現役選手で、3×3のアンダーカテゴリーで日本代表も務めた。186cmの伊森も青山学院大学の出身で関東実業団リーグの日本無線で活動しており、TOKYO DIME撃破の立役者であった。5人制や3人制で実績のあるメンバーが、結束した末に勝ち上がってきたのがWILLなのだ。
試合後、木村は「やっぱり優勝を視野に入れていたので、悔しいという気持ちが正直なところです」と語ったが、初の4強については「コロナ禍であり、学生や社会人もいるという中で練習をすることもままならない時期もありましたが、みんなで協力をして限られた時間で練習を積んできました。ベスト4に残ったことは、一つ大きな意味があったと思っています」と話してくれた。そしてチームとして3×3に取り組むモチベーションをこう明かした。
「3×3をやることは、それだけのパフォーマンスにとどまらず、5対5にもつながると思います。これはチームオーナーともよく話をしていることです。チームには学生たちが多いのですが、彼らは大学を卒業した先もバスケットボールを真剣にやって行く子たちなので、3人制の競技そのものを頑張ることはもちろん、先々も考えて3×3を上手く取り入れながらプレーすることをモチベーションにしています」
そして5人制と3人制の両方をプレーしてきた川島は、3×3をやったメリットを次のように感じている。代表活動に加えて、過去にはSEKAIE.EXEで3×3.EXE PREMIERを転戦した経験もあるだけに、リアルな声だろう。
「3×3は試合展開が速いので、5対5と違って(状況判断のために)すぐに頭を切り替えないといけないですし、なにより頭を使う場面が多いです。3×3のおかげでバスケIQは上がったと感じています」
オーナーが明かす有望選手そろう理由
では、そんな5人制の有望選手が集うWILLはどんな背景を持っているのかも、ここでお伝えしておきたい。オーナーの鄭竜基氏はチーム名と同じ、株式会社ウィルの代表取締役を務め、日本と韓国をバスケットボールでつなぐことを目指して、プロ選手のマネジメントや両国のクラブを橋渡ししている。また3×3ではかつて3×3.EXE PREMIERに参戦し、KOREA 3X3 BASKETBALL LEAGUEにも中村太地(現原州DB PROMY)や角野亮伍(現大阪エヴェッサ)らを率いて挑んだこともあった。鄭氏はチーム編成時のポイントについて「向上心」を持っている選手であることを最も重要し、「3×3によって5対5の成長に生きる原石を持っている」ことを挙げた。また5人制で実績のある選手たちが集まる理由を次のように話した。
「選手たちと出会っている時期が高校時代にさかのぼります。古くからお互いのことを知っているので、僕も自分の家族みたいに思っています。だから(3×3で)怪我をさせることはできないですし、でもその中で最大限できることをやろうとしています。“一緒に強くなろうよ”という言葉がキーワードです。あとは所属先に迷惑をかけることはできないので、基本的な相談やコミュニケーションを欠かさないようにしています。そうすれば選手たちも気持ちよくもっと頑張ることができると思います」
5人制のプロや学生カテゴリーから3×3へ挑戦する人材はかつてより増えたとは言え、まだまだ限られている。所属先にしてみれば怪我のリスクや調子を落とす懸念もある。しかし、WILLのように本人と所属先の信頼が得られることで相手の不安を払拭し、選手の成長に直結すれば、継続的な取り組みになるだろう。鄭氏は「所属先から『プレー(の質)が良くなった』という声もいただいています」とも話している。
今後も3×3が選手の成長を後押し、有望な選手たちが参戦する流れが生まれれば、競技シーンは発展するだろう。川島の場合、アンダーカテゴリーの代表活動で初めて3×3に触れ、プレーを続けてきたことにより上を目指す気持ちも高まった。「やっぱり(代表活動で)日本を背負って戦うこと素晴らしいことだと感じました。それは自分のモチベーションにもつながりますし、将来的には日本代表を目指していきたいです」と目標を掲げている。
また選手と同じように鄭氏もやるからには、結果を残すことにこだわり、上を目指す。「選手たちがバスケットボールをやっていて良かったと感じる瞬間は、一番高い位置に登った時だと思います。ですから、チームをやる以上はそこを目指さないのであれば、選手に対して失礼です。やるからにはてっぺんを狙うマインドを持った選手たちと一緒に挑戦していきたいと考えています」と、チームの姿勢を話してくれた。意欲的な選手とともに、世界に開かれた競技に取り組むWILLは、今後の3×3シーンをチェックするうえで欠かせない存在になりそうだ。
若き胎動が大きくなることを願って
これまで3×3の歴史は落合知也(TOKYO DIME/越谷アルファーズ)を筆頭に先駆者たちが競技シーンを切り開き、東京五輪を目指して小林大祐(UTSUNOMYA BREX/茨城ロボッツ)らBリーガーの参戦が加速。トップシーンでプレーする選手のレベルは上がった。
しかし継続的に活動し、大会を目指してチームを作り上げる次世代の姿は数少ない。5年、10年先を見据えればそれは課題のひとつにも感じられた。そんな中でALBORADAとWILLという次世代が日本選手権で結果を残した。チームが生まれたルーツは異なるが、いずれも山を動かすべく優勝を目指した姿は、今後にきっと何かをもたらしてくれるだろう。ALBORADAの中祖氏も「3×3は経験が大事なスポーツですが、ALBORADAとWILLが勝ち上がってきたことで、これから競技をやり始めようとしている若い人たちに希望を持たせることができたんじゃないでしょうか」と語っている。
若き胎動を感じた2021年春。これからますますそれが大きくなることを楽しみにしたい。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi