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  • 2021.03.13

3.11から10年目を迎えた当事者の思い vol.3 湘南サンズ代表 石田剛規

2021年3月11日、未曽有の災害であった東日本大震災から10年が経つ。この10年の間で被災者やその関係者は前を向き、復興へ多くの方が尽力をされてきた。今回この節目の年にバスケットボール業界の4人へ焦点を当て、その生き方や取り組みについて話を伺った。決して風化させてはいけない東日本大震災の当事者の思いをここへ残したい。vol.3 は東京エクセレンスのヘッドコーチであり、湘南サンズの代表を務める石田剛規氏である(取材日2月17日)。

サンズが生まれるきっかけ
3.11は多くの人にとって生き方を考えるようになった出来事だった。それは被災を直接経験された人だけにとどまらない。

現在、東京エクセレンスでヘッドコーチを務める石田剛規氏もそんな経験をした一人である。当時はbjリーグの2010-11シーズンを戦う千葉ジェッツの選手だったが「震災のタイミングからいろいろなことを考えるようになった」と振り返る。これが今、コーチ業と並行して代表を務める3×3チーム湘南サンズ(以下サンズ)が生まれるきっかけのひとつだったのだ。

「バスケットボールがいつできなくなるか分からない。だったら選手として毎日が最後という思いを持つことに加えて、最後がすぐに来てしまうのであれば、何か自分にできることを増やしたいと考えるようになりました」

そして3年後の2014年にサンズを設立した。ちょうど千葉からNBDLの東京エクセレンスに移籍する時期であり、まだ現役選手が本業のバスケ以外に事業を起こすことが珍しかった時代でもあった。そんな中で設立初年度に開幕した3×3プロリーグ『3×3 PREMIER.EXE』(現3×3.EXE PREMIER)へ参入(※1)。2018年には新たに女子チームを結成し、2020年1月には国内主要大会のひとつ『3×3 Japan Tour FINAL』を制覇して日本一に上り詰めるなど、3×3シーンを代表するチームになった。

「勝つことは大事」でも……
もっともサンズは競技で結果を追い求めるだけではなく、大事にしていることがある。それはスポーツチームとして社会へ自分たちは何ができるのかを考え、積極的に取り組むことである。これはチーム運営のコンセプトであり、それを具現化したひとつが後述する2017年から続く東日本大震災の被災地、福島県南相馬市の子どもたちに対する復興支援活動につながっていく。

石田氏はかねてよりチーム運営において「競技だけでは何か限界が来るのではないか」と感じていたという。もちろんバスケの魅力は誰よりも感じており、結果を求められることも知っていた。しかし、サンズを具現化するには違う要素が必要だった。

「スポーツチームとして勝つことは大事です。だから選手にも目指して欲しいと伝えています。でも『それがすべてでは無いよね』ということも合わせて伝えています。運営側として勝つことが最終目標ではないという表現になるので矛盾する言い方になりますが、競技を通して応援してくださる方へ何を伝えていけるかということも大事です。社会貢献活動も含めて、そういった姿によってファンの皆様へバスケや選手の魅力を伝えることができます。またバスケ畑の外にいる方々にもサンズが地域や社会に対してポジティブなアクションを行っていることが伝わることで、バスケを見てみよう、応援してみようという流れが生まれて欲しいと思って、このようなコンセプトに至りました」

南相馬と歩む4年間の取り組み
チーム結成から3年後の2017年――。石田氏は社会貢献活動の一環で、被災地の福島県南相馬市の子どもたちを湘南へ招待するという企画を実施した。きっかけは同氏がプロ活動をしながら、日本バスケットボール協会のコーチライセンスを取得するため指導者講習会に参加する中で、U12の育成事業に携わる方々と出会い、その縁で南相馬市の指導者たちとつながったことにはじまる。

その頃、南相馬は復興の途上にあったが、まだまだ町が外とつながることは希薄だったという。現場からは子どもたちの世界が狭くなってしまう心配があり、石田氏はプロ活動の合間を縫って南相馬で数回、クリニックを開いた。そして「南相馬のコーチや親御さんから子どもたちの世界をもっと広げていきたいという強い願いを感じました。だったら僕らが行くだけではなく、子どもたちの世界を広げるきっかけを作りたいと思ったんです」と招待企画の構想が浮かんだ。

第1回となる2017年は『湘南サンズと夏休み』と題して、20名の子どもたちを迎えて選手たちとビーチクリーンやマリンスポーツなどのアクティビティを楽しみ、2泊3日の最終日にはサンズが辻堂にあるテラスモール湘南へ3×3 PREMIER.EXEの大会を誘致して、子どもたちの前で公式戦を戦った。石田氏は当時、一連の企画を進めながらユニフォームを着てコートへ立っており、「もうあの時はヘロヘロでした(笑)」とも振り返る。子どもたちも湘南を満喫できたようで、試合会場から福島へ帰路につくバスが出発する際には石田氏ら選手と運営スタッフへ泣きながら手を振っていた光景もあったほどだった。

そして2018年と2019年には再び現地に向かった。前者はアディダスやスーパースポーツゼビオ、南相馬市がサポートし、石田氏に加えてオリンピック陸上のメダリスト塚原直貴氏や、アディダス契約トレーナーでリズミックトレーニングを指導する津田幸保氏によるスポーツ教室を開いた。また後者では泉秀岳(現さいたまブロンコス)や及川啓史(現湘南サンズ女子チームゼネラルマネージャー/TRES SPORT WEAR)らによるバスケットボールクリニックで、子どもたちとボールを追いかける1日を過ごしている。

残念ながら、昨年はコロナ禍でイベント開催の見送りを余儀なくされたが、南相馬の方々と相談をしながら、オンライン上で展開するコンテンツ制作をすることになった。サンズがその時にできる精一杯のこと表現しようという気持ちから、形を変えて続ける判断をしたのだ。

「将来、何か子供たちが生きる上でヒントになり、心に残るようなものを作りたいと思いました。そこで親御さんを通して子どもたちが持っている悩みを大きくても小さくてもいただいて、それを選手たちが一生懸命考えて、映像として発信することにしたんです」

石田氏と選手たちはZOOMでやり取りをしながら、ひとつの質問にそれぞれの視点で答えを出している。気になる方は是非ともサンズのYouTubeチャンネルをチェックして欲しい。“眠いときに練習へ行きたくないときはどうすればいいですか”という質問に対するある選手の回答は、大人が聞いても印象的な内容になっていた。

被災した子どもたちから感じたこと
では、このように形を変えながら5年間やり続けることで、どんな収穫があったのか。石田氏によると、例えば2017年には次のような変化を感じたという。

「南相馬は被災地の中でも津波の被害が大きい地域でした。だから子どもたちを湘南の海へ連れて行くことに対して、いかがなものかという思いがありました。海が嫌いという子どもたちもいたぐらいです。ただ僕たちと一緒にマリンスポーツを体験したり、水族館で遊んだりと、少しずつ一緒に時間を過ごすことで、海が好きになったと言ってくれる子どもたちもいました」

また2018年と2019年には南相馬に行ったことで、改めて被災地と向き合うきっかけになり、継続的な取り組みが欠かせないことも実感した。

「震災のことを思い出しました。町はまだ復興の過程にあるんだなと。だからこそ、それを知った僕たちはやらなくてはいけないと考えるきっかけになりました。また見て感じたことを発信することによって、湘南サンズを応援してくださる方にこの事実を広げていくことにつなげていきたいと思いました」

「震災によって南相馬からスポーツ用品店が撤退してしまったと聞きました。そこで2018年はゼビオ様にご協力いただき、2019年はTRESに勤める及川の協力を得て、クリニック後に商品をたくさん見たり、購入する機会を設けました。そうしたら皆さん、とても喜んでくださって、嬉しかったですね。やり続けたことで必要なことが見えてきて、些細なことでも喜んでいただける。発見が毎年あると実感しましたね」

継続した活動を続けていくために
チームとしての事業規模こそ小さいが、スポーツチームが社会に対して何ができるかを常に意識し、存在意義を考えながら、湘南サンズはこれまで活動を続けてきた。「きっかけを作ることができる。それがスポーツの良さ」と石田氏が語る言葉には説得力がある。

しかし昨今のコロナ禍の影響でサンズは「転換期」にあるという。本来チーム運営は競技活動とスポンサー獲得によって予算を確保する必要がある。ただこの状況で大会開催の見通しは立てにくく、感染対策のため石田氏が行動することも制限される状況が重なって「必要な予算確保がとても難しくなっています。チームを持続させることが厳しい状況」と苦しい胸の内を明かす。

そこで石田氏は昨年より「SHONAN SUNS SOCIETY」を掲げて、難局を乗り切ろうとしている。従来チーム運営は関わるメンバーたちに強いコミットを求めるが、この考え方はそういったものと一線を画す。いつもは別々のチームにいながらも同じ目的意識でお互いがつながり、必要なときに集まって力を合わせ、終わればまた元のところに戻っていく柔軟な関係性である。相互に思いを共有してこそできることなのだ。

「これはサンズが社会貢献活動をする時に集まり協力をしてくれるような、すごく特殊な関係です。僕たちとして何があれば何十年も続けていけるかと考えた時に、チームを立ち上げた当初からあるスポーツが社会に対して何ができるかという取り組みは無くしていけないなと思っています。だからこれを土台にして、何とかチームを継続させていくことが今の状況になります」

なお補足をしておくと、決して競技活動を辞めるという意味ではない。チームの方針に共感して集まってくれる選手がおり、社会貢献活動を通じて企業協賛を得ることができれば、大会出場など選手たちがサンズのユニフォームを着てプレーする機会を最大限サポートしていく方針だという。

社会貢献活動はその言葉だけを見ればやや仰々しいかもしれない。しかしスポーツが社会にある課題や問題を解決するきっかけになることを示しており、継続してこそ意味や効果が強くなる。震災から10年が経った今年、湘南サンズというチームを通して、東日本大震災とその復興に今一度、目を向けていきたい。

※1. 男子チームの参戦は2014年から2017年まで。

3.11から10年目を迎える当事者の思い vol.3 湘南サンズ代表 石田剛規

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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