『F1 Tournament』が3×3シーンにもたらしたこと、現場の声を考えるきっかけに
コロナ禍の3×3新大会が全日程を終えた。昨今の難しい状況の中で、約7か月ぶりにセットされた公式戦は、国内シーンへ何をもたらしたのか。現場で得られた声をもとに、いまの競技を取り巻く環境を紐解き、将来に向けて3×3がどう発展していくのが良いのか。こんなときだからこそ、改めて考えるきっかけにしたい。
選手たちから聞かれた試合ができる喜び
3×3の新大会『F1 Tournament』はSIMONが初のツアーチャンピオンに輝いて、10月24日に幕を閉じた。今回、3×3の公式戦が開催されたことは、じつに今年2月以来のことだった。春先から続く新型コロナウイルス感染症に対して、感染拡大防止のガイドラインに基づいて、FINALを含めて全8大会が実施された。現場の選手たちからは、試合ができる喜びや充実感などポジティブな声が飛び交った。
初Vに貢献したSIMONの川崎ローレンス(#73)は優勝セレモニーを終えて、「本当にこのような状況で、いろいろな工夫をしながら、大会をやっていただいて感謝です。また僕たちは、それに対してプレーでこたえることが必要だと思っていました。でもやっぱり、純粋に楽しかったですね!」と、コートに立てる嬉しさをかみしめた。
そしてレギュラーラウンドでもSolviento Kamakuraの清水隆亮(#24)が「やっぱり日々、目標を持って過ごせるので楽しいですね。結果が出ないと悔しいですけど、それも込みで充実感を感じています。本当にこれは綺麗事ではなく、試合がやれるだけでありがたいです」と話せば、TOKYO DIMEの小松昌弘(#70)も次のように振り返っていた。「やっぱり嬉しいです。試合があるとちょっとですけど、緊張しますね。そういう気持ちも久しぶりでした。だから、それもすごく良かった」
また一時は首都圏への往来自粛が求められた地方でも、徐々に緩和されたことで東京に向かうことができるようなった。SANJO BEATERSの松岡一成(#10)は「9月になって新潟から東京への往来自粛が解除されたことで、ようやく週末に試合ができるようになって、リズムが戻ってきた感覚ですね」と、バスケができる日常が帰ってきたことに、ホッと胸をなでおろしていた。さらにFINALで久しぶりに関東のチームと対戦したNINJA AIRSの柏尾耕資(#3)も「やっぱりテンションは上がりましたね。むちゃくちゃ楽しかったですし、ドキドキしました」とコメント。悔しいの敗戦を経験したが、このときばかりは笑顔を見せてくれた。
寂しかった地方大会、理由はコロナ禍だけか
一方で大会の取材を通して、改めて国内シーンにおける地方の実情が見えてきた。そのきっかけは、参加チーム数の隔たりがあったから。首都圏開催では最初の3大会で8~9チームが集まり、2週間後の4大会目は定員の12チームが埋まった。しかも多数のキャンセル待ちが発生するほどの盛況ぶりだったが、3度あった地方予選は4~6チームに留まった。もちろん、競技人口の違いや、大会そのものの告知が遅かったことも背景にある。さらにコロナ禍の影響も小さくない。地方予選を統括した松岡健太郎氏によると、「九州の場合は、大会に出たいと前向きな選手もいました。でもコロナ禍の影響で、九州から関東まで出るとなると、本業の勤め先が東京出張を控えているため、プライベートでも同様に求められたケースがあったと聞いています」と、いまならでの事情を明かした。
たしかにこういったことは理解できることだ。でも本当にそういった理由だけだろうか。いま3×3のプロチームとして看板を掲げるところは、全国に40チーム以上ある。またアマチュアの活動も含めれば、その数はもっと増えるだろう。「コロナ禍の影響」は十分に認識したうえで本音を言えば、地方大会の状況はちょっと寂しかった……もう少し取材を進めて紐解くと、根本的な理由が2つ見えてきた。
ひとつはチームが掲げる「方向性の違い」である。冷静に考えれば、3×3のプロチームは3つに分けることができるだろう。3×3.EXE PREMIERに所属する顔ぶれを見ると、「①世界を目指すチーム」、「②プロとして地域活性化に取り組むチーム」、「①と②の両方を目指すチーム」に大別される。地方のチームによっては『F1 TOURNAMENT』のように世界を本気で狙う実力派が多数出そろう大会は、活動の趣旨と異なってくる可能性がある。
松岡氏によると「地方の場合、現実的に世界を目指すことを自分ごとにイメージできないチームもある印象です。ですから、実際には地元の行政を巻き込んで3×3のイベントを開くような、草の根で取り組むことに優先順位を高く置いている場合があります」という。競技のトップシーンまで上がらずとも、グラスルーツでの積極的な動きによって、3×3が地域を盛り上げるきっかけとなり、競技人口が増えるのであれば、意義深いことである。ただ、敢えてリクエストを言えば、今後コロナ禍による制限が緩和されたあかつきには、地方からどんどん上を狙うチャレンジをして欲しいところだ。いま日本で3×3の世界レベルを知り、競技の本質を体現するチームたちは関東圏に多い。本物の3×3を経験することは、地元で本物を披露することにつながり、町の人々や競技に触れたことがないボーラーへ魅力をよりリアルに伝える力となるだろう。
じつは主催者も選手も同じことを感じていた
また、もう一つの理由も記しておきたい。これは「悩み」と表現したほうが適切かもしれないが、「リーダーシップ」を取れる人材が不足していることだ。松岡氏は「ありがたいことに九州でいろいろなチームや行政の皆さんから、3×3をやりたいというお話をいただいています。ただ、僕らも体がひとつです……(笑)。どうしても日程が重なることが多いんです」と、どうにもならない実情を教えてくれた。
だから、いまは「地方で自分たちの町を3×3やバスケで盛り上げたいという仲間を探したいです」と、同じ思いを持った人材と出会うことを望んでいる。そして「僕らがリーダーシップを取れる人同士をつないで、連携が取れるようになったら、もっと多くの場所で同時に競技を広めることができると思います」と、その理想像をイメージしている。
さらに選手からも同じような声が聞かれた。NINJA AIRSの柏尾によると、「東京の選手たちって、キャプテンになる人たちがたくさんいるイメージです。でも、関西はそういう選手が少ない気がします。もちろん、バスケが上手い子はたくさんいるのですけど、チームを引っ張る、責任感を持って、裏方も含めてやろうとするヤツが少ないと感ています」
彼自身、2014年ごろから3×3.EXE TOURNAMENTへ積極的に参戦。大会MVPを何度も獲得するなど、関西3×3シーンで黎明期よりプレーを続ける先駆者である。NINJAの中心的な選手となって、今年で3年目。当初は「自分らが楽しめたらいいな」という考えであったというが、「そこから今までやらせてもらって、もうちょっと3×3盛り上がって欲しいな、貢献したいなと思いながらやってきました」と心境の変化があった。
「僕らも関東の選手に比べれば、NINJAをやっているから知っていただくこともありますけど、本当に無名です。だから、それぞれの選手が役割をしっかりと持って、ひとつの共通理解でやっていくことで、良いチームができます。本当にそういうチームが増えて欲しいと思っていますね。上手な選手はたくさんいますが、強いチームに集まってしまいがちです。だから同じところでやるのではなく、自分らでチームを作ってやって欲しいなと感じています」
ゼロからチームを作り上げていくことは苦労の絶えないことであるが、3×3はたった4人しかいない競技。お互いの強みと弱みを理解して、同じ方向を見ながら、良さを引き出し合ってゲームに勝つことは醍醐味である。だからこそ、リーダーシップを取れる存在は重要だ。結果を出す顔ぶれには、そういった選手が必ずいる。柏尾はNINJAを引っ張るとともに、「僕も3×3の良さを伝えていくことを、もっとしないといけないですね。もう33歳になるので、自分が楽しければOKという年齢でもなくなりました」と、いまの立場だからこそできる取り組みを改めて誓った。関西から競技に意欲的なチームが登場することを願いたい。
『F1 Tournament』がもたらしたもの
コロナ禍の『F1 Tournament』は、3×3やバスケットボールを日常へ取り戻すことに貢献し、選手やその先にいるファンにとって「楽しみ」を再びもたらした。そして競技環境の「実情」を改めて知らせる機会にもなった。
前者については選手たちが各大会で語ったことはもちろん、「バスケの現場は楽しいなと感じました。選手たちもみんな、キラキラしていた気がしますね」とオーガナイザーの岡田慧氏も開幕戦で語るほど。そして全日程を終えて、「難しい時期に多くの協力があって、約1カ月半のツアーをすることができました。ありがとうございます。反省するところはありますが、できることは精一杯やることができたと思います。次はもう少し、コロナ禍の制限が緩和されていることを願って、事前告知を含めて、魅力ある大会にしていきたいです」とコメントした。詳細は明かしてくれなかったが、ニコニコしながら今後のツアー実施に向けて含みを持たせてくれた。
後者は地方のリアルが見えてきた。「コロナ禍の影響」だけではない、根っこの部分で違いや悩みがあった。ただ、そこには決してネガティブな思考はなく、当事者たちがどうやったら競技シーンが発展するのか、ポジティブなイメージや思いがある。今季は例年以上に大会が少ないことで、時間は生まれる。競技の本質をとらえて、いま以上に盛り上がる現場、そして次世代がチャレンジしてみたくなる3×3はどういったものになるのか。こんな時だからこそ、全体を俯瞰して、携わる人たちがそれぞれ考えてみてもいいのではないだろうか。
- 『F1 Tournament』が3x3シーンにもたらしたこと、現場の声を考えるきっかけに
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TEXT by Hiroyuki Ohashi