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  • 2020.10.29

3×3を盛り上げるベテランたち、2020シーズンに取り組む心境

男子・TOKYO DIME、女子・XD(クロス・ディー)のツアー初優勝で幕を閉じた『3×3 JAPAN TOUR 2020 Extreme Limited FINAL』。コロナ禍の今シーズン、成長を遂げた若手、実力をつけてきた中堅がいる一方で、そこにはベテランたちの変わらぬ姿もあった。今回、SHOEHURRYの矢野良子(#12)と、TOKYO DIMEの鈴木慶太(#7)に話を訊いた。それぞれ取り組む中身は違えど、“3×3を盛り上げたい”という気持ちは変わらない。

矢野がいまも競技に取り組むワケ
「REXAKTで優勝した2月の日本選手権を最後に、現役を辞めようと思っていました。表彰式で、あーもう引退だなって」――FINALのグループラウンド(10/17)を終えて、SHOEHURRY の矢野良子に取材でこんなコメントをサラッと言われた。でも彼女は、参戦できる今シーズンのJAPAN TOURにフル出場している。「その後、どうしようかと思ったけど、このチームで大会に出る選手を集めたてみたら、メンバーがいない(笑)だから、JAPAN TOURは出ようと、思い直しました」と、コートに立つ経緯の一旦を明かした。

昨シーズンまで彼女はREXAKTまたはBEEFMANの一員として、試合に出場していた。しかし、今シーズンはSHOEHURRYへ活動の場を移した。もともとSHOEHURRY自体は、平将貴氏が代表を務めるバスケットボール選手に特化した育成やマネジメントに取り組む集団である。現在、矢野は彼の協力を仰いで、チームの選手兼オーナーとして競技に携わる。

活動のテーマは、「女子選手たちの場を作る」、「集まる選手を増やして、競技のすそ野を広げていく」。いわゆる普及活動だ。最近は公式戦がない週末に、試合の機会を設けている。FINAL制覇のXDもそこで腕を磨いた。「コロナ禍ですけど、体育館は使用できるようになってきました。JAPAN TOURに来ているメンバーを中心に声をかけて、18人ぐらい集まったこともありました。3時間ずっと、やってましたね。チーム練習はできても、みんな他のチームとゲームをする機会がまだまだ少ない状況なんですよ」。男子よりも3×3の広がりは大きくない。まずは自分が力になれることからはじめた。

もっとも矢野がこれをやるにはワケがある。振り返れば、彼女は2017年に5人制から3人制へ転向。2020年の東京オリンピック(2021年へ延期)に、3×3日本代表として出場を目指すためのことだった。そして当時から女子のプレー環境改善を訴えて、関係者やメディアに積極的にアプローチ。とんねるず・木梨憲武さんのラジオ番組に出演したこともあった。またプレー環境の創出と個人や国別ランキングのポイントを少しでも上積みするため、自ら女子選手のツアー大会・3W(TRIPLE DOUBLE)も主催。できうる活動を最大限してきた。

ただ、この状況だ。コロナ禍で春先から大会が相次いで延期や中止。JAPAN TOURや3×3.EXE PREMIERも実施期間の短縮や、大会形式の変更を行った。また3Wもガイドラインに基づたコロナ対策を考えるとリーグ戦を開くことをは現実的ではないという。いまのままでは女子選手の競技シーンが再び小さくなってしまう、そして3×3をやりはじめた選手が離れてしまう不安があった。だから、このまま退くような中途半端なことはしたくなかった。「私も3×3に足を踏み入れています。だから『引退するので、もうすべて辞めます』ということは、自分の気持ちとして嫌なんですよ。せっかく盛り上がっているのに、コロナ禍で、それがスッと消えています。だから、もう一回やろうよ!と言っている最中ですね」と、いま行動する理由を語った。

女子選手の豊かな3×3シーンを目指して
未来へ向けた“種まき”の時期。改めて、できることからやっていく。「みんな体調管理はやったうえで、集まっています。この状況ですから、参加者が一気に増えることはないでしょうが、続けていくことで、人が人を呼ぶようになると思います。今年はこれまでやってきた子たちに加えて、大学生やW(リーグ)の引退者たちに声をかけています。ただ、引退者はすぐにというより、様子を見計らって、“ねーねーやってみない?”という感じですね(笑)」

ちなみに、いまチームメイトで、元JX-ENEOS(現ENEOS)の山田愛も彼女が声を掛けた。海外志向の山田であるが、コロナ禍でオーストラリアから帰国しているタイミングと重なった。「積極的に来てくれます。愛ちゃん自身も自分が3×3をやれば、他のみんなが見てくれるかもしれないという思いがあります。そういう選手が増えてくるといいですね」と、前のめりな選手はウェルカムだ。そして「彼女のように、W(リーグ)以外の場でも輝ける選手がいれば、そういう姿を見た子どもたちに、3人制もやってみたいと感じてもらえるのではないかと思います」と、3×3がバスケを続けるひとつの選択肢となる将来も願っている。

5人制でオリンピックの舞台を知る女子3人制の先駆者が、3×3を盛り上げるため、競技の未来を作るため、模索が続く。JAPAN TOURも女子選手にとって貴重な機会と感じつつも、「コロナ禍の影響はあると思いますが、FINALに男子と同数の9チームも集まらないこと(1チーム棄権により7チームで開催)は、寂しいじゃないですか。レギュラーラウンドで男子チームは抽選から漏れたところもあります。女子も何年かかるか分からないですけど、そうなって欲しいですね」と話した。いまの取り組みはまだまだ小さいが、彼女の熱意と人を惹きつける力は、きっと豊かな競技シーンが広がる光景に繋がっていく。

K-TAにとってコロナ禍は「結果的にプラス」
一方で、TOKYO DIMEの鈴木慶太は「やっぱり最後まで残って、勝ち名のりを聞けることは素直にうれしいです。最近は2位が続いたので、今日こそは取りこぼさずに優勝まで戦えました」と振り返った。そしてMVPを受賞した気持ちも、コメントに含まれている。彼はこの勲章をもらうたびに「おまけです」が口癖。これには、自分がベストを尽くして、チームが一丸となってやり切った結果、ついてきたものという気持ちが常にあるからだ。

それでもK-TAの愛称で、3×3シーンでは誰もが知るところ。今年39歳。でもストイックに打ち込み、トップレベルのコートでその影響力を持ち続けている。FINALでも劣勢の展開で彼が繋いだドライブや2ポイントシュート、果敢にリバウンドへ飛び込む姿があった。的確な状況判断でアドバンテージを獲った選手を見つけ出す視野も曇りはない。ベテランにとって、コロナ禍の影響は小さくないと思ったが、彼に訊けば「結果的にプラス」だったと明かす。

「じつは去シーズン、3回も怪我をしました。それを抱えながら、ずっとプレーをしていたんですよ。ポイントを取らないといけない、そのためにプロサーキットへ行き続けないといけない。正直言って、コンディションは悪かったです。治っては再発しての繰り返しでした」

思い返せば当時、FIBAは出場大会のグレードに応じて獲得できるポイントに年齢制限を導入。35歳以上の選手(現在は40歳に改定)は一部大会を除いて、獲得ポイントがダウングレードするハンディがあった。K-TAもこれに該当しており、一時は国内ランキングTOP10圏外に。しかしMastersやChallengerといったプロサーキットはハンディの影響を受けないため、再びTOP10を目指すためには、怪我と付き合いながら試合に出続ける必要があった。その結果、最新のランキング(2020年4月1日)では国内4位になっている。無理をして戦い続けたことを考えれば、たしかに「結果的にプラス」と言ったこともうなずける。

「だからコロナ禍は、自分の体を休めたり、怪我で崩れたバランスを調整する期間になりましたね。少しずつ活動ができるようになった夏の終わりごろから、コンディションがどんどん上がってきました」

またコロナ禍と時期を同じくして、自宅にウェイト器具を完備したジムスペースとシュートが打てるミニコートができた。もちろんタイミングは「たまたまです」と笑うが、「家族にお願いして、自宅を設計した段階からジムは組み込んでいました。だから、緊急事態宣言中は、リモートワークだったことも重なって、家でガシガシと筋トレばかりしていましたね」と話す。禍転じて福となすと表現するには言いすぎかもしれないが、生粋のボーラーが活躍し続ける背景にはこのような偶然も続いた。

代表を目指す気持ち、コートに立ち続けるワケ
しかし、トップレベルで競技に打ち込み、国内ランキングはTOP5をキープしているにも関わず、3×3男子日本代表候補からは遠ざかっている。公式発表されたメンバーリストに掲載されないで合宿へ呼ばれたことはあるものの、昨年2月の岡山合宿以降、正式なリストからは外れている。世界最高峰のプロサーキットを転戦した経験やゲームでのパフォーマンスは錆びついていない。延期になった東京オリンピックに向けた代表入りを目指す気持ちについては「現実的に誰を選ぶかは、選ぶ方の選択です」と前置きして次のように話した。

「もちろん代表は目指しています。そして取り組むスタンスも昔と基本的に変わらないですね。自分にできることをやって、いまより上手くなって、結果を出すこと。その先に代表や東京オリンピックがあると思っています。目標や考え方にブレはないですし、そこに集中して練習やトレーニングをやっています」

自分がコントロールできることだけにフォーカスする。それに力を費やして、結果はあとからついてくる。そう言えば、2017年のFIBA 3×3 ASIA CUPでは代表落ちを経験したこともあった。しかし、2018年のFIBA 3×3 ASIA CUPで代表復帰を遂げると、3人制の男子フル代表として初のメダル獲得に貢献。大会ベスト3に選ばれる殊勲の活動だった。だからこそ、いまは目の前の練習、試合をやり切るのみ。彼はラストチャンスが来ることを信じている。

2012年のロシア・ウラジオストクの世界大会からはじまったK-TAの3×3キャリア。8年経ったいまなお、トップレベルで戦う心技体をそろえている。たゆまぬ努力によって、選手として成長曲線を描き続けてきたこその結果である。そんな彼にコートに立ち続けるモチベーションを改めてうかがった。

「いやーでもそれは昔と変わっていないです。(筆者に)言ったと思いますけど、バスケットボールを楽しみたい。上手くなりたい。それだけですね。新しいことにトライして何か得たいし、自分に付け加えられることがないかを考えています。常に変化を生めるように、日々模索です。まだまだ、上手くなりたいんですよ」

はい、K-TAには同じことを答えていただいてます。この質問は彼がMVPを獲った節目で聞いたもの。2017年の第3回日本選手権で優勝したあとにも「やっぱり上手くなりたいという思いしかないです」と語ってくれた。この日もちょっと答えは予想していたのだが、競技シーンで先頭を走り続ける選手のあり方として、今一度、多くの方に知っていただきたくて、これを投げかけてみた。

これからもK-TAはコートでバスケを楽しみ倒す。そして3×3の先駆者として現場を盛り上げるべく、「同じメンバー、同じモチベーション、同じ気持ちと熱意を持って、やり込んだチームが強くなります」という本質をDIMEの仲間たちと体現する。台頭するメンツたちと、切磋琢磨する日々にまだまだ終わりはない。

3x3を盛り上げるベテランたち、2020シーズンに取り組む心境

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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