3×3チームのあり方を考える……持続可能なプロチームとは?
Solviento Kamakuraが2月下旬、チームの解散を発表した。「3x3 SuperCircuit 2023」の予選ラウンドにも出場し、昨年はFINALでベスト4入り。2021年の「第8回3x3日本選手権」や、「3x3 JAPAN TOUR 2020 Extream Limited FINAL」で準優勝するなど、競技シーンでつめ跡を残していただけに、その一報に胸が痛む。そして3x3におけるチーム運営の難しさを改めて感じさせられた。
日本で競技人口が増えた理由
3x3発展の歴史をひも解くと、クロススポーツマーケティングが事務局を務めるプロリーグの「3x3.EXE PREMIER」や、日本バスケットボール協会(JBA)が主催するツアー大会「3x3 JAPAN TOUR」が、大きな役割を果たしてきた。
前者はリーグが参戦チームからシーズンごとに年会費(初年度は別途入会金あり)を徴収するが、興行や選手への出場給支払いなどは基本的にリーグが担う仕組み。チーム側の参入障壁を低くした。とあるチーム関係者によると、2023シーズンの年会費は300万程度だと言う声もある。後者は、大会ごとに出場チームからエントリーフィーを徴収し、大会運営はJBAが行う。年会費のような金額は必要としない。このような背景があるため、チームは自前で興行をしなくても、プレーする場を手にでき、多くの人に見てもらえる機会を得た。それによって国内でチーム数や競技人口を伸ばす追い風になった。
ただし、見方を変えればチームが興行する機会は、ほとんどなかったとも言える。もっとも、競技自体が観光名所や、人通りの多いオープンスペースに出ていき、無料で見てもらうスタイルではじまった。Bリーグのように有料チケットを買ってもらい、アリーナや体育館へ来てもらう文化を作ることが難しかった側面もあるだろう。
また、参戦障壁が低い故に、多くの企業、団体などが3x3に参入。Bリーグであれば、クラブは行政と連携し、活動区域としてホームタウンの設定が求められ(Bリーグ規約22条)、その中で他クラブの活動は原則禁じられている(同23条)が、3x3ではそういった統一的な決まりは明示されていない。市場への新規参入は競技人口を増やす上で好ましいが、新参者が多すぎると、スポンサー獲得や地域連携では難しさも生まれるだろう。
こういったこともあってか、いま、3x3専業のチームは極めて少ない。チームの多くは3x3と別の事業を営む、あるいはスポンサーに支えられるケースが多いと聞く。もちろん、他のプロスポーツに比べて、小さい投資でチームが持てるメリットは大きい。ただ、現実に目を向けると、チーム継続の難しさもうかがえる。例えば、コロナ禍前の2019シーズンにPREMIERへ参戦した国内に本拠地を置くチームの中で、2023シーズンに参戦していないチームは、男子が21チーム、女子が8チームを数える。もちろん、コロナ禍の影響や、プロリーグに参戦せずとも国内で活動できる場が増えるなど、継続を見送る個別事情があるだろう。だが、いずれにしろ、競技シーンにとって、この状況はポジティブではないし、3x3を知らない人は驚くのではないだろうか。
興行へ「チャレンジしたいチームの助けに」
一方で、「3x3 SuperCircuit 2023」(以下SC2023)では、チームが興行する機会を提供して行われた。主催者によって予選ラウンドの興行権が販売され、4チームが購入した。それによって東日本エリアでは、ALPHASを運営するフープインザフッドが埼玉ラウンドを、TOKYO DIMEが東京ラウンドを初めて開催。西日本エリアでは、KYOTO BBが昨年に続き京都ラウンドを実施し、猪崎大介氏が代表を務めるB-LAB.MIYAZAKIが宮崎ラウンドを初開催した。各チームとも無料あるいは有料でチケット制を設けたり、協賛社を集めたりする取り組みが見られた。たった1大会ではあるが、3x3でファンを呼び込み、稼ぐ努力は、興行の確かな一歩と言えるだろう。
SC2023を主催した一人、ちゃん岡こと岡田慧氏は興行へ「チャレンジしたいチームの助けになりたい」と話す。そのため、興行権の販売金額も少額に設定し、会場のスポンサー看板収入やチケット収入はすべて大会を誘致したチームへ入る仕組みにもした。3x3で収益を上げようと努力するチームにとって、この仕組みは大きい。岡田氏は「(興行権の販売)条件は、誘致チームがプラスの収支を立てられるビジョンがあるかどうか。スポンサー収入だけに頼ろうとするチームに(販売の)優先度は高くないです。自分たちでチケッティングやグッズなどお金を生む努力をしているか、お話をうかがってます」と語った。
また、岡田氏とともにSC2023を主催したマツケンこと松岡健太郎氏も、その考えは同じだ。松岡氏は、「3x3WEST」という西日本エリアを中心としたリーグ戦の事務局をサポートする人物でもあり、チーム運営に関する知見に富む。宮崎ラウンドは、猪崎氏の思いに共感して、初開催に向けた準備や運営に伴走した。
「宮崎の猪崎さんは、昔PREMIERにも参戦したMANRAKUというチームの元選手です。その彼が、また地元でトップチームを作って、2023シーズンの3x3WESTに参戦を予定しています。そのため、ホームゲーム開催に力を入れて、地域の子どもたちに対して、3x3をもっと身近に感じてもらい、育成に役立てたいという思いがありました。その意味で、トップレベルの試合を見せられるSuperCircuitと親和性も高く、行政を巻き込んでやりたいという相談もいただいてたので、今回の開催に至りました。女子カテゴリーは出場チームの棄権もあり、チーム数が少ない九州の課題も見えましたが、そこも踏ん張りながら今後も猪崎さんと協力してやっていきたいと思います」
言うまでもないが、大会を開く以上、各チームは「人」「物」「金」をかけている。開催したけど、人が集まらないのでないかという心配も尽きないはずだ。少なからず皆、リスクを背負っているが、大会を開くことで、ファンや地域を盛り上げ、3x3で夢が持てる世界の実現へ近づこうとしている。SuperCircuitは、3x3で自立するための足掛かりになるのだ。
岡田優介氏が語る「成功」と「危機感」
そんな予選ラウンドを誘致したチームのひとつが、TOKYO DIMEだ。オーナーの岡田優介氏によると、東京ラウンドは1日でのべ約450人が会場へ訪れたと言う。
さすがの集客力に思えたが、同氏によると、この結果も「集客努力」あってこそだと明かす。チケット制を導入して早い段階である程度の席は埋まったそうだが、完売を目指してファンやスポンサー、関係者への声掛けはもちろん、過去のイベント開催を踏まえて「販売戦略」も練った。チケットは無料としたが、1,000円のキャンセル料を設定し、開催直前にはチケット保有者にダイレクトメッセージで来場確認。これは、積極的なキャンセル促進策になって、実際に生まれたキャンセルチケットは、すぐにリセールへ回した。加えて、チケットの券種を「キッズクリニック」「男子ゲーム」「女子ゲーム」と3つに細分化もした。
これらの工夫によって、満席だから来場を断念したファンや、男子だけ見たい、女子だけ見たいというファンのニーズも汲み取ることにつながった。常時、会場定員の300人がいる状況が作れたため、岡田氏は概ね「成功」と受け止めている。「ファンの皆さんがわざわざ会場に来てくれることは、3x3だとまだまだ難しいのですが、それを1度、見せられました。TOKYO DIMEにとっても、競技自体にとっても、第一歩ではないかと思います」と語った。
さらに、開催場所である「ひがし健康プラザ」が確保できた背景には、TOKYO DIMEの地道な地域活動がある。2014年に設立されたチームは、2022年6月に渋谷区のスポーツ振興に対する貢献実績やスポーツ分野での功績を評価されて、同区との共同事業を行うパートナーになり、ひがし健康プラザでスクールを運営している。行政との信頼関係構築は一朝一夕ではできないだけに、地域へ根ざした活動と、競技成績を積み重ねてきた結果と言えるだろう。「地域活動は、プロチームとして目指すべき大きな取り組みのひとつ」と岡田氏も強調する。
また、TOKYO DIMEは東京ラウンドを含めて、ここ1年で4回ほど、区内でイベントを開催しているが、その1ヶ月前ほどから、告知のポスターが区内にある多数の町内掲示板へ張り出されるほどになった。同区は他のプロスポーツチームも拠点を置くが、TOKYO DIMEのような露出はほぼ無い。この様子からも、長年にわたる活動の成果が、はっきりと見て取れる。
ただし、岡田氏は「課題」も指摘する。この10年で競技の知名度は高まり、プレーする文化は、少しずつ生まれてきたが、3x3でファンを呼べる取り組みは、競技シーン全体として道半ば。2014年から続く、チームオーナーの言葉はしっかりと受け止めたい。
「チームが発展していくためには当然、興行が必要になると思います。スポンサー収入に頼る運営や、本業で稼いだお金を使った運営では、チーム運営は安定的に続かないでしょう。だから、原理原則にも立ち返ることが必要です。チームのファンになっていただいて、その規模を伸ばしていく。たくさん人が呼べるチームに対して、スポンサーや、価値もつくし、グッズも売れます。ただ、それを10年やってきましたけど、チームとしてそんなに良いものが見えてこない。DIMEがそういう取り組みをしてもっと業界を引っ張っていきたいですし、やらないと、ずっとこのままな感じが続く危機感を覚えています」
もちろん、すべての3x3チームが、TOKYO DIMEのような運営を目指す必要はないだろう。ただ、多くの3x3チームが「〇〇から世界へ」とスローガンを掲げる。〇〇は、自らのホームタウンであることがほとんど。TOKYO DIMEで言えば「シブヤから世界へ」だ。日本を飛び出し、活躍を誓ってチームを立ち上げたならば、3x3でファンを呼び込み、収益をあげて、地元からも信頼される。そんなチームが3x3“プロ”チームとして持続可能な姿のひとつになるのではないだろうか。
日本で節目となる10シーズン目へ
3x3の世界的な初披露は、2010年にシンガポールで開催されたユースオリンピック。日本では2014年のPREMIER開幕が、その本格的な始まりと言っていい。ハーフコートが敷ければ、どこでもできるバスケットボールは、観戦無料のスタイルで全国的に広がった。チームを作るハードルも、他競技に比べれば低く、初の正式種目で迎えた東京オリンピックも普及や認知向上の後押しになった。
そんな3x3も今年、日本で10シーズン目。岡田優介氏の言葉を借りれば、これからは「原理原則」に乗っ取り、3x3もプロスポーツとして、各チームが興行の意識を持ち、ファンを呼び込み、より一層自走する姿を目指してもいいのではないだろうか。繰り返しになるが、すべてのチームがそうなる必要はない。だが、持続的な運営によって世界を目指すチーム、また3x3が夢のあるプロスポーツとしてポジショニングされることを望むならば、これまで未着手の手段も考えたらどうだろう。ちなみに、TOKYO DIMEの中期的な目標は、自主興行で約1,000人の集客。東京ラウンドを思い起こすと、決して夢物語では無い。
また、チームが興行をすれば、選手たちにとっては、それがホームゲームになる。支えてくれるファンやスポンサー、チームスタッフの前で負けるわけにはいかない。プロとして責任感をより強く持つはずだ。岡田氏も、東京ラウンドで予選敗退に終わったTOKYO DIMEの男子選手たちに、改めて心構えを指摘。若手選手が多く入った状況もあって、久々に「誰かのためにプレーすることを考えてくれなければ、DIMEでプレーする意味がない」と伝えて、自覚を促したそうだ。
今春から始まる新シーズンは、日本で節目のシーズンになる。しかも、今年はコロナ禍による制限もほぼ無くなる状況も見えており、来年2024年にはパリオリンピックも控えている。1年後、5年後、10年後と、先々を見据えて、チームが活動するには格好の条件がそろってきた。さらに発展する競技シーンにできるかどうか。その行く末は、全国にいるプロチーム、選手たちの手腕にかかっているんじゃないだろうか。