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  • 2023.03.03

ALPHASが再び3×3の世界戦へ――24歳の小澤崚と35歳の落合知也、新シーズンへの誓い

ALPHASが「3x3 SuperCircuit 2023 FINAL」を制して、再び世界戦への道を切り開いた。昨春始動したチームは、国際大会を転戦して1年目でクラブ世界29位に食い込んだが、国内では目の前にUTSUNOMIYA BREXが立ちはだかった。そんな壁を破る立役者になった24歳の小澤崚と、チームを支えた35歳の落合知也。競技シーンの若手、ベテランは今大会にどんな思いで挑み、新シーズンへ何を誓ったのか――

世界へ挑むも、国内ではBREXの壁に
 ALPHASはB2・越谷アルファーズの3x3チームとして昨春始動した。5人制キャリアの多くをアルファーズで過ごし、3人制ではTOKYO DIMEなどに所属した競技シーンのパイオニア・落合知也(#91/195cm)を中心に、3x3国別ランキング1位のセルビアよりMarko Milakovic(♯16/197cm)やTeodor Atanasov(#21/205cm)が加入。国内大会はもとより、保岡龍斗(秋田ノーザンハピネッツ)や大友隆太郎(ベルテックス静岡)らBリーガーを迎えて国際大会も転戦し、クラブチームの世界ランキングで29位(2/22時点)に食い込んだ。

 しかし、国内ではUTSUNOMIYA BREXに勝てなかった。同ランキングで18位につける強豪は、ALPHASにとって常に壁だった。チームの初陣となった昨年5月の「3x3 JAPAN TOUR EXTREME Round.4」決勝にて18-21で敗れ、同9月の「3x3.EXE PREMIER PLAYOFFS」では準決勝で15-16の惜敗。同11月の「3x3 JAPAN TOUR FINAL」準々決勝では5-21の完敗を喫した。

 そのためか、世界を見据えつつも、まずは“打倒UTSUNOMIYA BREX”の意識がクラブとしてうかがえた。昨年12月「3x3 SuperCircuit 2023」(以下SC2023)の埼玉ラウンドを制した際に、運営会社の代表を務める浅井英明氏は「宇都宮さんの方が上にいます。今年、倒したかったんですけど、力及ばずでした。宇都宮さんを目指しながら、世界1位を狙っていきたい」と、話していた。

優勝の立役者・小澤崚…FINALにかけた思い
 2月5日、ALPHASはその壁を「3x3 SuperCircuit 2023 FINAL」で遂に破った。UTSUNOMIYA BREXとの決勝は終盤までもつれたが、21-19のKO勝ち。5人制のアルファーズでBリーグのレギュラーシーズンを戦う中、4ヶ月ぶりに合流した落合と、この一戦のためだけにセルビアから再来日したAtanasovがチームを支え、若手が躍動した。先の埼玉ラウンドで活躍した20歳の大学生・田中晴瑛(#17/178cm)に加えて、24歳の小澤崚(#16/178cm)が大きな力に。優勝の立役者になった。得意の2Pシュートで流れを引き寄せ、相手の強烈なプレッシャーにも打ち勝って、初優勝を引き寄せる決勝点も決め切った。

 そんな小澤が活躍した背景には、ALPHASの一員として昨年3度出場した世界最高峰の経験が大きい。クラブ世界No.1を決めるツアー大会「FIBA 3x3 World Tour Masters」と、その予選大会「FIBA 3x3 Challenger」を総称した“プロサーキット”と呼ばれる舞台は、24歳に「自信」をもたらした。強度の高い試合で揉まれたことで「落ち着いて周りが見えたり、パスが楽にさばけるようになった」と言う。

 また、小澤は今大会で負けられない理由もあった。実は、小澤の所属元はALPHASではなく、茨城県つくば市にあるTSUKUBA ALBORADAであり、SC2023の予選ラウンドもこのチームで挑んでいた。そのため、ALPHASでのFINAL出場に驚いた方も少なくないだろう。もちろん、予選ラウンドとFINALで選手の入れ替えは規定上認められているが、その舞台裏を聞けば、彼の並々ならぬ思いも見えてきた。

「この大会が始まる前に自分が所属するALBORADAと、(契約先の)ALPHAS、僕の三者でミーティングがありました。中祖(嘉人)代表からはALBORADAで、落合さんからはALPHASで一緒に戦って欲しいと(話がありました)。その中で僕の出場に関して折り合いがつきました。だから、ALBORADAのみんなには本当に申し訳ないけど、ALPHASでFINALに出させてもらったので、“覚悟”を持ってやらなければいけないと、この2週間ずっと思っていました。負けたらどちらにも顔が立たないし、僕の居場所がなくなる。きょうは結果を残せてほっとしています」

大黒柱・落合知也が抱えていた「悩み」
 所属元になるALBORADAの理解と、落合のオファーで実現した小澤のALPHAS出場。これは想像だが、中祖氏にとって苦渋の決断だっただろう。小学生の頃からコーチとして彼の成長を支え、国際大会でも戦える選手となってきただけに、ALBORADAで世界への挑戦権を目指したかったはず。ただ、落合も昨年、小澤が変化する様を目の当たりにして、その力を必要とした。「昨年、プロサーキットのシーズンで小澤が毎試合、成長していく姿を間近で見ていました。(昨年10月の)3x3 U-23 ワールドカップでも自信を持ってやれているし、本当にいま、彼のキャリアの中でベストのコンディションだし、結果もついてきていると思う」と、24歳の進化を高く買う。

 そのため、SC2023のFINALで見せた小澤の活躍も、戦前から練られたものだった。一番、チームが勝つ方法を考えた末に、小澤、さらには田中の若手にボールを集める作戦だったという。自らとAtanasovは、その2人の裏方に徹した。「俺らはスクリーンをかけたり、ダイブしたり、泥臭い部分をやろうというのはもう明確になっていた」と、落合は話す。

 もっとも、当の大黒柱は今大会の出場にあたって「不安」もあり、「悩み」を抱えていた。「不安」で言えば、FINALが4ヶ月ぶりの3x3実戦。1週間前から5人制と3人制の練習を並行して取り組んでいたため、コンディションもタフだったと言う。それでも、コートに立てば「スイッチ」が入ったそうだ。5人制のアルファーズへ加入してから始まったプロキャリアは現在、10シーズン目。もっと言えば5人制と3人制を行き来するシーズンも、10年近くを数える。「自分のキャリアは本当にちゃんと積み上がっているんだと(改めて)思いました。コートに立てばすぐ3x3のスイッチを入れられたし、ゲーム中の判断も瞬時にできたので、非常に良かった」と、落合は振り返る。

 また、「悩み」で言えば、彼は5人制のアルファーズで今シーズンのキャプテンを務める立場。しかも、チームはB1昇格を目指して強力なチーム編成を行い、東地区で首位を争う。そんな状況に「なかなか抜けづらいのが、正直な気持ちです」と、落合は明かした。ただ「同時にアルファーズの3x3でもあります」と切り出し、こう続けた。

「田中、小澤、テオドールといった普段から一緒に頑張ってる仲間の分も、自分が出て頑張らなくちゃいけない思いもあります。体が二つあればいいんですけどね(笑)。どちらかを取るのはなかなか難しいのですが、チャレンジをさせてくれるクラブに本当に感謝してます。あと、Challengerへの出場権獲得が一番の目標でしたが、個人的にはここ数試合、5人制であまりプレータイムがもらえていませんでした。表現は難しいのですが、3x3をきっかけに自分の自信やコンディションを取り戻したい気持ちもありました。そういった意味も含めて、今日は絶対に勝ちたかったです」

「序章に過ぎない」…ベテラン、若手の決意
 ALPHASは今大会の制覇によって、2023シーズンに開催される「FIBA 3x3 Challenger」の出場権を獲得した。出場大会はこれから決まるものの、再び世界挑戦の幕が上がる。UTSUNOMIYA BREXに今回は勝ったものの、落合に言わせれば「序章に過ぎない」という。先を走る世界18位にリスペクトをこめて「これからプロサーキットで戦う試合があるかもしれません。お互い切磋琢磨して、日本を代表するクラブになりたいです。本当に僕は勝手にライバルだと思ってますし、一緒に高め合っていきたいと思います」と、落合は語った。

 そして、彼はまた春からの新シーズンを「勝負の年」と位置付ける。ベテランの域に入ったが、3x3日本代表として、2024年のパリオリンピック出場は落合の大きな目標だ。ALPHASが出場するプロサーキットで結果を残せば、選手が獲得できるFIBAポイントも大きく、個人ランキング、さらには日本の世界ランキングを上げる力にもなる。落合は、今年6月で36歳を迎えるが、その挑戦する気持ちに一切の衰えはない。

「Bリーグと(3x3を)並行していくシーズンは非常に難しいですが、5人制と3人制を両立しながらチャレンジしたいと思います。ずっと言ってますが、自分がそういう姿を見せることで、他の(Bリーグ)クラブで5人制と3x3を両立させたい選手にも刺激を与えられると思います。どちらもちゃんとプレーできる選手を、日本のリーグで証明していきたい。こういうチャレンジは大好きだし、やりがいを感じています。(今後)3x3日本代表の選考会があると思うので、本当にここから大忙しのシーズンがまた始まります。いま、それを楽しみに待ってる自分がいますね」

 また、ベテランと同じく、小澤も新シーズンを楽しみにしている。昨年、ALPHASでつかんだ自信を胸に、今年はA代表として、3x3日本代表入りを狙う。昨年はU23代表を務めており、競技を始めた頃から夢見たステージまで、あと少しだ。本人も「パリ五輪を目指してやっていきたい。手が届く位置にいる1人だと思うので、チャンスは絶対にあると思います。あとは、それをつかめるように頑張りたい」と、決意を誓った。

 世界ランキング29位から始まる2023シーズン。ALPHASはどこまで躍進を遂げるのか。日本を代表するチーム、そして選手になるためのチャレンジが、もう間もなく始まる。

【大会公式SNS】

・Instagram @3x3_super_circuit



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