ZOOSプロジェクト始動……日独混合3×3チームで世界最高峰へ挑む
今年はじめ、3×3シーンでお馴染みの桂葵が“リーマン”ボーラーを卒業。起業し、各方面のプロフェッショナルとともに、“ZOOS”(ズーズ)プロジェクトを始動させた。その第一弾は、3×3世界最高峰のツアー大会に日独混合チームで参戦する、今までに無い取り組み。どういった思いを込め、苦労を乗り越えて、スタートラインまでこぎつけたのか。
ZOOS(ズーズ)とは
女性を取り巻くスポーツの環境をリデザインしていくプロジェクト、 “ZOOS”(ズーズ)が始動した。発起人は、3×3シーンでお馴染みの女子ボーラーである桂葵だ。新卒入社した大手総合商社を退職し、プロジェクトを推進するZOOS合同会社を今年4月に起業。代表も務めている。今までの環境に一石を投じるべく、仲間を募って、一歩を踏み出したのだ。
プロジェクトの第一弾として「FIBA 3×3 Women’s Series」に参戦する。これは、女子の3x3世界No.1を決めるツアー大会。5月からはじまった今シーズンは世界11都市で大会が行われ、成績上位8チームが9月のファイナルに駒を進める。ZOOSは、ドイツのデュッセルドルフにある3×3プロクラブ、3x3Düsseldorfとパートナーシップを組み、日独混合の“Düsseldorf ZOOS”として挑む。
そして、プロジェクトの構想は競技バスケにとどまらない。ライフスタイルとしてカジュアルにバスケを楽しめるガールズバスケコミュニティの運営から、女子バスケ選手のプロデュースやマネジメント、ZOOSのブランドメッセージを届けるようなプロダクト作りまで、女子バスケのコミュニティを起点に様々な企画・事業を行う計画を持つ。
また、一連のプロジェクトには各方面のプロフェッショナルも集まった。FIBA(国際バスケットボール連盟)やドイツバスケットボール協会との調整や折衝、チームマネージャーを務めるのは、安田美希子氏。競技シーンを支えてきたパイオニアの一人だ。2014年に開幕したプロリーグ、3×3.EXE PREMIERの立ち上げや成長をリードし、その後、東京2020組織委員会3×3バスケットボール種別マネージャーを務めた。ドイツ側の受け入れはEmre Atsür氏が担う。彼は3x3Düsseldorfのゼネラルマネジャー兼コーチなどを務めるエキスパートで、今年6月に開催された3×3のドイツ選手権では男女ともに優勝を飾った実績を持つ。ローカルマネジャーとして、デュッセルドルフにおけるZOOSの活動をバックアップする。
さらに、アートディレクターには自身もバスケ経験があるMQ氏を迎えた。グラフィックデザイナーとして活躍し、NBAワシントンウィザーズ公認スーパーファンとして、数々のイラストを描いてきた。本プロジェクトでは、ZOOSのロゴなどクリエイティブを手掛けている。桂は「スポーツとアート・デザインをつなげてくれる架け橋のような存在が、このプロジェクトでは不可欠」と、MQ氏について語った。
Düsseldorf ZOOS結成の苦労
一方で、チーム結成に至るまで苦労もあった。「私たちは3×3に対して何がしたいのか、どういう世界観を実現していきたいのか。この思いをプロジェクトに落とし込むことが大変でした」と桂は明かす。プロジェクトには当初から桂に加え、国内の所属先であるBEEFMANでチームメイトの前田有香も深く携わり、3x3選手としてのキャリア構築や、世界挑戦の仕方を模索し、ZOOSが「ひとつの事例」となることを目指した。ただ、こういった思いを抱きつつも、いざそれを形にしようと動いてみると、一筋ではいかなかった。
そもそも、3×3は2010年のユースオリンピック シンガポール大会でお披露目された歴史の浅い競技である。男子はクラブチーム世界No.1を決めるツアー大会「FIBA 3×3 World Tour」が2012年から始まり、日本からも黎明期より落合知也を筆頭に多くの選手たちが参戦。プロアマ問わず、国内大会を勝ち抜くことで、世界への道を自力で切り開いた。ただ、女子にはそのような舞台がほとんど無かった。主な大会と言えば国別対抗戦となるW杯と、大陸別に行われるカップ戦。ナショナルチームに選ばれる必要があり、2019年にはじまったWomen’s Seriesも、2021シーズンまではナショナルチームに限った参戦規定だったため、女子選手が世界へ挑戦するルートは限られていた。
ところが、今シーズンよりWomen’s Seriesの規定がアップデートされ、従来のナショナルチーム(以下フェデレーションチーム)の参戦に加えて、 少数のクラブチームにも門戸が開かれた。FIBAはコマーシャルチームという新たな参戦枠を設け、商業利用を可能とすることで女子3×3選手、チームのプロ化を促す取り組みをはじめた。Düsseldorf ZOOSは、この新参加枠として、日本のEXEWING、モンゴルのUlaanbaatar Amazonsに続く3チーム目として参戦に至ったのだ。
ただ、参加枠が広がったものの、チーム編成には悩んだ。Women’s Seriesは規定上、フェデレーションチームとコマーシャルチームで選手の兼務ができない。また、フェデレーションチームはロスター枠に上限がないものの、コマーシャルチームは最大6名とされ、選手登録を一度すると、同一シーズンはチームの変更ができない規定とされた。桂は当初「日本人選手6名で(世界に)チャレンジ」を検討したが、仲間に迎える選手のことを考えると二の足を踏んだという。
「例えば私たちがWリーグの選手たちをチームに迎えると、その選手が(3×3日本代表として)フェデレーションチームから出るチャンスを奪ってしまう可能性があるのではないか。それは選手たちにとって、幸せなことなのかと考えました。チームを作るにあたり、私たちが目指したいところ、私たちが巻き込んでいきたい人たち、3×3の世界観がこうなれば良いなというところを、形にするまで時間がかかりました」
それでも、そうした悩みを解決する上で、キーマンになったのが安田氏であった。桂、前田の思いに強く共感し、Women’s Seriesの参戦について、同氏を通じてFIBAへ相談。その結果、ドイツとつながり、Düsseldorf ZOOSの結成へ話が進んだ。ロスターは日独混合の5人。桂と前田の2人に、3×3ドイツ代表のJennifer Crowder、Ama Lemonie Owusua Degbeon、Emma Lina Stachの3人を迎えた布陣である。桂によると、同国代表は現在12名ほど代表メンバーがピックアップされており、そのうち3名がDüsseldorf ZOOSに派遣されたという。現在、ドイツは女子の世界ランク1位(7月25日時点)。6月のW杯では9位(20チーム中)に終わったが、昨秋のヨーロッパカップでは準優勝し、昨年のWomen’s SeriesではFinalで優勝を飾った。Crowderはその一員でもあったのだ。2024年のパリオリンピックに向けて代表強化の進むドイツとタッグを組めることは、非常に意義のある取り組みである。
ユニークなチーム背景にFIBAも注目
また、Düsseldorf ZOOSはFIBAからも注目されているようだ。ZOOSのプレスリリースではFIBAで3×3を統括するアレックス・サンチェス氏(3×3マネージングディレクター)より、「Düsseldorf ZOOSの設立は、FIBA 3×3 Women’s Seriesの発展にとって素晴らしいニュースです。今回の取り組みにより、さらに多くの才能あふれる女性たちが世界の舞台で輝くチャンスが与えられるでしょう。これはFIBAの3つの戦略の1つである “バスケットボールにおける女性の発展” にも繋がると信じています」とコメントが寄せられている。
さらに、安田氏も「我々の参戦については(FIBAから)すごく協力的かつ本当に歓迎をいただいています」と明かした。この背景には、Düsseldorf ZOOSが先行して参戦しているコマーシャルチームとまた違ったチームカラーであることが大きい。安田氏はこうも語った。
「我々は実現したい世界観、叶えていきたいミッションを軸に今回ドイツとコラボレーションする形になりました。そのため、FIBAには取り組みの内容が面白いと受け止めていただいています。3×3は競技発展の歴史を振り返っても、型にはまらない新しい要素を盛り込んでチームが革新的な取り組みをしています。その期待感や可能性を、我々のチームには感じていただいています」
すでに参戦している日本のEXEWINGは、3×3.EXE PREMIERを主催するゼビオグループ傘下のクロススポーツマーケティングと、WNBAシアトルストームを運営し、アメリカの女子3×3チームの草分け、Force10を設立したForce 10 Sports Managementがタッグを組んで実現したチーム。モンゴルのUlaanbaatar Amazonsは、同国代表チームをサポートするMongolian Mining Corporationがメインスポンサーとなり、同国バスケットボール協会の直轄チームのような背景がある。
この2チームに対して、大手資本や協会とは別軸で、スタートアップチームとして活動するユニークさが、Düsseldorf ZOOSにはある。それぞれのコマーシャルチームがWomen’s Seriesへインパクトを与えたぶんだけ、女子カテゴリーの成長につながっていくことは間違いないだろう。
7月29日にいよいよ初戦を迎える
Düsseldorf ZOOSの初戦は、今週7月29日、30日。チェコのプラハで開催されるWomen’s Seriesからとなる。既に桂と前田は渡独してデュッセルドルフを拠点に、ドイツ人選手3人と活動中。海外転戦に向けて桂とともに挑む前田も、意気込みを次のように語っている。
「3×3専門の選手としてWomen’s Seriesに参戦できることはとても嬉しく思います。始めた当初から海外転戦を思い描いており、クラブチームとして世界で戦っている男子チームを見てきて、憧れや魅力を感じていて、3×3をやっていく上では目指したい場所でした」
「今回、Düsseldorf ZOOSとしてWomen’s Seriesへ参戦できるとなったため、挑戦をしたい気持ちが自分の中でありました。また、国内の所属先であるBEEFMANのチームオーナーに相談をして一番にご理解いただいた上で参加ができる背景もあります。国内外で3×3ができる環境は本当にありがたいです。葵が中心になって様々なプロフェッショナルな方々や、ドイツの選手の一緒に作り上げていくプロジェクトに携われて、本当に感謝しています」
スタートラインに立った、前例なきプロジェクト。今後も紆余曲折あるかもしれないが、それを含めて挑戦を楽しみ、ミッションを体現する活躍ぷりに期待していきたい。
●FIBA 3×3 Women’s Series Prague Stop 2022 LIVE配信 (英語/リンクは外部サイト)
大会日程 DAY1 29日(金) 予選Pool
(日本時間)
19:50 Spain vs Düsseldorf ZOOS (GER) | Pool A
21:40 Düsseldorf ZOOS (GER) vs Italy | Pool A
予選Pool突破の場合は、30日(土)のDAY2に決勝トーナメントに進出。LIVE配信先はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=lpPNh4jIv8U
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
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FIBA 3x3 Women's Series Prague Stop 2022 大会詳細 (英語/リンクは外部サイト)