日本生命B.LEAGUE FINALS 2021-22 REPORT
宇都宮ブレックスが昨シーズンの悔しさを胸にワイルドカードから日本生命B.LEAGUE FINALS 2021-22を見事に制し幕を閉じた。そんな日本生命B.LEAGUE FINALS 2021-22を様々なバスケットボールメディアに寄稿する吉川哲彦氏が振り返る。
Bリーグ初代王者の栄誉に浴しながら、その後は頂点に立つことができず、昨シーズン訪れたチャンスもものにすることができなかった宇都宮ブレックス。安齋竜三ヘッドコーチ就任後は選手の入れ替えを最小限に抑える“継続路線”で強豪の地位を保っていたが、長く中軸を担ってきたジェフ・ギブスとライアン・ロシターが昨シーズン限りでチームを去った。ファンの中には、今シーズンは難しいシーズンになると想像していた人も少なくないだろう。昨シーズンに関しては「絶対に優勝しないといけないと思っていた」という安齋HCも、今シーズンはチームを「チャレンジャー」と位置づけた。
事実、レギュラーシーズンは東地区4位にとどまり、チャンピオンシップ進出順位は全体の7番目にあたるワイルドカード1位。2018―19シーズンに同じワイルドカード1位から優勝まで駆け上がったアルバルク東京の例があるとはいえ、立ちはだかる相手が強敵揃いであることも確かだった。
しかし、フタを開けてみると宇都宮の戦いぶりは見事だった。昨シーズンのファイナルで苦杯をなめた千葉ジェッツとクォーターファイナルで激突するといういきなりの難関を荒谷裕秀、テーブス海という若手の躍動で突破。続くセミファイナルも、レギュラーシーズンの1試合平均得点が2ケタに届かなかったチェイス・フィーラーが2試合で計30得点を叩き出し、天皇杯との2冠がかかった川崎ブレイブサンダースを連破してみせた。何よりエースの比江島慎がCSに入ってギアが一段上がり、チーム全体も自信をみなぎらせてファイナルの舞台に舞い戻ってきた印象があった。
対する琉球ゴールデンキングスには西地区から初のファイナル進出、bjリーグ出身クラブ(NBLに転籍した千葉を除く)としても初のファイナル進出という形容詞がついた。さらにいえば宇都宮・川崎・A東京・千葉以外のファイナル進出も初であり、この時点で琉球がリーグの歴史に一つ足跡を残したことは間違いない。
ただ、bjリーグ最多の優勝4度を誇った琉球としては、このファイナルはやっとの思いでたどり着いた舞台ということも言えるだろう。Bリーグ初年度からCSに出場し続け、その後は毎年のように日本代表クラスの選手を補強。それでも、あと一歩のところでセミファイナルの壁に阻まれてきた。
その壁を打ち破るべく、今シーズンは琉球を2度bjリーグ優勝に導いた桶谷大HCが復帰。コロナ禍や相次ぐケガ人に悩まされたにもかかわらず、破竹の快進撃で西地区5連覇を果たし、リーグ全体のトップで乗り込んだCSも秋田ノーザンハピネッツと島根スサノオマジックをいずれも連勝で退けた。ファイナル進出を決めた島根との第2戦は、ドウェイン・エバンスのブザービーターで琉球ブースターの歓喜が爆発。劇的勝利の興奮も追い風になり、ようやく到達したファイナルの舞台にかける意気込みは相当に強かったはずだ。
Bリーグ以前も含めると過去に複数回のリーグ優勝経験を持つ強豪ではあるが、かたや宇都宮はBリーグ初年度の優勝以降はCSに出場してもファイナルに届かず、ようやくその舞台に戻った昨シーズンは第3戦までもつれながら頂点を極めることはできなかった。そして、bjリーグラストシーズンを制してBリーグに乗り込んできた琉球は、その厚い壁に5シーズンも跳ね返されてきた末の初ファイナル。悲願成就への想いがぶつかるこのファイナルが、白熱した戦いになることは疑いようもなかった。
5月28日の第1戦、第1クォーターから両者の勝利にかける熱は激しくぶつかった。宇都宮はジョシュ・スコットやアイザック・フォトゥがペイントエリアを襲うが、琉球もエバンスが果敢にアタックし、ジャック・クーリーがリバウンドに体を張る。一進一退の攻防で第1クォーターは19-18、第2クォーターは16-20と相譲らず、35-38と宇都宮3点リードで折り返す。第3クォーターは残り4分21秒の今村佳太の3ポイントで一歩前に出た琉球が56-54とリードを奪い返し、試合はますます熱を帯びる気配が漂った。
その展開を一変させたのは比江島だ。残り9分4秒にバスケットカウントを奪った比江島は、残り6分19秒にも再びバスケットカウント。これは、宇都宮のディフェンスに戸惑って得点が止まった琉球が、コー・フリッピンのスティールからのダンクでようやくクォーター初得点を挙げ、攻勢に転じようとしたその直後に飛び出した。相手の勢いを断ち切るには、この上ないタイミングだった。反撃の芽を摘まれた琉球は結局第4クォーターに5得点しか奪えず、比江島やスコットが得点を重ねた宇都宮が61-80で大事な初戦を取った。
この試合でもう1つ勝負の分かれ目を挙げるとすれば、それは3ポイントだったかもしれない。琉球はレギュラーシーズンでリーグ5位の36.5%という成功率を残したが、この試合は24本の試投で成功は4本止まり。前述した第3クォーターの今村の後は、10本放って全て外してしまった。
一方の宇都宮も成功は4本にとどまったが、全て前半に記録したもの。試投数も13本と少なく、第4クォーター開始31秒のチェイス・フィーラー以降はただの1本も3ポイントを打たなかった。力強くアタックする意識で、宇都宮は琉球を上回っていたということなのだろう。
そして迎えた第2戦も、先にアドバンテージを得たのは宇都宮だった。琉球の初得点は第1クォーター残り6分43秒まで待たねばならず、その間に宇都宮は9得点。第1クォーターはこのまま12-21と宇都宮が先行し、第2クォーターを終えた時点でも30-38と宇都宮の優位は変わらず。立ち上がりでの差が、琉球に重くのしかかっていくことになる。
雲行きが変わり始めたのは第3クォーター。一旦2点差まで詰め寄った琉球がディフェンスでもギアを上げ、宇都宮は前半ゼロだったターンオーバーを3つ犯した。残り1分29秒にはエバンスのバスケットカウントでついに逆転に成功。再びリードを許して第3クォーターを終えたが、54-55と点差はわずか1点。両者の運命は最後の10分間に委ねられた。
しかし、宇都宮が先手を取ったことは最後まで効いた。宇都宮が再び10点差までリードを広げたが、琉球も押し返す。残り59秒の今村の3ポイントで2点差となったが、直後に比江島がクーリーをファウルアウトに追い込むバスケットカウント。その後も粘る琉球に対して比江島が得点を重ね、最終スコアは75-82で宇都宮に凱歌。2戦とも要所で相手の流れをことごとく断ち切った鵤誠司が日本生命ファイナル賞に輝き、CSのMVPは文句なしで比江島の手中に収まった。
昨シーズンはチームとして2度目の頂点に立つチャンスであったと同時に、比江島個人にとってはBリーグ初制覇のチャンスでもあった。エースとして、そのチャンスを逸した責任を背負いながら過ごしたこの1年は、計り知れない苦しみがあったようだ。優勝が決まった瞬間、比江島は人目をはばかることなく号泣。ヒーローインタビューで「道のりは長かったですが、今までやってきたことは間違いじゃなかったことを証明できた」と語ったその声も涙声だった。
宇都宮ブレックスにとって、初制覇からの5年はきっと長いものだっただろう。それと同時に、比江島慎にとってはこのたった1年が本当に長い1年だったに違いない。第1戦で挙げた17得点のうち11点、第2戦も24得点のうち14点を第4クォーターに叩き出した比江島。長いシーズンで最も重要な2試合のラスト10分に、その想いは爆発した。
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TEXT by 吉川 哲彦