『3×3 Super Circuit 2022』から探る、地方の伸びしろ
地方にも意欲的なチームがいる。3x3の中心地は東京と、そこから広がる関東地方にあるだろうが『3x3 Super Circuit 2022』にも関西や九州からFINALへ勝ち上がり、爪痕を残したチームがいたほどだ。来る2022シーズンに向けて、地方の盛り上がりは競技シーンにとって必要不可欠だが、実際のところ選手たちは現状をどうとらえているのか。伸びしろを探ってみた。
中心地は関東であるが
3x3は注目を浴びているが、競技シーンの中心は東京と、そこから広がる関東地方にあるだろう。活動しているチームが多いことはもちろん、結果を残すチームもここから生まれている。例えば、各都道府県予選から勝ち上がったチームによって日本一が争われる『3x3日本選手権大会』では、過去7度の開催で、男子のチャンピオンチームはすべて関東勢だ。
しかし、だからと言って関東以外の競技シーンが盛り上がっていないというわけでは無い。年間を通して3x3に取り組み「出られる大会があれば全部出たい」と声を挙げる意欲的なチームもある。『3x3 Super Circuit 2022』では7度の予選ラウンドのうち、3度を地方で開催した。大分、京都、徳島の予選ラウンドでは近隣地域から多数のチームが参戦し、大分からは福岡のYUWA MONSTERSが、京都からは滋賀のNINJA AIRSが3月13日のFINALに出場した。結果は、両チームともに初戦で敗れたが、先手を取ったり、最後まで食い下がったりと、好ゲームを披露した。地方の伸びしろはどこにありそうか。
九州の実情と他にはない「強み」
2020年にバスケの盛んな「福岡」で、3x3チームとして初めて設立されたYUWA MONSTERS。FINALではTOKYO DIMEに14-21で敗れたが、中盤まで互角の勝負を演じた。昨年もTOKYO DIMEと対戦し敗れている中で、今回は「かなり自分たちのやりたいことが徹底できたと思います」と、初代メンバーの一人である金子陸(#16)は手ごたえをつかむ。設立間もない昨年は「個々の力」で打開する場面が多かったそうだが、2年目の活動に入って、練習を積み重ね、チームワークの高まりを感じている。
しかし、地元に目を向けると課題も多いようだ。チームのお膝元は、金子の母校でもある福岡大学附属大濠高校や、福岡第一高校という高校バスケ界の名門校が象徴するようにバスケの街であるが、3x3となればプレーする人材は少ないという。「チーム2年目になる時に選考会を行いましたが、応募してくれた若い選手が少なかったり、昨年あった(第7回)日本選手権大会の県予選も2チームで行う状況でした」と、金子は実情を語った。
ただ、福岡には歴史を紡いできた先輩たちがいる。例えば3x3初代日本代表を務め、プロやストリートで活躍した青木康平氏(現WATCH&C ACADEMY代表)や、ストリートボールリーグ『LEGEND』で名をはせたYOHEI(現CRATE代表)という大濠OB。YUWA MONSTERSにはUNEDERDOGを立ち上げた三井秀機がおり、九州を代表するMC U-LAWもいる。3x3やストリートの道を切り開いてきた先駆者たちの存在は、他の地域には無い特徴であり、言わばレガシーだ。90年生まれの金子もそういった存在から「アドバイスやお話をいただけることはすごくありがたい環境」と話し「九州の強み」とも語った。諸先輩たちはさぞハングリーだったと思われるが、金子のような世代も競技シーンをひっぱり結果を残すことで、次世代を呼び込む流れが生まれるのではないか。5人制がメインストリームとしてあるが、バスケと縁の深い土地柄で活動できることは、YUWA MONSTERSをはじめ、近隣チームが伸びる要素だ。
また、Super Circuitをちゃん岡こと岡田慧氏とともに取り仕切った松岡健太郎氏が、昨年より『3x3 WEST』という西日本エリアのチームによるツアー大会の運営事務局を務めている。各チームが興行権を持ち、ホーム&アウェーで大会を行う仕組みで、競技を広める土壌が着々と開拓される動きも、見逃せないところだ。
関西と関東の違いから感じられること
一方で、関西の名物チーム・NINJA AIRSはどうか。初戦でSolviento Kamakuraに終盤2点差まで迫りながらも、17-21で敗戦。2018年の設立以来、チームの顔として活躍する柏尾耕資(#3)は、あと一歩及ばなかった理由を「普段の練習や試合の慣れ」と挙げた。運動量を武器に2ポイントとコンビネーションプレーを織り交ぜて対抗したが、ディフェンスやリバウンド、オフボールの場面における「強度」の違いを関東と関西で改めて実感。選手全員が同じ環境だったことを踏まえながらも「笛が重かった(鳴らなかった)」という。
「全体的に自分たちの持っているジャッジの基準より重たかったです。練習からチーム内で審判をやってきましたが、実際にここに来て戦うと、僕らはゲーム中にファウルだと判断してすぐに笛を吹いてしまっていました。練習中からジャッジも自分たちでしっかりとやらないと駄目だし、笛が重い中でもフィニッシュまで持ち込めるようにしたいです。今日の経験をチームに持ち帰って、共通理解をみんなで作って改めて練習をしたいですし、もっと色々な大会に出て、こっち(東京)にも来ることも含めて、大事だと思いました」
3x3のジャッジは昔に比べれば、5人制に近くなってきたが、それでもコンタクトは多く、体のぶつかり合いやマッチアップの激しさは魅力のひとつ。その中でNINJA AIRSがシュートを決めるきる力を備えて、国内トップレベルの基準で戦う姿を示すことは、関西の競技シーンを引きあげる結果になるだろう。
ただ、笛のアジャストは彼らだけの課題ではない。柏尾の言葉からは、3x3のレフリングにおける地域格差も感じられた。そもそも競技の歴史が浅いため、5人制に比べて3x3のレフリー経験を持つ審判はまだ少なく、意欲があっても笛を吹く場もまだまだ限られている実情があるだろう。それ故に地域によってバラつきがある。また具体的な言及は本稿で割愛するが、世界に出れば、国内と海外で笛が違うという声もこれまで何度も聞かれている。
いずれにせよ、選手たちによって高いレベルの試合を実現するためには、試合を一緒に作る審判の眼がまず全国レベルでそろうことも、競技シーンが育つ上では必要不可欠だ。そのためSuper Circuitのように、12月から3月という3x3のカレンダーで谷間の時期に大会が整備された意義は大きく、公式戦の地方開催は審判にとっても経験を積む一助となったはずだ。双方で、現場を進化させていきたい。
期待したい地方の盛り上がり
昨夏の東京オリンピックで、3x3に注目が集まったことは間違いない。市民権を得たと言ったら大袈裟かもしれないが、競技をそれまで知らなかった層にも届いたほどだ。NINJA AIRSの柏尾は選手であるとともに、大阪を拠点にバスケとは全く違う事業を営む経営者であるのだが、彼のエピソードはそれを示す好例にも聞こえる。
「僕は会社をやっていて、バスケしているのは色々な取引先にはちょっとずつバレていたのですけど、まさか3x3でね、“こんなにもバスケをしてる人なんや”ということが(東京オリンピックの後に)ちょいちょいバレ出しました(笑)。もちろん、それはそれで良かったなというか、さらに頑張ろうと思うきっかけにもなりました。バスケが盛り上がることが、普段の会話とかも仕事場でも話に出てくるので嬉しいですね」
ただ、言うまでもないが、オリンピックは毎年あるものではない。あれだけ盛り上がっても、記憶はだんだん薄らいでいく。新型コロナウイルス感染症の影響で昨夏以降、3x3が有観客で開催されたケースも数えるほどだった。それだけに2022年は競技シーンが東京オリンピックで3x3を知った人々をコートサイドに呼び込み、これまでに無い現場を作り出せるかどうか。コロナ禍の感染状況は予断を許さないものの、真価の問われる大事なシーズンになる気がしてならない。
そして、その現場を作るのは、競技が盛んであると言われる関東だけでなく、関西や九州をはじめとする全国各地で3x3に携わる選手やチーム、関係者たち。これまで3x3をけん引してきた選手と、次世代を担う選手によって白熱した攻防が地方から飛び出し「オレたちの3x3めちゃくちゃ面白いから」と続々と声が上がる。2022年は、地方からそんなうねりが生まれる1年にしていけたら最高だ。
- 『3x3 Super Circuit 2022』から探る、地方の伸びしろ
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TEXT by Hiroyuki Ohashi