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  • 2021.11.17

なぜ日本のバスケにはトーナメントより「リーグ」が必要なのか

9月〜10月にかけて予選4日プレイオフ1日の計5日間に渡って豊洲TOKYO SPORTS PLAYGROUNDにて開催された「TOKYO STREETBALL SUMMER LEAGUE」。

リーグでは珍しいリーグ形式のストリートボールの意義とは?
アメリカでLAからNYまでさまざまなバスケを経験し、2005年から16年間代々木公園の5on5ストリートボールトーナメント「ALLDAY」のコミッショナーを努めてきたJIROによる寄稿を掲載する。

日本には16年間にわたって代々木公園を舞台にストリートボール最高峰のコンペティションが繰り広げられてきたALLDAYというトーナメントがあります。私も運営チームのひとりとして誇りに思う素晴らしい大会です。

ALLDAYは一度負ければそれまでなので、全ての試合に緊張感があり、それがトーナメント制の良さだと思います。それは、例えば高校野球がなぜ多くの人を感動させるか、ということにも通じているはずです。トーナメントが面白いのは周知の事実です。

しかしながら、私は今回このリーグを観ながら、「TOKYO STREETBALL SUMMER LEAGUE」という形で開催したのが本当に素晴らしいと思いました。この「リーグ戦」というスタイルの意義について考えみたいと思います。

バスケリーグ王国、アメリカ
アメリカではストリートから高校までどのレベルでも基本的にリーグ戦がベースとなります。プレイオフは一回負けたら終わりですが、シーズン中は総当たりです。特に強くない高校でも例えば8チームいるカンファレンスに所属していればホーム&アウェイで14試合、さらにカンファレンス外の招待トーナメントに3、4回参加するので、30試合くらいはすることになります。面白いのがアメリカの場合トーナメントも1回負けたら終わりではなく、”Consolation Bracket”と呼ばれる敗者同士によるトーナメントがあります。

また、日本の高校のようにベンチ入りできない選手は3年間一度も公式戦に出れないということは基本的にはなく、JV(Junior Varsity)と呼ばれる2軍同士の対戦、さらにはFreshman(1年生)同士の対戦もあります。Homeの試合ではFreshman、JVそれぞれの家族や学生たちが応援に駆けつけるのでVarsity(学校の代表チーム)の試合ともなると体育館が満員になってかなりの盛り上がりを見せる学校もあります。

そして、AAUという学校外のクラブチームシステムもあり、特に有望な選手にとっては強豪大学にアピールできる絶好の場となっています。もちろん地域のストリートリーグや、Pro-Amと呼ばれるプロやアマチュアが入り混じって試合をするリーグもあります。

子どもだけでなく、大人のためのリーグも山ほどあるのがアメリカ。例えば大手フィットネスチェーンのLA FItnessなどは併設されたバスケコートでリーグを開催しています。余談ですが、私がフェニックス在住時代に参加したLA Fitnessのリーグでは一般プレイヤーに混じって当時大学一年だったリチャード・ジェファーソン(元クリーブランド・キャバリアーズ)もプレーしていたり、思いがけなく凄い選手ともプレーできるのも面白いです。

それではトーナメント形式はどうかというと、2014年にアメリカ最強を決める”The Basketball Tournament”(TBT)というトーナメントが生まれ、年々盛り上がりを見せています。むしろ今まで聞かなかったのが不思議なくらいですが、NCAA全米一を決めるMarch Madnessしかり、やはりトーナメントはトーナメントの良さがありますね。

中高生のトーナメント形式の問題点とは
やはりなんと言っても試合数の少なさに尽きると思います。一部の強豪校のみが実戦経験をたくさん積むことができて実力に差が開く一方なのは勿論、試合をせずに最大限バスケを楽しめるのか、という根本の部分が一番問題だと思います。

私の高校は毎年のうように国体県選抜がいて、決して弱いチームではなかったですが、年間の公式戦は10試合にも満たなかったと記憶しています。

練習試合は数多くありましたが、やはり緊張感のある公式戦は全く違うますよね。

特に練習試合と公式戦の違いは審判です。ちゃんとした審判がいる中でどれだけの数の試合を経験したか、ということがすごく大事だと思っています。

元NBAプレイヤーで現在の解説者のケニー・スミスは、NY出身ポイントガードたちの実戦経験の豊富さをよく語っています。自身もNY・クイーンズ出身の彼はAAUはもちろんのこと、NYで夏の間開催されているストリートリーグの試合数を加えるととんでもない数の実戦を経験しているといいます。特にポイントガードにとって実戦経験の数が大事なんだ、と彼は熱く語りますが、これはポイントガードに限らないはずです。(ちなみに、NYニックスのケンバ・ウォーカーは、来日時にFLY Magazineで行ったインタビューにて、若い頃にさまざまなNYのストリートリーグでプレーしていたと語っている。)

そしていわゆる育成世代に限らず、大人になってからプロを目指していたり、あるいはALLDAY優勝やクラブチーム大会優勝を目標とする選手たちにも言えると思います。

特にストリートでのピックアップゲームをメインにやっているストリートボーラーにも、例えばALLDAYを優勝しようと思ったら試合経験は必須です。

個人的な経験からですが、ストリートのピックアップゲームで強くゴールに向かっていく癖付けができていると、試合になると何度もフリースローを打てるようになります。技術もそうですが、実戦はやはり自信がつきます。アメリカの場合どんなレベルでもスタッツをきちんと取るので、それも自信がつくし、実績にもなります。


今回TSSLで良いなと思ったのは、得点だけではありますが、スタッツをしっかり集計していたことです。手間かかりますがすごく大事だと思います。

ストリートにおけるリーグ戦の特徴
少し話が変わりますが、ストリートボールにおいてのリーグ戦では、まず運営がとても大変です。

日本の場合場所探しはもちろん、設営、オフィシャル、審判、撤収、といろいろ大変なことが多く、これを毎週1-2ヶ月に渡ってやるというのは結構な時間と労力を要します。

アメリカの場合は地域に根ざしていて、日本のお祭りみたいに地域の人たちが協力してくれる感覚があります。そもそもバスケをわかってる人が普通に地域に多い、ということもあるかもしれません。

次に、プレイヤーの流動性です。

どのリーグも基本毎回全く同じ選手ということは珍しいです。やはりみんな仕事であったりいろいろあるので、選手は結構入れ替わったりします。

リーグ主催者もそこらへんわかっているので選手の入れ替わりに寛容です。

この流動性のおかげでNBAのスーパースターが唐突に1試合出たり、ということも起きるのです。

今回のTSSLでも、Bリーグ選手が数試合だけ出場したり、ちょうど海外から帰国していたタイミングで参戦した選手などもいました。

こういう柔軟性こそリーグの醍醐味と思います。

もちろんフレキシブルな運営はときにはマイナス面も生みます。私自身もNY・ブルックリンのストリートリーグでプレーしたときは試合会場に行ったら相手チームがドタキャンして中止になったこともありました。ニュージャージーから2時間かけてきたので残念でしたが、チームメイトはいたって平然としていました。

1-2ヶ月続くリーグ戦をやるとなると多少そういうアクシデントも起きることへの寛容性も必要かもしれません。全て完璧を目指すとそもそも開催できません。多少不完全であっても、とにかくリーグを開催することの方がよっぽど意味があるかと思います。

ストリートボールリーグへの期待
リーグ戦という形式がいかに素晴らしいか、について語ってみました。いきなり日本の今のシステムが変わるのは難しいかもしれません。TWBLやNEWS LEAGUEなど、TSSLだけでなくさまざまなリーグが生まれています。このようなリーグは、日本バスケシーンを変える先導役になる可能性が十分あると思います。

この場を借りて、一バスケファンとして、このカルチャーに献身的な主催者・スタッフ、そして理解ある関係者のみなさんに感謝を伝えたいと思います。

なぜ日本のバスケにはトーナメントより「リーグ」が必要なのか

TEXT by JIRO

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