琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンをThrow back (後編)
Bリーグ2020-21シーズン、4シーズン連続で西地区優勝を果たした琉球ゴールデンキングスは、惜しくも千葉ジェッツに敗れBリーグチャンピオンシップ・セミファイナルで敗退した。そんな琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンを、国内外のバスケットボール事情を熟知するライター鈴木英一が振り返る。
3回連続のセミファイナル止まり、さらに過去2回は第3戦で敗退と琉球は今回もあと一歩でファイナルを逃したが、一方で大きな違いを生み出す帰化選手がいないチームでは唯一の4強入りと、タレント力を見れば琉球は素晴らしい戦いを見せたと評価できる。
だからこそ、オフシーズンにどんな動きを見せるのか注目を集めたが、まずヘッドコーチの人事で衝撃を与えた。藤田ヘッドコーチが退任となり、後任はチーム創世記、bjリーグで2度の優勝を達成した桶谷大が9年ぶりの復帰を果たしたのだ。
藤田は2019-20シーズンにアシスタントコーチで加入すると、佐々の途中退任という非常事態を受けてヘッドコーチへ昇格。チームが崩壊しかねない中で、すぐに立て直すと、各選手の個性をうまく生かす戦いぶりを見え、ファイナルまであと1勝のところまでチームを導いた。
もちろん様々な要因が関係しており、一概にチームの成績だけが指揮官の能力を示すものではない。桶谷の昨シーズンは、B2の仙台で故障者に苦しみ最後は外国籍2名での戦いを余儀なくされたにせよ目標であるB1昇格を逃し4位に終わっている。さらに藤田が仙台の新指揮官に就任したことで、短絡的な言い方をすればB1で4強と、B2で4位の指揮官をトレードする形になっており、大きな驚きの声が挙がったのも致し方ないことだ。
ただ、外角シュートが不発に終わった時のオフェンスの停滞が大きな課題となった中、桶谷はインサイドアタックを効果的に繰り出すチーム作りに定評がある。さらにハードワークという琉球のチームカルチャーの礎を築いた人物でここまでの積み上げを継続できる選択として、彼の復帰は理に適っている。
また、琉球が好成績を残した指揮官を変えることは珍しくない。過去の歴史を振り返ると桶谷も前回はbjリーグ優勝後に退任している。桶谷の後で就任した遠山向人は、プレーオフで4強入りを逃したが、レギュラーシーズンで最高勝率を残していながら1シーズンのみで去った。次の伊佐勉はbjリーグで3シーズンの内、2度の優勝を達成。Bリーグ初年度もチャンピオンシップ出場と、その時の戦力を考慮すれば及第点と言える成績を残した後で退いている。
そういった人事を行ってきた結果として現在、琉球はbjリーグ時代から13シーズン連続でプレーオフ出場中。今回のHC交代がどんな結果をもたらすのかは誰にも分からないが、少なくとも指揮官に対して、他のチームとは違うアプローチを選択し、結果を残し続けていることは事実だ。
そしてこの発表の後、琉球は選手の契約でも注目を集めた。まず、セミファイナルでの敗戦直後、田代が「僕にはコントロールできないことですが、多くの同じメンバーで来シーズンを始められたら、今回のチャンピオンシップは僕らにとって良い経験、土台となります」と継続することの大切さを強調していたが、その思いにフロントは応える。田代、岸本、今村佳太、牧隼利、並里成、クーリー、エバンスとコアメンバーが揃って残留した。
その上でオフェンスだけでなく、ディフェンスでも相手のパワープレーに対抗できるのがクーリーだけとインサイドゲームの強化を特にチャンピオンシップで痛感した中、帰化枠で130キロの巨漢で、非凡なアシスト力を誇る小寺ハミルトンゲイリーと契約。さらに東京五輪の内定選手に選出された22歳の新星である207cmの渡邉飛勇と、ローテーション入りが期待できるビッグマンを2人獲得する。
また、チャンピオンシップではスピード満点のドライブで千葉のリーグ制覇に貢献したコー・フリッピン、外国籍では198cmとサイズはないがフィジカルに強くゴール下で得点を重ねていけるアレン・ダーラムとも契約した。
小寺と渡邊の存在は、ゴール下の肉弾戦におけるクーリーの負担軽減への助けとなる。他に渡邊を4番で起用し、ハンドラーとしても優れたエバンス、ダーラムを3番ポジションで起用。もしくは渡邊を5番、エバンス、ダーラムを同時起用するスモールラインナップなど、攻撃のオプションが大きく広がったことは間違いない。ポイントガードが本職の選手が岸本、並里のみなのはどう対応するのか気になるが、攻守において昨シーズンの課題を補うための補強に成功した。
そして忘れてはならないのが、沖縄アリーナの存在だ。いまだ多くの感染者が出ており警戒は続くが、ワクチン接種が広がり状況が改善し収容人数の制限がなくなった時、8,000人が入ることのできる沖縄アリーナは、どこよりも大きなホームコートアドバンテージを琉球にもたらすことが期待できる。
他のチームスポーツと同じく、Bリーグにおいても続けて好成績を残しているチームは、指揮官がほとんど変わっていない。そんな中、琉球は4シーズン連続で地区優勝を達成していながら、今回の桶谷がBリーグ6シーズン目で4人目のヘッドコーチとなる。これだけ頻繁に指揮官を変えつつ上位の成績を挙げているのは異例だが、新シーズンはその方針の妥当性がより問われることになるだろう。
ただ、ファイナルにあと一歩まで迫ったチームが解体した後、他チームと比べて頭抜けた資金力がある訳でもない中、2シーズンで再びファイナルを狙えるロースターを作り上げたフロントの編成力は評価すべきだ。そして、今度こそ何としてもファイナル進出と大きな覚悟を持って臨む新シーズンにおいて、ここまで積極的な変革を行ってきたフロントが桶谷の再登板という、進化と原点回帰の両立で臨むことを選んだのは興味深い。2020-21シーズン、そしてオフシーズンと刺激的な歩みを琉球は見せてくれている。
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TEXT by 鈴木 栄一