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  • 2021.06.23

川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンをThrow back (後編)

Bリーグ2020-21シーズン、 天皇杯を制し、Bリーグチャンピオンシップも優勝すると想像したブースターも多いのではないか。そんな、川崎ブレイブサンダースがまさかのBリーグチャンピオンシップ・セミファイナルで敗退した。そんな川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンを、国内外のバスケットボール事情を熟知するライター永塚和志が振り返る。

シーズンで最も興奮する時間が始まるというのに、そこはしじまと化していた。
5月15日。初のBリーグ制覇を目指す川崎ブレイブサンダースはプレイオフ初戦を迎えたが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発出中で、大阪エヴェッサとのチャンピオンシップ(CS)・クォーターファイナルは無観客で行われることとなっていた。会場であるおおきにアリーナ舞洲は大阪湾に浮かぶ人工島の舞洲スポーツアイランドに建つが、その会場一帯にも、人影はほとんど認められなかった。

そんな状況だから、会場にはポストシーズンならではの重たい、ヒリヒリとした空気はなかった。
ブレイブサンダースの面々の面もちも、明るかった。シーズンを7連勝で終えリーグ優勝の筆頭候補だと多くの識者らが言う中で自信はあっても、過度に肩に力が入った様子はなかった。
「観客はどこにいるんだ? せっかくのプレイオフなのに」

試合の1時間ほど前だっただろうか。コートサイドを歩いていると、試合前のウォームアップをしていた川崎のニック・ファジーカスが少し離れたところから筆者に向けて、そんな言葉を投げかけてきた。顔は笑っている。冗談で言っているのだ。
第1戦を、川崎は20点差をつけて快勝した。5月2日のシーズン最終戦から約2週間が経っていたため序盤はやや硬かったものの、脚が動くようになった第2Q以降はディフェンスから相手にプレッシャーをかけてそれをオフェンスにもつなげていくという、いつもの川崎に戻っていた。

試合勘を取り戻すのに多少、苦労はしたが、原則に立ち返ることでダメージを最小限に抑えることができた。原則とは、単純だけれども簡単ではない、できることを全力でやるということだった。

「何かがうまく聞かないとき、どうしてもオフェンスであるとか、シュートが入る、入らないに気持ちが向いてしまいますが、川崎は天皇杯の前あたりから常にディフェンスマインドでやるというテーマがあります。足を動かして、多少ファールをしてでもフルスロットルでやろうと。ベンチからの出場だった自分も脚を動かして、息を上げてというのを意識していました」
篠山竜青はそう話した。息を上げてというのは力をセーブしないで、ということだ。当然、長い時間コートに居続けることはできないが、今の川崎はロスターをフルに使って交代を重ねながら戦えるようになったからこそ、シーズン終盤からの強さにつながった。

翌16日の第2戦は、大阪が奮闘した。とりわけ前半、ディフェンス面のスペーシングを改善してきたことで川崎のボールと人の動きを制限し、強度を上げることでターンオーバーから得点につなげた。
川崎は6点のビハインドを背負って前半を終えた。しかし、焦りの冷や汗はかかなかった。後半の川崎はよりアタックの意識を強め、相手から狡猾にファールを誘ってフリースローでの得点も挙げつつ、リズムを掴み始める。第4Qの序盤、藤井祐眞が3P、2本を含む3本のシュートを決めると試合は川崎のものとなった。
「前半、第3Qを含めて僕、いたのかな、というくらいの存在感だったので申し訳なかったし、エナジーも足りてなかったです。Q4に入る前に竜青さんが『みんな、祐眞についていけ』と言ってくれて、僕としても吹っ切れた感じでした」

大事な最終Qでの活躍でヒーローとなったが、そこまではさほど目だっていなかったことがあってか、藤井は多少、恥ずかしそうな面持ちでそう述べた。
最終スコアは84-73。川崎が、最短の2戦で宇都宮ブレックスとのセミファイナルへ駒を進めた。

宇都宮はサンロッカーズ渋谷とのクォーターファイナルを前日の15日に終わらせていた。川崎はもし第3戦を戦っていれば、ブレックスとのセミファイナルへ実質中3日入ることとなっていたから、大阪とのシリーズを2つで終わらせたのは体力的にも準備の面でも大いように思われた。
「東地区のチャンピオンですし、節目節目で対戦する相手ではありますが、何か、あんまり小細工をというよりは、正面からぶつかりたいなと。お互いをぶつけ合う試合をしたいです」(佐藤HC)

まずはプレイオフの1回戦をクリアした川崎。繰り返しになるが次は、ファイナル進出へ向けてそびえる大きな山、ブレックスと当たる。
しかし今は、宇都宮から眺める川崎もそびえ立つ山であるはずだ。少なくとも、2年前に成すすべなく敗れ去った時と比べて遥かに高いそれであるはずだ。
ブレイブサンダースが、ブレアリに来た。戻ってきた。当然のことながら無観客だった大阪とは、アリーナの空気が違っていた。
筆者は高をくくっていた。コロナの影響で宇都宮もキャパシティの半数以下の観客しか入れられない。しかも、来場者は大声での応援はしないようにと言われている。通常の状況ならば熱狂的な応援と醸し出される雰囲気によってアウェイチームにとっては難しい試合を余儀なくされるここブレアリの力も、半減するのではないかと考えていた。
であれば、ブレイブサンダースが地区3位に終わりホームで試合が開催できなくとも、ファイナルまで到達する可能性は少なくないと考えていた。

果たして、ブレアリはブレアリだった。黄色に染まったアリーナ内の空気は、ブレイブサンダースを飲み込んだ。
5月21日のセミファイナル第1戦。宇都宮は出だしから全開のプレイで7-0とスタートダッシュに成功すると、さらにはベテランのジェフ・ギブスをスモールフォワードとして使い川崎のお株を奪うビッグラインナップで対抗するというカードを切ってきた。

試合後、宇都宮の安斎竜三HCはこれが投機的なところがあったことを認めたが、狙いははまった。会場のエナジーと相手のプレイオフ仕様の策に当惑した川崎は、ミスを重ね、ターンノーバーからの得点を許し、前半を42-30と差をつけられた。

それでも後半、川崎は本来のエナジーを獲り戻し、篠山と藤井のツーガードを敷くなどの策も用いつつ、Q4には2点にまで点差を詰める。追い上げのモメンタムが敵地の空気を跳ねのけ、ブレイブサンダースが勝利するかと思われた。ところが、試合時間残り10秒ほどから2本連続で宇都宮にオフェンスリバウンドを奪われ、追いつくチャンスを最後の最後、手にできないまま68-65の敗戦を喫した。
敗因は様々考えられたが、オフェンスリバウンドに尽きた。川崎が許したそれは25本。佐藤HCが「なかなか見ない数字」と苦笑いしたほどだった。
それでも後半、挽回し最後には白星を掴みかけたのだから、強がりではなく翌戦は勝てる可能性が十全にあるという感触は、ブレイブサンダースの面々にも当然あったはずだ。

同じ黒星でも、2年前とは違う。
2年前の2018-19シーズン。CSクォーターファイナルをこのブレアリでブレックスと対戦した際は、相手の途切れないディフェンスプレッシャーの前にミスを連発し、屈した。
篠山の表情と声はしかし、今年のチームは違うのだと述べていた。
「あの2年前でのここでの大敗が今のチームの原点です。あの時の映像を見せられて、このチーム(宇都宮)を破らないと日本一にはなれない。そこが自分たちはスタートしたし、メンバーも新しくなりました。2年の成長を見せるためにここに来ました」

しかし翌日、川崎は再び宇都宮に敗れた。前半は食らいついたが、後半はまたもオフェンスリバウンドから相手に主導権を握られ、セカンドチャンスからの得点で差を広げられた。
96-76。
気づけば、シーズンを通してオーバータイムを除けば2番目に多い失点(タイ)での大敗を喫した。ビッグランナップはその力を無力化され、シーズン終盤の連勝時や大阪とのクォーターファイナルではふんだんに使うことのできたベンチの層の厚さも、発揮できずに終わった。
天皇杯決勝も含めれば、今季、4勝1敗と川崎の宇都宮に対しての相性は良いかと思われていたが、ポストシーズンという別種の生き物に蹂躙された形となった。
試合が終わって、コート上で挨拶をするブレイブサンダースの選手たち。辻直人は赤くなった目を拭っていた。

「山あり谷あり」のシーズンだったと、辻は口にした。が、危機感が生まれる1年だったからこそお互いが言いたいことを言い合い、信頼関係が醸成され強くなっていった、充実のそれだったと振り返った。
もっとも、2年前のプレイオフを思わせる完敗での終わり方に、試合直後は心の整理が付いていないようだった。
川崎ブレイブサンダースの、2020-21シーズンが終わった。特別なシーズンだった。苦しみながら、しかし叩かれるほど強さを増す熱した鉄の棒のように終盤、持ちうる力を発揮していった。そして最後はブレックスという、同じように強い棒に打ち付けられて、夢破れた。
Bリーグファイナルが終わって辻の広島ドラゴンフライズへの加入が発表され、衝撃を与えた。その他にもカルファニ、大塚裕土、青木保憲らの契約満了の報も流れた(後日、大塚はB3の新球団・アルティーリ千葉へ、青木は広島への入団が発表)。


リーグ全体で選手の移籍が激しくなっているが、Bリーグ以前はいわゆる企業チームで選手の大半が前オーナー会社の東芝の社員だったブレイブサンダースも例外ではなくなった。辻が去り、現在のDeNAがオーナーとなる前の東芝時代を知る選手はこれで篠山、ファジーカス、藤井、長谷川技だけとなった。
シーズン終盤にピークが来たかと思いきやファイナルへの道が阻まれたこと。辻ら馴染みの顔が抜けたこと。
ブレイブサンダースにおける今オフに感じる味は、苦い。
来季はまた新たな陣容で臨むこととなるが、この苦い味がどこまで甘いものに変わるか。
それが2021−22シーズンにおいて、このチームを見るべき大きなポイントのひとつとなる。

※写真提供:B.LEAGUE

川崎ブレイブサンダースの2020-21シーズンをThrow back (後編)

TEXT by Kaz Nagatsuka

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