• COLUMN
  • 2021.06.10

TOKYOへ向かう3×3男子日本代表候補の今をひも解く

3×3女子日本代表が東京オリンピックへの切符を獲得した姿は、3人制代表の強化が実った結果である。延長戦でスペインを破った3位決定戦の劇的勝利は感動を覚えるアツイ試合だった。では一方で3×3男子日本代表は今、どのような状況なのか。今夏に開催が予定されるオリンピックまで、もう2か月を切っている。現状の一旦をひも解きたい。

五輪代表になるためには
 まず、前提として3×3日本代表として東京オリンピックを迎える選手は、試合へ出場する4名のエントリーメンバーに、予備登録される2名を加えた計6名である。そのうち出場メンバーは4名中2名を国内ランキングTOP10以内から選出する条件があり、残る2名は国内ランキングTOP50以内か、個人ポイントで5,400ポイント以上(女子は3,600ポイント)を有していなければならない。また予備登録される2名も国内ランキングでTOP10以内に入っている必要がある。

 現在、オリンピックへ向けた代表候補メンバーは、6月8日に日本バスケットボール協会(JBA)が発表した13名である(※1)。この中で国内ランキングTOP10は9名を数え、もう一方の選出条件にも4名が該当する。国内ランキング1位の落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME.EXE)を筆頭に、小林大祐(UTSUNOMIYA BREX.EXE)や齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX.EXE)、小松昌弘(TOKYO DIME.EXE)といった豊富な競技経験を持つランキング上位選手たちから、保岡龍斗(秋田ノーザンハピネッツ/BEEFMAN.EXE)や杉浦佑成(TOKYO DIME.EXE)らB1で活躍する選手、さらにはアメリカ留学で成長著しい富永啓生(ネブラスカ大学)ら若手が名を連ねる。代表チームの持つポテンシャルは歴代最強と言っていいだろう。選手たちの多くがBリーグのレギュラーシーズンの合間を縫って代表合宿を重ねてきた。8日の発表前にいくつかの大会で選手たちへ取材をした際には「チームとしてのオフェンス、ディフェンスの考え方は統一できています」(小松)、「お互いのストロングポイントはもう分かってきました」(小林)という声が聞かれている。


国内で開かれた貴重な実戦機会
 しかし、彼らの課題は実戦経験が少ないことだろう。コロナ禍の影響で国際大会の中止や延期になった影響もあっただろうが、国内で実戦を通じ、トライ&エラーを繰り返してチーム作りをするアプローチが見られなかった。

 そんな中、5月14日から16日にかけて開催された東京オリンピックのテストイベント『READY STEADY TOKYO-バスケットボール (3×3 バスケットボール)』は貴重な実戦機会となった。小松や保岡ら6名のオリンピック候補選手が、津屋一球(三遠ネオフェニックス)や横地聖真(筑波大学)、土家大輝(早稲田大学)ら3×3 U23 日本代表候補をはじめとした若手たちと合宿を行い、五輪の本番会場で公式戦と同じ競技運営の下、数多くゲームを経験。16日に報道陣へ公開された試合後、実戦機会を持てた意義について、保岡は「(代表合宿を)同じメンバーで何回もやっていますと、どうしても相手の特徴が分かってくるので、攻めやすく、またディフェンスで止めやすくなります。ですから、一緒にプレーしたことがない若いBリーガーや大学生と対戦でき、どのようなプレーをするのか。どう対処するべきか。こちらもさらに考えるようになって、今後につながる良いイベントになったと感じています」と語った。

 また齊藤も「3×3を日本の中でも高いレベルですることはとても意味があると感じています」と話し、「(希望を言えば)もっと(このような実戦機会を)増やして欲しいと感じています」とも付け加えた。彼は5人制から3人制に転向した数少ないプロ選手で、3×3クラブ世界No.1を決める『FIBA 3×3 World Tour Maters』やその予選会となる『FIBA 3×3 Challenger』といったプロサーキットと呼ばれる国際大会を数多く転戦した経験を持つ。「3×3はやらないと成長しない」と常々、話していたことを思えば、日本代表が成長するために場数を踏む必要があるのだ。

なぜ必要なのか。どういかすのか。
 さらに場所を変えても同様の重要性を説く選手がいた。小林大祐である。5月29日に3月の日本選手権大会で準優勝したALBORADAを運営する一般社団法人アルボラーダが主催する『きものえちぜんや presents ALBORADA LEAGUE 2021 Vol.1』でのことだ。代表候補入りする富永、アイラ・ブラウン(大阪エヴェッサ)、藤高宗一郎(バンビシャス奈良/OSAKA DIME.EXE)の4人でBulldogsというチーム名で出場した。これは代表活動ではないものの、現候補メンバーが国内のオープン大会に臨む初の試み。Bリーグのシーズンが終了し、富永はアメリカから一時帰国中とあって、つくばのローカル大会にやってきたわけである。12チームが出場し、結果は言うまでもなく優勝だったが、次のように振り返る。

 「このような大会に代表チームが出てくることはなかなかありません。でも私は出るべきだと思います。なぜならば、対戦相手は3×3をやり慣れています。Bリーガーのほうが個々の能力は上回るでしょうが、彼らは頭を使ってプレーをします。例えばスリップのタイミングはやり込んでいるだけあって上手ですよね。僕らは代表合宿をしていますが、(実戦で)やり込んでいないわけですから、そこを肌で感じて欲しいですね」

 小林が対戦相手を「上手」と表現したように、代表候補チームとは言え、1試合を通して完璧ではなく、スリップやバックドアから失点を許したり、キックアウトから2ポイントを被弾する場面も。特に決勝のALBORADA戦は一時リードされたほどだ。小林はこの経験をいかし「今度は僕らの能力でやればどうなるかまで、突き詰めてやるべきだと思っています」とも話している。

期待したい男子代表の成長
 開催が予定される東京オリンピックで、3×3の初日は7月24日。8 日に発表されたJBAのリリースによると今後の代表活動は、今月8日から10日まで第3次強化合宿が開催され、15日から19日まで第4次強化合宿が開かれるという。そして6月下旬には本大会へ臨む代表選手が発表される予定だ。

 今合宿に至るまでには、先に取り上げた選手たち以外にも多くの選手が限らた機会を最大限にいかし、それぞれの持ち場で3×3に取り組んできた。例えばブラウンはALBORADA LEAGUE参戦前まで個人ポイントは151しかなかったが、同大会のVol.1を皮切りに6 月6日のVol.4まで全大会に出場し優勝を飾ったことで、ポイントは6,961に達し、五輪代表の選出資格を持った。

 また海外に目を向ければ、代表候補メンバーの落合、保岡、杉浦、西野曜 (サンロッカーズ渋谷/BEEFMAN.EXE)の4人は、5月21日と22日にクロアチアで開かれた国際大会『Lipik Challenger』にTEAM AOMIとして出場し、ベスト4に進出した。オリンピックを前に海外勢と対戦し、結果を残した価値は大きい。戦術的な手ごたえやディフェンスの強度、国際大会におけるジャッジの基準を体感するなど、多くの収穫があったはずだ。

 たただ、先日のオーストリアで開かれたオリンピック予選(OQT)を見た方であれば感じているかもしれないが、男子日本代表はし烈な予選を勝ち抜いた欧州強豪や、世界No.1のセルビアらとTOKYOでメダルを懸けて戦う。ポテンシャルはあるだろうが、越えるべきライバルたちは多く、残された時間でどれだけチームを成熟させ、個ではなくチームで戦うベストな4人をセレクトできるかが、メダル獲得の鍵を握る。セルビアやOQTを突破したポーランド、ラトビア、オランダらは、長年にわたり代表を務めた選手や、コロナ禍でも開かれた多数の国際大会を転戦した猛者が3×3を積み上げた末にTOKYOへやってくる。

 我々は3×3の実力と経験を積み重ねた4人がコートに立つ姿を楽しみにしたい。もちろん候補選手たちも競技シーンを代表する思いは強く、齊藤の言葉からは、それを強く感じさせる。

 「3×3の舞台を築いてきた先輩たちがたくさんいます。ここ(=代表候補)にいれば、ここにいない方もいますが、だからこそ舞台を築き上げてきた方々に敬意を払って、応援してくださる皆さんが誇れるメンバーで、そして戦術を含めてTEAM JAPANとしてメダルを狙っていきたいという思いが強いです」

 3×3男子日本代表はこれからどのようなに形作られるのか。その姿に期待したい。

※1.
2021年度 3×3 バスケットボール男子日本代表チーム 第32回オリンピック競技大会 (2020 / 東京) 男子日本代表候補選手 第 3 次・第 4 次強化合宿参加メンバー(【】は国内ランキング)

国内ランキングTOP10
【【1】落合 知也 (越谷アルファーズ/TOKYO DIME.EXE)
【2】小林 大祐 (UTSUNOMIYA BREX.EXE)
【3】齊藤 洋介 (UTSUNOMIYA BREX.EXE)
【5】小松 昌弘 (TOKYO DIME.EXE)
【6】西野 曜 (サンロッカーズ渋谷/BEEFMAN.EXE)
【7】保岡 龍斗 (秋田ノーザンハピネッツ/BEEFMAN.EXE)
【8】杉浦 佑成 (TOKYO DIME.EXE)
【9】富永 啓生 (ネブラスカ大学)
【10】三谷 桂司朗 (筑波大学)

国内ランキングTOP50あるいは5400ポイントを保有
【14】松脇 圭志 (富山グラウジーズ/HACHINOHE DIME.EXE)
【33】藤高 宗一郎 (バンビシャス奈良/OSAKA DIME.EXE)
【114】永吉 佑也 (京都ハンナリーズ/KYOTO BB.EXE)
【207】アイラ・ブラウン (大阪エヴェッサ)

候補メンバーは6月8日発表時点。ランキングは同日確認。

TOKYOへ向かう3x3男子日本代表候補の今をひも解く

TEXT by Hiroyuki Ohashi

RELATED COLUMN

MOST POPULAR