3×3先駆者たちの目、次世代を考えるヒントが詰まったU18日本選手権の現場
男子・ROOKIES(山形)、女子・KUKI GYMRATSの初優勝で『第7回 3×3 U18日本選手権大会』は幕を閉じた。18歳以下の年代において3×3はまだまだ馴染みの薄い競技であるが、コートに目を向けるとその様子も変わってきた。コロナ禍というイレギュラーな状況であったが、携わるコーチや関係者、3×3日本代表経験者といった先駆者たちの目を通して、アンダーカテゴリーにおける競技の現在地を見定め、本稿を次世代が育つ環境を考えるきっかけにしたい。
コロナ禍における出場までの苦労や思い
今年は春先から続く新型コロナウイルス感染症の影響で、インターハイや国体など若き世代の大舞台は中止を余儀なくされた。しかし3×3の日本一決定戦は無事に東京・代々木第二体育館で2日間の日程(11/28-29)を終了。選手や関係者は真剣勝負の場で嬉しさや悔しさ、充実感などをバスケットボールを通して味わった。
ただ、この状況である。準備は例年通りにいかなかった。神奈川県代表のORANGER(男子)と鵠沼高校(女子)のコーチを務めたTEAM-SのJUNこと鈴木淳氏は「(準備は)厳しかったです。昨年度は実施できた他県遠征にはもちろん行けなかったですし、(例年なら練習会のために借りることができた)学校の体育館や施設を今年は借りることができない場所もありました。そういった中で、どうにかご協力いただけるところがあったおかげで、練習をやることができました」と振り返る。選手たちが躍動できた背景には、チーム関係者の苦労があったのだ。
また「失った大会があるからこそ、プラスしてひとつ大会を経験させてあげたいという思いで参加しました」と話すのは、今大会の出場にあたり鈴木氏へ選手たちを預けた鵠沼高校の監督・細木美和子氏である。チームはコロナ禍で関東大会やインターハイが中止になったことで、目指す舞台を一時は失った。そのため10月の県予選で出場権を初めて獲得したウインターカップの開催が正式決定する前に、選手たちと話し合って今大会に向けたエントリーを決めたという。チームは惜しくも準決勝で敗れたが、「得られたものしかなかったです。この大会があったことに心から感謝をしています(細木氏)」と、挑戦は彼女たちに貴重な経験をもたらした。
3×3で得られる「個の責任」と「考える」力
では、どのような収穫があったのか。細木氏は「選手たちが自分でやる。個の責任をちゃんと持って(プレーを)やっている」と表現した。3×3は12秒のショットクロックで、選手は控えを含めて4人だけ。監督やコーチの指示を仰げない中で、自分たちで目の前の状況を判断し、チームで勝利を目指すプロセスの連続である。だから、そう表現することもうなづけた。そしてコーチたちも競技を教えるうえで大事にしているポイントであり、5人制にも通じることだ。
鈴木氏が「ボールを持ったときにゴールを見ること。バスケットボールでは原点ですが、5対5で忘れがちなことです。3×3はオフェンスの時間が(5人制のショットクロック24秒に比べて)少ないので、12秒の中で全員が(リングを)狙うことは5対5にいきるのではないかと思います」と話した。また今大会の男子準Vチーム、習志野市立習志野高校のバスケットボール部顧問であり、勉族のダークロこと黒田裕氏も「フィニッシュ力」を挙げる。「5人制も3人制も最後に決め切る力が大事だと思います。3人制でも迷わず打てる場面では、しっかり打って決めてこようと取り組んでいます」と語った。準々決勝のORANGER戦で逆転勝ちを呼び込む要因になった木島優(#34)のドライブや朝比奈友海(#5)の2ポイントシュートなどは、まさにその教えを体現しているものと言えるだろう。
さらに発展的に考えると、これらの主体性を発揮するには、「考える」ことができてはじめて可能となる。ゲームに入ればタイムアウトの請求やプレーの選択は選手たちの仕事だ。これについて、習志野高校は競技経験が豊富な大人たちと実践形式の練習を積まることで養った。また鵠沼高校には鈴木氏が日本代表などトップレベルの映像に触れることを勧めたという。「みんな本当に3×3を自主的に勉強してくれました。今回ナンバープレーを僕から何個か提供しただけではなく、本人たちに考えさせたものもありました。たくさんの映像を見て、参考にしてくれましたね」と、彼女たちは知識を吸収して、思考し、アウトプットすることまで取り組んだ。3×3を通して新たな学びができた選手たちからは、現場で次のような声が寄せられている。
「自分たちの知らない知識がたくさんありました。『こういうこともあるんだ!』と5人制とはまた違う視点を学ぶことができて面白かったです(鵠沼高校/野坂葵 #77)」
「5対5でもそうなのですが、(3×3は)自分たちで考えないといけない部分があります。これからバスケでも私生活でも、自分の意志をちゃんと持って、行動することがとても大切だなと実感しました(KUKI GYMRATS/山口美南 #55)」
日本代表経験者たちが見た現場の様子
一方でコートサイドから大会を見た2人の3×3日本代表経験者たちの目には、どのように映ったのか。まず、ライブ配信の男子カテゴリーのゲスト解説で訪れた2020年度の男子日本代表候補、落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME)は「年々、3×3を理解しているチームが増えていると思います。(出場チームのU18日本選手権に対する)情熱も年々、強くなっていることを感じますね」とコメント。
男子決勝で平均身長173cmのROOKIESが、同187㎝の習志野高校に勝利した戦いぶりについては「アウトレットパス」が勝因になったと言及した。「一見すると1対1が強くて勝ったように見えますが、シュートを決められたあとのアウトレットパスや、相手がシュートを外したあとのリバウンド、そのあとのスペーシングがとても速いです。アウトレットパスの速さが相手とズレを生み出した要因で、本当に良い3×3をやっている印象です。彼らはボールを獲ったあとに仲間がどこにいるのかよく把握していますね」と、競技特性の高い理解度をたたえた。
この「アウトレットパス」は11月に行われた3×3男子日本代表合宿の会見でも齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX.EXE)がキーワードとして挙げていたことが思い出される。サイズの無いチームが3×3で勝つには欠かせないスキルである。経験こそ浅い高校生たちが、それを駆使してゲームを披露していたら、トッププレイヤーも思わず感心してしまうのだろう。
そしてもう一人は2019-2020シーズン限りで現役を引退した伊集南氏である。Wリーグのデンソーアイリスで7年間プレーし、3×3では昨年のFIBA 3×3 ASIA CUP、FIBA 3×3 WORLD CUPに女子日本代表として出場。今年1月のJAPAN TOUR FINALでもSHONAN SUNSの一員として初Vの原動力になった、5人制と3人制をクロスオーバーした選手である。
同氏は今回、女子カテゴリーのゲスト解説で会場へ訪れた。もちろん18歳以下の3×3の大会をじっくり見ることは、これが初めて。奇しくも母校の沖縄県立糸満高校A が出場することも重なった。後輩たちは惜しくも優勝を逃したが、3人で4試合を戦い、うち3試合が2点差以内という結果を受けて「本当に選手たちはよくやったと思います。大健闘です」とねぎらった。
そして若き世代の熱戦を見届けて「男女ともにグっとくるような(試合ばかりの)1日でした。女子の決勝はオーバータイムで決着がつく展開でね。高校生たちがあんな良いシチュエーションを作ってくれるなんて、すごいと思います」とかみしめるように振り返った。
またそう思う背景には理由がある。ひとつは選手たちが考えてプレーし、ステップアップしていくことが実感できたからである。「自分たちでなんとかしないといけない。自分たちでアクションを起こして、コートで披露することは本当に魅力的です」と、彼女は3×3の醍醐味をこう話す。大会は2日間と短いが、試合を重ねるごとに選手たちの成長が見て取れることに、心を動かされたことがうかがえた。
もうひとつは現役時代に3×3日本代表として活動したからこそ、気がついたこともあったから。次世代への期待を含めて、それを次のように教えてくれた。
「女子の数チームは3×3女子日本代表がやっているフォーメーションを使っていました。私が当時やっていたプレーを、この場で見ることができて感慨深い気持ちがあります。ここで活躍した選手たちが、トップレベルに上がっていくシステムができれば、普及にも強化にもつながると思います。是非、多くの人にこの面白い競技を知っていただき、たくさんの高校生や大学生にプレーしていただきたいですね」
現在、伊集氏はデンソーでバスケットボールをメインとして社会貢献と競技の普及活動に取り組んでいる。本人は「(5人制と3人制の両方を)やっていた一人として使命感があります」と話しているだけに、トップレベルを知る貴重な経験は、競技シーンを盛り上げる大きな力となるに違いない。
若き世代の成長をあと押しするヒントは現場に
まだまだ18歳以下の世代で3×3は馴染みの薄いところ。それでもきっかけさえあれば、競技を知るコーチの教えによって、彼ら彼女らは5人制にも通じる学びを得て、個を見つめ直し、成長への歩みを見せる。それは技術だけではなく、考えることや精神的な強さを養うこと、チームに自分がどう貢献していくのか模索することである。3×3にはバスケットボールの上達に向けた本質が詰まっている気がしてならない。
第1回大会が開かれた2015年から早くも5年……黎明期から携わる者たちによって3×3を学ぶ環境が生まれ、世界を知るパイオニアが本物の3×3を国内シーンへ示したことで、その姿が手本にされるまでになってきた。やっとトップカテゴリーからアンダーカテゴリーまでがつながってきた感触がある。次世代が育つ環境はどのように作るのが望ましいのか。若き才能を伸ばすためには、なにが必要なのか。3×3 U18日本選手権の現場は、それを考えるヒントを与えてくれたのではないだろうか。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi