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  • 2021.12.24

日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.8 KUKI GYMRATS

これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.8は、高校年代の競技シーンをリードするKUKI GYMRATSにフォーカスした。

埼玉の県立高校が3x3で日本一
 KUKI GYMRATS(クキ ジムラッツ)は、埼玉県立久喜高校女子バスケットボール部である。部員は3学年で総勢40名ほど。愛称のGYMRATSは直訳すれば“体育館に住むネズミ”だが、意味するところはバスケが好きで体育館から離れず、練習に励む選手の姿をさす。

 これまでインターハイやウインターカップといった5人制の全国大会へ出場経験こそないが、高校年代の3x3シーンでは着実に成長を遂げてきた。18歳以下の3x3日本一を決める『3x3 U18日本選手権大会』の第4回大会(2017年)に初出場すると、第5回大会(2018年)で6位、第6回大会(2019年)で4位と順位を上げ、第7回大会(2020年)で日本一に。先日12月18日、19日に開催された第8回大会(2021年)では2連覇こそならなかったものの、3年連続で4強入りして、3位になった。

指導者と選手が語る競技の魅力
 3x3との出会いは2017年――同チームで顧問を務める早川拓氏が、かねてより親交のある岡田卓也氏より『3x3 U18日本選手権大会』への出場を提案されたことだった。岡田氏は元3x3日本代表のコーチとして、代表チームが初結成された2013年から2017年まで強化に携わった中心人物。ちなみにKUKI GYMRATSの「GYMRATS」は岡田氏が代表を務めるSHIZUOKA GYMRATSから授けられたものだ。
 当時、埼玉県では同大会の開催が十分に認知されていない状況だったが、早川氏は県協会で3x3のU18担当を申し出て県予選を開き、チームとして第4回大会に出られるよう動いた。高校で3x3に取り組むチームは今に比べて少なかった時期に、早川氏は3x3の魅力をいち早く感じて。

「5人制だと主役がチームのエースになることが多いと思いますが、3x3は選手一人ひとりが主役になって動く場面が多くなります。そうすると生徒たちに責任や自信が芽生えてくるんですよ。3x3をやることで成長していく姿が見られたので、取り組みはじめました」

 そして同じ魅力を生徒たちも感じていたようだ。キャプテンを務める加藤凛は「3x3は5人制と違ってコーチが(試合中はベンチに)いないぶん、自分たちで考えてプレーをします。バスケを仲間たちと一緒に作り上げていく楽しさがあります」と実感する。

 また、安部成海も「自分たちで考えて行動しないといけないし(4人でやるので)少ない人数のため絆も深まります」と楽しそうに話す。過去には喧嘩のような言い合いもあったそうだが、やがてそれも「言い合える関係になりました」と、お互いが意見を尊重できるようになった。

3x3をやることで生まれた変化
 こういった声が選手たちから出るには他にも理由がある。KUKI GYMRATSは5人制の活動と並行して、1年を通して3x3に取り組んでいるからだ。日ごろの練習で言えば、体育館がハーフコートしか使えない週2日は、チームを二つに分けてウェイトトレーニング組と、3x3組に分けて活動中。継続的に競技へ取り組むから魅力を感じられた。
 また実戦の場は大人たちが出る公式戦へ求めた。2021年は、日本バスケットボール協会(JBA)が主催する3x3のツアー大会『3x3 JAPAN TOUR』の最高峰カテゴリー・EXTREMEに参戦。これは、昨年に続き『3x3 U18日本選手権大会』で2連覇を目指すために、どうすれば良いか考えた末に、3x3の女子トップ選手たちへ武者修行して力をつけるためだったが、別の思いも込めた。

「僕は順天堂大学でバスケをやっていて3年生まではBチームで副キャプテン。でも4年生で Aチームに昇格しました。努力をすれば上のレベルと差があるとは思わなかったんです。でも高校生だと、この選手にはかなわないと決めてつけてしまうこともあるでしょう。やる前からそう考えてしまうことを打開して欲しいので、生徒たちに挑戦できる環境を作ってあげたいと考えました」

 チームの一人、池田朱李はJAPAN TOURの参戦当初、得意の1対1を仕掛けいく意気込みを持っていたが「通用しないかもと思っていました」と明かす。ただ、いざやってみると「全てが通用しないわけではなく、通用する場面もありました」と手ごたえもあった。彼女は緩急をつけたドリブルで相手のディフェンスを抜き去って、何度もゴールを決めたほど。「3x3でプロとやることで5人制に向けて自信がつきました」と意識の変化をもたらした。

 もちろん早川氏曰く、3x3をやることで「5人制でやりたい練習が進まない」こともあると言う。ただ、それ以上に3x3を取り入れることで生徒たちは成長した。昨年で言えば、3x3をやったことで選手たちのスキルがあがり、チームとして目標を「日本一」へ考え直したことで、5人制では創部以来初めてウインターカップの県予選でベスト4に進出。弾みのついたチームは、そのまま3x3で日本一の栄冠を獲得するまでに結果もついてきた。
 また、今年はJAPAN TOURで大人のチームから勝ち星もあげた。『3x3 U18日本選手権大会』ではベスト4で敗れたが、個々が力強く攻めてくる5人制の強豪で大会優勝を飾った岐阜女子高校に、競技特性を理解した試合運びと、チームのコンビネーションで対抗して大接戦を演じた。

苦い記憶があったからからこそ……
 さらに、早川氏は3x3以外にも様々な世界や選択肢があることを伝えようとしている。例えば、豊洲で定期的に行われている女子選手だけのピックアップゲーム出場を生徒へ提案したり、バスケ以外の競技関係者や選手と触れる機会を作ったりしている。
 もちろん、一連の活動は定期的に全部員と面談し、それぞれの考えをくみ取った上で行っているが、ここまで勢力的な活動の背景には苦い記憶があったから。早川氏に聞けば「昔、自分のやり方を間違っていたんですよ」と言う。生徒たちとコミュニケーションを取っていたつもりだったが、心のどこかで自分の考えに、生徒たちを当てはめようとしていた。
 ただ、それでは生徒たちが幸せになれないと思い、考えを改めた。そこで、いろいろな情報を集め、人に会って、早川氏自身が世界を広げるようになった。前出の岡田氏も、その過程で出会った一人だ。いまでは「バスケットボールが全てではないと思います。バスケットボールを選ぶ子がいても良い。違うものを選ぶ子がいても良い」と話す。

 そして選手たちに早川氏がどんな存在かと聞くと、その答えはやはりバスケットボールだけに留まらなかった。

「今まで自分が興味の無いことや、バスケ以外のスポーツに触れることもありました。新しい発見を先生が教えてくれたと思います。公立高校だからそこまで多くの経験をすると思っていなかったのですが、いろいろな経験をすることができる久喜高校へ来て良かったです」(安部成海)

「バスケットボール以外にいろいろな経験をさせてくださいました。新しいことを知ることができるし、知らせてくれる先生だと思います。バスケの技術はもちろん、人間性も早川先生やGYMRATSを通して成長できました」(佐野萌笑)

子どもたちへ「環境を作ることが一番」
 このようにKUKI GYMRATSは、指導者が生徒の可能性を広げるために環境を作り、選手がそこで成長するチームになった。過去の経験を糧に「やり方ひとつで生徒たちの力がどれだけ発揮されるのか。その大きさは変わってきます」と早川氏は言葉を紡ぐ。今後は学校のある地元の協力を得ながら、大会を開くなどして3x3の「普及」も積極的に行っていく考えだ。
 そして最後に、これから3x3をやってみたいと考える次世代とそのコーチへ、次のように熱い思いを語った。競技の魅力を感じているからこそ、一人でも多くの人に触れて欲しいという気持ちと、まだまだ道を切り拓く決意も重ねて。

「一度、子どもたちと一緒にチャレンジして欲しいですね。3x3は5人制と違う種目なので上手くいかないこともあるでしょう。ただ、それは問題ではないと思います。解決していくことで、より良いものが子どもたちも大人も手に入れられるはずです。バスケットボールや挑戦する楽しさなど、いろいろと味わえますよ。だから、そのためには私たち大人が環境を作ることが一番です。これからも頑張りたいですね」

日本郵政 presents 『Real story behind 3x3』 vol.8 KUKI GYMRATS

TEXT by Hiroyuki Ohashi

https://www.japanpost.jp/3x3/

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