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  • 2021.12.18

日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.6 伊集南(デンソー)

これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.6は、元3x3女子日本代表として活躍しJAPAN TOURでは湘南サンズでプレーした、伊集南(いじゅみなみ)氏にフォーカスした。

集大成を懸けたシーズンに3x3へ
 伊集南氏は、5人制の選手として国内女子トップリーグ『Wリーグ』のデンソー・アイリスで活躍したポイントガードだった。筑波大学を経て2013-2014シーズンから、2019-2020シーズンまで7シーズンにわたってプレー。ルーキーシーズンには新人王を受賞し、Wリーグや皇后杯で準優勝を経験した。2020年4月に現役引退後は、デンソーのスポーツプロモーション室に勤務しつつ、2021年6月よりWリーグの理事にも就任し、女子バスケ界の発展に携わる。
 そんな伊集氏が、現役時代に3x3女子日本代表としてプレーするきっかけは、2019年3月に行われた3x3日本代表候補合宿への招集だった。当時、日本バスケットボール協会(JBA)が東京オリンピックに向けて強化を本格化。現役のWリーグ選手や学生の有力選手、3x3をメインに活動する選手たちを集めた選考合宿をスタートさせた。

 もともと伊集氏はバスケットボールが盛んな沖縄県の出身。3x3のルーツである3on3やストリートに馴染みがあり、3x3が2017年にオリンピック種目に採用されたことで、より一層の興味が湧いていた。だから、伊集氏にとって代表招集は願ってもない機会。「現役時代に巡り合わせで3x3をプレーできるチャンスをいただけたことは、私にとってギフトだと思いました」と振り返る。
 さらに時期を同じくしてデンソーと2019-2020シーズンの契約を結ぶ際には、「2020年8月」で引退することを話し合いの末に決めていた。当初、東京オリンピックが開催される時期をゴールに、競技人生の集大成を懸けたシーズンに3x3へ挑んだわけだった。

厳しい結果の中に感じた競技の魅力
 伊集氏にとって3x3挑戦はキャリアのラスト1シーズンのみ。ただ5人制メインの競技人生を歩んできた中で、3x3は様々な経験をもたらしてくれた。
 代表合宿の選考を勝ち残った伊集氏は、3x3日本代表として2019年に国際バスケットボール連盟(FIBA)が主催する『FIBA 3x3 ASIA CUP』と『FIBA 3x3 WORLD CUP』に出場した。結果は、優勝を目指したASIA CUPで3位に終わり、WORLD CUPではグループ予選で敗れて25チーム中13位でフィニッシュ。あの頃を思い出して「国を背負ってプレーができた経験は名誉なことでした」と話しつつも、東京オリンピックを目指して結果も内容も期待された中で、いずれも満足できる代表活動ではなかった。

 一方で、代表活動を皮切りに、伊集氏は3x3を通して今にいきる経験もできた。まずひとつは、競技の魅力を体感できたこと。とりわけ初の公式戦となったASIA CUPで、コートと客席、DJやMCも一体となって盛り上がるエンタテインメントな競技性を強く感じた。選手ひとり一人が注目され、良いプレーに対してリスペクトが送られる感覚があった。
 加えて5人制の約半分のコートで試合ができるため「色々な場所でバスケットボールができる驚き」もあった。ロケーションと試合が融合することで生まれる「3x3にしかない会場の雰囲気」は、高揚感を感じられるものだった。

3x3で得た「自分で解決する力」
 もうひとつは「自分で物事を解決する力」が上がった。5人制であればマネージャーやトレーナーらのサポートを受け、1日1試合をプレーする流れがほとんどだが、3x3だとそうはならない。1日に複数試合あるため進行スケジュールを頭に入れてウォーミングアップや体のケアなど準備をし、ヘッドコーチがベンチ入りできないため、試合中に頼れるのは自分たち選手だけ。オンコート、オフコートで「自分に何ができるのか考え、自分にできることが広がるきっかけに3x3はなりました」と話す。

 他にも、現役時代に3x3の代表活動とWリーグの活動をしながら、3x3の国内大会に出場したことも、自分で考えた末のことだった。伊集氏は2019シーズンに湘南サンズの一員としてJBAが主催する国内ツアー大会『3x3 JAPAN TOUR』の立川大会と、シーズンチャンピオン決定戦・FINALへ出場し、いずれも優勝に大きく貢献。FINALではMVPも獲得した。もちろん「3x3へ挑戦は会社(デンソー)の理解があったからこそできました」と今も感謝を感じつつ、当時の思いをこうも明かす。

「ASIA CUPで3x3から受けた印象は素晴らしく、本当に魅力的な競技であるとプレーをして実感しました。ただ、そう思ったときに私たちWリーグの選手はセレクションを勝ち抜いて、日本代表になりましたが、国内には私たちより以前から3x3をメインにプレーし、競技シーンを作ってきた選手の皆さんがいたことも確かです。自分の競技経験を積むだけではなく、日本の3x3のために本気で代表活動をしていること、またこれまで競技を引っ張てきた選手たちにリスペクトを持ってプレーをしていることを意思表示するためには、国内大会に出場することが一番伝わると思って出場させていただいきました」

「競技の普及で力になりたい」
 2020年4月――伊集氏は現役引退を発表した。東京オリンピックが1年延期となった中、選手としてやりきった思いが強かった。
 そして、いまデンソーやWリーグで仕事をしているが、これも"自分がバスケットボールを通じて何ができるか"と「考えた」ことで全てつながっている。3x3においても「日本代表経験者として、現役を引退したばかりで選手に近い立場として、できることはたくさんあると思いますが、競技の普及で力になりたい」と、伊集氏は話す。

 その中で現在携わる一つが、「3x3委員会」である。これは3x3というカテゴリーを「強化」「普及」「育成」の3つに区分した場合、「普及」と「育成」について話し合う組織のこと。国内で3x3のプレーヤーをどう増やしていくのか、国内でどのような大会を開いて競技を普及していくのかなどを、JBAの枠を超えて競技関係者が集まって会議を行っている。東京オリンピックが終わり、今後に向けて課題も少なくないが「委員会の一人として、3x3の将来を考え、できることをやっていかないといけない」と話す。

 また伊集氏は昨年に続き今年も『3×3 U18日本選手権大会』(12/18-19)の解説を務めることに触れ、競技が若い世代に与えるメリットにも言及。ルール上、ヘッドコーチがベンチに入れないため、試合を重ねるたびに高校生たちが活発にコミュニケーションを取る様子を見てきた経験も踏まえて「自分たちで今の状況をどうにかしなければいけないと考えるアプローチは、スポーツの枠を超えて今後につながる素晴らしい経験になります」と言う。
 だからこそ、若い世代が試合に出やすいように機会を作るのが「私たち大人の役目だと思います」と語った。3人集まれば試合にエントリーできる気軽さも3x3を楽しめる要素の一つ。競技のすそ野を広げ、ゆくゆくは若い世代が伸びてくることで、日本の競技シーン全体が盛り上がる姿を青写真として描く。

競技の未来を創るために……
 このようなに伊集氏は3x3に期待感を寄せている。自分で考える力を養うことができれば、バスケをプレーするだけにとどまらず「大好きなバスケットボールをいかして自分がどうなりたいか」という、なりたい自分になれる可能性を広げられるからだ。

 伊集氏はいま、競技シーンの発展へ「3x3のルーツを学び続け、現場を支えていく姿勢を見せていきたい」という思いを持つ。試合に足を運んで選手たちの様子や会場の雰囲気を知り「少しでも繋げられる役目でありたい」と考えていることも、そのひとつ。ここで言う繋ぐものは、現場と委員会であったり、現場と3x3を応援していきたいというファンや関係者の人たちであったりする。自分にしかない経験をいかして、その役目を果たし、伊集さんはこれからも競技の未来を創っていく。

日本郵政 presents 『Real story behind 3x3』 vol.6 伊集南(デンソー)

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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