TikToker クリスがアシックスジャパンへ…最新モデル「NOVA SURGE LOW 2」に迫る
12月5日――アシックスジャパン株式会社へ、NBA情報でお馴染みの『クリスのバスケ日記』を手掛けるTikTokerクリスがやってきた。目的は、バッシュの最新事情を勉強したいそうだ。同社でバスケットボールシューズの企画を手掛ける案浦萌氏(バスケットボールシューズ 企画担当)へリリースされたばかりの「NOVA SURGE LOW 2」について訊いた。「履きて―!」と呟やいた彼はどんな反応を見せたのか?
【合言葉は「ダンクできるシューズに」】
クリス きょう初めて本社にうかがいました。よろしくお願いいたします!このバッシュ年表、めっちゃ良いですね。
案浦 アシックスが最初に手掛けた競技シューズは、バスケットボールシューズなんです。当時から開発が一番難しいとされていたので、創業者の鬼塚喜八郎がチャレンジしました。ただ、やっぱりどうにもこうにも上手く機能する商品が作れないという壁にぶつかったそうです。そんな時に夕食でタコの酢の物を食べて、ひらめいたと言われています。タコの吸盤を見て「これだ!」と思いついて、その吸盤のように凹んだソールのバスケットボールシューズが1950年に生まれました。
クリス タコの吸盤とは、すごいっすね(笑)。
案浦 そこから少しずつバッシュの形が変わっていき、現代の形に一番近しいものとして生まれたのが、1997年のGELBURSTです。その後、GELHOOPが2001年に発売され、NOVA SURGEシリーズや、UNPRE ARSシリーズというモデルへ行きつきます。
クリス きょうから「NOVA SURGE LOW 2」が販売されたそうですね。
案浦 直営店とEC店舗で先行発売しました。NOVA SURGE LOW 2の一番のこだわりは、とにかく高さを生み出すことです。シューズの開発は商品企画の私だけでなく、開発担当者、デザイナーの3人1組で行うのですが、このモデルのキックオフミーティングで決めた合言葉は「ダンクできるシューズにしよう」なんです!
クリス おーーーーー!良いですね。でも、すみません。アシックスさんがダンクですか!?
案浦 アシックスのバスケットボールシューズは軽いけど、クッション性が無いと言われ続けてきたんですよね。だから、それを覆そうと。前作のNOVA SURGE LOWで少しずつクッション性を支持いただく声はありましたが、もっと評価いただくためにシューズを履いてどういう姿になるのが最も良いのかと考えたら、3人とも「ダンクができる」姿を目指すことになりました。
【アシックス独自の新構造】
クリス 具体的にNOVA SURGE LOW 2はどんな特徴があるんですか?
案浦 まずミッドソールには、NOVA SURGE 3でバスケットボールシューズに初搭載されたFF BLAST PLUSという素材を使ってバウンス性能をアップデートしています。NOVA SURGE LOWで採用したFLYTEFOAM Propelよりも、軽くて反発性のある素材です。これを使って蹴りだし部分となるソール前足部に厚みを持たせて、上に跳ぶ力を高めました。
また、前足部外側には樹脂製のサポートパーツを配置して、横ブレの抑制と、踏み込んだときの力が外側に逃げないようにしてパワーロスを抑えています。
クリス FF BLAST PLUSは、他の競技シューズで使われていたんですか?
案浦 ランニングシューズでよく使われている素材になります。同じ厚み、同じ容量でFLYTEFOAM Propelと比較した場合、より弾みやすいです。ランニングシューズの中でも特にクッション性が重視されて、エントリー層向けのシューズで使われていました。
クリス そうなんですね。履きて―(笑)。
案浦 まだまだ特徴があるんですよ。NOVA SURGE LOW 2では、もう一つ大きなアップデートがあります。アンクル周りを見てください。足首のフィット性にこだわりました。
構造としては、かかと部分ですね。足首をがっちりホールドしてシューズと足の一体感を高めることで跳びやすさにつなげています。かかと部分を触っていただくと、ふかふかなんですよね。前作と比べると、見た目も触り心地も違うんです。
クリス あ、本当だ!全然違う。
案浦 かかと部のスポンジ構造を、低反発素材と高反発素材による2層にしています。低反発素材によってアキレス腱をキュッと挟み込み、高反発素材でホールドしてフィット感を高めました。
クリス 良く考えられているんですね。
案浦 さらに、ここも工夫しています。足首周りのフィット性を上げるために、シューレースと連動するアンクルループがあるの分かりますか?
クリス 確かに。確かに。
案浦 足首周りを囲うようにループレースを配置し、シューレースを引き上げるとキュッと締まってフィット感を一段と向上させてくれるんです。ヒールロックシューレースと呼んでいます。
クリス うわ!本当だ。アシックス独自の新しい構造ですね。
【デザインはマグマ…ヒールループにも注目】
案浦 今回はデザインにもこだわりました。コンセプトはマグマです。「ダンクができるシューズにしよう」というテーマを踏まえて、ダンクが与える衝撃に、マグマが爆発する様子を重ねました。それをグラフィックにして、ヒール部分に表現しています。
クリス カッコいいですね!
案浦 コンセプトカラーを青にしたのは、一般的にマグマは赤のイメージだと思いますが、温度が高くなると炎は青くなるじゃないですか。それだけバスケットボールに対するより熱量の高いプレーヤーに履いてほしいという思いと、青から連想される冷静さ。その二面性を表しました。
あと、プレーヤーがダンクを叩き込むときに見える景色をイメージして、リングを上から見たデザインをヒールループにあしらっています。ここは、開発担当者とデザイナーのすごくこだわったポイントです。
クリス おーーーー!これはさりげないけど、細部までこだわってますね。
クリス アウトソールのパターンは変えているんですか?
案浦 少しだけ変えています。前作は前足部のサイドがせり出してボコボコしているのですが、今回は丸くしています。ただアウトソールの幅はほぼ変わらないです。小さな工夫ですが、アウトソールのN.C.ラバーは標準採用しているものの、部分的にくりぬいています。FF BLAST PLUS(白)が見えているのはそのためです。剛性と軽さを兼ね備えるため努力でもあります。
クリス 目の前のこれらはサンプルですよね?
案浦 全てサンプルです。クリスさんから向かって右からプロトサンプル、ファーストサンプル、最終サンプルの3種類です。
クリス 全部カッコいいな。
案浦 これらのサンプルのはじまりが、デザイナーさんが作ったデザインスケッチになります。どういう構造にしたら効果的なヒールロックができるのか考えて、最終的にループ構造になりましたが、当初はシューズの中にバンドを配置する構造でした。ただ、出来上がったプロトサンプルは見栄えも良くないし、機能的に発現しなかったんですよね。
クリス どうしてプロトサンプルはダメだったんですか?
案浦 私たちがシューズのバリューを判断する方法は、主に2つあります。ひとつは見た目です。バンドの構造にしたものの、お客様が手に取ったときに見えないじゃないですか。パッと見て、良さが伝わるかどうかは商品化への判断基準です。
もう一つは、社内で試し履きをします。神戸のオフィスには体育館があるんですけど――
クリス え!体育館があるんですか?羨ましい(笑)。
案浦 そうなんです(笑)。開発チームの皆さんと履いて動いて、評価をするんです。それでプロトタイプのバンド構造では、ヒールロックが物足りないという結論になりました。
クリス「ループ構造は、ファーストサンプルと最終サンプルでも違いがあるんですか?」
案浦 変わっています。ファーストでは試し履きしているうちに、ループがびよびよにのびてしまったんです。なので、ひもの素材を変えたり、ひもを通すパーツの素材も見直しました。
あとデザイン面でもヒール部分はファーストでは無地でしたが、最終でマグマのデザインを入れてシューズとしての存在感を出しました。
クリス すげえーこだわっていますね。やっぱり、一番苦労したことは――
案浦 どうやってヒールロックを実現するのかです。スポンジ構造はもちろんですが、ヒールロックシューレースはサンプルを作るたびに改善を重ねています。ループレースが機能発現しながらプレーの邪魔をしない作りにするのも、注意を払いました。
【「アシックスらしく無い」…クリスが試し履き】
クリス 開発する中で誰かに履いてもらって感想を聞いているのですか?
案浦 本格的にバスケをやる高校生たちにNOVA SURGE LOW 2を履いてもらいました。これまでも別モデルを履いてもらっていますが、段違いに反応が良かったです。気に入ってくれて、練習中ずっと履く子もたくさんいました。
足を入れたら、その場でポンポン跳んで、ダンクにチャレンジする子もいたぐらいです。そのままリングをつかんでこっちを見てきて「すごいでしょ!」みたいなドヤ顔もしてくれて(笑)。
クリス それ高校生らしいわー(笑)。ポジション別では、どのあたりのプレーヤーにおすすめですか。
案浦 アシックスとして、ポジション別のシューズ作りはしていないんです。シューズの特性やプレーヤーが求める特徴に応じて開発をしているんです。NOVA SURGE LOW 2では、体格の大きな選手にしっかりと履いてもらえるシューズに仕上がっています。このシューズで、高さや空中戦で勝負するビックマンを後押しできると思います。
ただ、いくつか高校を回ったのですが、意外にもハンドラーやシューターの選手も好んで履いてくれたり、女子の選手も気に入ってくれて嬉しかったですね。割と高校生はバッシュを軽さで選ばれるケースが多くて、軽い=良いという固定概念があるようです。
でも、軽いと足にかかる負担も大きくなるんですよね。さまざまな選手からヒアリングをすると、フィット性が高ければ意外と重さは気にならないという声が多いんです。
クリス その声は間違いないですね。
案浦 私たちは体感重量を重要視していますので、ぜひ一度NOVA SURGE LOW 2にも足を入れてほしいです。自分に合うシューズが何かを見極めてほしいというのが、私たちからのメッセージです。これは、2年前から開発が始まったんですよね。
クリス ダンクをしたいと思い始めて――
案浦 そう、2年もです(笑)。
クリス 着用予定の選手はいますか?
案浦 今回のビジュアルモデルには、ballaholicのRYOさんにご協力いただきました。NOVA SURGE LOWのときから気に入っていただいてます。
クリス ちなみに商談でバイヤーやお店の方にも提案すると思うのですが、どんな反応なのか、営業さんから聞いていますか。
案浦 私が商談に同行したときは、お店の方もバスケットボール経験者が多くいらっしゃって、足を入れていただくと「あ、違うね!」と良さを実感いただきました。
クリス きょう俺も履きてーな―(笑)。良いですか?
案浦 もちろん良いですよ!
クリス ではでは。よいしょ、よいしょ(NOVA SURGE LOW 2に足を入れる)……
案浦 どうですか?
クリス あ、あ、、、、良いかも。ん!?すげえな。足首周りのフィット感が半端ない。これはしかも(ソールが聞いていた通り)ぶ厚いっ!!本当ですね。アシックスらしく無いな。確かにいけちゃいそう、ダンクに(笑)。
案浦 いけちゃいそう(笑)。その反応は嬉しいです。
クリス フィット感がすごく良いですね。最近の高校生や大学生はデカイから良いと思うし、プロ選手も良いんじゃないかな。
案浦 開発背景には、選手の大型化に対応する狙いもありました。
クリス ポジションレスの時代ですしね。色々聞いたのに、もしそうでなかったらどうしようと思いました(笑)。でも、これは今までのアシックスと違いますね!本当に色々なポジションの枠を超えて色々なプレーヤーにオススメできるシューズですね!
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INTERVIEWER by Chris
TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Kasim Ericson