• FEATURE
  • 2019.09.07

CAPTURE THE MOMENT|RUI HACHIMURA

NBAプレーヤーの足跡を、イラストとストーリーで辿る「CAPTURE THE MOMENT」。これまで、NBAを退いてなお輝かしい功績を誇る数多くのレジェンドたちをスポーツライターの北舘洋一郎と、イラストレーターの澁谷忠臣によるコラボレーションによって、現役当時の輝かしい瞬間の数々を切り取り、表現してきた。今回のFIBA World Cupでは、DAZNとの特別企画として歴代最強とも謳われるAKATSUKI FIVEにスポットを当て、日本を牽引する若きエース八村塁をフューチャー。

llustration/Tadaomi Shibuya
Text/Yoichiro Kitadate

八村塁は世界トップの素質


 FIBAワールドカップのファーストラウンド、(アメリカ戦はまた別物としてもそれ以外の)トルコ、チェコ戦は八村塁にとっても、日本代表にしても課題が残る試合となった。2試合ともに世界トップクラスには全く歯が立たないという現実を体験した。当たり前である。20年以上も世界を体験してこなかった日本代表なのだから、そう簡単にことは運ばない。
 たとえ、八村がNBAドラフト全体9位で指名されようと、ワールドカップ、そしてオリンピックで勝とうとするならば、それなりの時間がかかるのは当然だ。また、ヨーロッパ勢との戦いはアメリカと戦うのとも別物で厄介だ。あのアメリカですら「ヨーロッパのチームは一筋縄ではいかない」と緻密なスカウティングから始まり、選手たちへの対策の徹底も相当なものだと聞く。トルコが延長戦までアメリカを苦しめたことをみればその通りなのだ。

 八村にしてみても、NBA選手としてのNBAでの戦い方、日本代表として世界の代表チームとの戦い方、この質の違うバスケットボールを経験することは、これからどんどん大事になってくる。
 トルコ戦では31分プレーして15得点を挙げた八村だが、NBAキャリアも豊富な32歳のイリヤソバにマッチアップされ完全に守られた。イリヤソバは10代の頃から代表入りしており世界大会で多くの経験を積んできた。またNBAでも8回の移籍を経験し、ジャーニーマンとしていぶし銀のうまさも持つ。
 トルコのベンチからの指示は「前半で日本の手の内はすべて分かるから、そこまではディフェンスで耐えて、後半はアグレッシブにいこう」だったそうだ。バスケットボールキャリアの問題ではなく、世界大会での勝ち方をまだ掴んでいない日本が、後半には自ら崩壊するまで我慢して主導権を握ったのがトルコだった。
 八村は試合2日前に発熱があってコンディションが整っていなかったということも不利に働いたかもしれない。しかし、トルコの八村封じをチームとしても八村自身も打破することはなかった。
 
 トルコ戦の反省を踏まえ、チェコ戦ですぐにアジャストしてくる八村はなかなかのものだった。34分出場で21点。2P成功率73%という素晴らしいスタッツも残した。しかし、オフェンスにおいてチームとしていい状況で、ローポストの八村にボールを集めることに日本は苦労した。
 ポイントガードも2mクラスで、フィジカルも強いチェコの守りにボール回しからゴールアタックまでオフェンスのすべてでテンポが崩れた。高さのあるチェコはオフェンスリバウンドも強く、セカンドチャンスを狙ってくるため、日本は得意のトランジッションオフェンスを出せなかった。トルコ戦よりは点差はつかずに試合は終わったが、ゲーム内容はそう変わらず、ヨーロッパ流のバスケットボールに敵わなかったと言うしかなかった。

 八村のサイズ、身体能力、オフェンス力。これらの部分では今後の伸び代も加味すれば、トルコ、チェコにいたNBA選手たちよりも大きなポテンシャルを持つことはよく分かった。ドラフト9位で選ばれるだけの資質を持つことをプロのコーチ陣、スカウト、そして同じコートでプレーする世界トップの選手たちは十分にそれを感じただろう。
 八村が日本のエースとしての自覚をより高め、ワンマンチームと言われるぐらいでもいいから得点にこだわれるかが、これからさらに必要になるだろう。他の代表チームを見ても世界大会で平均20点以上のスコアを残せる選手はそうはいない。その稀有な選手たちのなかに八村はもう仲間入りしているわけで、おそらく日本のチームメイトも八村が果敢にスコアリングすることが勝利への貢献と考えているはずだ。

 今回のワールドカップは、まずは今の日本代表が世界の土俵に立てた、そして世界を体感できたということで十分なのかもしれない。なぜなら東京オリンピックまでのあと1年で、どう進化するかが見られるのだから。
名将フィル・ジャクソンは「バスケットボールは1年や2年プロをやった選手が簡単に勝ち上がっていける世界じゃない」と言っていた。その通りである。バスケットボールに番狂わせが少ないのはそういうことだ。
 八村の3年後、5年後。そして日本代表の3年後、5年後に光が見えるということが分かっただけでも、このワールドカップでプレーする意味は大きかったのではないだろうか。

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