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  • 2024.10.23

「良い意味でアシックスらしくない履き心地」…企画担当者が明かすNOVA SURGE 3のこだわり

アシックスのバッシュと言えば、軽くてガードタイプの選手に支持される印象だったが、最新モデルにはこれまでと一線を画すプロダクトが並ぶ。クッション性やバウンス性能を高めた「NOVA SURGE 3」もそのひとつだ。アシックスジャパン株式会社でバスケットボールシューズの企画を手掛ける案浦萌氏(カテゴリー統括部 コアパフォーマンススポーツフットウエア部 プランニングチーム所属)に、プロダクトのこだわりをうかがった。

企画担当者が明かす開発の背景
 アシックスによる招待制トーナメント「GRIP」(グリップ)でボーラーたちの足元を支えた「NOVA SURGE 3」(ノヴァ サージ スリー)や「NOVA SURGE LOW」(ノヴァ サージ ロー)「UNPRE ARS 2」(アンプレ アルス ツー)は、同社のバスケットボールシューズの中でハイレベルの性能をもつモデルだ。プロ選手やストリートボーラーにも支持されるシューズは、選手が目指すプレースタイルから逆算して開発されている。

 UNPRE ARSシリーズが平面での動きや切り返しをサポートする機能によって素早く安定的なプレーを叶えるシューズに対して、NOVA SURGEシリーズはジャンプをアシストするべくクッション性やバウンス性能を高めた一足だ。もともとアシックスのバッシュと言えば、軽くてやわらかく、接地感が支持されるプロダクトが多かっただけに、一線を画すプロダクトになった。

 開発背景について、案浦萌氏は「アシックスバスケットボールのシューズは競技をはじめたエントリー層から支持を得ていますが、クッション性の物足りなさを感じてか、体が大きくなったり、競技レベルが上がると、ユーザーが他のブランドに流れる傾向がありました。成長した選手のニーズにも応えられるシューズを作ろうと、NOVA SURGEやUNPRE ARSシリーズが生まれました」と説明する。

「大波のように大きな動きで相手を凌駕する」
 とりわけNOVA SURGE 3は、初代モデルから進化を続けてクッション性とバウンス性能をさらに高めた一足に仕上がった。開発にあたっては案浦氏のほか、デザイナーと開発担当者の三者がタッグを組んで着手。製品名の「NOVA=新星」「SURGE=波」を意味しており、シューズを履いた選手が「大波のように大きな動きで相手を凌駕する」というコンセプトがあると言う。

 それはシューズのデザインにも落としこまれている。ファーストカラーの「ホワイト×ブライトシアン」を手に取ってみると、波のうねりが随所に表現され、くるぶし部分のアシックスのマークや前足部外側に配置された樹脂製のサポートパーツもブルーのマーブル柄があしらわれている。
 
 案浦氏は「コンセプトをシューズに入れてもらいたいと一番にこだわって、デザインやパーツの形状には開発の想いを乗せました」と明かす。同氏は、シューズの企画に携わる前にマーケティング部に所属して、製品の魅力を発信する立場だっただけに「シューズにはこだわりがたくさんあります。実は……で終わらせず、その良さをユーザーの方が誰かに話してくれたら良いなと考えながら、もの作りをやっていて、私も社内外で伝えるようにしています」とも話した。語りたくなる機能が凝縮されているのだ。

アシックスの技術が詰まった「NOVA SURGE 3」
 NOVA SURGE 3の機能面に焦点を当てると、大きな特徴は同社のバッシュの中で最も厚いソールにある。ミッドソールには前作のNOVA SURGE 2で使ったFLYTEFOAM Propel(フライトフォーム プロペル)から、軽量で反発性にすぐれたFF BLAST PLUS(エフエフ ブラスト プラス)を採用。ランニングシューズなどで採用された素材を、バスケットボールシューズで初めて使ったという。

 案浦氏によると、NOVA SURGE 2の時点で高いクッション性にユーザーから好評の声が寄せられていたそうだが、ブランドとしてさらに良いものづくりにこだわった。「もっと上に跳ぶ能力を評価いただけるシューズを目指そうと社内で議論があったので“バウンス”に注力したのが、NOVA SURGE 3です」と説く。

 そして、NOVA SURGE 2に比べて“NOVA SURGE 3”はより高いジャンプの実現をサポートするため、ソールの「つま先が反り上がる位置」にもこだわった。蹴りだすときは母趾球から足のゆびにかけて力がかかるわけだが、その部分が最も厚くなるよう設計したという。前作と比較してみると、その位置がやや前になっている作りが分かる。

 また、ソールの前側が丸みを帯びた形状になっているが、このラウンド構造も同社のテクノロジーのひとつだという。バレーボール男子日本代表の西田有志が着用する「METARISE」に採用された構造で、踏み込んでしっかりとミッドソールにかかった力をジャンプで縦方向に跳ぶ力へ伝える役割をもつ。 

 さらに、ソールの厚みが増してクッション性が増せば、かかった力が外に逃げてしまう懸念もあるが、それを前足部外側に樹脂製のサポートパーツを配置して対処した。これによって動きの切り返しで横ブレを抑制するだけでなく、踏み込み時にかかる力をソールに貯めるため、パワーロスを抑えてジャンプをサポートする。

 案浦氏は「各競技で機能発現をした構造や素材を横展開して取り入れる取り組みは、よくあること」とも話しており、アシックスのもの作りの文化がこの一足に詰まっているとも言えるだろう。

 加えて見逃してしまいそうだが、かかと抜けしないようサポートも手厚い。ホールド性を高めるため、履き口まわりに厚みのあるスポンジを配置しただけでなく、シューズ内部のかかと周りには起毛人工材が施してある。手を入れて触れてみると、スエードのような感触がある。同氏は「ここを起毛素材にすることで、シューズと靴下がかみ合ってシューズ内でのズレを防ぐ効果がある」と、ディテールへのこだわりも明かした。

開発の苦労も…女子のユーザーから好評の声も
 一方で、製品化までには苦労もあった。なにせ、FF BLAST PLUSの採用されたバスケットボールシューズは今作が初めて。素材選びからソールの形状、厚み、硬度などまで前例が無かっただけに、複数のプロトタイプを作って「搭載した機能がバスケットボールの動きの中でポジティブに働くのか」を入念に検証したという。契約アスリートの張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ所属)や部活動に打ち込む高校生らに試し履きを依頼して、履き心地の徹底的なヒアリングと改良によって製品化へこぎ着けた。

 そんな甲斐もあって、販売を開始してからのポジティブな反応に喜びも大きいという。好調な売れ行きとともに、これまでのNOVA SURGEを履いたユーザーから進化したバウンス性能に好評の声が上がり、NOVA SURGE 3を初めて履いたユーザーからも「褒め言葉」として「良い意味でアシックスらしくない」という言葉で、履き心地が受け入れられているそうだ。「意外に女の子プレーヤーからの反応も良い」とも案浦氏は明かし、アシックスバスケットボールがもつ新しい価値を、さまざまなユーザーが感じている様子に手ごたえも感じている。

 NOVA SURGE 3は現在「ホワイト×ブライトシアン」「ブラック×アイスミント」のほか、新色として「グレープフルーツ×パパイヤ」を発売している。トレンドカラーの淡いピンクが印象的な一足だ。

詳細はアシックス公式ストアをチェック!

 かつて同社のバッシュと言えばホワイトが主流だったが、会社として新たな取り組みや市場の変化が、新しいアシックスバスケットボールの価値観を生んでいった。「SOMECITYとのパートナーシップがスタートして、ballaholicとのコラボレーションがはじまり、ストリートボーラーの皆さんが履く機会も多くなってきました。若い世代も白や黒以外のバッシュを履く選手が増えていますよね。アシックスが出すピンクなどカラーものも“かっこいいじゃん”と思っていただけると嬉しいです」と、案浦氏は想いの丈も明かした。

 アシックスのものづくりの強みが結集して生れたNOVA SURGE 3。同社の歴代バスケットボールシューズと一線を画すプロダクトは、身長や体格の大きなプレーヤー、クッション性を求める多様なユーザーにこれからより一層支持される一足になっていくはずだ。

【商品情報】NOVA SURGE 3(リンクはアシックスジャンプ公式ホームページ)

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「良い意味でアシックスらしくない履き心地」…企画担当者が明かすNOVA SURGE 3のこだわり

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by Kasim Ericson

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