バスケ愛に感化されて…アシックスバスケットボールのMD担当者がMIDTOWN KRAKENSに注いだ情熱
MIDTOWN KRAKENS(ミッドタウン クラーケンズ)は、アシックスバスケットボールが生んだ新しいアパレルラインだ。ものづくりにこだわる同社が課題と向き合い、苦労の末に商品化へこぎ着けたという。手掛けた一人、飯島健次氏(カテゴリー統括部 アパレル・エクィップメント部 MDチーム所属)に、その舞台裏をうかがった。バスケ愛を持つ選手やボーラーに対して「愛で応えなくちゃいけない」と話す熱き担当者の思いとは…?
市場で苦戦したアパレル…脱却のために
アシックスバスケットボールと言えば、世代もカテゴリーも超えて支持されるバスケットボールブランドである。かつては競技バスケで愛用される印象が強かったものの、2018年にSOMECITYと結んだパートナーシップを機に、ストリートボールシーンでも目にするようになってきた。ことし9月には招待制の5on5トーナメント「GRIP」(グリップ)を初開催して、ボーラーたちをサポートした取り組みも記憶に新しい。
これも、こだわったプロダクトを出し続けてきた結果と言えるだろう。アパレルを手掛ける飯島健次氏は、そのこだわりの源が現場にあるそうだ。学生やプロ、ストリーボールなどさまざまな試合へ足を運ぶ中で、カテゴリーを問わず“熱量”を感じている。同氏は「それがどこから生まれているのかと言えば、僕は選手やボーラーが持つバスケットボールに対する“愛”だと思います。愛を持っている人たちに対して、僕たちは“愛”で応えなくちゃいけない。この気持ちで、ものづくりに情熱を注ぎます」と照れくさそうに言う。
ただ、その愛を持ちながらも、アパレルはシューズに比べると市場で苦戦していたと明かす。同社の売上に占める構成比はごく僅かだったそうだ。とは言えMDチームとしては、この状況から脱却をしたい。厳しい製品試験をクリアして世に出されたプロダクトに対して価値を感じているユーザーがいる半面、リサーチによって“ダサい”や“泥臭い”などといったネガティブなイメージが浮き彫りにもなった。
アシックスのものづくりのDNAをいかしながら、ユーザーから支持され、選手やボーラーたちをかっこよく魅せるアパレルはどうしたら作れるのか。この課題へ向き合った末に2022年よりローンチされたのが、MIDTOWN KRAKENSだった。
MIDTOWN KRAKENSにこめた思い
まず、これまでのアシックスバスケットボールのインラインと一線を画すMIDTOWN KRAKENSを象徴するのが、たこをデザインモチーフとしたロゴマークである。これには、アシックスのルーツが詰まっているという。
遡ること半世紀以上前のこと。戦後、創業者の鬼塚喜八郎氏が会社を立ち上げて開発したのが、まずバスケットボールシューズだった。晩酌中にたこの酢の物を見て、その吸盤がとても吸い付くことに発想を得て、吸着盤型バスケットボールシューズが生まれたという逸話があるほどだ。
令和になった今、MIDTOWN KRAKENSの開発では、たこからインスパイアされた深海の魔物クラーケンズに着目。本来、架空の生き物とされているが、大海原に出ようという気持ちを持った者たちを、実は後押ししていたのではないかと解釈して、ロゴマークのモチーフに採用した。飯島氏は「競争の激しいバスケットボールのアパレルカテゴリーへ、もう一度挑戦する我々を後押ししてほしいという思いを重ねました」と振り返る。
さらに、MIDTOWN KRAKENSではたこの8本足になぞらえて、アパレルを着る8人の架空のキャラクターを立ち上げた。彼らを、アシックスとともにバスケットボール界に新たな風を吹かせたいという思いを抱く架空のストリートボールチームのボーラーと位置づけたのだ。アシックスを前面に出すよりも、個性豊かなキャラクターを起点にユーザーへ“かっこいい”と感じてもらえる世界観を描いた。
先日の5on5トーナメント「GRIP」は、その世界観をまさに表現した場になったのだ。キャラクターが、実際のボーラーとなってMIDTOWN KRAKENSのコレクションを着て躍動する。偶像からリアルを表現するシーンが生まれ、飯島氏も感慨深いものを感じたという。
そして特に輝きを放った8人には、MIDTOWN KRAKENSの称号が与えられた。MVPに選ばれた346(OSAKA KRAKENS:GRIPの出場チーム名。以下同じ)を筆頭に、YU(同)、Isamu(HYOGO KRAKENS)、GenGen(TOKYO KRAKENS)、IKUTO(同)といったストリートボーラーのほか、5人制の競技バスケを主戦場に戦うICHIRO(BUBBLES)、RIO(同)、Omachi(同)も名を連ねた。いずれも高いスキルと強い個性を兼ね備える面々だ。
ものづくりのこだわり…「かっこ良さを求める方たち」へ
そんなMIDTOWN KRAKENSの2024コレクションは、タンクトップ、ショートスリーブトップ、ライトウエイトショーツ、ソックス25の全4アイテムという商品構成になっている。インラインと差別化して、製品化へこぎ着けた。飯島氏は「スポーツはするけど、ファッションや流行にアンテナを張って、おしゃれやかっこ良さを求める方たちに選んでいただけるようなアイテムを作っています」と話す。
コレクションのカラーは、流行色の淡いカラーを採用している。インラインのプロダクトだと、白や黒、ネイビーが定番色であるが、ここでは遊び心も取り入れてみた。
タンクトップ、ショートスリーブトップなどの商品を手に取ってみると、肌触りがとても良い。ドライ素材を使用して機能面はそのままに「着心地」にこだわった甲斐もあって、コットンライクな生地感はユーザーから好評の声が上がる。身幅や着丈もインラインと比較して長めの着丈、広めの胸囲設定を採用。きっちりしがちなスポーツアパレルのシルエットから脱却を図った。胸のアシックスのロゴも、ボディに馴染むカラートーンであしらわれている。
ライトウエイトショーツも、インラインと違いのある仕上がりになった。股上が深く、股下約15cm(Lサイズの場合)のショート丈のパンツとなっており、素材も軽量感のある布帛を採用。裾ラインのデザインはサイドにカットワークを入れ、前身両サイドにスラッシュポケットを配置している。ストリートボーラーたちに「良い評価を得ている」と飯島氏は言う。
また、よく見てみるとショーツのピスネームやアシックススパイラルロゴは背面に入っていた。飯島氏曰く、タンクトップやスリーブトップと「上下のセットアップで着てほしかった」と話し、どう見えるかをデザイン画の段階で入念に検討したとのこと。「くどい印象にならないよう考えました」と説く。
さらに、タンクトップやスリーブトップでもアシックススパイラルロゴは前面ではなく、袖口にあしらった。同社では製品のどこかにそのロゴを入れる規定がある中で、飯島氏は「やっぱりお店で服を買うときは、かっこいいから買うと思うんですよね。MIDTOWN KRAKENSもそうしたくて、結果的に商品タグを見たらアシックスで、それならば縫製面や素材面もやっぱり良いよねと思ってもらえるストーリーにしたかったんです」と語ってくれた。
ソックスも、インラインの売れ筋品番であるアーチサポート設計のある、裏地がパイル生地のクッション性に優れたタイプを採用。丈もボーラーに好まれる25センチに設定して、履き口も折り返して着用することができる仕様にしている。
好調な売れ行き、次世代に向けて展開も
一方でMIDTOWN KRAKENSが日の目を見るまで苦労もあった。ものづくりには自信があったが、売上が苦戦していたアパレルの新企画になるため、アシックスジャパンはもちろん、グローバル本社の経営陣に対しても承認してもらう必要があった。
それでもMDチームのメンバーと飯島氏は、MIDTOWN KRAKENSのコンセプトや目指す世界観を分かりやすく伝える工夫に努め、数々の関所を突破して、企画のGOサインを得た。「アシックス創業者の鬼塚さんがよく話をしていた“チャレンジャー精神”を私たちが持っていると、経営陣に思っていただけたのかなと感じています。MDチームとしての熱い思いが伝わって、商品化を認めていただきました」と、当時を振り返る。
現在、売れ行きも好調に推移しているそうで、一部の品番は想定を超える売れ行きで早々に完売した。MIDTOWN KRAKENSの世界観を店頭で表現できる小売店に絞った販売戦略が功を奏したほか「SOMECITYのボーラーの皆さんに着ていただいた効果はあると感じています。本当にかっこ良く着ていただきました」と飯島氏は喜んだ。人気は海も超えており、今、中国からも取り扱いの相談が届いているという。
さらに今、2026年の商品企画も検討が始まっている。MIDTOWN KRAKENSはファッション感度の高いバスケットボールプレーヤーに対して求めているものを提供していきたいという考えのため、従来のスポーツアパレルでお決まりの春夏と秋冬の年2回のコレクションという枠組みにこだわらないそうだ。
その一例としては、Tシャツの展開強化も示唆している。「シーズンの最初とシーズンの終わりで違うカラーを投入していければと考えています。お店にとっては鮮度の高い売り場を作れますし、ユーザーは飽きが来ないでしょう。シーズンを通してMIDTOWN KRAKENSを楽しんでいただけるのではないでしょうか」と話す。
そして、将来を見すえてジュニアカテゴリーの展開にも意欲的だ。飯島氏は他競技のアパレルも手掛けるそうだが、バスケットボールは特に「世代が次につながりやすいスポーツ」と感じている。少子高齢化などスポーツを取り巻く環境が変わる中でも、売上が堅調なカテゴリーであり、学校体育で触れる機会の多いスポーツであることも影響しているだろう。同氏は「お父さんやお母さんと子どもたちが一緒にMIDTOWN KRAKENSのアパレルを着て、バスケをやる場面があったらいいなと思っています」と夢を描いている。
バスケットボール愛を持った選手・ボーラーへ、愛を持ってものづくりに取り組んできたMD担当・飯島健次。その情熱は次世代にも向けられ、これからもアシックスバスケットボールの新境地を切り開いていくに違いない。
【商品情報】MIDTOWN KRAKENS(リンクはアシックスジャパン公式ホームページ)
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- バスケ愛に感化されて…アシックスバスケットボールのMD担当者がMIDTOWN KRAKENSに注いだ情熱
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Kasim Ericson