3×3新大会『F1 Tournament』開幕、彼が3人制で競技復帰した理由
日本で3×3の2020シーズンがはじまった――Withコロナで動き出した『F1 Tournament』という大会である。耳慣れない方もいるだろうが、今年2月以来となる3人制の公式戦である。お馴染みのメンツが久しぶりに顔をそろえる中、3x3デビューを飾ったプロキャリアを持つ選手がいた。1年のブランク。引退当初は復帰するつもりはなかったという彼はなぜ戻ってきたのか?
全国8か所のツアー大会
3x3のシーズン開幕を告げる大会と言っていいだろう。9月12日に『F1 Tournament』の第1戦となるKANAGAWA ROUNDがカルッツかわさきで開催された。新型コロナウイルス感染症の影響で、3人制の公式戦は今年2月の3x3日本選手権以来だ。大会は日本バスケットボール協会(JBA)および開催地で定められている新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインに基づいて、運営された。そのため無観客試合になったが、選手たちは待望のゲームができる喜びを嚙みしめながら、激しい攻防を繰り広げた。
まず『F1 Tournament』と聞いて、耳慣れない方もいることだろう。ここで大会概要に触れておきたい。これは昨夏、UTSUNOMIYA BREX.EXEが優勝を飾ったツアー大会『3x3 O&M Satellite games』のオーガナイザーによる新大会である。KANAGAWA ROUNDを含めて、全国7か所で予選を実施予定。各地の優勝チームが10月24日に新木場で行われるFINALでツアー優勝を争う。
新生BEEFMANが優勝
9チームがエントリーしたKANAGAWA ROUND。久しぶりのガチンコ勝負だったせいか、硬さの見られるゲームもあったが、大会は徐々に熱を帯びていく。予選を勝ち上がって、準決勝ではBEEFMANがMINAKAMI TOWNを21-18で振り切り、もう一方ではKOTO PHOENIXがALBORADAを21-15で破った。
そしてシーズン最初の決勝戦。BEEFMANが一時はリードを奪うも、KOTO PHOENIXは柴田政勝(#0)や伊藤尚人(#13)の反撃によって終盤には19-19のタイに持ち込む。さらに相手から2本のフリースローを獲得。決めればKO勝利という絶好調のチャンスとなったが、成功は1本に終わる。これで難を逃れたBEEFMANはすぐさま同点に追いつき、守備ではノーファウルで防ぎきると、21点目をもぎ取って敗戦濃厚から一転、優勝をつかみ取った。
もっとも彼らにとってこの日は新メンバーで初めて挑み、久々に勝ち切ることができた大会とあって、喜びもひとしおだ。チームを引っ張る野呂竜比人(#1)は「新しいBEEFMANでどんな大会でも優勝したかった。だから今日は久しぶりに勝つことができて、嬉しかったです」と充実した表情を見せてくれた。コロナ禍でシーズン開始が遅れたことで、予定していた若手選手たちは5人制の所属先へ合流したため、チーム編成は苦労したという。そんな中、野呂と高島一貴(#9)のコアメンバーに、5人制でプロキャリアを持つ湊谷安玲久司朱(#12)と岩田涼太(#22)という3人制ではルーキーとなる2人を迎えて大会を乗り切った。「トライ&エラーを繰り返して結束力、チーム力を高めないといけない(野呂)」と試行錯誤の段階であるが、彼らはこれまで関わりの深い者同士。高島と湊谷、岩田はBリーグ初年度、横浜ビー・コルセアーズでB1の苦楽を分かち合い、野呂と岩田は大学の先輩・後輩の間柄。さらに野呂と湊谷は高校時代からお互いを知る1988年生まれの同級生である。「同じ土俵に立つまで10年ぐらいかかりましたけど、来てくれて心強いし、ありがたいです。僕の良くないところを素直に言ってくれます(野呂)」と頼もしい存在だ。
ブランクは1年、競技復帰をした理由
ただ湊谷自身、Bリーグ2018-2019シーズンに現役を引退した際には、「また体を作ってバスケをやることはない」と本気バスケをすることは考えていなかったと明かす。しかし家業がきっかけで、彼は再びコートへ導かれる。引退後は実家を継いで『西京漬け湊屋』を営んでいるが、経営に関する相談をBEEFMANのオーナーである住建情報センター社長の小泉秀昭氏にしていたという。その過程で、彼が厳選する西京漬けの定期便セットに200件のオーダーが入れば競技復帰という企画がスタート。そして「この話し合いをしたときに、BEEFMANの練習に少し参加させてもらったんですよ。(そうして)いざ、バスケをまたやり出すと、負けず嫌いな気持ちが自分の中で出てきちゃったんですよね。しかも3x3は楽しかった」と、バスケに対する気持ちが再燃。オーダーも達成となって、「無事に応援してくださる方に申し込みをしていただきました。またバスケができるようになって本当に感謝しています」と、2年ぶりに選手となった。
しかしプロキャリアがあるとは言え、1年のブランク。大会後には苦笑いを浮かべて「びっくりするぐらいキツかった……」と、3人制の攻防に耐えうる体力を取り戻すには道半ば。彼曰く理想の状態に対して「まだ40%程度」の戻り具合だと言う。ただそれでも自分の間合いでバスを受ければ、精度の高いシュートを連発。決勝をクロージングした21点目は湊谷によるものだ。復帰にあたり「いろいろな方に“3×3できるの?”と言われてます。ちょっとそれも見返さないといけないですね」と外野の声もエネルギーに変えるつもりだ。この先に向けて、「チームが1つでも多く優勝できるように、僕のいままでの経験をチームに伝えることができればと思っています。コロナで大変な世の中ですが、選手もファンの皆さんもバスケ界が盛り上がるように、一緒になってやっていきましょう」と話す。3×3でアレクが一歩を踏み出した。
WithコロナのNEWトーナメントを楽しもう
『F1 Tournament』の第2戦は9月20日にHACHIOJI ROUND、第3戦は9月21日にCHIBA ROUNDが行われる。コロナ禍の大会運営であるため、定められたガイドラインに沿って慎重に進めていかねばならず、オーガナイザーや選手たちにとっては、これまでと勝手の違うところもあって難しさを感じることもあるだろう。だが一方で、バチバチのゲームがある日常は控え目に言っても最高だ。現地へ向かうことはできないが、ファン・ブースターにとってもそれは同じ気持ちだろうFINALに向けて、WithコロナのNEWトーナメントを、それぞれがベストな取り組みをしながら、楽しんでいきたい。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi