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  • 2025.06.16

アジアの3×3最前線…「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」取材記総括

国内シーンから代表、世界まで一本の道に
 待ちわびた景色だった――3月30日に最終日を迎えたアジアの3×3 No.1を決める「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」の表彰式でのこと。ついに3×3日本代表の姿があった。

 女子代表の#3 高橋芙由子(164cm/FLOWLISH GUNMA)、#5 鶴見彩(165cm/MAURICE LACROIX)、#10 西ファトゥマ七南(175cm/早稲田大学)、#12 野口佑季(173cm/boldiiies)が銀メダルを受け取り、高橋はTeam of the Tournament(以下大会ベスト3)に選ばれた。5人制から3×3へ転向して国内で競技経験を積んだ彼女が、大会最多の39得点を叩き出し、アジアを代表する選手の一人になったのだ。2019年大会の銅メダル獲得に貢献し、大会ベスト3に選ばれた経験を持つ伊集南コーチが今大会の女子代表を支えて、選手たちがその歴史を塗り替えていった巡り合わせも印象的だ。


 ただ、高橋本人は表彰式の数十分前には「めっちゃ悔しい」とミックスゾーンで明かしていた。準々決勝で韓国を21-11で下し、準決勝でフィリピンに21-9で快勝。それでも、金メダルを懸けて戦ったオーストラリアには17-21で敗戦。高橋は試合を振り返る。

「戦術としては、オーストラリアに対して2メンゲームを多くする、スクリーンプレーを増やしていくプランがありましたが、結果的にはそのプレーを作ったときに相手のプレッシャーに押されて負けてしまって。選手間の距離が長くなってしまって(パスが通らず)スティールされて、ターンオーバーが増えたのが今回の敗因になったと思います」

 それでも、3×3をメインに戦う女子選手たちが新たな日本の歴史を作った価値は大きい。決勝で野口がダイブしてゴールを決めるなど、ペイントエリアでの得点につながったパスに対してつけられる“キーアシスト”が「5」を数えた結果は、チームオフェンスができた証のひとつだ。高橋は「コーチがいない中で、お互いがいろんなチームでやり合って、高め合ってきた経験が準備期間は短かった中でも、チームを作り上げられた要因だと思います」と言う。国内の女子3×3現場が代表までつながり、世界と戦える。その道を示す銀メダルになった。

可能性を示した男子。継続した強化を望む
 一方で、男子代表は最終順位を4位で終えた。#13 小澤崚(ALPHAS/177㎝)、#24 仲西佑起(UTSUNOMIYA BREX/191㎝)、#15 井後健矢(SAGAMIHARA PROCESS / HIU ZEROCKETS/198㎝)、#7 出羽崚一(SHINAGAWACC WILDCATS/現ZETHREE ISHIKAWA/190㎝)という、3×3の現場組によって本戦予選でオーストラリア、イランを破る結果を残しただけに、メダル獲得の期待は大きかった。


 結果を振り返ると、準々決勝ではシンガポールに21-17で競り勝ち、準決勝で中国にインサイドゲームに持ち込まれて15-19で敗戦。3位決定戦ではニュージーランドに18-21と及ばなかった。銅メダルを獲得した2018年大会と同じニュージーランド戦という状況で、ついに歴史が動くと思ったが、甘くなかった。
 

 オセアニアの強豪は過去、フィジカルを強調するスタイルだったが、今回は若い選手たちが2ポイントシュートと、ピック&ダイブも有効に使うスタイルに変貌。小澤によるとアウトサイドを警戒してオフボールから徹底してディフェンスをする考えはチームの共通認識だったそうだが「リバウンドや球際で、あと一歩足が出なくて、結果的にそこで2ポイントシュートにつながったところもありました」と悔やんだ。プランを徹底できなかった「選手の責任です」と、振り絞る言葉には男子3×3シーンを背負って立つ覚悟を改めて感じた。

 ただ、小澤は大会ベスト3に選ばれた。選出にあたってはP-VAL (Player value)という得点やアシスト、リバウンド、ターンオーバーなど選手の総合的な活躍に基づくスタッツで、彼が全選手中トップだったからだ。大会最多51点を積み上げたが、キーアシストも同最多10本を記録。マークを引き付けた先に仲西、出羽、井後がペイントで得点を奪ったからこその数字にもなる。1試合あたりの平均ターンオーバーも1.2と、P-VALの上位5選手の中では最小。チームとしても出場国中2番目に少ない3.4だった。

 小澤の圧倒的な活躍は言うまでもないが、チームオフェンスが遺憾なく発揮されたことを考えれば、攻撃的なスタイルは再現性の高いものであると示す兆しにはなったのではないだろうか。もちろん、メダルという結果をつかんで自分たちの価値を証明してほしかったという思いは偽りのない気持ちであり、頂点に立つまでに必要な選手たちのフィジカル、戦術、ディフェンス、コンセプトにあった選手育成などまだまだやることはある。だからこそ、この日本のスタイルを突き詰めるため、継続した強化を切に願う。
 
通算5度目の王者が感じた世界とアジアの違い
 そんな男女の日本代表と対戦した王者たちの姿にも目を向けたい。今大会の優勝はいずれもオーストラリア代表だ。お互い通算5度目のアジア王者になった。男子代表の#7 Dillon Stith (ディロン・スタイス/201㎝)にAsia Cupの振り返りを訊くと日本の爪痕が残っていた。

「日本に負けたとき、彼らは素晴らしい試合をしたんです。それが今日の決勝トーナメント3試合をより厳しいものにしました。モンゴルとは早く対戦(=準々決勝)することになりました。日本との試合が終わった夜に試合のビデオを見直して、戦略を少し変えて、自信を持って今日の試合に臨みました。ですから、優勝できて本当に嬉しいです」

 戦前、今回のオーストラリア代表はタイで開催されたFIBAの新大会「FIBA 3×3 Champions Cup 2025」に出場。強豪国がいる中、銅メダルを獲得していた。Stithらシンガポールにやってきた3人はその優勝メンバーで経験こそ浅いものの、Asia Cupでは強さを見せると予想したが、その見立ては外れた。何がそうさせたのか。Champions CupとAsia Cupの違いをStithへ尋ねてみると、とても興味深い。

「我々にとってチャンピオンズカップは、3×3で初めて一緒にプレーした大会でした。ですから、大きな学びの場となりました。世界トップクラスの国々と戦いながら、同時に学ぶことで私たちは多くの自信を持ち、アジアカップにも持ち込みましたが、ここでは各国のシュート力が素晴らしかったです。日本はシュートを外さなかったし、中国もそうです。多くのチームにとって素晴らしいシューティングトーナメントだったと思います」

 彼の言葉を聞いてスタッツを振り返ると、日本は1ポイントの成功率が68%(40/60)で出場国中トップ。2ポイントの成功率も34%(21/62)で2位という好成績だったことも添えておきたい。

選手たちも言葉が弾む…女子3×3のいま
 そしてStithだけでなく、3×3女子オーストラリア代表の#21 Marina Whittle (マリーナ・ウィトル/180㎝)も日本の戦いぶりを称えた。「日本は私たちを本当に追い詰めたし、本当に良い試合だったと思います。あの試合に出られたことを嬉しく思っているし、一時は本当に勝つのが難しかったわ」と語った。

 加えて、Whittleへ東南アジアが持つ3×3の可能性についても訊いた。日本だけでなく、タイも準々決勝でオーストラリアを苦しめ、フィリピンも3人で果敢に挑んでいた姿があったからだ。オーストラリアの大黒柱の語り口は、ちょっと楽しそうだった。

「ええ、確かに。ベトナム、フィリピン、タイ、モンゴルには大きな可能性があり、3×3にフォーカスしている国がたくさんあります。どんどん強くなっていると思いますよ。今年の大会では決勝戦に誰が進むか分からないような展開でした。タイやフィリピンとの対戦では、こちらもかなり緊張しましたね。今大会で負傷した(フィリピンの)選手には、最高の回復を願っています。これらの国々は成功の可能性が非常に高く、ワクワクします。大会に参加してくれてありがとう」

 そんなオーストラリアと対戦したタイ代表は、今大会をどう振り返っているのか。13-21で敗れた準々決勝のあとに、#8 Supavadee Kunchuan(スパバディー・クンチュアン/178cm)に取材する機会に恵まれた。

 彼女は「最後の2分間は疲れ果ててしまって、オーストラリアのような力強いプレーができなかったです」と話したが、至って前向きだった。「それ以外は自分のチームを誇りに思います。私たちは素晴らしいことを成し遂げているし、もっとトレーニングを積んで頑張りたい」と。Champions Cupで同国はフランスを破っており、いま3×3にどんどん注目が集まっているのだ。

 Kunchuanは「特にタイの若い子どもたちには(5on5より)3×3の方が人気があります」と、母国の様子を話すとともに、アジアの3×3熱も感じている。Whittleのときもそうだったが、やはり選手へ3×3が持つ可能性を尋ねると、言葉に熱を帯びているのが印象的だった。

「私たちは、3×3でプレーする選手たちがほとんどです。ご存知のように、いま3×3が流行っていて、とてもクールですよね。特にアジアでは今、すごくすごく3×3が大きくなっているし、どの国にも独自の大会があるし、私たちはみんな友達になって、様々なチームでプレーします。5on5ではないにしても、バスケットボールのコミュニティが成長している。こんなに嬉しいことは無いですし、3×3が大好きです」

盛り上がるアジアの3×3…27年にシンガポールでW杯開催へ
 シンガポールで4回目を迎えた「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」は日本の新たな姿を感じさせるとともに、オーストラリアや東南アジアを含めて、アジアで3×3がより一層大きなものになっていく可能性を印象づけた。大会期間中には会場のスタンドに座っているだけでも、その熱狂の大きさを存分に感じられるほどだ。

 女子のフィリピン代表が3人で試合へ挑む姿に、会場に詰めかけたファンは大声援で後押しし、ベトナムは決勝トーナメントで強豪の中国に肉薄。母国の国旗を持ってスタンドで声を挙げるファンもいた。開催国のシンガポールも女子だけでなく男子のためにホームコートアドバンテージを作るように、日本に大ブーイングをあびせた。20代前半の若さとスピード、運動能力を活かした鋭いドライブも連発して日本を押しのけて初の4強入りが見えかけた瞬間もあった。

 3×3には、各国のバスケットプレーヤーの可能性を広げ、アジアのバスケットボールシーンをより魅力的な景色に変える力がある。そんな高揚感にアジアNo.1決定戦は満ちており、来春シンガポールに再び戻ってくる。さらに同年には「FIBA 3×3 World Cup」の予選大会が開かれるほか、2027年は本大会の開催国にも決定した。

 アジアの3×3の盛り上がりは、これからもっと大きくなることは間違いない。「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」はそれを教えてくれたのだ。

アジアの3x3最前線…「FIBA 3x3 Asia Cup 2025」取材記総括

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by FIBA3x3

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