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  • 2025.05.30

一度は夢を諦めたHibikiが「ALLDAY SPRING 2025」でMVPになるまで

ALLDAY初出場で初のMVPに

 20周年の節目を迎えた「ALLDAY」は、2005年のスタート以来、年齢・性別・国籍・キャリア不問の5on5ストリートボールトーナメントとして代々木公園であり続けてきた。常に開かれた大会であり、優勝チームとMVPはMC MAMUSHIからコールされてきた歴史がある。

 5月11日に最終日を迎えた「ALLDAY SPRING 2025」では、MP3が史上初の決勝進出を遂げて、そのまま念願のチャンピオンに。チーム名が表す通り、マイケル・パーカー(群馬クレインサンダーズ)のサポートを受けながらも、リーダーのRoman曰く「家族のように、バスケが好きで楽しんでる仲間たちの集団」がNo.1になった。

 そしてMVPには、MAMUSHIも大会本部として「悩んだ」と前置きした中でHibiki (No.4/176㎝)をコールしたのだ。本人にとって、ALLDAY初出場でのまさか勲章をもらうまでは予期していなかったようだ。

「本当に(MVPに選ばれて)びっくりしています。準々決勝までは全然良いプレーができず、悔しい思いをずっとしていました。でも、自分自身で準決勝、決勝という最高の舞台に向けて気持ちをリセットして、絶対チームに貢献できるように頑張ろうという気持ちで臨みました。優勝できてMVPも獲れて、本当に誇りに思います」

 31-15でVELTEX TOKYOに快勝した準決勝、44 STREETに27-25で競り勝った決勝と、ハイライトになるような場面でHibikiの姿があった。ドリブルで一気に駆け上がって速攻を決め、仲間のアリープをお膳立てし、3ポイントも打ち抜いた。決勝では相手のエース・RYOの1対1を止める好守もかまして、会場を沸かせたのも記憶に新しい。大舞台にも燃えるタイプなのかと尋ねると「そーーーですね。大舞台ほど気合が入るというか、それが空回りしなければですけど」と苦笑いしながら「本当に準決勝、決勝と上手く自分の中でやれたと思ってます」と胸を張った。


Romanに感謝も。出会いはBリーグのトライアウト

 一方で、HibikiがMP3でプレーする機会はRomanが与えてくれたそうだ。「急きょ僕がALLDAYに出たいと言ったら“いいよ”と言ってくれて。すんなりと受け入れてくれました。(僕がMVPを獲れたのも)彼のおかげ」と明かす。Bリーグトライアウトで出会って一緒にバスケをする間柄になった仲間への感謝も忘れなかったのだ。

 そのRomanはHibikiの活躍について「おそらくアメリカ人の集団の中に入って、最初の数試合はなかなか自分のリズムに乗れていなかった」と振り返りつつも、彼の力を信じていたと言う。「大丈夫だから心配ないよ」などと声を掛けながらサポートを続けて、仲間の奮起に期待していた。Hibikもまた、プロバスケットボール選手でありながらストリートで戦う中で、Romanの言葉に触発されたそうだ。
「プロだとチームで役割やルールもあって、シュートを打っていいところ、悪いところがあると思うんです。でも、ストリートは本当にスペースが空いたら、得点を自分で取っていく。消極的なプレーを一切見せるなとRomanからすごく言われました。そんな言葉は準決勝、決勝という舞台で輝けたきっかけだったのかなと思っています」


夢を諦めて就職も…天皇杯を機にプロへはい上がる
 そんなHibiki(=山根響)は山口県の生まれ。Bリーグでのプロキャリアもまだ2シーズンしか持たない、全国的には無名に近いボーラーだ。だが、その歩みに耳を傾けると、諦めずにチャンスをモノにしてはい上がってきた様子がうかがえる。

 高校まで故郷でバスケをしていたが全国大会とは縁がなく、日本大学バスケットボール部に入るも「4年間で1秒も出れなかった」と彼は振り返る。AチームとBチームを行き来して、自己ベストはベンチ入りまで。同級生には杉本天昇(ファイティングイーグルス名古屋)や駒沢颯(茨城ロボッツ)、上澤俊喜(広島ドラゴンフライズ)らがいた。大学卒業後も2年間、プロを目指して活動するも声はかからなかったそうだ。一度は、プロの夢を諦めて就職もした。

 それでも、社会人バスケをはじめ、山口クラブの一員として2023年に出場した天皇杯2次ラウンドでの活躍が転機になった。県代表としてトライフープ岡山との試合で「ちょっと良いプレー」をしたのを機に、自分のプレーを集めた映像クリップを制作してプロ再挑戦へ。B3の各チームにアプローチした結果、2023-24シーズンに香川ファイブアローズでのプロデビューにつながり、今シーズンはしながわシティ バスケットボールクラブに所属して50試合に出場した。ちなみに彼は天皇杯での活躍を「ちょっと良いプレー」と控え目に言ったが、叩き出したスタッツは6本の3ポイントシュートを含む32点、アシストは9本を数える。大舞台での肝は据わっているようだ。


しながわシティでプロ3シーズン目へ

 金髪のボーラーは「いつか両親に恩返し」という思いと、一度は社会人としてバスケをやる立場になっても「努力もそれなりにやってた」という自信を持って、プロになり、代々木の主役までになった。奇しくもALLDAYの最終日にはダンクコンテストの審査員として訪れた香川時代の先輩・松井啓十郎と再会してエールを送られ、現所属先でお世話になり、ALLDAYで優勝経験のある落合知也からは「絶対チャンピオンとMVPを獲ってこいよ」と連絡もあったという。プロキャリアを通じて出会った先輩たちとの巡り合わせも見逃せないのだ。
 
 数年前にALLDAYを知り、大学時代に代々木でバスケをした経験もあるなど「いつかこの舞台に立ってみたい」という思いがあった中で、彼は今回の出来事に「本当に夢のようですね、夢のまた夢を見た感じです」と話す。だが、これも実力がないとできないこと。いまB1で輝く同級生と比べて「プロの舞台ではまだ全然下です」とも話したが、ストリートで得た刺激と勲章を糧に、再び戻るプロのコートで印象的な活躍を期待したい。

 山根響はしながわシティ バスケットボールクラブと契約を更新して、今秋よりプロ3年目に挑む。 


【プロフィール】Hibiki | 山根響
1998年生まれの山口県出身。誠英高校を経て日本大学へ進学するも、4年間で試合に出られず。卒業後は一度、就職をするも山口クラブの一員として出場した天皇杯2次ラウンド(2023年)トライフープ岡山戦をきっかけに再びプロ挑戦を志して、2023-24シーズンに香川ファイブアローズ入り。2024-25シーズンにはしながわシティへ加入して50試合に出場した。身長は176cm。ポジションはポイントガード。
Instagram @hibikiyamane (外部リンク)

一度は夢を諦めたHibikiが「 SPRING 2025」でMVPになるまで

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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