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  • 2025.03.29

シンガポールで感じる“3×3”の可能性…「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」取材記 vol.1

 昨秋、FIBA(国際バスケットボール連盟)で3×3の責任者としてManaging Directorを務めるAlex Sanchez(アレックス・サンチェス)氏へインタビューしたときのこと。彼は3×3の基本構想として「いろんな国や選手がチャレンジできる可能性を広げること」に触れていた。シンガポールで開催中の「FIBA 3×3 Asia Cup 2025」の現地にいると、そんな競技で大事にしていることを感じさせてくれた。

 3月28日に大会初戦を迎えた3×3女子日本代表の活躍も、そうだった。#3 高橋芙由子(FLOWLISH GUNMA/163㎝)、#5 鶴見彩(MAURICE LACROIX/165㎝)、#10 西ファトゥマ七南(早稲田大学/175㎝)、#12 野口佑季(boldiiies/173㎝)というA代表初選出の4人が出場し、シンガポールを22-6で圧倒、ベトナムも17-10で破った。東京オリンピック2020が終わって以降、2022年からAsia Cupは4回開催されているが、本戦予選でKO勝ちを飾った試合は今回が初めて。初日の2試合の出来としては、ベストなパフォーマンスだった。

 何が良かったと言えば、初結成の4人にも関わらず、お互いの強みがコートで発揮された姿があったからだ。高橋はシンガポール戦の初戦こそ固さが見られたが、中盤にドライブを決めたプレーを境にエンジンがかかった。鶴見はこの日、得点こそ無かったが、球際で泥臭いディフェンスを披露し、攻撃に転じれば周りを見て良いパスをさばいていたのは彼女ならでは。西は持ち味のドライブはもちろん、状況判断をしながら自分で行くか、他にさばくか考えてプレーしていた印象がうかがえた。

 そして4人の中で最も印象的だったのが、野口だ。boldiiiesなど国内でコツコツ3×3をやってきた彼女は、その成果を代表戦で発揮したのだ。ディフェンス、ゴール下での合わせ、ベトナム戦では2Pシュート2本を含むチーム最多の8得点を挙げた。彼女はミックスゾーンで2勝を勝ち取った初日について「みんなと協力して戦えたのが、すごい良かったと思います」とコメント。boldiiiesのときと変わらないプレーが出来ていることについては「今やっているプレーがすごい自分の中でもしっくり来ている」と教えてくれた。

 ただ、きっと1ヶ月少し前まで、彼女が日本代表になっている姿を想像できた者はあまりいなかったのではないだろうか。本人も、いまの状況に「正直びっくりしてます」と笑う。Wリーグでのプレー経験も無ければ、大学も山梨学院大学の出身とあって、いわゆるエリートキャリアではない。それでも3×3を続けてきた先に代表になり、コートで結果を残すまでになった彼女の活躍は、3×3をいま国内でプレーしている選手たちにとって、大きな励みになるはず。競技シーンに大きな可能性を示す姿だ。決勝トーナメントに向けても「今後自分のプレーが生かされるとしたら、ダイビングプレーがすごい生かされると思う」と彼女は話すだけに、いつもの野口が見られそうだ。

 一方で、開催国のシンガポールもいま、チャレンジによって3×3で魅力的な国になっている。2022年から「FIBA 3×3 Asia Cup」のホスト国を務めて、大会をアップグレードさせてきた。会場設備で言えば今年はラウンジが設置され、客席もプラスチック製からクッション製になった。座っていてお尻が痛くないと思えるのはかなり快適だ。会場の盛り上がりも3年前から段違いに大きくなった。

 28日の本戦予選には、3×3女子シンガポール代表が登場。日本に9-22で敗れ、ベトナムにも10-21でKO負けしたが、立ち上がりにリードを奪い、ブロックショットを決めた瞬間にはスタンドが沸いた。実力差があった姿は否めないが、セルビアで選手時代に3×3クラブ世界No.1になった経験のあるコーチを招聘し、競技シーンを挙げて3×3で成功を目指す姿が伝わってくる。シンガポールの隣国、フィリピンやタイもローカルでアジア各国からチームが参加して近年、国際大会が開かれており、この地域の3×3は成長著しい。

 当の選手もそれを感じていた。東南アジアやシンガポールでの3×3の成長を問うと、3×3女子シンガポール代表のキャプテン#9 Choy Ting Tang(チョイ ティン タン)は「アジアのチームがウーマンズシリーズ(=FIBA主催の女子の国際ツアー大会)に参戦するようになって、昨年よりもさらに多くのチームが参戦しています。(3×3は)間違いなく、拡大していますね。私たちのバスケットボールチームのレベルがどんどん上がっていることが要因です」と話した。

 また、5人制と違う3×3が持つ可能性をChoyも感じている。彼女は「今、私たちは実際にウーマンズシリーズに参加することを検討しています。私たちは、3×3の世界が実際にどのように見えるのか、自分たちの目で確かめたいと思っています。私たちは自分たちのことをコートで表現できることを心待ちにしています」と話す。今大会は苦戦したものの、選手たちは高みを目指して、新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。

 加えて、その目指す先としてシンガポールでは、来春に「FIBA 3×3 Asia Cup 2026」と「FIBA 3×3 World Cup Qualifier」(W杯予選)の開催が決まり、2027年には「FIBA 3×3 World Cup」が実施される。東南アジアを起点にした3×3の盛り上がりはまだまだ大きくなりそうだ。

【日程】
3月29日(土)予選(DAY4)
 男子日本代表
 21-17 イラン (日本代表勝利)
 20:20 オーストラリア(前回優勝国)

3月30日(日)決勝トーナメント(DAY5)
 14:30 男女準々決勝(女子代表:16:45 vs.韓国戦)
 19:00 男女準決勝
 20:40 男女3位決定戦
 21:40 男女決勝

シンガポールで感じる“3x3”の可能性…「FIBA 3x3 Asia Cup 2025」取材記 vol.1

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by FIBA3x3

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