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  • 2025.01.22

3×3のまち宇都宮…熱狂の先にあるもの

パリで3×3が2度目のオリンピックを迎えて、男子はオランダ、女子はドイツが表彰台の頂点に立った。出場国の中には、昨年4月末から5月にかけて栃木県宇都宮市で「3x3WEEK」と題して開催された世界ツアーの開幕戦や、パリの予選会に出場した選手たちも名を連ねていた。そんな選手たちを見ると、改めて激闘の記憶がよみがえるとともに、開催都市が果たした役割の大きさも思い出される。関係者への取材を通して見えた、熱狂の先にあるものとは――

熱狂的な空間のはじまり
 栃木県宇都宮市で昨春、「3×3 WEEK」と題して開催された、3×3クラブ世界一を決めるツアー大会の開幕戦「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener」(2024年4月26日~28日/以下Opener)と、パリオリンピックの予選大会「FIBA 3×3 Universality Olympic Qualifying Tournament 2」(同5月3日~5日/以下UOQT2)には、3×3のトップ選手たちが集結した。日本で激闘を繰り広げた彼ら彼女らの様子は、いまなお印象深い。

 そんな熱狂的な空間が生まれた背景には、運営を担った「3×3のまち宇都宮推進委員会」(以下委員会)の奮闘も見逃せない。特に中心的な役割を果たしたのが、宇都宮市の魅力創造部スポーツ都市推進課 スポーツ戦略室である。

 もともと同市経済部には国際的スポーツイベントなどの地域資源をまちづくりに活用することを目的とした都市魅力創造課があったが、2024年春の機構改革によりスポーツや文化、観光などの担当課を集約した魅力創造部が創設された。その中で、スポーツ戦略室はOpenerとUOQT2を同委員会の構成団体であるクロススポーツマーケティング株式会社(以下XSM)と連携して、準備から運営までを行った。

 そのビッグイベントの歴史をひも解くと、起源は2016年にさかのぼる。宇都宮市は街の中心部にある宇都宮二荒山神社参道及びバンバ市民広場へ、「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Masters 2016」を初めて誘致。当時は、XSMが立ち上げた世界初の3×3プロリーグ「3×3.EXE PREMIER」が3シーズン目を迎え、現在リーグの強豪に成長したUTSUNOMIYA BREX.EXEも2シーズン目を戦うなど、3×3への注目が高まりつつある状況だった。鳥居の前にセットされたコートで、Utsunomiya Mastersは大きな盛り上がりを見せ、以降もコロナ禍で2年間の中止を挟みながら、ことしで7度目を数える。世界的にもここまでの継続開催は稀であるが、この積み重ねによって3×3シーンで象徴的なまちへ変わっていったのだ。

当事者が明かす3x3WEEKの舞台裏
 そして宇都宮市は、国際バスケットボール連盟(FIBA)とかねてよりOpenerの開催について合意していた中、過去の実績が高く評価されてFIBAよりUOQT2開催の提案をもらい、開催都市に選ばれたという。昨年4月15日に行われた3x3WEEKの記者会見で同市の佐藤栄一市長は「FIBAからはその運営を始め、世界一の3×3の運営手法を持っているというお褒めの言葉もいただきました」とコメント。FIBAの3×3統括責任者であるアレックス・サンチェス氏も「FIBAにとって宇都宮でのオリンピック予選大会は非常に重要で、素晴らしい大会になると期待しています。私たち、そして3×3コミュニティ全体は宇都宮のご協力に感謝しています」と、ビデオメッセージを寄せている。

 では、UOQT2の誘致はいつ頃から行われていたのか。スポーツ戦略室室長の杉山敬宏氏によると2023年秋の暮れだという。Openerの開催が2022年から3年間合意されていた中、UOQT2は言わば新たなタスク。まず場所の選定と、日程の調整に着手したそうだ。

 場所については、2022年のOpenerにおける関連イベントと、3×3.EXE PREMIERで使用実績のあったライトキューブ宇都宮を候補地に選定して、FIBAへ提案。十分に競技運営ができるスペースがあり、天候リスクも無い屋内施設であるため、会場として決まったという。

 また日程については、会場を確保できる日をいくつかピックアップして、FIBAとすり合わせたそうだ。Openerの開催が2024年4月末に予定された中で、5月の大型連休にUOQT2を誘致したことについて、杉山氏は「内部の人間としては大変になることは分かっていたんですが」と苦笑いしながらも、それ以上に市として両大会を連続してやるメリットを考えての判断だったと明かす。

「いくつか日程の選択肢がある中で、2週連続で大会を開催することによって、選手、関係者、ファンの皆さまにも宇都宮へ滞在していただけるかもしれないと考えました。選手は事前練習で早めに来日されることも想定されますし、3x3WEEKとしてやれば、市民の皆さまと、市外から来た皆さまが交流するなど大会を起点に広がりが生れる。大変になるのは承知の上で、私たちがぜひこのプランでやりましょうと(FIBAへ)提案しました」

 加えて、杉山氏は大会実施に当たっては地元からの協力も大きかったという。委員会のメンバーには、宇都宮市やXSMだけでなく、栃木県バスケットボール協会、地元の商工会議所や商店街組合も入っていたとのこと。「連携して一緒になってやっており、相談を持ちかけると、いろいろと考えていただけます。非常に協力いただいております」と話した。商店街と連携した取り組みとしても、次のように語った。

「例えば、我々は出場チームへ食事のチケットを渡して、街中でごはんを楽しんでいただく仕組みを作っています。もちろん食事管理などで難しい場合もあるでしょうが、選手たちが市民の皆さまに溶け込んで一緒に食事をしたり、交流いただけるような光景を目指しています」

苦労もあったけど、試合を見れば…
 一方で、やはり苦労もあったそうだ。委員会メンバーの中で業務分担をしていた中、宇都宮市が担った業務のひとつに、選手が使う練習会場の確保や運営があった。最も早く来日したのはUOQT2に出場するブラジルとモンゴルで、Openerの初日26日より前の24日に現地入りしたそうだ。スポーツ戦略室で主任主事を務める高橋聖矢氏からは、こんなエピソードが寄せられた。

「ちょうどOpenerの初日が、ブレックスアリーナでUOQT2の出場チームによる練習初日だったんです。Openerの運営に従事している中、ブレックスアリーナの担当者を通じて、やはり各国の選手たちから色々と要望をいただいて。施設の使い方だったり、指定された時間以外にも練習をしたいというリクエストだったり。予想はしていたのですが、何度も担当者から電話がかかってきて、判断しないといけなかったので、その日のバタバタは特に印象に残っています(笑)」

 それでも、大変な時期を超えてUOQT2を迎えれば、苦労も吹き飛ぶような経験もあった。杉山氏は日本がエジプトに21-20で劇的な逆転勝ちを収めた会場の様子を思い出して「すごい声援でしたよね!」と振り返れば、高橋氏も次のように明かした。地元生まれでバスケ経験者。入庁後、大会ボランティアを通じて3x3と携わり始めただけあって、感慨深さもあったようだ。
「ワールドツアーは例年開催していて、ロケーションも3×3に適した屋外のストリートらしさがありつつも、日本の文化と合わさって、市としてもどんどんノウハウも蓄積されています。UOQT2は市として初めての取り組みで屋内施設でやるのも初めてだったため、僕は不安もありましたが、あれだけたくさんのお客さまに来ていただいて、3x3で盛り上がっていただけたので、本当に開催できて良かったと思います」

3×3を起点に広がる宇都宮の未来
 そして、宇都宮市の3×3に対する取り組みは、競技の発展だけでなく、まちの豊かさにも寄与している。定量的な側面で言えば、3×3の大会誘致による経済波及効果である。

 その一例として、同市の令和5年度の予算大綱によると、Openerの開催に当たっては約1億2千万の予算が組まれており(※1)、下野新聞のWEB版(2023年7月2日)によれば足利銀行の調査でその経済波及効果は3日間で5億8千万と報じられている(※2)。佐藤市長は、昨年4月のOpenerで囲み取材に応じた際、3x3に対する期待や思いをこう述べている。

「2016年からワールドツアーの開催がスタートして、どんどん(3×3の規模は)膨らんでいると思います。目的や効果、特に経済的な波及効果が大きくなっており、それに合わせた予算を作って、予算以上の効果が出るようにと考えております。また、経済的な面だけでなく、市民の皆さんの3x3に対する理解度も高まっているとともに、宇都宮市では“1人1スポーツ”をうたっているため、身近なスポーツの一つとして3x3を意識をしていただきたいと思います」

 令和6年度の予算大綱ではOpenerに加えてUOQT2などを加えて開催予算として、2億5千万を組んだ宇都宮市(※3)。下野新聞のWEB版(2024年7月5日)によれば、20億円を超える経済効果があったという(※4)。

 さらに、杉山氏は3×3がもたらす定性的な側面も2つ説いた。ひとつは対外的な発信を通して得られる「宇都宮という都市のブランド力」の向上である。一連の大会開催に当たっては、さまざまなメディアを通して“宇都宮”や“Utsunomiya”が国内外で取り上げられている。3×3に対して予算が組まれているが、あくまでも最終的な目的はまちの発展だ。同氏は「宇都宮でオリンピック予選をやっているというまちの誇り。シビックプライドの高まりも感じていただけると思います」と話した。

 また、今回の舞台はライトキューブ宇都宮という駅東口にある新たなランドマークだっただけに、3×3を通してまちの様子を発信できたことに杉山氏は手ごたえを持つ。パブリックビューイング会場にはFIBAから寄贈された特設コートが設置され、路面電車「ライトライン」の発着場近くでもあったため、バスケと地域インフラという資源が融合する場面は、宇都宮の今までにない光景にも感じられた。
 そして高橋氏も、まちが変わる光景を肌で感じ、その未来を展望した。

「宇都宮で育ってきた自分でも、こんなにまちが変わるんだと驚いています。バスケにしても、自分が小さい頃にバスケを始めたときは、まだ5人制、3×3ともに宇都宮ブレックスさんが誕生していなかったのですが、今では両方とも強くなり、3×3もワールドツアーが始まって、まちが良くなっていると実感しています。アーバンスポーツと呼ばれる3×3をきっかけに、まちの魅力が高まり、市民の方はもちろん市外の皆さんにも宇都宮っていいねとより一層思っていただきたいです。またバスケ好きとしては、3×3を通じて宇都宮の子どもたちがバスケットで、楽しい経験をして欲しいですね」

 昨春、宇都宮市はFIBAと新たにOpenerの開催を2025年から2028年まで合意した。2016年から8年で世界が注目する3x3のまちとなった中、次の4年でどんな光景を生み出すのか。XSMの中村考昭 代表取締役社長の言葉を借りれば、スポーツとまちが融合する「世界の3×3のリーディングモデル」のさらなる成長に期待したい。

※1.令和5年度 予算大綱(リンクは外部サイト/宇都宮)
   
※2.3×3うつのみやオープナー、経済効果5億8000万 3日間で7万人来場(リンクは外部サイト/下野新聞)
   
※3.令和6年度 予算大綱(リンクは外部サイト/宇都宮)
   
※4.経済効果は20億円超 GWの3人制バスケ2大会 宇都宮市の開催結果まとめ(リンクは外部サイト/下野新聞)

3x3のまち宇都宮…熱狂の先にあるもの

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by Kasim Ericson & FIBA3x3

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