富樫勇樹が主宰する「UNAVERAGE」…選手発のコミュニティから広がる世界
選手のオンラインコミュニティが続々
ここ2、3年でプロバスケットボール選手のオンラインコミュニティが増えてきた印象だ。ファンクラブやオンラインサロンなど名称はさまざまだが、オンライン上でファンとの交流を目的に、日常の様子や選手としての想いなどを動画や写真、テキストコンテンツなどで発信している。
その大きなきっかけはバスケットボールに限った話ではないが、コロナ禍を機にコミュニケーションの場がリアルからオンラインへシフトし、それを可能にさせるサービスやツールも増えてきた。コミュニティの立ち上げから月額費用の回収まで、運営をワンストップで提供できるサービスもよく見かける。
最近で言えば、千葉ジェッツふなばし所属の渡邊雄太が、ファンコミュニティと題して「Locker Room」 をリリースした。月額費用は990円(税込)。値段の受け止めは人それぞれだが、NBAで6シーズンにわたって奮闘し、日本代表としても活動するアスリートのコミュニティにしては、リーズナブルに思えた。
ただ、このようなコミュニティは主宰者を熱烈に応援したいというファンが集う場で、その活動はクローズドであるとも感じていた。
「UNAVERAGE」の広がり…カフェやフェス開催も
富樫勇樹も「UNAVERAGE」という自身のコミュニティを立ち上げた一人である。「UNAVERAGE」とは直訳すれば「平均的ではないこと」。これを誰よりも優れたポジティブなものと捉えて、彼のバスケットボールのスキルや想い、マインドを発信するプロジェクトとしている。「富樫勇樹のリアルに触れる」と打ち出して、オンラインコミュニティでは月額730円(税込)で会員限定コンテンツを配信中だ。
ここまでの流れは、よく目にするオンラインコミュニティの取り組みであるが、UNAVERAGEの場合はクローズドな発信だけでなく、オープンな場にも繰り出しているのが印象的である。昨夏には沖縄と山梨で「UNAVERAGE CAFE」というフリースローの体験コーナーを組み合わせたカフェを開き、ことし8月28日(水)には富樫が企画する「UNAVERAGE FES.」を横浜BUNTAIで開催した。
しかも、このフェスはバスケットボールのカテゴリーだけでなく、競技の枠を超え、音楽ともコラボレーションした規模の大きなもの。平日17時半の開演だったが、会場には多くのファンが詰めかけていた。
他競技のアスリートやアーティストを感じる機会に
出演者の顔ぶれを見ると、実に多彩だった。5人制から金近廉や河村勇輝、髙田真希、3人制から桂葵が名を連ねたほか、YouTubeで活躍するサワヤンや、その盟友でBリーガーの東宏輝、バスケ系インフルエンサーのすみぽん(高倉菫)が登場した。
そして競技の枠を超えて、オリンピックのメダリストもそろった。体操からパリ2024大会の男子団体で金メダルを獲得した谷川航、萱和磨が参加し、レスリングから同大会の女子53キロ級金メダルに輝いた藤波朱理と、同76キロ級金メダリストの鏡優翔のほか、リオデジャネイロ2016大会を制した登坂絵莉さんの姿もあった。陸上からは、パリ2024大会で4×100mリレー代表の桐生祥秀もいたほどだ。
イベントでは彼ら彼女たちがシュート対決や1on1、3on3をしたほか、客席にいたファンを呼び込み、一緒にプレーする場面もあった。子どもたちも飛び入り参加しただけに、きっと夏休みの忘れられない思い出になったはずだ。
さらに、スポーツの枠を超えた音楽アーティストたちとの共演も、イベントのハイライトだった。オープニングでは5人組ロックバンドのFLOWが会場を盛り上げ、ハーフタイムにはラッパー/ソングライターのRude-α(ルードアルファ)が出演。ことしでデビュー20周年の木村カエラがフェスのクロージングを飾ったライブパフォーマンスは圧倒的だった。
富樫勇樹による“バスケと音楽の祭典”というキャッチフレーズ以上に、日頃接しないアスリートやアーティストを間近で感じられる貴重な1日になった。バスケットボールを超えた広がりが「UNAVERAGE FES.」にはあったのだ。
選手本人の先に何を見せられるか
フェスを終えた後も、オリンピアンの意外な一面を見た。富樫、河村、萱、藤波の4人による囲み取材で、この日の感想を求められた藤浪が「すごく楽しい時間でした」と話した結びに、富樫を向いて「来年も開催されるのであれば、ぜひレスリングで勝負をお願いします!」と、その場にいた全員の爆笑を誘うコメントを寄せたのだ。萱もそれに呼応して「じゃあ体操でも勝負をお願いします(笑)」と畳みかけ、富樫も苦笑い。メダリストたちに、親近感が湧いたシーンだった。
またアスリート同士にとっても、刺激になったようだ。河村が「バスケ以外のアスリートの方だったり、アーティストの方と触れ合う機会はなかなか無いので、すごく新鮮でした。この機会を作ってくれた勇樹さんに感謝したい」と話せば、萱も「バスケをする楽しさを教えていただきました。体操だけではなく、いろんなアスリートと触れ合えて、スポーツ界にとってもすごく良いなって思いました」と明かしている。
さらに、この日はイベント内で、富樫とコンバースジャパンのブランドアンバサダー契約締結もファンの前で、映像とともにお披露目された。こういった話題は、プレスリリースやウェブニュースで知る機会が多いだけに、リアルの場で一度に発信できる機会はブランド側にとってもメリットになったはずだ。
Bリーグが開幕して2024-25シーズンで9シーズン目を迎える。年々バスケ人気は高まりを見せ、プロバスケットボール選手への注目も右肩上がりである中、本人を通して、その先にどんな景色を見せられるのか。昨今は受け取るサービスや情報も多くが自分の好きなものやオススメになっている場合が多いだけに、自分の知らなかった世界を見せてくれる選手であればあるほど、より多くの方から注目してもらえるのではないだろうか。
みんなが富樫勇樹になれるわけではないが、プロバスケットボール選手が自身の価値を高め、ファンやスポンサー、メディアから注目してもらえる取り組みは、コミュニティを超えた先にきっとまだまだあるはずだ。
【Yuki Togashi Official Online Service UNAVERAGE】(リンクは外部サイト)
- 富樫勇樹が主宰する「UNAVERAGE」…選手発のコミュニティから広がる世界
-
TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Kasim Ericson