19年目のALLDAYからはじまる「ウィメンズトーナメント」の歴史…Wリーグの選手から中学生まで出場する公園バスケの新たな光景に迫る
2005年にはじまった5on5ストリートボールトーナメント「ALLDAY」は、ことし19年目を迎えた。5月に開催された「ALLDAY 2024 SPRING」は2daysから4days開催へ規模を拡大し、ウィメンズトーナメントを新設。初代チャンピオンにはZOOSが輝くとともに、世代やカテゴリーを超えた数々のゲームは、ALLDAYの新たな幕明けを印象づけた。女子のストリートボールという代々木の最新事例に迫る。
「楽しい」「新鮮」「感情が爆発する」
5月25日の代々木公園バスケットボールコートは天候に恵まれ、快晴だった。9チームによるウィメンズトーナメントは、DifferentとLady Yokosukaの一戦で幕を開けた。ALLDAYらしく、出場ボーラーも多彩である。ストリートボーラーをはじめ、Wリーグの現役選手や引退選手、3×3やクラブチームで活躍する選手、さらには学生など幅広い。今までにない代々木の光景だったが、誰でも出られる公園バスケだからこそ生まれた瞬間だった。
例えばその中に、永田萌絵の姿があった。韓国プロリーグWKBLへの挑戦に向かう前、彼女はZOOSの一員として出場。「本当に個性的なメンバーの中に入れてもらえて、すごい楽しくバスケットができていますし、チームメイトや見ている方にも楽しんでもらえたら良いなと思ってプレーしています」と、バスケができる時間をかみしめていた。
また、3x3で活躍する矢上若菜も代々木ではしゃいでいた。rag-bagのメンバーとして、フルコートでバスケをする様子を見られるのもALLDAYならでは。25日のmeateat戦は延長戦にもつれる辛勝だっただけに、「誘ってくれた横井(美沙)さんと(高橋)芙由子、来れなかった(八木)希沙の顔が浮かびました」と苦笑いしていたが、とにかく楽しかったようだ。「外で5対5、こんなにも人がたくさんいて、DJがいるところは初めてです。(公園バスケで)フレッシュエアを浴びながら、新鮮でした」と、ニコニコしっぱなしだった。
そして、ZOOSをけん引し、MVPに選ばれた今野紀花(デンソー・アイリス)は、ALLDAYの公園バスケの環境に対して素敵なコメントを残してくれた。アメリカのルイビル大学へ留学していた記憶も交えて。
「普段いるWリーグと違って自由です。ルールのある中で、みんなのカラーを出し合って、それを調和させていく難しさもあるけど、楽しい。バチバチにやっているところを見ると、お互いに気持ちの出し合いもあって、熱くなる部分もあって、感情が爆発するコートだと思いました」
「(アメリカでは)ちょっと車で走ると、ストリートバスケの大会もたくさんやっていて、チームとして見に行っていました。今回このような(ストリートの)世界があると知って、ALLDAYを支えたり、応援してくださったりしている方、(19年前の)最初のボーラーの皆さんに、すごくリスペクトを持っています」
Wから中学生まで……世代を超えたZOOS
そんな今野や永田のいたZOOSは印象深かったチームのひとつだ。結果以上に、なにせその顔ぶれが広い。桂葵を中心に、大学生の西ファトゥマ七南(早稲田大学)や田平真弥(立教大学)、Wリーグキャリアを持ち3×3で活躍する鶴見彩(モーリス・ラクロア)や加藤臨(TOKYO DIME)、さらにはWリーグ所属の外国籍選手や中学生まで。年齢や個性の振れ幅が大きなチームであるが、これは意識して作られたそうだ。桂は「やるんだったら、やる意味も大事だと思いました。ストリートで、ALLDAYでしかできないことをやった方がいいと思って」と話した。
最年少となる中学生の岩山友香と美除柚希は、大阪のKAGO CLUB所属の選手たちだという。同CLUBの代表でコーチを務めるMARU氏のもとで、桂は定期的にワークアウトを受けており、今回の取り組みについても提案。「普段お世話になっているMARUさんに、もしよかったら、それこそ選手たちからやりたいという声があれば2人ほど受け入れられます」と伝えたそうだ。色々な経験をしている選手たちと一緒に時間を過ごすだけでも、中学生たちの成長に繋がるのではないかという思いからだった。
そしてMARUコーチが送り出した岩山も美除は代々木で堂々のデビューを飾った。臆することなくドライブで仕掛け、シュートを狙い、入ればZOOSのベンチはもちろん、スタンドからも大きな歓声が沸いた。
さらに、ジョシュア ンフォンノボン テミトペ(富士通レッドウェーブ)はもちろん、試合には出場しなかったがイゾジェ ウチェ(シャンソンVマジック)がウォーミングアップやベンチでチームメイトを盛り立てていた姿も見逃せない。ZOOSのムードメーカーだった。桂は2人を誘った思いについて「彼女たちは上手いし強いですけど、本人たちのキャリアを考えたらこのようなコミュニティや世界と繋がれるのも何かプラスになると思います」と語った。Wリーグの選手たちはALLDAYの出場にあたって、自ら所属チームへ相談と了承をもらっているため、みんな出たくて代々木にやってきているのだ。
そんな様子に、チームメイトの永田も「ジュニア世代もWリーグのトップ選手もカテゴリー関係なく、垣根を越えて一緒にプレーできるこの場が私はすごい好きです。もっと発展していったらいいなと思います」とコメント。他のチームからもポジティブな声が寄せられ、rag-bagの矢上は「プロの子も元プロの子も、大学生も、いろいろなカテゴリーの選手たちがミックスして出られることがあまり無いので、すごい良い機会だと思っています」と話した。
ストリートボーラーたちが代々木で躍動
一方で、会場は代々木とあってストリートボーラーたちの熱気もひしひしと感じた。Differentを結成した浅羽麻子も、その一人。初日を終えた際には「外で5対5が一番、私のやりたいことだし、女子もエキシビジョンではなくて、トーナメントに出たい人たちが自分たちでやるのが一番あるべき姿だと思う。率直にすごい楽しかった」と語った。長年、ストリートでやっているだけに、言葉の端々に嬉しさがにじむ。
決勝ではZOOSに敗れたものの、前半は互角の勝負を演じ、立ち上がりに流れを持ってくる起点は浅羽だった。前の日に「もう自分も良い年なんで(笑)」と話していたものの、「バスケがすごく好きで、それを一緒にプレーを通して伝えられると自分らしい」と語っていた言葉通りの姿だった。
そんなDifferentにSemi Finalで敗れたゴ・カラクサを率いた岡田麻央は悔しさを押し殺すように2日間を振り返った。WリーグのOG選手たちを中心にメンバーを集めてALLDAYへ挑み、“楽しさ”を感じつつも、決勝を前に敗戦。前半こそ先行したが、後半に入ってリバンドやディフェンスなど球際の攻防で劣勢に立たされて、18-21の逆転負け。岡田は明かす。
「うちらは3×3もやっている選手もいるし、ストリートの子たちともよく会うから、その熱量は知っていましたが、Wリーグを引退してきたばかりの子にとって(ストリートの)空気感は初めてだったので、伝えてはいたんですよ。もう戦場だから!今日は絶対にゴール下、リバウンドが勝負の鍵だって。うちらが負けるとしたら気持ちだけで、そこで勝ったら絶対に勝てると言ってたんだけどね。それでも、気持ちのところで負けたんだろうと思います。でも負けて悔しくて、決勝でZOOSとやりたかったけど、みんな楽しかったと言ってくれたので、今回出られたという意味では成功だと感じています」
そして、そのゴ・カラクサに負けて「悔しい!!!!」と唇を噛んだボーラーもいた。#meekの小林円香である。日常的にYoyogi Park Ballersら代々木に集まるボーラーと練習をしているだけに、彼女にしてみればいわばホーム。相手は、Wリーグの経験者がそろうチームであったが、今大会のために集まった仲間と、ビビることなく立ち向かった。劣勢の展開から終盤の反撃は見事だったが、彼女は「負ける気は全然なくて、最後まで勝ち負けよりも全力でやることだけに集中していました」と振り返った。
そんな小林にとって、代々木はバスケに対するスイッチが入った場所だ。学生時代は短大に通い、半年ぐらいしか部活動をやっていなかった彼女にとって、自分のやりたいバスケができるようになったのは社会人になってから。「(男子のボーラーは)みんな仕事以外に公園でただバスケするだけなんですけども、そこに対してモチベーションが高くて、まっすぐな人が多いじゃないですか!何でそんなに、バスケばかりやっているのみたいな(笑)。でも、そんな様子を見て、羨ましく思って私もバスケをもっとやりたいなと思っています」と明かしてくれた。肩書きも実績も関係なく、バスケができるストリートは、大のお気に入りなのである。
ウィメンズトーナメントの未来はボーラーたちの手によって
そんなさまざまなボーラーたちが集まった「ALLDAY 2024 SPRING」ウィメンズトーナメントは、ZOOSが初代チャンピオンに輝いて幕を閉じた。第1回大会にして盛り上がりを見せただけに、今後にも期待がかかる。
ただ、メンズトーナメントが19年をかけていまの姿になったように、ウィメンズトーナメントがどんな姿になっていくのかは、これから大会を重ねていく中で見えていくだろう。ボーラーたちの思いも、十人十色だ。
#meekの小林は「半年に1回ALLDAYを目指して、男子みたいにALLDAYの優勝を取りたい!って思って来てくれる女性プレイヤーが増えたらいいなって思ってます」とコメント。ストリートボールが全国各地に広がる未来を願っている。
また高校卒業後、Wリーグで8年間プレーしたゴ・カラクサの岡田は別の視点を持つ。プレッシャーを感じながらバスケをやっていた現役時代から一転、引退後に女子バスケの魅力を発信している彼女ならではの言葉だった。
「引退してストリートを知ったときは、この世界を現役時代に知っていたらバスケに対する考え方を変えられて、落ち込んでるときもプラスに考えるきっかけになったんだろうと感じています。Wの選手は引退したばかりのとき、もうバスケはいいかなって一瞬なる人が多いですけど、好きなメンバーと楽しく勝ちを目指してバスケをやりたいと戻ってくる人も多いです。そういう場としてALLDAY、ストリートがすごく良いと思いますし、上手いからと言って勝てる場所でも無いんですよね。ALLDAYがもう1回、バスケに対して熱を持たないと勝てない、自分のバスケ熱を出せるところになってくれれば嬉しいなと思います」
そしてZOOSの桂は、19年の歴史にリスペクトを込めて、次のように明かした。バスケで熱くなれる代々木だからこそ、ボーラーの声がウィメンズトーナメントを創っていく。
「代々木にリングを持ち込んだ人がいて、ここでやりたい人がいたから代々木でシーンができたと思います。19年前に男子のALLDAYがはじまりましたが、女子のストリートはきょうが一歩目です。ここから私たちが何をしていきたいかを自分たちで考えていくことが大事だと思います。いまのALLDAYは男子が作ってきたカルチャーで、お客さんも男子のボーラーを見に来ている方が多いと思います。ここから、女子も面白いねってみんなに思ってもらえるようにやっていけるかが、大事だと思っています」
最終結果:「ALLDAY 2024 SPRING」ウィメンズトーナメント
Final Different 17 – 27 ZOOS (MVP のりか | 今野紀花 )
Semi Final rag-bag 8 – 23 ZOOS
Semi Final Different 21 – 18 ゴ・カラクサ
2回戦 元気人 15 – 31 ZOOS
2回戦 meateat 24 – 32 rag-bag (OT)
2回戦 #meek 30 – 35ゴ・カラクサ
2回戦 Different 34 – 26 Shachihoko girl’s
1回戦 Different 36 – 19 Lady Yokosuka
- 19年目のALLDAYからはじまる「ウィメンズトーナメント」の歴史…Wリーグの選手から中学生まで出場する公園バスケの新たな光景に迫る
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Kasim Ericson
& ミッシー