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  • 2024.08.31

3×3の日本上陸から10年…持続可能なチームの鍵を探る【前編】

今年は3×3が本格的に日本へ上陸して10周年。今回、国内ツアー大会「3×3 Super Circuit」に焦点を当て、昨年秋から今年1月に開催されたレギュラーラウンドを誘致したチームに迫り、持続可能な活動の鍵を探る。前編は、主にTOKYO DIMEの取り組みに迫りたい(所属選手など記載の情報は今年2月末時点)。

国内の大会事情
 日本の3×3シーズンは、例年4月始まり。日本バスケットボール協会(JBA)が主催する国内ツアー大会の最高峰「3×3 JAPAN TOUR」EXTREMEカテゴリーがスタートし、5月にグローバルリーグプロリーグの「3×3.EXE PREMIER」が開幕。9月から11月にかけて両大会の優勝決定戦が行われ、入れ替わるように翌シーズンの世界大会予選を兼ねた「3×3 Super Circuit」が始動。年明け2月にそのFINALと、JBAが主催する「3×3日本選手権大会」でフィナーレを迎える。

 3×3はかねてより、チームが興行をしなくても試合ができる環境が大会主催者側で整備され、その参入障壁の低さが普及を後押ししてきた。「3×3.EXE PREMIER」では、リーグ事務局が参戦チームからシーズンごとに年会費(初年度は別途入会金あり)を徴収するが、興行や選手への出場給支払いなどは基本的にリーグが担う仕組み。「3×3 JAPAN TOUR」は、大会ごとにJBAが出場チームからエントリーフィーを徴収し、運営を行う。競技の黎明期は、これらのモデルが機能していたことは間違いない。

 一方で、この間にチームが生まれては消えていった。せっかく支援や応援したチームが消滅や活動縮小をしたら、スポンサーやファンの思いも浮かばれないだろう。3×3が魅力的なバスケットボールとして注目され、プロ選手として飯が食える。そんな競技シーンにするためには、改めてチームが興行を行い、地域から必要とされる存在になれるよう取り組む必要があるのではないだろうか。
 
誘致大会をチャレンジする意義
 そんな中、ちゃん岡こと岡田慧氏と、マツケンこと松岡健太郎氏がタッグを組む国内ツアー大会「3×3 Super Circuit」は、3×3で興行へチャレンジするチームをあと押ししていた。

 彼らは、レギュラーラウンドの興行権をチームへ販売しており、昨年11月からことし1月までに実施した全6ラウンドのうち、4ラウンドで購入の手があがった。興行権の販売金額を少額に設定し、コートサイドのスポンサー看板収入やチケット収入など、興行を通じて生み出された収益はレギュラーラウンドを誘致したチームへ入る仕組みだ。2年連続でALPHAS 3×3 BASKETBALLと、TOKYO DIME、B-LAB MIYAZAKIが誘致大会を行うとともに、ZETHREE ISHIKAWAも初めて誘致大会を行った。

 とりわけ、誘致大会をやる大きな意義は、チームの“地元”で選手たちのプレーを見てもらえることだ。Bリーグであれば当たり前の考えであるが、全国を転戦する3×3ではこれが非常に難しい。オンライン配信も充実しているが、間近で見られる体験価値にはかなわない。

 渋谷ラウンド(1月開催)でTOKYO DIMEの小松昌弘は誘致大会への思いについて「小さい子や小学生、中学生のみんなが来てくれて、3人制に興味を持ってくれたらすごく嬉しい。渋谷でもバスケが盛んだということを、5人制(=サンロッカーズ渋谷)だけではなく、3人制でもアピールできたら良いなと思います」とコメント。越谷ラウンド(同)では落合知也が「たくさんのアルファーズブースターさんが来てくれて、自然に応援してくれて、めちゃくちゃ嬉しい。もっと越谷で試合がしたいし、僕らのホームだと感じました」と笑顔で語った。

 また、3×3は大都市圏で開催が多い中、地方への普及をはかる観点でも誘致大会の意義は大きい。B-LAB MIYAZAKIの猪崎大介氏は、2年連続の宮崎ラウンド(1月開催)誘致理由について「世界大会の出場権を競い合う大人たちを見ることによって、3人制の魅力を子どもたちに伝えたかった」と話す。ZETHREE ISHIKAWA代表の上原浩光氏も石川ラウンド(昨年12月開催)について「3×3の普及を兼ねて、石川県の皆様に(我々の)競技に対しての、世界大会に向けての取り組み方を知っていただくため、誘致を決めました」と話している。

 チーム運営をする上で、スポンサー獲得やグッズ販売、スクール運営などさまざま手法はあるだろうが、自らから興行を行い、目の前で試合や選手を見てもらう。これが、やるべきことの一丁目一番地である。

2年目工夫は、行政の協力を得た告知強化
 そして、試合を見てもらう上で、重要なタスクは「集客」である。2度目の誘致大会を行ったTOKYO DIMEは、このタスクを昨年以上に強化した。これまでSNSでの告知や、渋谷区内の掲示板1000カ所へのチラシ掲示を行ってきたが、今回は新たに「渋谷区のLINE」や「小学生などのタブレット」へ大会情報を配信したという。

 この取り組みの広がりによって、事前申込みで渋谷区民の約200名より応募があったという。最終的には、当日のキャンセルもややあったそうだが、会場には350名が詰めかけた。フロントスタッフの八木亜樹氏は「多くの区民の方に3×3を知ってもらえるきっかけになったと思ってます」と、手ごたえを感じている。いずれの手法も、渋谷区スポーツ振興課スポーツ部(学びとスポーツ課)や、渋谷区ひがし健康プラザ、渋谷サービス公社といった地元行政らの協力があったそうだ。

 ただ、そんな協力体制も、2014年のチーム設立当初から得られたものではない。継続的な地域活動を評価されたからこそ生まれたものだ。その証のひとつが、「PLAY渋谷区」への認定である。TOKYO DIMEは、2021年に渋谷区のスポーツ振興の貢献実績や、スポーツ分野で功績を残した団体に認定された。いわば、行政のお墨付きを得たカタチで、区と相互連携しながら活動支援を受けるとともに、区民のスポーツへの参加機会を充実させるパートナーになったのだ。

 さらに渋谷区ひがし健康プラザでは、2021年より月曜日と火曜日にTOKYO DIMEのスクールを開校。区民広場でのお祭りに出展したり、過去には小松や鈴木慶太、オーナーの岡田優介氏らが区内で実施されるラジオ体操にも参加したほどだ。地域のイベントごとにも顔を出し続けてきた取り組みによって、八木氏は「これまでの活動が渋谷区にも認知されてきました」と話し、その波及効果も感じている。

「渋谷のスクール生が多いので、渋谷区内の公園や商業施設などでイベントを何回もやることによって選手を好きになってもらえていると思います。またスクール生が『面白い!』と言って、DIMEを知らない友だちをイベントに呼んできてくれています。ひとつ一つの活動が、渋谷区の子たちに知ってもらえるきっかけになってますね」

 さらに、多くの方から注目される環境は、選手たちの意識にも良い影響を与える。TOKYO DIMEは昨年の誘致大会でHACHINOHE DIMEに完敗し、決勝トーナメントにすら進めなかった苦い経験を持つ。当時、オーナーの岡田優介氏も、チームに対して厳しい言葉を投げかけていた。

「TOKYO DIMEは自分たちのためにプレーするチームでは無いんです。DIMEでプレーするなら、これだけ多くのファン、スポンサー、地域の方がいるから、誰かのためにプレーすることを考えてくれなければ、ここでプレーする意味はない。今日のような恥ずかしい試合をするなら、プレーする資格が無いとまで、きつめに選手たちへ言いました。自分たちがプライドを持って戦う姿を、多くの人が応援してくれてる。それを選手たちがモチベーションにして頑張る。そんな相乗効果を期待してやってるわけです。大会のため何ヶ月も前から準備してるスタッフの気持ちも感じて欲しい。鈴木や小松にはよく言ってましたが、若い選手も多かったので改めて伝えました。それで何かを感じてくれたらいいなと思います」

 そんな、言葉はしっかりと選手にも響いていたようだ。西畝優はことしの渋谷ラウンド優勝後に、大会へ懸けた思いについて「去年は誘致試合で情けない試合をしてしまって、不甲斐なかったです。岡田さんの言葉も響きました。ことしは、試合前にグループLINEで岡田さんからの喝もありましたが、僕は去年の経験があったぶん、気合が入りました」と明かした。

持続可能なチーム運営ができる鍵
 そんなTOKYO DIMEも、ことしでチーム設立10周年である。この間、男子チームはPREMIERで2度のリーグ優勝(2014、2017年)を遂げ、JAPAN TOURでもEXTREMEカテゴリーを制覇(2020年)。世界大会へ何度も出場した。女子もPREMIERでタイトルを獲得(2018年)し、ことし2月にはチーム2度目の国際大会へ。選手たちとスタッフがオンコートとオフコートで実績を積み上げてきた。
 

 八木氏は、「渋谷の方々にDIMEを認知してもらい、見てもらう取り組みを10年かけてやってきました。今回、区民の方が事前にチケットをたくさん予約してくれて、来られなかった人も含めて、これまで以上に知っていただけたのではないかと思います」とコメント。持続可能なチーム運営ができる鍵を、次のように語ってくれた。

「チームの目標は世界大会ですが、地元でしっかりとやっていくのが大事だと思っています。今日のイベントで言えば、千人、一万人と大きな集客目標も言いたいところですが、まずは自分たちが少し背伸びをして実現できるイベントを考え、計画を立て着実に進めていく。この積み重ねによって、チームとしての自力をつけていくのが、良いのではないかと思います」

  後編では、ALPHASの取り組みや、B-LAB MIYAZAKIを例に西日本の3x3事情に迫る。
 後編の記事はこちら

【大会情報】
国内ツアー大会「3×3 Super Circuit」のスピンオフ大会「3×3 Summer Tournament 2024 supported by Arch」が9月1日に武蔵野の森総合スポーツプラザで開催される。

今大会は、参加資格、予選大会一切無しの1dayトーナメント。男子優勝チームには10月に中国で開かれる国際大会「FIBA 3×3 Yichang Challenger 2024」の出場権が与えられる。世界大会まで最短距離の一戦について、大会公式Instagramで最新情報を発信中だ。

>>大会公式SNSはこちら(リンクは外部サイト)

3x3の日本上陸から10年…持続可能なチームの鍵を探る【前編】

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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