• COLUMN
  • 2024.04.02

歓喜、号泣、悔しさも…FIBA 3×3 Asia Cup 2024 取材記 vol.2

 メダル獲得の瞬間に歓喜する選手たち。号泣する選手たち。3×3アジアNo.1を決める「FIBA 3×3 Asia Cup 2024」は3月31日に最終日の決勝トーナメントを迎え、数多くのドラマが生まれた。感情を爆発させる選手たちの様子を見ると、胸を揺さぶられるものがある。そして、クロージングの表彰式は名残惜しさがある一方で、そんな選手やチームスタッフが一番いい表情を見せるひと時だ。

金テープを浴びる優勝トロフィー
 ことしのチャンピオンは、男女ともにオーストラリアが輝いた。アベックVは2019年大会に続き2度目。ともにトロフィーを掲げ、金テープを浴びる光景を見られるのも、3x3の大会ならではだろう。胸にかかった6個の金メダルも壮観だ。

 男子は、イランを21-7で下した。準々決勝で日本、準決勝でニュージーランドを破って勢いづく相手に対して、序盤から付け入る隙を与えず、昨年モンゴルに敗れて準優勝に留まったGangurrus(オーストラリア3×3代表の愛称)が王座奪還を遂げたのである。大会MVPに、2ポイントシュートの名手で、5試合で47得点を叩き出したTodd Blanchfield(#5)が選ばれるとともに、今大会は18歳から25歳の新世代も台頭した。それぞれ高さやフィジカル、機動力を武器にチームにフィット。まだまだ伸びしろもありそうだ。

 そして同国の女子は昨年に続き、2連覇を飾った。決勝こそニュージーランドに苦戦したが、18-13で底力を発揮。一番苦しい試合終盤で、大会MVPのAlex Wilson(#4)が2ポイントシュートを決めて、優勝を決定づけた姿にはしびれた。昨年のMVPであるMarena Whittle(#21)やAnneli Maley(#24)、Lauren Mansfield(#33)の3人とも、5月に宇都宮で開催されるパリ五輪予選「FIBA 3×3 Universality Olympic Qualifying Tournament 2」(UOQT2)に出場が予想される顔ぶれだけに、あと1ヶ月でどんな仕上がりを見せるのかも注目だろう。男女ともに、アジア最強の称号はしばらく続くかもしれない。

号泣の銅メダル…少しの悔しさも
 また、男女そろってメダルを獲得したチームがもう一つあった。モンゴルである。3位決定戦で女子は台湾を破って、銅メダルを獲得。17-10でファイナルブザーがなった瞬間、選手たちが涙した姿はもらい泣きしそうだった。特にKhulan Onolbaatar(#13)はフラッシュインタビューで大号泣。「FIBA 3×3 Women’s Series」も転戦する同国代表のアイコンであるだけに、感極まってしまったのは想像に難くない。

 そして男子も同決定戦でニュージーランドを21-18で撃破。大会2連覇こそならなかったが、昨年の優勝メンバーは日本にゆかりのある26歳のAnand Ariunbold(#5)のみ。残り3人は初のフル代表で、19歳から20歳のネクストジェネレーションたちだったのだ。

 そのAnandは3位決定戦後のミックスゾーンで「セミファイナルでオーストラリアとやって、フィジカルなどのレベルが違うので負けてしまったけど、ニュージーランドに絶対勝つ。そんな気持ちでみんなが集中して、コートで一つになりました」とコメント。モンゴルの新たなリーダーとして、若い選手たちと勝ち取った銅メダルに胸を張った。
 ただ、Anand自身には、表情がさえない瞬間もあった。Team of the Tournament(大会ベスト3)の表彰を終えてコートを去るときである。その理由を彼に尋ねると「Back to Back(2連覇)でチャンピオンになりたかった」と明かす。決して満足の行く結果ではなかったのだ。

 それでも若手たちと3位になった結果は、同国の将来を明るく照らす。「次のジェネレーションはあの3人です、僕がリーダーとしてしっかりして、若い人選手たちと良い経験ができました」と、Anandは語る。強化と育成の両輪が回ると、こんなにも結果がついてくるのか。驚きと羨ましさが募る、そんな男子モンゴル代表の奮闘ぶりだった。

モンゴル代表ヘッドコーチの視点
 そんな3×3モンゴル代表のヘッドコーチになったSteve Sir氏も、アベック3位の結果に感慨深かったようだ。男女ともに彼が強化へより一層関わり始めただけに、喜びがにじむ。「国のためにメダルを持ち帰ることができた選手たちをとても誇りに思います」と話し、こうも明かした。

「この大会の前に、気持ちで戦うこと、頭で戦うこと、もしここに来たならすべてをコートに置いていくことの重要性を話していました。目標は、良い経験を積み、学び、将来のために(モンゴル代表を)構築することでした。彼ら彼女たちにとっては毎試合を戦い、自分たちのベストを尽くすことがステップだった。そうすれば、あとは自ずとうまくいくと思いましたし、それを実践してくれた選手たちを非常に誇りに思います。時間をかけ、努力し、仕事をすれば、今夜のような夜に報われるのだと思います」

 また、男子代表の次なるリーダーとして成長著しいAnandについて、同氏も期待をかけている。

「特にニュージーランド戦では、相手チームにプレッシャーをかけるような素晴らしいプレーを見せてくれて、若い選手たちを引っ張っていきました。偉大な選手というのは、そういうものなんです。彼はリーダーであり、前面に立つべき存在なんです。勇敢で、タフであれば、何が可能かを若い選手たちに示す。だから、私はそれをとても誇りに思っています。Anandは、バスケットボール選手として成長する上で非常に重要な鍵を握っているからね。彼はエキサイティングなオフェンシブプレーヤーで、多くの能力を持っています。彼が登るべき次の山は(真の)リーダーになることです。この試合は、彼にその能力があることを示す絶好の場となりました」

 さらにSir氏は、ヘッドコーチでありながら選手でもある。Ulaanbaatarの一員として、「FIBA 3×3 World Tour」に何度も出場しており、カナダ人であるが同国の3×3発展の立役者として、変化するアジアの3x3シーンを見てきた一人でもある。強さを印象づけたオーストラリアやイランの成長、会場となったシンガポールの雰囲気など今大会の印象についても語ってくれた。

「これはアジアのスポーツの発展にとって素晴らしいことです。世界のあらゆる場所でスポーツが強化され続けているのだから。イランのような国がここに来て、素晴らしいプレーをするのを見るのは良いことです。オーストラリアやニュージーランドのような島国が活躍をするのを見るのも、誰にとっても良いことだと思う。そして偏った見方になりますが、モンゴルが2つのメダルを獲得して、帰国ができるのは素晴らしいことです。選手たちや国のプログラムのために、前進を続けていきます」

変化するアジアで、日本はどう進むのか
 そんな中で、3×3男女日本代表は準々決勝で敗退。とくに男子はメダルを獲得を狙えるメンバーでありながらも、イランに衝撃的な負け方をしただけにショックも大きいだろう。12-12の延長戦で、放り投げられたような2ポイントシュートがリングを突き刺す様は、言葉を失った。ただ、3x3はすぐに次の大会がやってくる。2018年にアジアカップで銅メダルを獲得して以来、準々決勝止まりの事実を重く受け止めるとともに、シンガポールの悲劇を糧に5月のUOQT2で奮起を期待したい。

 一方で、女子もニュージーランドに14-15で惜敗。結果は物足りないが、選手招集も難しく、約1週間という即席チームだった背景を踏まれれば大善戦だろう。メンバーは違えど、選手のまとまり具合は過去2大会のアジアカップに出場したチームを上回った印象だ。強烈な個や、能力の高い選手がそろわなくても、お互いの強みをいかして信頼し、4人で支えあう。実に、3x3らしいチームだった。もう少し試合経験を積むと、どうなるのか。そんな想像も膨らむ。ただ、継続性を持ってどのように代表強化をデザインしていくのかという長年の課題も改めて浮き彫りになった。

 変化の激しい3×3シーンで、日本が再びメダルを獲得することはできるのか。その絵はまだ見えないが、「FIBA 3×3 Asia Cup」は3×3の醍醐味をアジア各国に伝える舞台として、ことしも大きな盛り上がりを見せた。そして大会は来年、再びシンガポールで開催を迎える。今度はどんな主役が生まれるのか。2025年の3×3アジアNo.1決定戦がいまから待ち遠しい。

■最終結果
男子 1位 オーストラリア | 2位 イラン | 3位 モンゴル | 7位 日本
女子 1位 オーストラリア | 2位 ニュージーランド | 3位 モンゴル | 5位 日本

大会公式(リンクは外部リンク

■3×3のパリオリンピック予選(日本の出場予定大会)
大会名称:FIBA 3×3 Universality Olympic Qualifying Tournament 2(UOQT2)
(FIBA 3×3 バスケットボール ユニバーサリティオリンピック予選2)
 日時:2024年5月3日(金・祝)~5月5日(日)
 場所:ライトキューブ宇都宮(大ホール)、宮みらいライトヒル(宇都宮市宮みらい1-6)
 詳細:(リンクは外部リンク
 ・参加チーム8チームのうち、上位1チームがパリ2024オリンピック出場権を獲得

大会名称:FIBA 3×3 Olympic Qualifying Tournament(OQT)
(FIBA 3×3 バスケットボール オリンピック予選)
 日時:2024年5月16日 (木) ~5月19日 (日)
 場所:ハンガリー (デブレツェン)
 詳細:(リンクは外部リンク
 ・UOQT2にてパリ2024オリンピック出場権を獲得していた場合は、出場しない
 ・参加チーム16チームのうち、上位3チームがパリ2024オリンピック出場権を獲得

歓喜、号泣、悔しさも…FIBA 3x3 Asia Cup 2024 取材記 vol.2

TEXT by Hiroyuki Ohashi

RELATED COLUMN

MOST POPULAR