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  • 2024.03.30

ALPHAS入りして1年…小澤崚の超えるべき壁

 2月4日の「3×3 Super Circuit 2024 FINAL」で2連覇を飾ったALPHAS。大黒柱の落合知也(#4/195cm)を筆頭に、大会MVPのデビン・ギリガン(#3/196cm)やセルビアの新星・ペター・シュチュアー(#2/195cm)という選手たちがいる中で、25歳の小澤崚(#1/178cm)の活躍も光った。

 ただ、昨年チームを初Vに導いた2ポイントシュートを連発した姿ではない。むしろ、そのシュートの成功に苦しみながらも、チームのために自分は何ができるのか。それを1年かけて表現できるようになった姿と言えるだろう。表彰式を終えた彼のコメントが、それを物語る。実にポジティブだった。

「最近の大会で2ポイントが入らない試合が少し多かったのですが、それでもチームのコンセプトとして僕はシュートを打たないといけません。空いたら打つ意識は変わらずあります。ただその中で、他にもできる仕事があります。例えば、ディフェンスでプレッシャーをかける。シュートを打てなくてもオフェンスをメイクする。今日も決勝や準決勝は自分が作って、誰かをフリーにさせるシーンが多かったと思います。今後もシュートが入らない時間帯でも戦える自分を証明したいです」

昨春よりALPHASへ正式加入…当初は悩みも
 さかのぼること1年前――。小澤は、TSUKUBA ALBORADAに所属しながらALPHASの一員として「3×3 Super Circuit 2023 FINAL」を戦い、MVPを受賞。ひとつ結果を残して、「パリ五輪を目指してやっていきたい。手が届く位置にいる1人だと思うので、チャンスは絶対にあると思います。あとは、それをつかめるように頑張りたい」とコメント。さらなる結果を残すべく、2023年度のシーズンへ向けて走りだした。

 チャンスも、早々に訪れる。昨年3月末には、年齢制限の無い3×3日本代表に初選出されて、「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」へ出場。3人制ではU18、U23で代表歴を持つ中、遂にA代表まで上ってきた。

 そして、所属先も新しくなった。TSUKUBA ALBORADAを離れて、ALPHASへ正式に加入。3×3のクラブ世界No.1を決めるツアー大会「FIBA 3×3 World Tour Masters」や、その予選会となる「FIBA 3×3 Challenger」といったプロサーキットに計6度出場した。最新の3×3日本ランキング(3/27)では、齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX.EXE)、落合に続く3位に浮上し、20代の選手では最高位をマーク。次世代の3×3シーンを担える一人になったと言っていい。

 しかし、小澤はシーズン序盤、悩んでいた。先のAsia Cupでは期待された2ポイントシュートを2本しか決められず、チームもニュージーランドやオーストラリアに完敗。決勝トーナメント進出を逃した。一昨年の「FIBA 3×3 U23 World Cup 2022」でチームを5位に導いたシュート力もあっただけに、相手からのマークも徹底された。大会後しばらくして、彼は「スカウティングされてスムーズにオフェンスができなかったところがありました。想定外のことが起きたときに、落ち着いてプレーができなかった」と話していた。

 さらに、落合や保岡龍斗(188cm/秋田ノーザンハピネツ)が3x3日本代表の活動などで不在のなか出場した国内大会も勝ち切れない試合が続き、重く受け止めた。

 例えば、昨年6月10日にららぽーとTOKYO-BAYで開催された「3×3.EXE PREMIER JAPAN 2023 Round.3 EASTERN CONFERENCE」では、決勝トーナメントに進めず12チーム中5位に。「もう(3×3の)経験値がどうのこうの言ってられないんですよ。本当にそろそろ結果を出さないと、ちょっときついなって思います」と、口にしたほど。落合からオファーを受けてALPHAS入りし、期待に応えたいという思いが強すぎて、空回りしていたようだった。

「無理に僕がチームを引っ張らなくてもいい」
 また、メンバー構成を見ても彼が気負いすぎる要素もあった。ALBORADA時代は、3×3を知り尽くす気心知れた仲間たちと、「第8回 3×3日本選手権」準優勝など結果を残した一方で、ALPHASではゼロからのスタートだった。特に、ペターやダニーロ・マトビッチ(204cm)、ゴラン・ビエリッチ(193cm)らセルビア人の選手たちは同世代か、年下で、3×3歴で言えば小澤が先輩。自分がチームを引っ張って、落合らが留守のチームでも勝たないといけない。そう思っていた。

 それでも、小澤は自分を変えようと模索する様子も垣間見せた。先のRound.3では結果は振るわずも、チーム全員で勝ち切った試合もあっただけに、自らの考え方やプレースタイルを見直そうしていた。

「無理に僕がチームを引っ張らなくてもいい。もっとみんなに任せながら、お互い足りないところを助け合ったことで、先ほどの試合で勝つことができたと思います。それに最近、自分のスタイルを変えたほうがいいと感じています。以前は、オフェンスに少し比重を置きましたが、ここでは落合さんが良いスクリーンをかけてくれるし、ダニーロもペターもゴランも素晴らしい選手です。僕が点を取らなくても、任せられる仲間が増えたぶん、もっとディフェンスにフォーカスしてやろうと思います」

 そんな悩みが聞かれてから、6ヶ月後の昨年11月――。シーズン終盤のプロサーキットで手ごたえを感じるとともに、「3×3 JAPAN TOUR 2023 FINAL」の初優勝を喜ぶ小澤がいた。

「チームが変わって、自分に求められる役割が変わった部分があったので、シーズン序盤はアジャストできなかった部分がありました。でも、シーズン終わりにかけてその役割に応えられるようになってきました。今は自分でどうこうするより、周りを頼ってプレーすることにフォーカスしています。落合さんが自分のプレーを作ってくれたらそれに応えるし、味方が空いたらパスを出します。幅広くプレーできるように意識した結果、国際大会での良いパフォーマンスにも繋がったと思います」

ここ3ヶ月の変化…落合から発破も
 さらに、昨年終わりから年明けにかけても、小澤に成長の跡がうかがえる。ここ1年で「圧倒的にディフェンスが良くなっている」と本人は話したが、特に1月の「3×3 Super Circuit 2024」の越谷ラウンドで、その変化が顕著に現れたように見えた。同「FINAL」の決勝・BREX戦でも終盤、相手のターンオーバーを誘う好守も披露。彼は、その変化の理由を明かしてくれた。

「去年12月の1ヶ月間、トレーニングをスポンサーさんの施設でしっかりと積むことができたのに尽きます。体重を減らして筋量を上げ、クイックに動けるようにした結果、ディフェンスで1歩目の動き出しが以前に比べて速くなりました。相手とのファーストコンタクトをしっかりと仕掛けられるようになって、フィジカルの部分で戦える場面が増えた手ごたえがあります。リバウンド争いにも絡めるようになったと感じています」

 そして、ディフェンスの強化は、彼が3×3日本代表に入るため大きな鍵になる。昨年の「FIBA 3×3 World Cup 2023」のメンバーを例にあげれば、落合、保岡、トーマス・ケネディ(茨城ロボッツ)、佐土原遼(ファイティングイーグルス名古屋)の中で、小澤が超えるべき壁は“保岡”になる。昨夏はALPHASで一緒にプレーできるとあって「保岡さんのディフェンスは凄くて、自分も見習わないといけない。(超えるべき壁は)デカいですけど、同じチームにいる心強さはすごい」と、その存在を話していた。小澤はいまの実力と、代表入りの距離感を次のように見つめている。

「自分が一番良いパフォーマンスを出したときは、保岡さんにも負けないぐらいの力があると思います。でも、それを重要な場面で出し切れてないのが現状です。(保岡さんとはゲームに臨む)メンタリティと、(プレーの)安定性に一番の差がありますし、僕よりもっとディフェンスが良い。その差は感じています」

 そんな小澤に、落合は発破をかけている。昨秋の「3×3 JAPAN TOUR 2023 FINAL」のとき、落合は小澤と田中晴瑛の名前を挙げて「今後の3×3を背負って欲しい」とも話していただけに、期待を込めている。

「(チームとして)一番良くないのはディフェンスをさぼるところ。だから小澤には『サイズが小さいのにディフェンスを頑張れなかったら、お前を4人に入れてる意味ないよね』ぐらいまで、厳しく伝えています。でも、発破かけられてアイツも頑張っています。ただ、そこに向けてのメンタル、フィジカルは、アイツがもっと磨かないといけません。保岡をお手本に挙げて、あのディフェンスに近づかないといけないし、小澤が代表に入るのも保岡のところだよと話しています。本人も意識しているので、引き続き楽しみですね」

壁を乗り越えるチャレンジは続く

 そんな小澤は、3月20日に予備登録選手として「FIBA 3×3 アジアカップ2024」の大会登録選手に選ばれた。パリオリンピック予選に向けた言わば前哨戦にあたる大会で、出場メンバー入りはならなかったが、これで終わりではない。五輪予選第1弾となる5月の「FIBA 3×3 Universality Olympic Qualifying Tournament 2」(UOQT2)や、UOQT2で五輪の切符を獲得できなかった場合に出場する「FIBA 3×3 Olympic Qualifying Tournament」 (OQT)に向けて、挑戦の機会があるだろう。

 ALBORADAで3×3をはじめ、東京オリンピックが開催された2021年には、テスト大会で五輪のコートに立った小澤。「テスト大会ではなく、自分が本番で行く場所にしたかった」と当時を振り返った男が、目標のオリンピックへ出場するため、大きな壁を乗り越えるチャレンジは続く。

【メンバー表】
>>3×3バスケットボール 男女日本代表チーム 「FIBA 3×3 アジアカップ2024」 大会登録選手発表(リンクは外部リンク

【過去記事】
>>日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.7 小澤崚(掲載日:ALBORADA)(2021年12月21日)(リンクは外部リンク

ALPHAS入りして1年…小澤崚の超えるべき壁

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by Takashi Mine

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