ALPHAS.EXEが初優勝した「3×3.EXE PREMIER 2023」から思う、今後の男子3×3シーンの姿
男子・ALPHAS.EXE、女子・YOKOHAMA G FLOW.EXEの優勝で幕を閉じた「3×3.EXE PREMIER」の2023シーズン。2014年に男子7チームでスタートした3人制国内トップリーグは、10シーズン目の今シーズン、4ヵ国(日本、タイ、ニュージーランド、オーストラリア)にまたがり、全90チーム(男子72チーム、女子18チーム)が参戦する3人制グローバルプロリーグへ変貌。優勝決定戦となるPLAYOFFSは、その看板に相応しい白熱した空間だった。今回、チャンピオンチームへ焦点を当てるとともに、今後の3×3シーンを展望したい。まずは男子に迫る。
落合知也が込み上げるものを抑えながら
ALPHAS.EXEが9月17日、3人制グローバルプロリーグ「3×3.EXE PREMIER」の2023シーズンを初制覇した。チーム設立2年目。5月から始まったレギュラーシーズンでは8ラウンドのうち5度の優勝を飾り、うち2ラウンドはオールカンファレンスと呼ばれる国内48チームが集結する戦いを制して、日本のイーストカンファレンス1位で優勝決定戦であるPLAYOFFSへ。9月16日のDAY1では、TACHIKAWA DICE.EXEに20-18で苦戦したが、3×3オーストラリア代表のLucas Walkerを擁するSUPERSONICS BLUE.EXEを22-10で一蹴すると、勢いに乗った。
翌17日のDAY2では準々決勝でニュージーランドのSWISH.EXEに22-12で快勝し、準決勝ではオーストラリアカンファレンス3位のALICE SPRINGS CENTRALS.EXEを21-17で退け、決勝ではSHINAGAWA CC WILDCATS.EXEを19-16で振り切った。大黒柱の落合知也(#91)は「オールカンファレンスも、プレーオフも全部勝ちきって優勝できた。本当に最高!最高のシーズンでした」と、興奮冷めやらぬ声で喜びを語った。
ただ戦前、ALPHASのロスターを見ると、頂点まで駆け上がるのは難しいようにも思えた。開幕戦でラウンドMVPに輝くなどチームをけん引した保岡龍斗はBリーグの活動へ戻り、ハンドラーであり2Pシューターである小澤崚はケガ、3x3男子U21代表に成長した田中晴瑛も大学のリーグ戦で不在。今シーズン序盤に活躍したDanilo Matovic(ダニーロ・マトビッチ)はアメリカの大学シーズンのためチームを離れていた。この大一番にしてALPHASは初の4人で挑むことになったのだ。落合とPetar Šućur(#10/ペター・シューカー)の主力と組んだのは、Goran Bijelic(#8/ゴラン・ビエリッチ)と望月渚生(#11)の2人。ともにPREMIERの出場試合は6試合しかなく、3×3の経験も浅い選手だった。
だが、その2人が準決勝、決勝の厳しい試合で好プレーを見せ、ALPHASを支えた。望月のリバウンドやディフェンスは要所で光り、ゴランの2ポイントシュートはチームを救った。落合も勝ち切った要因について、控えメンバーの存在を挙げる。込み上げるものを抑えながら。
「優勝するためにはゴラン、望月の力が必要でした。彼らは練習から頑張ってくれているので、僕は『自信を持ってやろう。練習の成果を出せば絶対に負けないから』と、言いました。2人がステップアップしてくれて要所で活躍してくれたからこそ、優勝をつかみ取れました。ベストメンバーだったら勝って当たり前かもしれないけど、総合力で勝ち切った。チームの社長としても嬉しかったし、やってきたことが間違いではなかったと思いました。また、信じてやり続けられると確かめられた日にもなりましたね」
そして、今シーズンの躍進に欠かせなかったペターとゴラン、ダニーロの若手選手たちに対しても、感謝を語った。セルビアから来日した彼らの成長なくして、優勝は無かったのだ。
「彼らは初めて海外チームに所属し、私生活も含めて、大変なこともありました。僕から練習で叱られ、試合でも叱られ、嫌になるときもあったと思います。だけど、辛抱強くやれば絶対に結果がついてくるから俺を信じろと言ったら、本当に信じてくれました。チームのために戦える選手たちですし、日本で成功したいという気持ちで来てくれました。この先も大会があるので世界で勝つために何が必要なのか厳しく接するつもりですけど、自分を信じてくれて、ありがとうの気持ちを伝えたいです」
セルビアの新星が苦労を乗り越えてMVP
そのセルビア若手3人衆の一人、Petar Sucur(ペター シュカー)は、PLAYOFFSのMVPに輝いた。「個人的に(MVPに選ばれて)すごい嬉しいけど、チームとして勝ったことが何よりです。日本、オーストラリア、ニュージーランド、タイを含めた中で1位になれたことが一番嬉しい」と、彼は喜びを語る。
そんな24歳の新星にとって、ALPHAS入りは大きなチャレンジであった。6月のオールカンファレンスで優勝した後、日本を選んだ理由についてペターは「選手としてだけではなく、人間としても成長できるヘルシーな環境に身を置きたいと思った」と話していたが、当時から苦労も明かしていた。自らの課題について「(セルビアとは)異なるプレースタイルに適応すること。多くの日本人選手は本当にスピードがあり、守るのが難しい」と話していた。レベル云々ではなく、海外と日本では3×3の質がまったく違っていたのだ。
さらに、落合自身が厳しく接していた様子を想像すれば、コミュニケーションも大変だったはず。ただ、そんな落合についてペターは「彼はすでにワールドツアーに出場し、日本代表としてワールドカップやアジアカップ、オリンピックにも出場している。彼は僕よりずっと経験があるけど、僕はまだ23歳(取材当時)。プロとしてFIBA 3×3をプレーするのは今年で2年目なので、数え切れないほど多くのことを(落合から)学ぶことがある」とも、語っていた。
また、異国の地でプレーする中で、母国・セルビアの選手たちが世界で活躍するニュースは、ペターのモチベーションになっていた。ワールドカップで銀メダルを取った5人制代表はもちろん、日頃から連絡を取り合う3人制で活躍する先輩たちは彼の励みだ。とりわけ、Novi Sadで4度のクラブ世界No.1に輝き、東京オリンピックでセルビアの銅メダル獲得に貢献した元世界ランク1位のDusan Bulutは大きな存在である。
「Dusan Bulutがいなければ、僕はここにいない。彼は僕のメンターです。Strahinja Stojacic(現世界ランク1位)たちも素晴らしいけど、特にBulutからは多くのことを学ぼうと思っている。彼はとても優しくていい人だし、この場を借りて、特に彼とみんなへ感謝したいです」
そんなペターの夢は、3×3セルビア代表選手になることである。母国の国旗を胸にオリンピックやワールドカップ、ヨーロッパカップに出場することが最大の目標だという。もちろん「夢というより険しい目標」と本人が言うように、3×3世界最強チームの一員になる選考はし烈だが、ペターがALPHASで見せている成長は、きっと夢に続くはずだ。
豪州の台頭…「シナガワーーーー!!!!」と絶叫した理由
一方で、今シーズンのPLAYOFFSはグローバルプロリーグの看板を掲げるに相応しいレベル、雰囲気になった印象が例年以上に感じられた。とりわけ、それを後押ししたのはPREMIER入りしたオーストラリアカンファレンスのチームではないだろうか。
オンコートではDAY2のベスト8に7チームの日本勢が占める中、同カンファレンス3位でPLAYOFFSにやってきたALICE SPRINGS CENTRALS.EXEが勝ち上がり、強烈な印象を残した。Preston Bungei(198㎝)、Livai Smith(190㎝)、Matthew Koenig(183㎝)、Tomi Ayilara(193cm)の4人はDAY1でSIMON.EXEとSENDAIAIR JOKER.EXEを破り、準々決勝でもZETHREE ISHIKAWA.EXEを22-14で撃破。準決勝ではALPHAS.EXEに17-22で敗れたが、終盤まで接戦を演じた。運動能力の高い選手たちが個で打開するだけでなく、試合を重ねるごとに連携を磨き上げ、ディフェンスも力強さを増した。
オーストラリアカンファレンスの統括団体・CHAMPIONS LEAGUE BASKETBALL(CLB)のファウンダー兼ゼネラルマネージャーのMatthew Hollard氏も、この結果にポジティブだった。「シーズンを通してEXEの試合をすごく楽しめたけど、プレーオフの2日目は特にエキサイティングでした。ファイナルまで4ポイント足りなかったけど、セミファイナルまで(ALICE SPRINGS CENTRALS.EXEが)行けたことは非常に楽しかった」と話した。
CLBは、PREMIERがワールドツアーに繋がっている大会であり、過去10年の実績を積んできた団体であることから、今季よりPREMIERへの参入を決めたという。CLBもオーストラリアで10年にわたってリーグを運営し、12チームを抱える団体であるが、今季の収穫は特に大きかったようだ。Hollard氏は「EXEの8ラウンドを通して非常にオーストラリアの3×3が高いレベルで競いあえて、一段レベルが引き上げられたと考えています。来年以降、PLAYOFFSの決勝でプレーできるように頑張っていきたい」とも語ってくれた。
また、オフコートでもオーストラリアの選手たちが、会場の雰囲気を盛り上げるのに一役買った。試合に敗れてもなお、各国選手たちに声援を送った姿は印象深い。特に決勝まで勝ち上がったSHINAGAWA CC WILDCATSに日本語で「シナガワーーーー!!!!」と大絶叫した場面は、凄まじかった。その声の主、SENTINELS BLUE.EXEのJah SoloaiはSHINAGAWA CC WILDCATSのアップテンポな3x3と、DAY1から見せた劇的な勝ちっぷりに感銘を受けた。「僕は品川のプレーが好きだし、アンダードックなストーリーが好きなんだ」と、大声の理由を明かしてくれた。
さらに、彼の母国と言えば「FIBA 3×3 Asia Cup」で過去3度の優勝を誇る強豪国であるが、Soloaiは日本へ賛辞を送る。会場となった大森ベルポートの様子、日本代表にも通じるスピーディーな攻防を展開する選手たちの姿を見て「日本のトーナメントはオーストラリアの10年先を行っているような規模があります。我々もこういうトーナメントを積み重ねていき、3×3を発展させていきたい」と話した。オーストラリアの3×3シーンがレベルアップすれば、アジアの競技レベルがより一層上がることは間違いないだろう。
3×3世界最高峰への道…来春、賞金10万ドルのビックゲームも
そんなPREMIERも今年で10シーズン目が終了。2014年に始まったプロリーグが、東京オリンピックの正式種目化の追い風などもあって飛躍的な成長を遂げ、今シーズンは4ヵ国男女90チームが集う規模にまで成長した。もちろん、この間にリーグ優勝チームが多数撤退するなど、全部がハッピーだったわけではないが、3x3の拡大に大きく貢献している。1リーグ制ゆえに、実力差が目立つ試合もあるが、今シーズンはカンファレンスを再編し、各ラウンドの大会方式を変更するなど工夫も見られた。2024年1月には新大会となる「3×3.EXE SUPER PREMIER」も開催予定だ。 PREMIERの上位チームのほか、ワールドクラスのチームを招き、12チームで全4ラウンドを予定。優勝賞金は3×3史上最高の10万ドルというビックゲームだ。グローバルリーグに相応しい競争環境が一段と整備されるだろう。
さらに、3×3は優勝の先に世界最高峰の舞台が待っていることも大きな魅力だ。来年の「3×3.EXE SUPER PREMIER」はもちろん、PLAYOFFSの頂点に立ったALPHASと準優勝のSHINAGAWA CC WILDCATSは、10月14日、15日に中国で開催される「FIBA 3×3 Shanghai Masters」に出場する。落合は常々チームの目標に「世界で勝つこと」を挙げている。今シーズンも開幕戦から「世界でどう勝つかを考えながら練習しています。他のチームに負けないぐらいの練習量もある。そうじゃないとプロサーキット(FIBA 3×3 MastersやChallengerの総称)で勝ち抜けないし、とにかくプロサーキットで勝つことが目標」と、言い切っていた。今シーズンは、9月にモンゴルで開かれた「FIBA 3×3 Sansar Challenger」でチーム初のベスト4に進出し、10月には韓国で開催された「FIBA 3×3 Hongcheon Challenger」で準優勝。まだまだ続く世界戦で高みを狙う。
日本、そしてアジアで揉まれながら、プロサーキットで優勝するチームが現れる未来に期待したい。
- ALPHAS.EXEが初優勝した「3x3.EXE PREMIER 2023」から思う、今後の男子3x3シーンの姿
-
TEXT by Hiroyuki Ohashi