世界まで最短距離…新大会「3×3 SUMMER TOURNAMENT」を振り返る
世界大会の出場権をたった1日で獲得できる――そんな珍しい大会が、8月11日に江東区深川北スポーツセンターで開催された。仕掛けた人物は、国内ツアー大会「3×3 Super Circuit」を主催する“ちゃん岡”こと岡田慧氏である。「3×3 SUMMER TOURNAMENT 2023」と題した新大会は、3×3 JAPAN TOURや3×3.EXE PREMIERのようなレギュラーシーズンとプレーオフの2段構えの大会ではなく、予選プールと決勝トーナメントを1日でやり切る一発勝負を採用。5試合を戦い抜けば、9月9日よりモンゴルで開かれる「FIBA 3×3 Sansar Challenger」へ出場できる。
そんな世界まで最短距離で行ける大会に15チームが集結した。ワンチャンスに懸けたチームもあっただろう。しかし、フタを開けてみると大会を制したのは、UTSUNOMIYA BREX.EXEだった。今シーズン、3×3クラブ世界No.1を決める「FIBA 3×3 World Tour Masters」や「FIBA 3×3 Challenger」といったプロサーキットを転戦する強豪は、決勝でBEEFMANを21-17で破った。
ただ、彼らは世界ランク19位のチームであるため、その順位に応じて抽選で出場権を獲得できる制度によって、今大会の直前にSansar Challenger行きが決まった。そのため、 今回の出場権は準優勝のBEEFMANへ。また、大会を最も沸かせた選手に送られる“MIP賞”には、惜しくも4位だったが準決勝で好プレーを連発したTSUKUBA ALBORADAの藤沢宏隆(#12)が選ばれた。
BREXが優勝…初戦敗れるも「チームが引き締まった」
真夏の新大会を振り返りたい。まず、終わってみればUTSUNOMIYA BREX.EXEがチャンピオンになったが、その道のりは険しかった。
齊藤洋介(#11/以下YOSK)、マルコ・ミラコビッチ(#16)、テオドール・アタナソフ(#21)に斉藤諒馬(#2)を約2ヶ月ぶりに迎えて予選プールへ臨むも、HACHINOHE DIMEとの初戦を15-16で落とした。モチベーションになるはずだった世界戦の切符を確保した上、YOSK、マルコ、テオドールの3人は国内外の試合へ転戦が続いて疲労が蓄積していた。YOSKは「言い訳するわけではありませんが、スイスのフライブルクで戦ったチャレンジャー以降、結構疲れています。僕はセルビアのノビサドに1週間滞在してチャレンジャーにも出場しました。先週末(8/5〜6)のPREMIERでも2日間で6試合……。もう体がキツい」と、大会を終えて漏らすほど。それでも、相手から食らった先制パンチが、彼らを奮い立たせたようだ。
「負けたことによって、逆にチームが引き締まった気がします。心身ともに難しい大会の中、集中してそれぞれ選手たちが持てる力を振り絞って、全員で5試合を戦い抜き優勝へ繋げました。いまだからこそ言えますが、負けた意味はあったんじゃないかと思います」
BREXは予選プール2戦目でSCC BRIDGESを22-18で破り、全体8位というギリギリのラインで準々決勝へ進出。HACHINOHE DIMEとの再戦を21-13で圧勝し、準決勝ではSCC WILDCATSを22-17で下すと、決勝ではBEEFMANを21-17で退けた。
また、YOSKは苦しい戦いの中で、若手の成長に目を細めた。加入1シーズン目の斉藤諒馬に対して「最後の試合なんか本当にすごい活躍でしたね。成長した姿が見られたので、めちゃくちゃ嬉しかったです」と笑顔で振り返る。諒馬は同じく新加入のギバ賢キダビングとチーム内でポジション争いをする立場にあるそうだが、その様子を見てYOSKは「切羽詰まっている部分はあると思うけど、考えながら必死になってやっている」と明かす。チームが勝ち続けるためには若手の底上げも必要なだけに、BREXの次世代にも弾みのついた1日になったはずだ。
BEEFMANが初結成の4人で世界戦への切符を獲得
一方で準優勝だったが、BEEFMANはSansar Challengerへの出場権を獲得した。予選プールでINZAI RHINOS.EXEを22-11、YOYOGI INFINITEを21-17で下し、準々決勝でもYOYOGI INFINITEを19-13で撃破。準決勝のTSUKUBA ALBORADA戦は、終盤の反撃を耐え抜いて21-19で勝ち切った。決勝ではBREXに敗れたものの、自力で世界へ道を切り開いた。
佐野隆司(#6)によると、ミロシュ・チョイバシッチ(#11)、#清水隆亮(#24)、伊藤大和(#44)の4人で戦う公式戦は今大会が初めて。そんな中で決勝まで戦い抜けた要因をディフェンスに挙げる。「かなりコミュニケーションを取りながら練習してきました。大会を通して、合格点といえる内容だと思います」と、振り返った。
さらに自身の2Pシュートについて佐野は、こう語った。
「1試合目からシュートタッチが良くて、決勝のBREX戦も強気で行くしかないと思って臨んだ結果、シュートが入って本当に良かったです。それでチームが勢いづいたというか、たぶん僕にマークを引っ張れたってぶんだけ、ミロシュや清水さん、大和が攻められるようにもなったと感じています」
この結果により、BEEFMANは今年6月にフランスで開催されたClermont-Ferrand Challenger以来となるプロサーキットへ駒を進めた。佐野は過去にChallengerへ出場した経験が無いものの、このチームで本格的に3×3をやり始めて以来、目指していた舞台だ。チーム内での競争があるため、彼がモンゴルへ行けるかまだ分からないものの、2Pシュートが生命線の世界戦で活躍を見たいところ。本人も「チャンスがあるならば、もちろん出たいです」と、静かに闘志を燃やしていた。
藤沢が初の個人表彰…中祖コーチの存在が「大きい」
最後に、世界大会への切符獲得は叶わなかったが、今大会を沸かせてくれたTSUKUBA ALBORADAにも触れておきたい。準決勝でBEEFMANから勝利こそ奪えなかったが、残り3分を切って12-17の劣勢から終盤に19-19まで追いつく猛攻は素晴らしかった。その原動力になった藤沢宏隆(#12)はMIPに選ばれて「素直に嬉しいです。MIPのように個人で賞を取る経験は初めてでした」と笑顔を見せる。ただ「やっぱりチームとして勝てなかったのは悔しいです。世界まで2点差でしたが、これは薄いようで分厚い壁だと感じています」と、唇を噛んだ。
ALBORADAと言えば、今年5月に「FIBA 3×3 World Tour Manila Masters」に初出場した姿が思い出される。サイズはなくとも2ポイントシュートや機動力を武器に国内シーンを引っ張ってきたチームにとって、世界最高峰への挑戦は悲願だった。1勝も出来なかったが、藤沢は「出られたことに対して意味があると思うし、世界レベルの経験を得られて、個人的にもアルボラーダというチームとしても本当に良かった」と、話す。
チームは今春、過去2度の3x3日本選手権準優勝に貢献した小澤崚と改田拓哉が退団し、今シーズンから新たなスタートを切っている。藤沢はそんなチームで活躍を期待される一人だ。これまで所属した3x3のチームでは“4人目”として欠かせない存在だったが、ALBORADAでは主役を張れる人材になりつつある。藤沢は成長の背景についてコーチの存在を挙げた。
「3×3はコーチがいるチームがほぼありません。でも、僕らには中祖(嘉人)さんがいる。個人的にも存在がとても大きいです。今回2点差で負けましたが、国内を勝ち上がって中祖さんをもっと世界に出して、有名にしたい気持ちがあります。いつもお世話になっているので、今日は勝ちたかった。本当に悔しいです」
世界を転戦するチームから、世界を目指すチームが一堂に集まった「3×3 SUMMER TOURNAMENT 2023」。この競技は勝ち上がった先に、世界へ挑戦できる魅力があり、そのルートを増やした今大会の意義は大きい。主催した岡田氏によると、1度限りにするつもりもないそうだ。今夏の出場は実現しなかったが、アメリカやフィリピンからも出場に向けた問い合わせや申し込みが多数、寄せられていたと言う。海外から見ても、価値のある大会として注目される可能性が大きいのだ。
真夏のトーナメントは来夏、パワーアップして帰ってくるに違いない。
【Instagram】3x3_super_circuit(リンクは外部サイト)
【大会情報】FIBA 3×3 Sansar Challenger(リンクは外部サイト)
・9月9日、10日にBEEFMANとUTSUNOMIYA BREX.EXEとALPHASが出場予定です。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi