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  • 2023.06.07

3×3世界最強チーム・Ub……セルビアの雄が語る強さの理由と、パリへの思い

セルビアのUb(ウーブ)は、3×3世界最強のチームである。昨シーズン、クラブ世界No.1を決める「FIBA 3×3 World Tour Abu Dhabi Final」で初優勝を飾り、今シーズンも開幕戦となった「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener」を制した。過去4度、World Tour Finalを制した同国のNovi Sad(ノビサド)をほうふつとさせる強豪は、いかにして生まれたのか。パリ五輪も目指す選手たちが語る強さの理由とは――

世界トップ10に名を連ねる主力…コーチ陣も経験豊富
 最新の世界ランキング(6/7時点)で、Ubの主力選手たちは全員がトップ10に名を連ねる。ランキング1位のStrahinja Stojacic(ストラヒニャ・ストヤチッチ♯3/198cm)を筆頭に、同2位のMarko Brankovic(マルコ・ブランコビッチ♯9/200cm)は、昨シーズンのWorld Tour FinalでMVPを獲得した成長著しい28歳。同3位のDejan Majstorovic(デヤン・マイストロビッチ♯8/200cm)は、セルビア代表として東京オリンピックで銅メダルを獲得し、かつて同国の強豪だったNovi Sadで4度の世界一になった35歳のベテランシューターである。同8位のNemanja Barać(ネマニャ・バラッチ♯6/196cm)は、5人制から転向して1年で3×3仕様に仕上がった実力者である。Baraćを除く、3人はセルビア代表も兼務しており、5月30日から6月4日まで開催された「FIBA 3×3 World Cup」(以下W杯)で、6度目の優勝を飾っている。

 加えて、チームを支えるスタッフ陣も経験豊富な者ばかりだ。コーチのひとり、Marko ZederoはMajstorovicとNovi Sadの黄金期を築いた元選手であり、宇都宮へ来日しなかったがもう一人のDanilo Lukicも同チームでコーチを務め、ZedroやMajstorovicと頂点を経験してきた。チームとして勝ち方を知る集団と言っても過言ではない。

チームが世界No.1に進化した理由
 もっとも、彼らは当初から3×3のスター集団だったわけではない。Ubの前身は、2019シーズンまでVrbas(ブルバス)という名前で活動していたセルビアのチームだった。その頃からのメンバーは、StojacicとBrankovicの2人のみ。World Tourの予選大会「FIBA 3×3 Challenger」での優勝経験はあったものの、最高峰のMastersを制した実績はなく、World Tour Finalの舞台も未踏だった。2019年8月に韓国で開催された「FIBA 3×3 Inje Challenger」では、日本のUtsunomiyaにVrbasが20-21で敗れた一戦も思い出される。

 ところが、2021シーズンになると、チームへ転機が訪れた。2020シーズン終了後に、Novi Sadの黄金期を作った選手たちがタッグの解消を決め、Majstorovicを含む選手2人と、ZedroやLukicのコーチたちがUb入り。シーズン初戦となった「FIBA 3×3 World Tour Doha Masters」で5位発進すると、World Tour Finalで2位へ躍進した。そして、前述のとおり、昨シーズンは宇都宮大会をはじめ4度のMastersを1位でフィニッシュし、World Tour Finalで初めてチャンピオンボードを掲げた。

 Ubの発展からは、3×3のタイトルホルダーたちが、新天地で既存選手を引き上げ、練習の積み重ねと、World Tourを転戦することでチームとして成長した姿が、うかがえる。Stojacicは昨春のUtsunomiya Openerで初優勝を飾った際に、Majstorovicについて「3×3業界で経験豊富で、ベストなプレイヤーなので彼はチームへとても良い影響を与えてくれています」と話し、「今シーズンからBarać選手も加入して、より良いチームが出来上がっていくと思います」と、シーズンの躍進を予見していた。

 そのBaraćは、いまUbを支えるキーマンである。5人制ではシューティングガードやスモールフォワードのポジション登録だったが、3×3ではディフェンスやリバウンド、スクリーンなどハードワークで味方をいかすプレーが光る。これも、本人がそれを役割として意識しているからこそ。世界屈指のチームメイトとプレーしているため、「私がこれ以上いろいろなことをする意味はないんだ。私は自分の仕事をしているだけ。誰もが自分の仕事を持っています」と、語った。1年で3×3にアジャストできた秘訣についても「みんなと一緒にたくさん練習をして、たくさんのトーナメントに参加しました。このスポーツを100%経験し、多くの努力を重ねたからこそできました」と、昨年からの積み重ねを強調している。これは、StojacicやBrankovicから寄せられた、Ubが結果を残し続ける理由にも当然、通じている。当たり前のことを当たり前にやってきた自負さえにじみ出ているようだった。

「チームとしてプレーするのが一番大事ですし、大会が無い冬の時期に準備をすることが非常に大事だと思います。私たちは世界最高のチームのようにここ(宇都宮)にやってきて、頭の中で良い結果を出すことだけを考えています」(Strahinja Stojacic)

「練習に一生懸命取り組む。チームメイトを信じる。自分を信じることです。僕らは、常にチームとして勝つことを考えてます。(昨シーズンのFinalでは)たまたま自分がMVPを獲ったけど、今日はストラヒニャだったし、あすはデジャンかもしれない。チームとしてどう戦うかが、非常に大事ですね」(Marko Brankovic)

世界中から選手が集まる3×3の練習環境
 一方で、Ubが躍進した理由は他にもある。練習環境の充実も見逃せない。とりわけLukicやZderoのコーチ陣が主宰する「Serbian 3×3 Academy」の役割は大きい。Ubを筆頭にセルビアの有力選手が集まるだけでなく、ときにはラトビアやベルギー、中国、モンゴルなどボーダレスに選手たちが練習へ訪れる。Stojacicは「自分の国なので、あまり自慢したくない」と前置きしながら、アカデミーの価値を話した。

「結果として、みんなが(アカデミーのある)ノビサドに来て(3×3が)良くなっているんじゃないかと思います。セルビアではバスケが盛んで、3×3を準備しているすべての国にとって、ここに来て準備をすると、新しいことを学ぶことができる。とても良いことだと本当に思います」

 そんな環境で、Brankovicによるとチームは1日4、5時間の練習をするそうだ。ケアや映像を見る時間を含めれば、もう少し長い時間、3×3に打ち込んでいるはずだ。コーチであるLukicやZderoとの信頼関係も厚い。Stojacicが「私たちはそのアカデミーの一員であり、とても良い仕事ができたと思いますし、このような(良い)状態を継続できるように努力をしていきたい」と言えば、Brankovicもその思いは同じだ。

「私たちはコーチたちを信じ、彼らは私たちを信じ、私たちのために戦術を立ててくれます。そして、すべてが上手くいっている。私たちはセルビア3×3アカデミーのために頑張っています」

 3×3で成功を目指すライバルたちと切磋琢磨できる環境で、Ubは選手とコーチが一枚岩になって練習に励む。変化の激しい競技シーンで結果を残し続ける理由を、Brankovicは「セルビア人はよくゲームを理解して、プレーしているので強い」と捉えていたが、これも「Serbian 3×3 Academy」のような環境があるからこそ。選手たちが日々、練習から力を出し切る努力を続ければ、その分伸び代も大きい。いつの日か、日本からここにチャレンジする選手は現れるのだろうか――

母国代表として目指すパリのゴールドメダル
 Ubがいまのポジションに至ったプロセスは、シンプルだった。練習と試合を積み重ねていくだけ。近道はない。さらに、3×3はヘッドコーチをベンチに置けないため、選手の判断力や主体性が求められるとよく言われるが、ワールドチャンピオンになるためには、コーチの存在も必要になる。選手たちの言葉からは、そう感じられた。セルビアの雄は、今シーズンも3×3シーンの主役であることは間違いない。

 5月20日、21日に開催された「FIBA 3×3 Manila Masters」ではBaraćに代わってWorld Tour初出場となった中国人のYuXuan Liuをロスターに入れて、開幕2連覇を達成。苦戦を強いられたが、地力の差を見せた。6度目の優勝を飾ったW杯も決勝は死闘だったが、終盤15-19からの逆転勝ち。KO負けのピンチから試合をひっくり返す力は、底知れない。彼らが世界で戦い、母国代表のユニフォームを着て戦う先には、パリオリンピックが待っている。

 振り返ると、セルビアは東京オリンピックで銅メダルを獲得したが、準決勝でROC(ロシアオリンピック委員会)に敗れた。Majstorovicが日本で唯一良くない結果を「オリンピック」と明かしたことを考えれば、3×3の母国としてオリンピックのゴールドメダルは悲願でもある。Ub唯一のメダリストは、2度目の五輪出場へ脇目もふらず突き進む。 

「私たちは、自分たちのことだけを考えています。その日のために準備をしており、オリンピックに行きたいと思っている選手がセルビオにはたくさんいます。代表チームの中でポジションを争うことになる。セルビア代表になる選手は、金メダルを取りたいんです」

 そして世界No.1プレーヤーであるStojacicも「次の大きな目標」として、パリを目指す。語り口は落ち着いていたが、「私たちは皆、その瞬間のために練習し、その大きな大会に備えています」と言葉に思いを込めた。まだ代表経験のないBaraćも「アスリートとしてオリンピックは夢のようなところ。もちろん目指します。ただ、セルビアには、LimanやPartizanなどいろいろな良いチーム、選手たちがいます。僕は練習をして、一つずつ積み重ねていきたい」と、胸の内を明かした。

 ベストオブベストな4人が見せるチームで勝つ姿勢と、結果を出すための準備、そして世界No.1と言えどもライバルたちをリスペクトし、その中で勝ち抜こうとするメンタル。世界の競技シーンをけん引し、パリオリンピックで頂点を目指す最強チームから学ぶべきことは多い。その言葉、プレーには競技の本質が詰まっている。

【Instagram】@3x3ub(英語/外部リンク)

【Instagram】@serbian3x3academy(英語/外部リンク)

3x3世界最強チーム・Ub……セルビアの雄が語る強さの理由と、パリへの思い

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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