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  • 2023.05.31

激変を予感させる世界ツアーが幕開け…「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023」を振り返る

3×3クラブ世界No.1を決めるツアー大会「FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Opener 2023」が、4月29日、30日に開催された。今大会は、FIBAの定める大会グレードが最も高いMastersと呼ばれる舞台で、その今シーズン開幕戦。二荒山神社バンバ市民広場に特設コートが設置され、日本からはUTSUNOMIYA BREXがUtsunomiyaとして、BEEFMANがYokohamaとして出場。大きな変化を予感させる世界戦で、彼らはどんな収穫があったのか。そして強豪たちはどんな姿を見せたのか。

Yokohamaが新たな姿で強豪に善戦
 結論から言えば、日本勢は12チームが頂点を争った開幕戦でインパクトを与えるには至らなかった。しかし、いま持てる力は出し切った印象だった。シーズン初戦で世界の強豪たちと戦えた意義は大きい。

 まずYokohamは、野呂竜比人(♯3/188cm)、清水隆亮(♯4/191cm)、湊谷安玲久司朱(♯5/190cm)の3人に、今シーズンよりセルビア生まれの22歳、Milosh Cojbasic(ミロシュ・チョイバシッチ♯6/204cm)を迎えて、宇都宮にやってきた。強豪、ラトビアのRiga(リーガ)とアメリカのMiami(マイアミ)が欠場するというニュースが、当日になって飛び込んできたが、彼らにとっては朗報だった。当初、出場予定だった3チーム総当たりの予備予選が無くなったため、繰り上げで本選予選に出るチャンスが転がり込んだのだ。


 4人は、初戦でUtsunomiyaとの日本対決に17-18で競り負け、続く世界6位のAmsterdam(アムステルダム)にも15-21で敗れて、12チーム中9位でフィニッシュしたが、その表情に悲壮感はなかった。結果はついて来なかったが、Utsunomiyaに対しては終盤の猛攻で一時試合をひっくり返し、Amsterdamに対しても、ミーティングで確認したセットプレーと、風も考慮したディフェンスプランを遂行し、残り3分を切って15-16と善戦した。最後は、相手の高さや個人技に押し込まれてしまったが、世界で戦える可能性を感じさせた。

 とりわけ、野呂とMiloshのピック&ロールは昨シーズンには無かった彼らの攻め手になった。1点を着実に奪ったほか、その2人を起点にキックアウトパスから清水が2ポイントシュートをヒット。野呂は戦術の変化について、次のように明かしている。ディフェンスの強度が高い世界戦で、精度を磨けば、チームの大きな武器になりそうだ。

「昨シーズンはラザー(ポポビッチ)とアレクのピック&ロールが中心で、僕はシューターでしたが、それだけではチームとして今後(の伸びしろが)見えてこないと思いました。僕の役割をもっと増やすことが課題でもありました。(ミロシュという)良い相棒が入ってくれて、ピック&ロールのやり方を2人ですり合わせています。今シーズンが終わったときに、完成形になれば良いと考えているので、一歩ずつ進んでいきたいです」

Utsunomiyaが攻防両面でモデルチェンジへ
 そして、12チーム中8位で大会を終えたUtsunomiyaも、ロスターが大きく変わった中、開催都市チームとして初日に勝ち星を挙げ、2日目の決勝トーナメントに駒を進めた結果を考慮すれば、及第点だろう。昨シーズンからの継続選手は齊藤洋介(以下YOSK♯1/184cm)のみ。3シーズンぶりにMarko Milaković(マルコ・ミラコビッチ♯3/197cm)を迎え、その盟友とも言えるTeodor Atanasov(テオドール・アテナソフ♯6/205cm)と、24歳の斉藤諒馬(♯5/193cm)を獲得して生まれ変わったUtsunomiyaにとって、今大会は始動して3週間ばかりでの一戦だった。準備も限られる中、今大会はチームの課題を明確にする良いレッスンになったようだ。


 3試合を振り返ると、DAY1の予選は、Yokohamaに18-17と辛勝し、Amsterdamには16-21の敗戦。DAY2の準々決勝では王者・Ub(ウーブ)に対して対策も立てたが、そのオフェンスをストップするには至らず、14-21で完敗した。YOSKはUb戦後のミックスゾーンでディフェンスのコミュニケーションを詰めていく必要性を説いた。彼らの今シーズンの目標は「世界TOP10入り」。戦前の世界29位から、最新の世界ランクでは同20位(5/29時点)まで浮上したが、チームは発展途上だ。

「昨シーズンは外国籍選手を含めて、僕らのチームは身長があまり変わらなかったため、ディフェンスではスイッチをしていました。ですが、今年は身長がバラバラです。マークマンによって、入れ替わっていけないシーンと、入れ替わるシーンに分けています。その判断や連携を磨いていく必要があります」

 また、選手構成が変わったため、オフェンスでもモデルチェンジをYOSKは考えている。
 

「昨シーズンいたドゥサン(ポポビッチ)と、テオやマルコのスクリーンはタイプが全く違います。僕のピック&ロールがオフェンスの主体になりますが、今は僕とチームメイトの間で考えながらパスを出して、受けている状況なので、ミスが起こっています。だから、これまでと違うスクリーンの使い方をしながら、僕は自分がどう生きるのかを意識しています。例えば、去年で言えばドゥサンのスクリーンはタイミングがものすごくいいので、主にパス重視で得点を重ねていましたが、今年はテオのスクリーンが分厚いので、相手のディフェンスも抜けるのが難しい。だから、その分、自分の得点が増えていく感覚でプレーをしています」

 攻防両面でUtsunomiyaが、変化の先にどんなチームに仕上がっていくのか、楽しみである。

王者Ubが2連覇へ好発進…モンゴルの台頭も
 一方で、世界の強豪たちに目を向けると、変化の激しさをまざまざと見せつけられた。とりわけ、モンゴルのSansar(サンサール)の台頭である。

 彼らは1勝1敗で決勝トーナメントに進むと、準々決勝でAmsterdamを延長戦の末に20-18で撃破。相手は、オランダのUtrecht(ユトレヒト)という3×3チームから、元5人制オランダ代表で活躍したWorthy de Jong(ワーシー・デ・ヨング♯6)を補強するなど、これまで以上に個の強さが際立っていたが、その壁を乗り越えた。続く、準決勝では世界4位のベルギー・Antwerp(アントワープ)に10-13で敗れたものの、粘り強い攻防が光る。「FIBA 3×3 Asia Cup 2023」でモンゴル史上2度目の優勝に貢献した一人、Anand Ariunbold(アナンド・アリウンボルド♯2)が大会の得点ランキング2位という目覚ましい活躍を見せるとともに、大会前日に合流したばかりの新戦力・Aleksandar Ratkov(アレクサンダル・ラトコブ♯5)がチームを一段と引き上げた。

 Anandは明かす。「やっぱりラトコブのバスケの考え方は(僕たち)と全然違う。ディフェンスとリバウンドのところ。オフェンスはスクリーン、ダイブとかめっちゃ良いですよね」と。セルビアのLiman(リマン)で活躍したベテランの働きは、絶大だったのだ。Anandからは、一緒にプレーするのが楽しくてしょうがない印象さえうかがえた。またアジアにひとつ、強力なチームが生まれた瞬間と言えるだろう。

 さらに、今大会で改めてその強さを印象づけたのが、昨シーズンの3×3クラブ世界No.1チームであるUbだった。予選では、Sansarに21-17、Sydney(シドニー)にも21-17と2連勝したが、嚙み合わないプレーも目立っていた。ところが、決勝トーナメントに入ると尻上がりに調子を上げて、頂点まで駆け上がった。

 Utsunomiyaとの準々決勝では決勝点をアリウープで叩き込むなど21-14で快勝し、準決勝では昨シーズンの優勝決定戦「FIBA 3×3 World Tour Final」の決勝でマッチアップした、オーストリアのVienna(ヴィエナ)を21-16で撃破。決勝ではAntwerpを21-11で圧倒した。そのスタッツを振り返ると、2ポイントシュートを実に12本中6本も沈め、1ポイントシュートは8本中7本も決めるなど、文句なしの戦いだった。

 大会MVPに選ばれたStrahinja Stojacic(ストラヒニャ・ストヤチッチ♯3)は試合後、「昨日はまあまあだったけど、準々決勝は良かったし、準決勝はとてもよかった。決勝はパーフェクトだった」と、チームの戦いぶりを総括。さらに、宇都宮開催となったMastersで5度目の優勝を飾ったDejan Majstorovic(デヤン・マイストロビッチ♯8)は、「2014年の仙台で開かれたマスターズ以来、私は本当に日本へ来るのが大好きで、この国で多くの成功を収めてきました。唯一良くない結果はオリンピック(銅メダル)だったけど、それ以外は楽しめています」と、語った。昨シーズンよりひと回り成長した、28歳のMarko Brankovic(マルコ・ブランコビッチ♯9)、5人制から転向して1年で3×3選手に仕上がったNemanja Barać(ネマニャ・バラッチ♯6)とともに、王者は2年連続の世界一へ好発進した。 

激変する世界でチャンピオンボードを掲げる光景を
 王者がパワーアップし、有力選手が移籍先でチームを引き上げる。Mastersとその予選大会にあたるChallengerを総称した「プロサーキット」と呼ばれる国際舞台は、今シーズン間違いなく競争が激化するだろう。宇都宮のその序章だ。5月13日、14日に開催された「FIBA 3×3 Shenzhen Challenger」では、Antwerpから中国のFutianに移籍した東京オリンピックの3×3ベルギー代表であるThibaut Vervoort(ティボー・ベルフォート)がチームを6位に押し上げ、RIGAから同じく中国のBeijingに移籍したKarlis Lasmanis(カーリス・ラスマニス)とNauris Miezis(ナウリス・ミエジス)も躍動。同オリンピックの金メダリストたちは猛威を振るい、チームをいきなりChallengerの初優勝へ導いた。

 そんな様子を、YOSKや野呂も宇都宮大会を終えた後、危機感を持って予見していた。ただ、自分たちも結果を残す気概も十分に見せながら――

「各国のスーパースターが今年は移籍によって、他のチームに所属して、当然MastersやChallengerといった世界大会に挑戦しているので、強いチームが間違いなく増えています。だから、僕らもしっかりとその戦いに入っていかないといけない。まずは世界ランキング20位に絶対に入る。ただ、そこを目標にしてもその上には勝てないので、TOP10に入って(Mastersにつながる)Challengerで優勝したいです」(YOSK)

「アジアの本気度、特にモンゴルと中国の強化は半端ではないです。3月にタイの国際大会でBeijingと戦いましたが、ラスマニスとミエジスは凄かったし、Sansarのラトコブも、実はオフに誘っていました。本当に、危機感を持ってやっていきます。僕はオーストリアのViennaのような、派手ではないけど、190㎝ぐらいのオールラウンドな選手を中心に、チームで勝っていく姿を目指したい。今年のYokohamaを楽しみにしてて下さい」(野呂)

 世界の強豪たちは宇都宮を皮切りにプロサーキットを転戦し、シーズンを通して成長する。日本勢も、今シーズンこそ熾烈な戦いに食らいつくとともに、そこへ出続けるために国内外で出場権を獲得し、チームの世界ランキングをひとつでも上げていきたい。特にYOSKのいう「世界20位」は、Challengerの出場権を得やすくするための、ボーダーラインとも言われている。
 
 激変する3×3シーンで、日本勢がチャンピオンボードを掲げる光景を、今シーズンは期待したい。

【日程】日本勢が出場するプロサーキット(予定)
・大会名:FIBA 3×3 World Hoops Penang Challenger
・日 程:6月10日(土)~11日(日)
・出場チーム:Utsunomiya BREX EXE、Saitama ALPHAS EXE
・大会詳細(英語/外部リンク)

激変が予想させる世界ツアーが幕開け…「FIBA 3x3 World Tour Utsunomiya Opener 2023」を振り返る

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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