PICK UP PLAYGROUND 〜ストリートボールの原点はピックアップゲームにあり
11月20日土曜日、代々木公園バスケットボールコートにて、コミュニティによる自治が生まれることを目指す「ゴミ拾いxピックアップゲーム」イベント、”PICK UP PLAYGROUND”が開催されました。ストリートボールとは?ピックアップゲームとは?そんなことも考えながらレポートします。
【ストリートボールとは?】
ストリートボールとは何でしょう?みなさんそれぞれ考えがあると思います。いきなりで恐縮ですが、私個人的な考えで勝手に定義させてもらうならーー
「誰でもひとりでも参加できる真剣勝負なバスケ」です。
アウトドアの公園のイメージがあると思いますが、体育館でもストリートボールです。ただ、公園は開かれている分、誰でも参加しやすいです。特に日本では区や市の体育館開放がありますが、いきなりひとりで行くにはハードルが高いのではないでしょうか。
「21」など他にもありますが、世界各地でストリートボールといえばやはり、集まった見ず知らずのひとと即席チームをつくってプレーする「ピックアップゲーム」です。
ストリートボールの大事な要素は「真剣勝負」ですが、ひとつ誤解してはいけないのは、真剣勝負=スキル勝負ではない、ということです。ここが面白い部分で、部活などでのチームバスケ経験(アメリカでは”organized basketball”と呼ばれて、”streetball”と対になる言葉です)など全くなくても楽しめるのがストリートボールの良いところです。シュートやドリブルが下手でも、一生懸命走ったり、ディフェンスを頑張っていれば仲間が褒めてくれます。そして、混んでいるコートは待ち時間はあっても、「NEXTコール」のシステムによって誰でも必ずプレーできる仕組みとなっています。
NEXTコールとは、ストリートボールは基本的に勝ち残りですが、誰もがキャプテンとなって自分でチームを組むことができます。例えば、待っているチームが2チームあるとします。その2チームに入れなかったとしても、自分が3チーム目のキャプテンとなってチームを組むことができます。その際に”Next after next”(次の次)、”Next after next after next”(次の次の次)みたいに自分のチームの順番を常に周知する必要があります。コートを離れると帰ったとみなされるのでキャプテンは必ず待っている間ずっとコートにいて、各ゲームが終わった際に必ず毎回周知するのがベストです。スキルに自信のない人はキャプテンになることが多いですが、有力なプレイヤーに声をかけていく、というGM的なスキルがあると勝ち残って多くプレーできる確率があがります。
ストリートで面白いのは、スキルが劣っていたとしても、ディフェンスやリバウンドに頑張るプレイヤーは段々と認知されていき、ピックされやすくなっていきます。
【エッセンスが詰まったPICK UP PLAYGROUD】
“SOMECITY”と”ballaholic”がオーガナイズしたPICK UP PLAYGROUNDですが、個人的に考える「誰でもひとりでも参加できる真剣勝負なバスケ」というストリートのエッセンスが詰まっていてすごく良いなあと思ったのが2コートそれぞれ違うやり方をしていた工夫でした。
Aコートは勝ち残りで行うリアルストリートボールスタイル、Bコートは毎ゲーム入れ替わるスタイルと分けていたこと。 どうしても待ち時間が長くなるAコートに比べてBコートは順番が回ってきやすいのでよりプレーしやすくなります。勝たなければ、というプレッシャーは薄いかもしれないですが、見ず知らずの人と一緒にプレーする、というピックアップゲームの楽しさを味わうには十分です。
Bコートでは、SLAM DUNKと井上雄彦さんが好きで初めて代々木コートに来て、バスケは中高バスケ部以来というタカヤスさんが、コートを元気いっぱい走り回っていました。部活でしかバスケしたことがないので知らないひととチームを組んでプレーすること自体が初めてという彼女は、「緊張したけど楽しかった、またやりたいです!」と話してくれて、部活とはまた違う新たなバスケ体験を楽しんでくれたようです。
一方、カリフォルニア州ベーカーズフィールドでストリートボールに魅せられて毎日プレーしていた、というTAIKIさんは、ストリートボールは”1試合にかける思い”が違う、といいます。「試合に勝った後の勝利の味わいは今でも忘れられないくらい。観客がいるわけでもないし、別に有名なパークでもないのに、終わった後にすごく達成感がある。おじいちゃんも普通にプレーしてて、変わったシュートフォームなんだけどすごいシュート入るおじいちゃんがいたり。そういうのを見ると作り上げてきた文化を感じます。すごいフックシュートの達人とか。そういうひとがパークにそこらじゅうにいるんで。」と語るTAIKIさんは現在日本のバスケコートをYouTubeなどで紹介するプロジェクト”JAPAN OUTDOOR HOOPS”を日々更新しています。
【イソさんのストーリー】
「朝9時に仕事が終わって、9時半くらいに代々木にきて、12時くらいまでここにいます、午後に上手い方たちが来たらそれを観て、ヤジを飛ばしています。笑 雨が降らない限り毎日やっています。」
2015年に初めて来て以来7年目に入った、という常連のイソさん(ISO)の姿もありました。どういうキッカケで代々木でバスケするようになったのか聞いてみました。
「高校のときに部活でやっていました。別に強くもなんともない普通の都立です。その後30年くらいボールすら触ってなかったんです。7年前にお腹の腫瘍の出術をしたんですが、そのリハビリで代々木公園を散歩したときにコートを見て、ボールを買って次の日コートに来ました。朝来て、どうしていいかわからないので、ひとりでシュート打ってる方に、僕がディフェンスだけやるので1対1をやってください、と言いました。そうすると大体98%くらいの人がいいですよ、と言ってくれるんです。で、毎日来てたら、オフェンスもやっていいですよ、って言われて。それで知り合いの方が増えて、日曜日の朝8時くらいになるとゲームが始まるんですが、ゲーム一緒にやりましょうよって言ってくれる方が何人かいて。」
実は今年のALLDAYに出場したチームにISOというチームがありました。これは代々木で毎日プレーする仲間たちがイソさんの名前を冠してつくったそうです。奇しくも同じ代々木でプレーするYOYOGI PARK BALLERSと2回戦で当たり負けてしまいましたが、残り1分で登場し、両チームの選手・ベンチから最大の応援を受けたのがイソさんでした。
まさに代々木コートのストリートボール文化を体現しているのがイソさんのような方なのかもしれません。
【代々木から全国へ】
ALLDAYプロデューサーで今回”PICK UP PLAYGROUND”を企画した秋葉直之さんは、コロナの影響で体育館が使えないなかで利用者が増えているなかでゴミの状況が良くないと公園側から聞いた、と話します。「コロナ前であればみんなゴミ拾いしていたが、コロナの影響で他人のペットボトルなどのゴミを拾うことに抵抗感がある。バスケに追い風が吹いてるなかでコートを作りたい、という声も増えているが、ユーザー側のモラルが上がらないと閉鎖されてしまうのではないか」と警鐘を鳴らします。
「問題が起きたときに会話が生まれない、というのも問題。管理者と利用者で”VS”になってしまうのが良くない。ただこういうイベントやろうとすると管理者に話しに行かないといけないので、そこで会話がうまれる。そうしてホットラインが生まれるとなにかちょっと問題が起きたときにすぐ連絡がくるようになる。こういうイベントをやることで、お互い顔の見えない利用者と管理者の関係がちょっと変わるかな、と。」代々木だけじゃなく、地方のコートにもこのムーブメントが広がってほしい、と秋葉さんは話します。PICK UP PLAYGROUNDのWebからイベント申請企画書のフォーマットをダウンロードできるようにしたいと思ってる、とのこと。
もうひとつ、コミュニティが自然発生的に生まれることが大事、と秋葉さんは話します。日本人は見ず知らずの人とのコミュニケーションが苦手な部分があるので、こういうイベントをキッカケに、一緒にバスケやゴミ拾いしながら顔見知りになってもらえれば、と。
TAIKIさんも、アメリカのプレイグラウンド「ではピックされないことはあっても誰でも絶対にNEXTはコールできるので、誰でもプレーできる」と話していまし
たが、とはいえ日本ではまだまだこういった文化が作られるのには時間がかかります。こういったイベントを通して、誰にでも門戸が開かれている、という面でのストリートボール文化ももっともっと広がっていってほしいですね。
【とにかく楽しいピックアップゲーム】
今回の「PICK UP PLAYGROUND」は参加者は100名、そのうちの半分くらいはALLDAYに出たことないような、このイベントだから来た、という方々だったようです。毎日やっているひとも、そうでないひとも。とにかくバスケを楽しむ。そんなシンプルな原点を思い出させてくれたイベントでした。
最後に、イベントオリジナルのトングと手袋で、みんなで大笑いしながらやったゴミ拾いが、最高に楽しかったことを付け加えます。
このムーブメントが全国に広がっていくことを願って!
- ストリートボールの原点であるピックアップゲームのエッセンスが詰まっていた”PICK UP PLAYGROUND”
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TEXT by JIRO