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  • 2021.04.09

アシックスと河村勇輝。愛用のブランドと世界へ

アシックスジャパンが東海大学の河村勇輝とタッグを組んだ。ここでは4月2日に開催された契約発表の記者会見から、両者が手を取り合った背景や河村が愛用するシューズへ迫るとともに、彼の成長に重ねてバスケットボールカテゴリーでさらなる挑戦を目指す同社の展望に触れていく。

ダルビッシュ、イニエスタ、そして河村
アシックスジャパンは4月2日、東海大学男子バスケットボール部SEAGULLSに所属し、過去にはBリーグの横浜ビー・コルセアーズや三遠ネオフェニックスで特別指定選手として活動した河村勇輝(2年生)とアドバイザリースタッフ契約の締結を発表した。契約は2021年3月1日からで、同社のバスケットボール関連用品やスポーツスタイルカテゴリーのアパレル・シューズなどの使用や商品開発におけるアドバイス、製品の宣伝・販促活動などへの協力とされている。現役大学生とのアドバイザリースタッフ契約は、アシックス史上初。同契約を結ぶアスリートはスポーツ界のトップシーンで活躍する選手ばかりだ。例えばバスケットボールでは篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)や渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)が名を連ね、ベースボールではダルビッシュ有(シカゴ・カブス)や大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)、フットボールのアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)、テニスのノバク・ジョコビッチら、一流の顔ぶれが並ぶ。契約選手の総称であるチームアシックスの仲間入りについて、河村は次のように語った。

「本当にそうそうたる方々の一員になることができました。レベルは違えどチームアシックスの一人になれたことはすごく嬉しいです。篠山竜青選手や大谷翔平選手、アンドレス・イニエスタ選手といった多くのスポーツ界で活躍されているアスリートの方々を見て、僕もそこに肩を並べられるように、世界で活躍できる選手になりたいと思います」

契約締結の背景とお気に入りの一足
では河村にとってアシックスはどんな存在か。会見では小学校時代、ミニバスケットボールをやりはじめたころから同社のバッシュを履いていたと明かし、契約締結に至った思いをこう話した。

「小さな頃からバスケットボールを始めました。その時からずっとアシックスのバッシュを履いてきました。やっぱり僕のプレースタイル、パフォーマンスを最大限に発揮してくれるバッシュでしたね。またバスケットボールを通して、アシックスとともに日本を元気にすると言う理念にすごく共感をしましたので、契約をさせていただきました」

そして河村が今シーズン着用する『GLIDE NOVA FF』(ネイビー)にも話は及んだ。このバッシュは彼が福岡第一高校時代の高校2年生から愛用する一足だ。バッシュのカラーはホワイトだったり、ストリートボールブランド・ballaholicとコラボレーションしたモデルだったりと変化はしていったが、今年5月に20歳になることを踏まえれば約3年間も足元から彼を支えていることになる。長年、履き続けているだけあって、製品には太鼓判を押していた。

「僕はデザインがすごくシンプルなものが好きなので、本当にこのバッシュがカッコいいと感じて履いています。機能はやっぱり自分の強みがスピードや俊敏性なので、バスケットボールシューズも軽量化と、足首が動きやすいローカットであることがとても気に入っています。本当に今シーズンもこのバッシュにお世話になりました。これだからこそできる自分のプレースタイルだと思いますし、これからもアシックスと共に夢の実現に向けて頑張っていきたいです」

大きな信頼を置くアシックスのバッシュ
ただ、彼を見ていると今シーズンは一時期、アシックスとは別ブランドのシューズを履いた姿も見られた。おおよそ昨年のインカレや、昨年12月下旬に特別指定選手として横浜ビー・コルセアーズに加入してから今年1月27日の千葉ジェッツ戦までの約1か月程度である。中2日で迎えた同30日の広島ドラゴンフライズ戦からバッシュは『GLIDE NOVA FF』(ネイビー)になっている。アシックスのイメージが強かっただけに意外な姿であったが、その理由について聞けば言葉を選びながら、次のように明かしている。

「(当時)僕はどのブランドとも(個人)契約は無かったです。そのため大学では東海大学が契約をしているブランドの製品を身につける必要がありました。だからインカレの時は(他ブランドのシューズを)履いていました。ビーコルに加入したときも大学に在学している中で特別指定選手として活動していたので、そこ(=アシックスを履くこと)はどうなんだろうと思っていたのですが、やっぱり足へのフィットであったり、ビーコルのフロア状況(※1)も含めて、ちょっと怪我をする心配もありました。陸川先生(東海大学男子バスケットボール部ヘッドコーチ)に相談をして、Bリーグの活動期間は(アシックスを着用して)大丈夫という話をいただいて、そこからバッシュ(GLIDE NOVA FF)を履くことになりました」

彼の良さは本人も語る通り「スピード」だ。コートを縦横無尽に駆け巡り、加速も減速も切り替えしにも抜群のキレがある。プロのコートに立つ以上、ベストパフォーマンスを出すために不安を取り除くことは当然だろう。バッシュの性能とは別にして、選手である以上は自分に合うシューズが一番である。しかるべき方に相談をしたうえで、彼は愛用する唯一無二のシューズを再び着用するに至ったのだ。そして「どんなコートにも対応できるバッシュ」と『GLIDE NOVA FF』には大きな信頼を置いていることを感じさせた。

河村の成長と重ねる将来的な海外展開
一方で、アシックスも河村との契約締結を喜んだ。会見には同社の常務執行役員の松下直樹氏も出席。「河村勇輝選手とアドバイザリースタッフ契約を締結させていただくこと、またアシックスファミリーの一員としてお迎えできることを大変光栄に思います」と挨拶し、「河村選手からの製品に対する高い評価と、スポーツ界の発展に寄与したいという思いが一致し契約に至ったという次第であります」と語った。

アシックスと言えば、グループ全体で海外売上高比率が約70%を超える日本を代表するグローバルなスポーツメーカーであり、国内のバスケットボールシーンにおいては誰もが知るブランドである。設立は1949年。ルーツはバスケットボールシューズの開発から着手したほどだ。日本にいる競技経験者なら老若男女問わず、一度は同社のバッシュを履いた方も多いことだろう。松下氏も「古くからアシックスバスケットボールは日本国内の選手、ヘッドコーチから非常に高い支持を得て参りました。非常に高いシェアを保っていると思います。また競技シーンはもちろん「スポーツスタイルで使用できるカテゴリー別のシューズでもバスケットボールシューズが一番多いんです」と明かしている。

しかし、「国内では高いシェアを持っていますが、海外に行くとほとんど展開をしていない」と課題感もあった。もちろん話の前段として現在のアシックスにおける主力カテゴリーはランニングであり「我々の事業全体の中で最優先事項がランニングです。パフォーマンスランニング(※2)でナンバーワンになる大きな目標があります」と、松下氏は述べている。

ただ、同氏は「海外におけるバスケットボール、アメリカにおけるバスケットボールで我々のパフォーマンスを上げていくことは宿命」とも言及しており、今の最優先事項をクリアしたあかつきには、将来的な事業成長のためにバスケットボールカテゴリーの海外展開にも触れている。河村勇輝のさらなる成長に重ねて、次のように思いを込めていた。

「準備はできています。選手や商品、タイミングが(海外展開の判断をするうえで)非常に大きいだろうと考えています。河村選手がそれこそ将来的に日本代表や世界の舞台で活躍される姿を見せてくれるとともに、我々も再度、大きなマーケットに出ていくことができればと思っています」

両者の挑戦「イノベーションを共に進めていきたい」
今後も両者のバスケットボールに対する取り組みは非常に楽しみだ。コートに目を向ければ河村勇輝のシグネチャーモデルも視野に入っている。松下氏は会見でこうも答えていた。

「河村選手のパフォーマンスをさらに高めるために我々が何をしていかないといけないのか。これから共に研究をして新しい製品を開発していくようになると思います。例えばグリップ性とクッション性という矛盾する問題を解決しながら、選手の望みに合わせ、力を最大限に発揮できるようなシューズを作っていくことは、我々の勉強でもあり、研究開発の大きなポイントです。イノベーションを共に進めていきたいと考えています」

そして当の本人は「まだまだ実力を含めて(シグネチャーモデルを履くに及びませんが)日本代表や世界で活躍することができれば、もっと良い影響を与えられると思っています。力をつけて行くことで、そういったところもできるぐらいになれればと思っています」と語った。まずは選手として東海大学で練習に励み、さらなる飛躍を目指していく。

バスケットボールで世界を目指すアシックスと河村勇輝の挑戦に注目したい。

※1. 横浜はホームアリーナである横浜国際プールのフロアにスポーツコートを採用しているが、ウッドコートの他会場に比べて選手たちがスリップするシーンが目立つ。

※2. 同社が定義する“ランナーが快適に走ることができ、優れたパフォーマンスを発揮できるように機能性をもたせたランニングシューズを展開するランニングカテゴリー”のこと。

アシックスと河村勇輝。愛用のブランドと世界へ

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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