• COLUMN
  • 2025.09.26

女子3×3ゼロイチの歴史…Q.O.Q.3×3が示した新たな世界観

「〇〇から世界へ」――3×3界隈でよく耳にするタグラインである。しかし、その世界観を当初から描けたのは男子選手だけで、女子選手たちの競技環境や制度設計は遅れていた。それでも日本の女子3×3シーンでは、現場の当事者たちが課題を見過ごさずに、ゼロイチで新しい世界観を示してきた歴史がある。矢野良子氏、大神雄子氏の先駆者と、最新事例を生み出す桂葵。点で見ればバラバラだが、自ら立ち上がってきた姿は、3×3が進む道しるべになるんじゃないだろうか。


ZOOSが手掛けた国内初の世界予選

 ことし6月8日、ZOOSを主宰する桂葵が中心となって「QUEEN OF QUEENS 3×3」(以下Q.O.Q.3×3)がlivedoor URBAN SPORTS PARKで開催された。これは、女子の国際ツアー大会「FIBA 3×3 ウーマンズシリーズ」の予選大会として国内で初めて実施された大会である。ホストチームのZOOSを筆頭に、多彩なチームが集結した。今年2月の3×3日本選手権を制したboldiiies、3×3国内リーグ・3XSの覇者であるFlowlish Gunma、そしてワイルドカードを勝ち上がったMAURICE LACROIX、TOKYO VERDY.EXE、UENOHARA SUNRISEが出場。大会の垣根を超え、誰でもエントリーできたワイルドカードから世界まで一本の道でつながるという競技史に残る大会になったのだ。

 出場選手の顔ぶれも高橋芙由子(FLOWLISH GUNMA)や鶴見彩(MAURICE LACROIX)といった3×3日本代表選手から、浅羽麻子(boldiiies)や吉武忍(UENOHARA SUNRISE)といった競技シーンで積んできた選手、Saicha Grant-Allen(FLOWLISH GUNMA)やAma Degbeon(ZOOS)といったワールドクラスの選手まで実に多彩だった。世界の切符を懸けた決勝戦はFLOWLISH GUNMAとMAURICE LACROIXが激突し、19-17でFLOWLISH GUNMAに軍配が上がったものの、最後まで手に汗握る攻防に。初開催にして、大きな熱量がコートを包み込んだ。

 そして、大企業や競技団体ではなく、競技の最前線に立ち続けてきた桂が手掛けたことも印象的だった。その姿は、女子の競技シーンで3×3のゼロイチに取り組んできた先駆者たちを思い起こさせる。


初の女子リーグ戦に、ウーマンズシリーズ東京開催

 時計の針を巻き戻してみよう。日本の女子3×3の本格的な幕開けは、2018年にさかのぼる。3×3グローバルリーグ「3×3.EXE PREMIER」が女子カテゴリーを新設してはじまった。そして9月のPREMIER閉幕後に、矢野良子氏が女子選手だけのリーグ戦「3W」(トリプルダブル)を立ち上げたのだ。10月から翌年5月までの全12ラウンドとプレーオフが開かれて、女子選手たちがシーズンを通してプレーできる環境が生まれた。いま思い出しても、画期的な取り組みだった。

 もっとも、3Wの立ち上げのきっかけは、矢野氏の東京オリンピック2020に出場したいという個人的な思いからだった。2017年に5人制から3人制へ転向し、3×3選手としてオリンピアンを目指していた中、女子カテゴリーは試合が少ないため、競技経験も積めず、ポイントも獲得できなかった時代。そんな課題を前にして、当初は海外遠征を考えていたが、その予算があれば大会(3W)を開いたほうが「自分のためにも、ゆくゆく未来にある(東京)オリンピックの開催国枠(獲得)のためにもなる」と同氏は考えた。当時「私は2年後(2020年)に引退を決めているので、それまでに動けるだけ動いてみようと思って」とも明かしており、矢野氏はスポンサー営業もしたり、大会当日となればプレーはもちろん、会場に訪れた関係者に対応していた姿も思い出される。

 結局、3Wはコロナ禍で2シーズン目の途中で中止を余儀なくされ、矢野氏も目標を果たせなかった。しかし2021年10月に引退を表明するまで、若手たちと試合に出場したり、オーナーとしてPREMIERに参戦したりして、競技シーンを最後まで牽引し続けた。コロナ禍で活動が制限されていた2020年秋には、女子選手たちが直面する状況を代弁するように、3×3に対する思いも語っていたほどだ。

「しっかりと(女子選手たちの活動を)取り上げていただきたいという気持ちがあります。トップレベルでも、アマチュアレベルでも、選手たちはその場で頑張っていて、私は競技転向までしてプレーしていますが、女子だからという理由だけで活動の場が少なかったり、制限されているのかなと思うことがありました。いまも『3Wやらないんですか』と言ってくれる選手たちがいます。そんな意見を聞くとみんなが求めているんだったら、いつかどこかで大会をやりたいなとは思いはあります」

 そして、大神雄子氏もまた、ゼロイチをやっていた。2019年秋に日本で初めて「FIBA 3×3 ウーマンズシリーズ」を誘致したのだ。TOKYO STOPとして、お台場にあるトヨタ自動車の展示ショールーム・MEGA WEB(2021年12月に閉館)を舞台に、準備期間わずか約3か月でのプロジェクトだった。

 大神氏は当時、3×3女子日本代表のアソシエイトコーチであり、東京オリンピックを目指して強化に携わっていた。なぜ、そんな人物が、大会を誘致したのか。大神氏は「選手がもっと3×3を広めたい。もっと3×3を知ってほしい。3×3はポイントも必要なので、もっと取りたい。そういう選手たちの気持ちを聞いていたのですが、なかなかそういう機会がなかった」と話していた。当時の背景を振り返ると、2019年の3×3女子日本代表にはWリーグの選手がロスター入りし、期待が高まっていたがアジアカップで3位となったものの、ワールドカップでは1勝3敗で予選落ちという苦い経験を味わっていた。

 そんな中で、大神氏はワールドカップを機にウーマンズシリーズの誘致に動き、周囲の協力もあって実現した。代表強化が目的であるが、選手たちの気持ちに応えたい、背中を押しあげたいという、同氏の想いが詰まった誘致だった。「自分のわがままになりますが、選手がしっかりポイントを取って、自信をもって(秋から始まるWリーグの)シーズンに向かう。日本のランキングがしっかり上がる。そういった意味でも大会を誘致しました」と大神氏は語っていた。

 さらに、大会を通して3×3の普及も目的であった。いま振り返ると、垣根なくやる取り組みは現場で息づいていたのだ。大神氏は、こうも明かしていた。

「今日、エキジビションゲームへTOKYO DIMEの(女子)選手に来ていただいたり、中学生の選手に来ていただいたりしました。PREMIERの選手(=当時TOKYO DIMEはPREMIER所属)と日本代表の選手、トヨタの5人制の選手、中学生という(垣根を超えて)バスケがひとつになるような大会にできたら良いなと思って、いろいろな方にお願いしました」


遂に実現した女子の「ストリートから世界」

 そして先駆者たちに続いて、ゼロイチに取り組むのが桂である。2022年に「女性を取り巻くスポーツの環境をリデザインしていく」と掲げてZOOSを起業し、前田有香とドイツ人選手とともにDüsseldorf ZOOSとしてウーマンズシリーズへ参戦。大手資本や協会支援の無い民間チームは彼女たちだけだったが、多額の参戦費用を捻出しながら、初年度でいきなり世界5位、2023シーズンには山本麻衣も加入するなど、女子3×3選手の新しいあり方を示してきた。

 だが、桂が2018年にSHONAN SUNSで競技復帰した当初から、3×3に対してこれほどの意欲だったかと言えばそうでもなかった。当時、その実力を海外選手に褒められても「じゃあ会社を辞めて、3×3のプロ選手になるかと言ったら、たぶん私はそこに魅力は感じていなくて。仕事をしながらでも、自分のエキサイトする場を見つけることができるんだという体験をしていきたくて」と、地に足ついていた。

 それでもSHONAN SUNSからBEEFMANへ移籍して前田とチームメイトになり、国内競技シーンでキャリアを重ねる中で、2022年にZOOSとして念願のウーマンズシリーズへ。2シーズン目の参戦を決めた2023年には「あの舞台で戦い続けることが選手としてすごく魅力的」と改めて話していた。加えて「ZOOSをやっている身としては(ウーマンズシリーズ)に出場したいと思ったときに、出場する術が本当に少なすぎます」とも指摘していたほど。いま思うと、Q.O.Q.3×3につながる思いだったりする。

「男子のシステムでは、ワールドツアーからローカルで開催してる参加費3000円の大会までが紐づいていて、勝てば次のチャンスが巡ってくるので、面白いシステムだと思います。お金で(出場権を購入すれば予選を)スキップすることができても、ツアーファイナルには勝たないとたどり着かない。その世界観がストリートで面白いと思うし、それが3×3だと思うんですよ。女子もそういう世界観に近づけていきたい。これが、ZOOSが(ウーマンズシリーズに)チャレンジする思いです」

 こうして桂がかつて描いた世界観を実現したのが、Q.O.Q.3×3だった。過去3年、苦楽をともにした仲間たちが新たなステップに進む中で、桂も「私たちがチームを作って世界に出ていくフェーズは一つの区切り」と判断。常々、何かをやりたいという人がいて、それを実現する場としてZOOSがあるという考えの中で、FIBAからウーマンズシリーズの予選会開催の提案を受けた。桂は「自分たちが作れる機会をZOOSというか、もう少し大枠のコミュニティでとらえて、みんなに機会をシェアしていくフェーズなのかなと思って、この大会の権利を買う腹をくくって」と話す。開催権の取得には相当な費用がかかったという。勇気のいる決断である。

 それでも、国内外に女子3×3選手・チームとして新しい姿を示したように、今回も桂は大会開催に一歩踏み出して、新たな世界観を示そうとした。彼女は「最初は無茶でも1回(大会を)作ってみないと、次に何ができるか、見えてきません。こんなに良い大会ができて女子の3×3の大会すごいじゃん、日本は盛り上がっているねとなったら、FIBAに注目してもらえるかもしれません。私たちがここにいるよ、やれるよと言わないと何も変わらないです」と言葉に力に込めた。

 大会のコンセプトはかねてより抱いていた「ストリートから世界」。予選会に応募したら全員参加できる。本選で敗者復活戦もある。女子でもしっかりと3×3の世界観を表現することにこだわった。初めて世界に繋がる大会だけに「本当に一番ふさわしい人を送りたい」と思って、クイーンオブクイーンズ、真の女王は誰だっていうコンセプトにたどりついたという。

 また桂は「本当にできるところから自分たちの価値を上げていくことをしないといけない」と考える中で、FIBA レフェリーも2名を招へいして、試合そのものの質を上げる努力をしたほか、会場作りにもこだわった。ひとつは、立ち見ができるスタンドも設置した空間作りだ。観客がコートを立体的に取り囲むことで、熱気が選手たちに向けられ、選手たちも好プレーを見せれば観客の声援も入り混じって、さらに熱い空間になる。

 もうひとつは、チケットの有料販売である。観戦無料がスタンダードになっている3×3にとってはチャレンジングな取り組みであるが、聞けば一般販売とチーム販売を合わせると、売上は100万を大きく超えたという。額は他のスポーツに比べれば小さいかもしれないが、3×3では画期的だ。それだけ、Q.O.Q.3×3という大会、出場選手たちに対して、お金を払ってでも見たいというファンがたくさんいた証である。

 さらに、阿部真理亜率いるダンサーチームがスペシャルパフォーマンスを魅せ、宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)が借り物競争で楽しませるなど、バスケットボールにとどまらず、細部までこだわった演出もZOOSらしい取り組みでもあった。大会の模様は、FIBA 3×3のYouTubeで配信もされただけに、日本の熱気は全世界にも伝わったはずだ。


日本の3×3シーンが持つ価値 

 女子の3×3シーンは黎明期から課題を抱えながらも、現場起点でゼロイチをやり、価値を生みだし、競技シーンを切り拓いてきた。しかも矢野良子氏、大神雄子氏、桂葵とその時々でキャリア、立場の違う3人もの人物が立ち上がり、その思いに共感して、彼女たちの周りにはたくさんの協力者たちもいた。スポンサーになった企業、大会を運営したスタッフ、コートやショットクロックを運んだ裏方まで。何かやるときには人もモノもお金もかかるだけに、決して一人だけで成し遂げることはできない。

 それゆえに、3×3という共通言語で様々な人々がひとつになれる機運があり続けることこそが、きっと日本の3×3シーンが持つ価値のひとつだろう。まだまだ発展途上の競技だけに、3×3の伸びしろや面白さは自分たちが主体となって形作れる醍醐味がある。桂はこんなことも語っていた。

「こんな私でも、大会を作れるんです。やりたいのはマーケットの独占ではなく、私たちがやれたら、みんなもできるんじゃないか。こうだったら面白くなるんじゃないか。そういったものを提案して、みんなでやっていきたいです。これが3×3の良さだと思うし、みんなで準備して、高い熱量で挑んできてくれるチームがいて、自分たちで価値を上げて、価値を信じていく。そんなことを、みんなでしていきたいです。そういう意味で、今回は大大大大成功だったと思いますし、本当にはじまったなという感じがしました」

 今後、女子の3×3シーンからどんな新しい世界観や光景が生まれるのだろうか。桂については、もう来年のQ.O.Q.3×3開催が構想にある。加えて、3×3女子日本代表は7月24日にインドネシアで開催された「FIBA 3×3 ウーマンズシリーズ ジャカルタ ストップ」で優勝を飾った。2019年のU23代表以来2度目の優勝で、A代表としては史上初だ。Q.O.Q.3×3に出場した桂や鶴見が優勝に貢献した姿もあった。きっと、そんなゼロイチを成し遂げた背中を見て、まだ見ぬ最新事例が生まれるんじゃないだろうか。歴史が積み重なってきた女子3×3シーンは、いま明るい未来が開けている。


女子3x3ゼロイチの歴史…Q.O.Q.3x3が示した新たな世界観

TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Nowri

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