日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.7 小澤崚(ALBORADA)
これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.7は、若手選手の代表格であるALBORADA(アルボラーダ)の小澤崚にフォーカスした。
3x3と出会うまでの気持ち
1999年生まれの小澤崚は、現在22歳の大学生にして3x3のキャリアは5年に及ぶ。競技経験の蓄積は同世代の中で随一であり、国内ランキング上位選手たちと見劣りしない。高校時代から3x3に取り組み続け、ALBORADA の一員として2020年には国内主要タイトルの『3x3 JAPAN TOUR』のシーズンチャンピオン決定戦・FINALでベスト4に進出。2021年には『3x3日本選手権』で準優勝を飾った。
ただ、ここに至るまで選手として突出したものはなかった。身長は176cmと、バスケットボール選手として小さく、ずば抜けたジャンプ力があるわけでもない。小学生から高校生まで5人制の全国大会に出た経験もゼロ。3x3と出会うまで、バスケは上手くなりたかったが、トップレベルで戦いたい気持ちは大きくなかった。
いまにつながる原点。U18で日本一
ところが2016年に転機が訪れる。ALBORADAで代表兼コーチを務める中祖嘉人氏から18歳以下の3x3日本一を決める『第3回 U18 3x3日本選手権』の開催を聞かされた。ALBORADAは、茨城県つくば市を拠点に小中高生の育成に力を入れるバスケットボールのクラブチームで、3x3を練習にいち早く導入。前年度は同大会で3位に入っていた。小澤は小学6年生でALBORADAのJr.ユースに入り、当時は高校に通いながら同ユースチームで活動をしていた中で「日本一を狙えるチャンスは、そうそう無い」と思って、チャレンジした。
ただ、いざ大会に向けて3x3をやってみると、これまでのバスケとは別世界だった。5人制とファウルの基準が異なるため身体接触が許容された激しい攻防に「格闘技をやっているような感覚」と思わず面を食らってしまった。それでも「タフに戦わないといけない」と5人制から切り替えて練習を重ね、第3回大会(2017年3月)で日本一を成し遂げて、いまにつながる原点になった。
「僕は高校まで勉強で進学したので、バスケで上を目指してやってきたわけではありませんでした。でもU18日本選手権では、インターハイを目指すような高校生たちと対戦できて、純粋にバスケが楽しかったですし、個々の能力で劣っても3x3の理解度を高めれば勝てると、実感できました。この大会をきっかけに3x3が好きになって、上のレベルを目指して、バスケをやりたいと思うようになりましたね」
仲間たちと国内トップ選手たちに挑む
その後、小澤は3x3のトップレベルを目指し、国内有力選手や外国籍選手がいる『JAPAN TOUR』のオープンカテゴリーや、3x3のトップリーグ『3x3.EXE PREMIER』に挑んだ。当初は体格差に苦しんだが、競技経験を積んだからこその強みも生きた。「相手がどんなディフェンスをするのか分かれば、1対1で勝てなくても2対2でディフェンスの隙を突いて崩すことができました」という。
そして2020年秋から2021年春にかけては、ALBORADAで中高時代から切磋琢磨してきた仲間たちとトップレベルへ一気に迫った。山本陸、石渡優成、改田拓哉の3人で『JAPAN TOUR』を転戦し、FINALでチーム史上初の4強入り。日本選手権では準決勝で延長戦を勝ち切って決勝進出を決めた。U18日本選手権に続く優勝こそ逃したが「自分たちのプレーができれば勝てる」という自信を試合を重ねることで深め、接戦でも焦らない精神的な強さを身につけた末の準優勝だった。
また当時、チームの平均身長は177cm。ライバルたちに190cmを越える選手たちがいる中、4人で築き上げたコンビネーションが、上背のある対戦相手を撃破する力になった。阿吽の呼吸でプレーを繰り出せるようになるまでには、お互い喧嘩をして、ぶつかり合った過去があったから。面と向かって話し合い「言い合える関係になった」ことが、チームを成長させた背景のひとつに他ならない。
BREXと代表活動で得た自信と目標
このようなにALBORADAを通して小澤は成長をすることができた。だが一方で、今春の日本選手権以降、チームの枠を超えた活動が彼に新たな自信を与え、目標を改めて意識させるきっかけを与えてくれた。それも2つある。
ひとつは、国内No.1チームであるUTSUNOMIYA BREX.EXEでプレーしたことだ。2019年に一度だけBREXのユニフォームを着たことはあるが、正式な契約はこれが初めて。当初は学業優先を考えていた時期だったが、リーダーである齊藤洋介(YOSK)からの誘いに気持ちが動いた。
ただ、BREXでやることにプレッシャーもあった。「僕が入ったから負けるわけにはいかないと感じていました」と胸の内を明かす。とりわけ、東京オリンピック直後の8月中旬に開催された3x3.EXE PREMIERの国内全チームが集結する交流戦へ出場したときには、その気持ちが強かった。しかも、チームは勝ち上がっていくも、小澤は得意の2ポイントが決まらず、苦しい試合が続いていた。
それでも「何も気にしなくていいから、シュートが落ちてもマークが空いたら打て」とYOSKたちからかけ続けてもらった声を励みに、小澤は大会決勝で大仕事をやってのけた。拮抗した展開から、試合終盤に優勝をぐっと引き寄せる2ポイントを決めたのだ。先輩たちが喜ぶ姿を感じながら「終わった瞬間はホッとしました(笑)」と思い出し、重圧の中で決めた一発は自信にもつながった。
また、もうひとつは、5月に23歳以下の3x3日本代表候補に選出され、東京オリンピックの3x3会場であった青海アーバンスポーツパークでオリンピック候補選手を含めた代表合宿を経験できたことだった。これは、オリンピックに向けた3x3のテスト大会の一環として行われ、本番を想定した運営の下、数多くの試合が行われた。小澤の代表招集は2017年に18歳以下の3x3日本代表に選ばれ、モンゴルでトレーニングキャンプをしたとき以来4年ぶり。関東大学1部リーグの同世代もメンバー入りしただけに「自分が大学で活躍をしている選手たちに通用するのか」というワクワクした気持ちで合宿へ臨んでいた。
代表活動では試合結果こそ全敗だったが、収穫もあった。同世代と「能力差」は感じたものの、3x3に対する「理解度」を武器に即席チームをリードすることができたからだ。さらに、オリンピック会場に立った経験によって、自分の目標を再認識できた。
「ずっと上を目指して3x3をやっているので、オリンピック会場でプレーできた嬉しさがありました。ただ、テスト大会ではなく、自分が本番で行く場所にしたかったです。選手としてオリンピックへ出たいと、改めて思いました」
目標は、日本代表になって五輪のメダル
小澤崚は3x3をきっかけに、バスケットボールに対する意欲が高まり、いまでは競技を熟知する若手選手の代表格になった。「3x3をやっていなかったら、自分はここまで真剣にバスケットボールをやっていない」と言うほど、受けた影響は大きい。
競技の魅力は「試合展開の速さ」と「客席とコートの近いことで感じられる迫力」。加えて、自身が高校から3x3に取り組むだけに「5人制より一人ひとりがボールに触れて、たくさんの試合ができる経験」が、選手の成長につながると実感している。
これから3x3における目標は、2024年パリオリンピック。「日本代表になってメダルを取りたい」と公言する。ただ、本人は3x3をやっているからこそ、難しさも知っている。日本一を目指し、その先にあるクラブ世界No.1決定戦『FIBA 3x3 WORLD TOUR』や『FIBA 3x3 CHALLENGER』といった国際大会に出て、世界に通用する選手になることも意識している。この過程はオリンピックにつながる日本の国別ランキングを押し上げるために必要なポイント獲得も意味するだけに、日本のオリンピック出場に貢献したい気持ちの現れでもある。
3x3に育てられた小澤は、3x3を育てる選手になって、3x3の高みを目指していく。
- 日本郵政 presents 『Real story behind 3x3』 vol.7 小澤崚(ALBORADA)
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TEXT by Hiroyuki Ohashi