2018-19 SEASON PLAYBACK|vol.4 富樫勇樹

COLUMN | AUG. 2, 2019

Bリーグ史上初の1億円プレーヤーとなった富樫勇樹。彼がBリーグMVPとベストタフショット賞に選ばれたのは決して偶然ではない。むしろ、その両方に選ばれたところにこそ、富樫という選手の凄さと伸びしろが見て取れる。歴代最高勝率や最高平均得点など、数々のBリーグ記録を作った今シーズンの千葉ジェッツふなばし。その司令塔としての1年間の全ての試合に出場した富樫の1年間を、彼自身と大野篤史HCの言葉をヒントに考察する。

2018-19シーズンのBリーグのレギュラーシーズンで最も有名なシーンにこそ、今の富樫勇樹の凄さが凝縮されていた。
4月13日のアルバルク東京とのホームゲーム。千葉ジェッツふなばしの司令塔は、この試合のファーストシュットを沈めたあと、11本連続でフィールドショットを外していた。さらに、得意のフリースローも3本中2本を外していた。そんな状況で迎えた第4Qの残り2秒の場面。57-57の同点状態から、勝利を決める勝ち越しのジャンプショットを決め、試合に決着をつけた。そして、このショットは、今シーズンのベストタフショット賞に選ばれて、シーズン終了後にも多くの人が何度も目にすることになった。

どのようなプレーをすべきかの指示を送った大野篤史HCはあの場面を振り返り、こんな賛辞を送っている。

「『自分で一対一にいくか、JD(ジョシュ・ダンカン)にヒットするか、そのときの状況を見て、判断していいよ』と彼には言いました。もちろん、自分で打つだろうなと思いましたけど(笑) ただ…… あのプレーの何がすごいかというと、あそこで打ちきれるところです。そこにいたるまでにあれだけシュートを落としていても、しっかり責任をもって、打つ。ひょっととしたら外から見ている人には、それがセルフィッシュな姿勢に見えるかもしれないですけど、そうではなくて。彼の責任感の強さだと僕は思っています」

現役時代には名シューターとしてならした大野の言葉には、説得力がある。



実は、あの試合直後に富樫はこう語っていた。

「あれだけ外れていたので、入るとは思わなかったんです。かといって、外れるとも思わなかったですけど。入る、入らないではなく、良いシュートを最後にしっかり打って終わることを気にしていました」

バスケットボールを経験したことのある者ならば誰でも、シュートタッチが良い日も、悪い日もあるという事実を知っている。ただ、プロ選手は指をくわえて、その日の調子の良し悪しを見ていればいいわけではない。プロ選手の価値は、シュートタッチが悪い日に何が出来るのかで決まる。このときの富樫は、ショットが入るかどうかという「結果」にフォーカスせず、その状況で心がけるべき「過程」にフォーカスした。それが、ゴールの要因となったのだが、実は、彼ぶはもう1つ考えていたことがあったという。

「決める、決めないもそうですけど、それ以上に、『残り何秒の時点で打つのか』を考えてプレーしていました。というのも、昨シーズンの栃木(ブレックス)戦で、早く打ち過ぎて喜多川選手にそのままレイアップにもっていかれて逆転された試合があり、そのことを強く覚えていたし、強く反省していたので」

富樫は悔しさをあらわにしたり、優等生的なコメントに逃げるタイプではない。でも、あのシーンを彼自身の口から解説した言葉をきけば、彼がプロ選手としてお手本となるべき思考をしていること、そして、反省を成長につなげる選手であることが、一目瞭然でわかるはずだ。


実際、今シーズンの彼はあのようなタフショットを他でも決めている。例えば、栃木との天皇杯決勝戦も戦だ。相手の守備にも阻まれ、スタメン出場を果たしながら40分間で得点なし。しかし、延長戦で初得点を記録すると、逆転となる3Pショットを、ブザービーターで沈めて、優勝を決めている。


結果的にジェッツはBリーグファイナルに2年連続でアルバルク東京に敗れて、リーグ準優勝に終わった。しかし、レギュラーシーズンにおけるジェッツは、リーグ歴代最高平均得点、最高フィールドゴール成功率、歴代最高アシスト数、歴代最高3P成功率、そして、歴代最高勝率を記録した。そして、全ての試合に出場して、そんなチームを司令塔としてけん引した富樫が、リーグのMVPに輝くというのは当然の結末だった。



昨シーズンが終わると、富樫はほとんど休むことなく、アメリカや沖縄で取り組んだ。昨シーズン終了直後にはその理由について、こう語っていた。

「僕は、自分に対してメチャクチャ甘いタイプなので。だからこそ、正直、自分でお金をはらってでも、そういう環境を作ったほうが追いこめるのでね」
その姿勢からは、Bリーグではもちろん、日本代表でもさらに飛躍を遂げようとする意気込みが感じられた。

しかし、7月の日本代表の活動中に右手を骨折する悲劇に見舞われた。全治2カ月の怪我で、中国W杯の出場も辞退することになった。そのニュースが発表されると、富樫のSNSには激励や心配するメッセージが次々と寄せられていった。

そんなメッセージを受け、富樫は自身のツィッターアカウントにで以下のような投稿をした。

「励ましのメッセージありがとうございます! 全然元気です!!! 怪我は手の骨が折れただけなので心配しないでください!ただタイミングがかなり悪かったというだけです!笑 でも初めての手術はめちゃくちゃ怖いです 」

悔しくないはずがない。歯がゆくないはずがない。
にもかかわらず、富樫はファンをクスッと笑わせるようなツイートを残した。

真のプロフェッショナルとは苦境に立ち向かう強さと、苦難に直面しても気持ちを切り替えられる思考とを兼ね備えた者である。日本人初の1億円プレーヤーとなった富樫は、今回のアクシデントに直面したときにも、自らが真のプロフェッショナルであることを証明した。

だからこそ、10月から始まる新シーズンに、彼が1億円プレーヤーの名に恥じない活躍を見せてもなんら不思議ではないのだ。

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